第39話 ガチャと少しの新鮮味の為に学べ!
学校指定の白いコートを着た茶々子は、黒いコートを着た守衛の守る門を抜けてダンジョン棟に到着した。ダンジョン棟内はチャコと同じく白いコートを着た探索者の卵たちでいっぱいになっている。
なぜ彼ら、彼女らを探索者の卵と評したのかと言えば、その場の全員が着ている白いコートの両肩に探索者学校の校章と同じ、剣と銃が交差されたワッペンがついており、所属がとても分かりやすくなっているからだ。
ダンジョン棟には、この学校の目玉である専用ダンジョンが存在する。
初日からトラブルはあったが、彼女の目当てである身長+一センチを得る為にはダンジョン内にある魔石ガチャを回す必要がある。その名の通りガチャを回す為にはモンスターを狩り、想像力の結晶である魔石を集める必要があるので茶々子はこの学校に入学した。
魔法少女としてダンジョンに潜るのは大体が破壊する為な上に機会が少ないので、ここで継続的に魔石ガチャを回すのが目的である。
ダンジョンの入り口である魔法陣の前には、茶々子と同じくコートを着た三人の少女が待っていた。その見た目はそれぞれの趣味と職業に合わせてカスタマイズをされている。
目的の為には努力を惜しまない茶々子は、一緒にダンジョンを潜る仲間を素早く集めていた!
剣を背負い直した赤髪の少女、レナが鋭く青い眼で魔法陣を見つめながら急かす。
「早かったな、茶々子。だけど、先に行った人がたくさん居るぞ! 急ごう!」
「まあまあ、レナちゃんもそう急かさないの。茶々子ちゃん。大丈夫だった?」
急かしながら足踏みする彼女の事を盾が固定された手で静止した少女は、緑髪を長く伸ばしたミユだ。エメラルド色の目でチャコの事を見つめながら、初日から呼び出されたことを気づかわし気な声で心配してくれた。
「見た所、まだ多人数のパーティは少なかった。僕が思うに、急がなくても問題ないよ。ところで、茶々子さんが呼ばれた理由、聞いても良いかな?」
最後に周囲を観察していたらしい黒髪のメガネ少女、サキがその観察結果により的確な援護射撃をしてレナを止める手伝いをした後、その眼鏡の奥に収められた月のような瞳を光らせ、興味深そうに茶々子が呼ばれた理由を聞いてくる。
「私の職業スキルが制限スキルって奴だったみたいで、呼び出されたのです」
「制限スキルか。課せられる条件を満たさねば、ダンジョン禁止だったかな」
茶々子の答えにメガネをくいと持ち上げて白く光らせたサキがつぶやくと、矢継ぎ早に質問しながらコートに特注で増設したらしいポケットの一つから手帳を取り出し、高速でメモしていく。
「どんな条件を付けられたのかな? そのスキルの効果は?」
「探索中の動画を先生に見せる必要があります。お酒を出せるスキルなのです」
動画と聞いたレナが困り顔で茶々子に近づき撮影役について聞くと、二人の間に巨大ハムスターのポン太が現れてピンク色の前足に持つ紫の精霊スマホを見せつける事で茶々子以外の皆を驚かせた。
突然なポン太の登場に、少し周囲が騒がしくなる。
「動画といったって、誰が撮る……。 おわ!?」
「きゃ! 何なの!?」
「精霊!? なのかな?」
「僕に任せるポン。茶々子の為にも協力をよろしくポン」
「話に聞いていたポン公か……。急に現れて心臓に悪いなぁ」
「ポン公って何ポン?」
「でかいハムスターって聞いていたから、何となく」
胸を押さえて息を整えるレナをその漆黒の目を細めて見ながら、妙な呼び名について聞いたポン太はその雑な答えに息を吐きつつ、動画撮影のメリットを語る。
「まあ、良いポン。動画は先生の他にも熟練の魔法少女達にも配信しているから、そちらからもアドバイスが聞けるポン。他の皆にとっても悪くない提案だと思うポン」
「僕としては願っても無い事だけど、個人情報を他人に握られるのは少々怖いな」
「……魔法少女の特殊部隊みたいな子達だから、情報の漏洩はしないポン」
若くして武器を持って戦う業界へ踏み込んだというのに、情報管理には気を遣うサキの慎重さに舌を巻いたポン太は、言葉を選びつつ熟練の魔法少女についての内情を明かした。
実はポン太のやろうとしている動画撮影方法は茶々子の夢経由だ。
熟練の魔法少女達というのも死者の魂たちの事であり、彼女たちは外部との連絡手段を茶々子以外に持たないので、茶々子が漏らさない限りはポン太の言う通り情報漏洩の心配はない。
この撮影法は外の様子を見たいと要望した魂達の願いをベルフェゴールが叶えた結果だったりする。
