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第38話 制限されし救世主のスキル『聖なる血』

 めでたく入学した探索者学校の職業検査後に一人だけ教室から呼び出された茶々子は、案内された生徒指導室でパイプ椅子に座っていた。


「落ち着いて聞いて欲しい。……宗寺そうてら、君のジョブは救世主だ」


 折り畳み長机を挟んで向かい側のパイプ椅子に座る黒い髪の女性、検査担当だった山崎先生が真剣な顔で妙な事を言うので、それに対してピンときた茶々子は、両手を上げいつも半目な紫の目を見開いて返事をする。


「私って、救世主だったのー? すごいなー!」


 いきなりなフリだったのでちょっと棒読みだが、初日からのドッキリに期待されているリアクションを出来たと考えた茶々子の中で、戦い方を教える国立学校へのお堅いイメージが吹き飛んだ。


 折り畳み机以外は大してものが置かれていない、初めて入る生徒指導室を「カメラは何処かな?」と見回した後、不安になり確認する茶々子。


「……ドッキリですよね?」

「勘違いするのも仕方ないが、ドッキリじゃ無い。これを見れば分かる」


 茶々子が想像していたドッキリ大成功のプラカードは出てこなくて、その代わりに表情を緩めた先生が机に置いたのは茶々子の顔写真と名前の入っている生徒カードだ。


 勧められるがまま、机に置かれたカードを手元に引き寄せる茶々子。


 顔写真にはウェーブのかかった肩まである紫髪の女の子が髪と同じ色をした半目をどうにか持ち上げて、キリッとこちらを見ている。


 顔写真に映っているのは、茶々子本人だ。


 このカードは職業や所持スキルを確認出来るモノで、写真の上には茶々子の名前と職業が書かれていた。



 1年A組 宗寺そうてら 茶々ちゃちゃこ/救世主



 ……。


 見慣れた名前の横に、見慣れない文字があるので二度見した茶々子。



 () / 救 世 主



「山崎先生。生徒カードに普段見ることのない文字が、書かれているのですが」

「安心しろ。私も見聞きした事の無いジョブ名だ」


 困惑した茶々子を安心させようと不器用な笑みを浮かべた山崎先生が、何の安心もできない言葉を茶々子へ贈った。


「ちょっと、スマホで検索しても良いですか?」

「無駄だと思うが、それで納得できるなら構わない」


 全生徒のジョブを確認したであろう検査担当の先生ですら見たことが無いというジョブの事が気になった茶々子は、許可を取りスマホで検索させてもらう事にした。


 凄そうなジョブ名なので、ネットで何か情報が拾えると考えたのだ。


 スマホの検索バーに『ジョブ』『救世主』と入力すればすぐに検索結果が出てきた。残念ながらジョブについてでは無く、救世主と言う存在についてだったが。


「救世主とは……。世界を救済するとされる者……?」


 茶々子はちょっと思い当たるところはあるが、ある目的のためにダンジョンへ行きたいだけなので、急に世界の救済などと言われて困っている。


「世界を救済……。しないとダメです?」

「それは……。カードの裏にあるスキル欄を見ると良い」


 茶々子がスマホ片手に確認し終わるのをじっと待っていた先生へ聞くと、具体的な答えが返って来た。


 生徒カードの裏にはスキルやその説明が載っているのだ……!


 所持スキルは基本スキルの『人物鑑定』で知ることが出来るが、道具での可視化は探索者の新たなスタンダードとして、この学校が先行で運用を始めた機能である。


 世界を救済するらしいその力に、ちょっとだけ期待する茶々子。


 ひらりと裏返したカードに書かれていたのは……!


 ◇職業スキル◇


『聖なる肉』

【パンガチャだよ】


『聖なる血』

【ワインガチャだよ】


 ◇パッシブスキル◇


いやしの手』

【触ったモノがちょっぴり回復するよ】


 凄そうなスキル名につけ足されたダメそうな説明に、チャコは固まった。


 ……職業スキルは、その人の職業によって覚えるスキルで、今まで行ってきた行動に影響されるのが特徴とくちょうだ。


 ガチャばかりしていた茶々子の職業スキルに、ガチャ要素が付くのは必然である。


「こちらに来てくれ宗寺そうてら、君をここに呼び出したのは職業名の事もあるが、この『聖なる血』について実態の確認が必要になったからだ」

「なるほど。……使い方が分からないのですが……」


 パイプ椅子から立ち上がった先生に導かれて、部屋の隅にある妙に補強された場所までやってきた茶々子。戦いを教える学校の生徒指導室だから、スパーリング用のスペースがあるらしい。


