第40話 ガチャと少しの新鮮味の為に戦え!【配信回】
薄暗く広い石レンガの通路内をポン太の持つ紫の精霊スマホが照らし出す。
そのスマホは強めに白く発光しており、表面に無数の魔法陣が流れている事から何らかの機能を起動しているらしい。
「これはライト要らず……かな?」
「言い忘れていたけど、ダンジョン内での撮影は強く発光するポン」
その明るさを見て不要と判断したのかコートの胸ポケットから覗かせていたクリップ付きのライトを消したサキに、後出しで悪びれる事もなく撮影の影響を説明するポン太。
サキも明るい分はありがたいので、その後出し説明に苦笑いした。
:明るい!? 明るくない? 見やすい分には良いけどさぁ。
:おじさん、このタイプのダンジョン好きだな。敵を探す手間が無いからね。
:ほう。最初の階層が通路型ですか。戦いやすい良いダンジョンですね。
:山崎だ。配信の開始を確認。入場履歴の時刻と比較しても問題ない時間差だな。
その明るさに茶々子達が面食らっていると、精霊スマホから次々と個性的な声が聞こえてくる。何らかの方法で個人を判別して、それぞれ違う声を出力しているらしい。
最後にポン太が視聴を頼んだ山崎先生の声が聞こえたので、ほっとした茶々子はその慎ましい胸をなでおろす。
:早速一匹出てきましたか。お手並み拝見ですね。
あまりの明るさに敵も釣られてやってきた。
現れたのはダンジョンの低階層では代表的なモンスターである緑の体を持つ小鬼だ。小鬼は白目の無い黄色の目とおでこからちょこんと出た角が特徴的な全高五十センチほどのモンスターだが、その手には棍棒を持っているため小さくても油断できるものではない。
音も無く背中の鞘から大剣を抜いたレナが、一声かけてから突っ込んでいく。
「予定通り、最初はあたしがやる。ちぇりゃあああ!!」
小鬼がビクッとするほどのするどい叫びを上げたレナが連撃を浴びせる。
彼女が一メートル近い刀身の剣で敵を打ち、叩き、鋭い剣先で突き刺した後、油断なく剣を構えながら後退すると、ようやく相手が消えていく。
惨殺された小鬼が消えた後には、青く光る魔石が残された。この魔石こそが茶々子達が求めるガチャを回すための代償であり、探索者の主な収入源でもある。
精霊達からもたらされる様々な技術は想像力の利用が前提となっており、想像力の結晶である魔石は様々な事に利用できる魔法の物資なので高額で取引されるのだ。
:ビックリしたぁ! これがスキル? 剣を持っているのに声で攻撃するなんて。
:見事だ。しかし、スキルを使えばもっと早く処理できただろう。
:消耗抑制かな? おじさん的には悪くない判断だと思うよ。
血の代わりにまき散らされた青いモヤが散っていく。
このモヤは小鬼を構成していた想像力であり、小鬼が破壊されたので漏れ出てしまったモノだ。この散った想像力は人間の才能を開花させる作用がある為、魔石と同じく探索者にとっては重要なものである。
そんな青いモヤを浴びた剣や袖のニオイをクンクンと嗅いだレナは首を傾けながら落ちている魔石を拾い戻ってくると、チャコに手のひらを向けてニコリと笑った。
レナの意図に気が付いたチャコはその手に自分の手を重ねてバトンタッチする。
順番の回ってきたチャコの前に、燃え滾る炎のような紅い液体の入ったグラスが差し出された。
周囲に強烈なブドウの匂いが香る。
「良い効果みたいだからグイっと行くポン」
「怪しげですが……。物は試しです」
それを差し出したのはポン太であり、どうやらお試しでスキルを使った時の成果物を回収していたらしい。
:次は茶々子の番か。まあ小鬼くらい何とでもなるでしょ。んぅ? お酒?
:いや、酒ではないのだが、似たような効果のある彼女の制作物だ。
:お酒じゃないけど、お酒っぽいモノ? あ、飲んじゃった。大丈夫なのかな?
グラス一杯のノンアル【ラース】を飲み切った茶々子は剣を抜くといつもの半目を見開き、グラスを放り投げてずんずんと進んでいく。投げられたグラスは空中で想像力に還り消え去った。尋常ではない彼女の様子を仲間たちは心配そうに見守っている。
「そんな棍棒で私と戦うつもりなのです? ですです?」
「??? 言葉遣いが妙ポン。【ラース】の副作用ポン?」
:ええ!? 茶々子変になってない?