ちなみに願いを叶えるオマケで、余計な事をしようとしたベルフェゴールはツタでミノムシ状態にされて木からぶら下げられた。
強者ばかりの場所で妙な事をしようとした罰だ。
[十六番でお待ちの宗寺 茶々子様、お預かりしておりました装備の準備が出来ました。二番窓口までお越しください]
ポン太の言い回しに何となく仲間達から目を逸らし明後日の方を見ていた茶々子は、自分を呼ぶスピーカーからの声に反応して皆に一言断ると『2』と数字の書かれた装備受け取り窓口へ向かう。
事前にスマホで予約してあったダンジョンへの入場申請が通ったらしく、装備を取りに行くのだ。どうやら先生はしっかりと茶々子が条件を満たしたことを報告してくれたらしい。
「ちょっと、装備を受け取ってきます」
「あいよ」「はい」「どうぞ」
窓口では担当の係員が探索者に装備の入った大きなトランク型ケースを差し出しており、装備の回収された空ケースは回収している。
「こちらがお預かりしていた宗寺さんの装備です。生徒カードをケースにかざしていただきますと、ロックが解除される仕組みです」
「なるほど」
茶々子の呼ばれた二番窓口でも同じようにケースが用意されており、勧められるがまま生徒カードでタッチするとロックが解除された。
「えっ!? ……どうぞ、ご確認ください」
「ありがとうなのです」
ロックの解除されたケースを開き、その中身に少し驚いた係員はなんとか表情を取り繕うと、茶々子に中身が見える様に回転させてからケースを差し出した。
中には六十センチほどの刃渡りの剣とその鞘に、茶々子の秘密兵器である夢で練習していた銃が、特徴的なかまぼこ板を重ねたようなバレルが外された状態で入っていた。
ピカピカに磨かれた剣は、半目な茶々子の顔を映す。
剣を鞘に差し込んで腰に取り付けた茶々子は、バレルを素早く銃本体に取り付けると安全装置がロックされていることを確認してから、銃の吊り下げ紐を肩にかけた。
装備を受け取った茶々子が感想を漏らす。
「意外と重いのです」
用意していた装備の重さを気にしている茶々子。魔法少女として戦っている時は筋力を最大限高める装備をしていた為に重さを感じることなど無かったらしく、その重みに不思議そうな顔をしている。
茶々子が剣の鞘をポンポン叩いていると、仲間達が集まってきて茶々子を囲んだ。
「じゅ、銃ですか?」「SFとかで見る奴だな。ま、行こうか!」
「良い装備だけれど、運用を間違えると危険だね。使用経験は?」
「イメージトレーニングは、完璧なのです」
整えられた茶々子の装備について色々と話す彼女たちは、今回集まった目的であるダンジョンへの魔法陣へ歩いていく。
茶々子達の乗った魔法陣が光り輝くと、その上には誰もいなくなった。
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茶々子達の居る場所は先ほどまでの照明で明るいダンジョン棟ではなく、石レンガで組まれた薄暗いダンジョンの中になっていた。
親切な事にこの学校の専用ダンジョンは入り口付近が安全地帯となっている為、ここでは茶々子と同じく探索者学校の生徒たちが休んだり話し合ったりしている。
周囲を見回したサキがメガネを上げながら提案する。
「この階層は小型のモンスターが一匹ずつという話だから、順番で戦ってみよう。茶々子さんの銃は、もう少し奥で試してみて欲しい。ここでは誤射が怖いからね」
「分かり易くていいねぇ、まずはあたしからやるぞ」
「だ、大丈夫? この服は凄い装備だと聞いているけど……」
「平気、平気、小型のやつ位、蹴っ飛ばします。それに誤射は嫌なのです」
その提案に対する反応は三者三様で。
レナはその青い眼を輝かせて好戦的に笑い。
ミユは眉を寄せて腕に固定された盾を抱きしめ。
茶々子はいつもの半目のまま、そんなミユに自分のズレ気味な認識を吹き込んだ。
困ったように苦笑いしたサキが実際の所を語ると茶々子とミユの二人はそれぞれ別の意味で意外そうな顔をする。
「ハハハ、流石に蹴っ飛ばすだけじゃ倒せないけど、スキル攻撃を当てれば一発で倒せるそうだよ」
「それなら。私でもなんとか、なるかな?」
「割と頑丈なのです」
「最初はあたしで次は自信のありそうなチャコ、そんでサキ、ミユの順番で行くか。何かあったらフォローすれば良いだろ? やってみよう」
軽い作戦会議を済ませた茶々子達は、他の生徒たちが休んでいるダンジョン入り口から踏み出し、薄暗いダンジョンの通路へ踏み込んでいく。