「スキルの使い方は、使うつもりでスキル名を叫べばいい。やってみてくれ」

「確認ですか……。まあ、やりましょう。『聖なる血』っ!」


 先生の言葉に不穏なものを感じつつ、やってみなければ何も始まらないのでスキル名を声に出して叫ぶと、チャコの身長ほどあるドリンクサーバーが現れた。


 その中心に空のグラスがセットされており、更にその上には『ガチャる』や『ノンアルでガチャる』と書かれた二つのボタンがある。


『ノンアルでガチャる』と書かれたボタンをチャコが迷わず押すと、ボタンの上に並んでいる文字が次々と点滅して最後に『ラース』という文字が光り、セットされていたグラスに燃えるように赤い液体が勢いよく注がれる。


 強烈に主張するブドウの香りが部屋を満たした。


「『物質鑑定』……これは、強力ではある。……だが。すまない宗寺そうてら、『ガチャる』の方も試してみてくれ」

「『聖なる血』! コレ、結構疲れますね……」


 グラス入りの真っ赤な液体を手に取った先生が基本スキルである『物質鑑定』で見てくれたが、難しそうに顔をしかめつつ追加のオーダーをしてきた。

 それに応じた茶々子が更に叫ぶと、新しくドリンクサーバーが出てくるのではなく、新たなグラスが中心に再セットされる。


 何となく結果は分かっているので、少しの葛藤の後に今度は『ガチャる』を肩で息をしている茶々子が押せば、同じように並んでいる文字が次々に点滅し最後に『ラスト』という文字が光り、セットされていたグラスに透明感のある桃色の液体が勢いよく注がれた。


 甘くて魅惑的な桃と花の香りがブドウの香りを押し出す様に部屋の中に広がる。


「『物質鑑定』……やはりか。言い辛いのだが……」


 紅い液体入りのグラスを近くにあった折り畳みの机に置き、新たに出てきた桃色の液体入りのグラスを持ち上げた先生はそれを軽く見ながら苦しそうにつぶやいた。


 しばらく経つとドリンクサーバーは、音も無く消えていく。


 消えたドリンクサーバーのあった場所をにらんでいた先生は、考えの整理が終わったのか桃色の液体を置くとチャコに宣告する。


宗寺ソウデラのスキル『聖なる血』は制限スキルだ」

「制限スキル、というのは一体……?」

「簡単に言えば、法に触れる可能性のあるスキルだな。制限スキルを所持している者については、一定の条件を満たさねばダンジョンへの入場が禁止されている」

「ええ!? お酒が出るのはダメでしたか!?」

「飲酒法や酒税法がなぁ……。宗寺ソウデラの場合は、ノンアルを使っていると証明できれば良いのだが、アルコール検知器でも導入するか……?」


 条件を満たさない場合はダンジョンへの入場禁止。


 予想外にお荷物な救世主のスキルに、茶々子の顔色が青くなっていく。


 こんな事なら魔法少女としてコソコソダンジョンに潜っていた方が良かったのかもしれないと、入学早々であるが早くも後悔しはじめた彼女の前に、巨大ハムスターなポン太が現れた。


「会話中に失礼するポン。その証明、動画ならどうポン?」

宗寺ソウデラの事を推薦すいせんした精霊殿か。ダンジョンで動画を? 危険だぞ」

「僕がやるポン。精霊が不死である事は教員なら知っているはずポン」


 ポン太の提案により話の風向きが変わってきたので、顔色を戻した茶々子は一人と一体の交渉を神妙な表情で聞いている。


「ふむ……。後は教員による確認があれば、問題ない」

「だったら動画を鍵付きのクローズドで配信するから、それを視聴してもらうポン」

「ダンジョン内で動画の配信が出来るのか?」

「ベ……。最近開発された道具を使えば可能ポン」

「珍妙だが……。条件は満たせるな」

「動画のURLとパスワードはメールで学校宛に送るポン。視聴よろしくポォーン」


 畳みかけられるポン太の提案に先生が丸め込まれると、勝ち誇る様にその漆黒の目を細めた巨大ハムスターはピンクの前足を使って手拍子を打ち、突然の事に渋る茶々子の事を急かす。


「そうと決まればすぐに試すポン。問題があったら、その都度つど訂正していくポン」

「えぇ……。動画配信ですか」

「他に道はないポン。茶々子の求めるものは、きっとダンジョンにしか無いポン」

「うぅ……。やるしか、ないのです……! やって、やるです!」

「その意気ポン! やるポン!」


 自らの目的(身長+一センチ)の為と言われると弱い茶々子は、部屋の出口へ背を押すポン太に説得されながら去って行く。


 初日から問題が発生してしまった茶々子だったが、身長+一センチの為にやる気十分だ。

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