:アレは『【ラース】の赤ぶどう酒』、戦闘力を高める代償に判断力を鈍らせる。
:判断力を鈍らせるってまんまお酒じゃないかな。おじさん感心しないよ。
:スキルで見た限りはノンアルコールだったが、あの様子は少々不安になるな。
そんな茶々子は小鬼が現れても剣を振りかぶりながらずんずんと進んで行き、振り回された小鬼の棍棒が当たっても怯まずに踏み込んで剣を振り下ろした。
茶々子の捨て身な行動にミユが悲鳴を上げる。
「茶々子ちゃん!?」
その結果として茶々子の攻撃は強烈に敵へ叩きつけられるが、敵の棍棒は茶々子に当たらず、直前で発生した光の壁に当たるという一方的な展開となった。
この光の壁は茶々子の持っている緊急障壁の腕輪の効果ではなく、着ている白いコートの力。
このコートは人間に強くなってもらいたい精霊の協力でガチガチに固められたもので、一部からは魔法装甲服などと呼ばれている代物であり、一階層の小鬼相手ではご覧の有様である。
何度目かの同じやり取りの末、最後まで茶々子を叩いていると思い込んでいた小鬼はやり切った表情で消えていく。
残された魔石を嬉しそうに拾い上げた茶々子は、レナと同じく元気に手のひらを向ける。
「タッチですサキ! タッチ・サッキですですぅ」
「たくさん叩かれていたけど、大丈夫……かな。消耗するとも聞いていたのだけど」
ちょっとバグっている茶々子の手のひらへ、彼女が負傷や消耗をしていない事に安心したサキが手のひらをパンッと合わせると、腰に下げていた鞘から刃渡り二十センチ程のナイフを抜き、広い石レンガ造りの道を先導して進み始めた。
途中引き返してくる同じく白いコートを着たご同輩と遭遇しつつ、モンスターを見逃さないように進んでいく。
ご同輩は大体が一人か二人で歩いており、突入前にダンジョンに入る人を観察していたサキは、思いがけない形で観察結果と実際の様子の差を確認できたので、周囲を警戒しながらもちょっと嬉しそうにしている。
:おっ! 居るね。
ポン太の持つスマホから流れた声に周囲を見回したサキは、人が通れないほど小さな横道から小鬼が這い出してこようとしているのを発見した。
「卑怯で悪いけど、僕も戦闘は得意じゃないから、許して欲しいかな『攻勢令』!」
ナイフを持っていない方の手で敵を指差したサキは、自分と一緒に仲間たちを赤く輝かせると、すごい勢いで突っ込んでいく。
すぐに小鬼の元へ到達したサキは、横道に引っ掛かって起き上がれない相手をナイフでめった刺しにする。
何の抵抗も出来ない敵が青いモヤを出して消えた後には魔石が残っており、それを拾い上げたサキの周りに赤い光に包まれた仲間たちが集まってきた。
歩いているつもりが小走りのような動きになってしまうので不思議そうにしている。
:おお! ようやくスキルっぽいものが!
:先の二人は、普通に剣術と作り置きの飲み物だったからね。
:彼女は指揮官のジョブで『攻勢令』は仲間を強化する強力なスキルだ。
:筋力と敏捷性の強化と言ったところですか。常に使った方がお得なのでは?
:消費が大きいのが欠点でなぁ。多用するべきじゃない。
肩で息をしているサキがスッと手を上げると赤い光は収まり、仲間たちの動きも元に戻った。彼女はその手をそのままミユに向ける。
「ミユさん、前衛型ではない僕でもやれたから、きっと大丈夫」
「うん。頑張ってみるね。サキちゃん」
その手を打ち合わせたミユが腰からメイスを取り外して通路の先に目を向けると、そこには両手にそれぞれ棍棒を握り突っ込んでくる小鬼の姿があった。
驚いたミユが仲間たちに振り返り声を上げる。
「ええ!? なんか違うよぉ!? どうしてぇ?」
「う~ん。誰かの落とし物を拾ったのかな?」
:アレは、ドロップを放置した奴がいるのか。危険だしやめて欲しいのだが。
:棍棒二刀流! 強いの?
:慣れてない子には手数が増えて厄介かもね。
:おじさんとしては、素手には素手の良さがあると主張したいよ。
ポン太のスマホから聞こえてくる声に涙目になったミユは、いそいそと盾を構え出し惜しみ無しでスキルを発動する。
「もうもうもうっ! 手加減! しないからねっ! 『障壁盾』! ええい!」
接敵に間一髪で間に合い発動したスキル『障壁盾』は盾を中心として半透明の緑色をしたバリアーを展開し、小鬼の両手で振り回される棍棒を受け止めるとその表面に波紋が生まれた。
波紋に驚いたミユが盾を押し出すと、敵はバリアーで地面に押さえつけられて身動きが取れなくなる。その様子に勢いよくメイスを振り上げた彼女は攻撃の宣言と共にスキルの名前を叫んだ。
「やっちゃうからね! 『流星撃』!」
光を纏って振り下ろされたメイスはバリアーを通過して小鬼の頭に直撃した。
当たった場所から星が散り、その星も敵に当たると光と共に消えていく。
小鬼が動かなくなったので、肩を上下させながらバリアーを消したミユは中々消えない敵に首を傾ける。
「うんん? みんなと、ちょっと、違うような?」
:恐らくはスタン系のスキルだ。起き上がる前に仕留めてしまうと良い。
:敵の意識を奪うタイプのスキルですか。色々と悪用できそうですね。
:一番スキル使ってくれたけど、目に見えて疲れている!?
:『障壁盾』の消耗が激しいのだろう。あまり長時間使うべきではないな。
先生からのアドバイスに、動かない小鬼と自分のメイスを困ったような顔で見比べていたミユだったが、急に起き上がった敵に驚き距離を取った。
肩を上下させて片膝をつき明らかに精彩を欠いている彼女に迫る小鬼は、振り下ろされた赤く光る大剣で両断される。
「貰っとくな。『強斬撃』・面ェンン! うぇ、体が勝手に動いて気持ち悪ぃな」
両断された敵から舞い散っていく青いモヤの中で、レナが悪戯っ子の様な笑みを浮かべながら大剣を肩に乗せると、片手をプラプラと振り調子を確かめるように握り開きして片膝をついていたミユに差し伸べた。




