第37話 魔法少女の見る夢
さざ波の音に服から髪まで真っ白な少女が灰色の目を開くと、強い日差しに目を焼かれたのか、まぶしそうに腕をかざして日除けにする。
白い砂浜に手をついて何とか起き上がった白い少女は、ペタンと座ったまま背中についた砂を払い自らの現状を確認した。
「ここは……。砂浜、でありますか。異空間が崩壊して妙な所に飛ばされたか」
計画を失敗したというのに大して悔しがることもない少女姿の悪魔、ベルフェゴールはその手にトイレ姿な相棒を具現化すると慣れた様子でお願いする。
「まぁいいか、【悪魔の聖杯】よ。いつものくつろぎクッションをよろであります」
□オーケーボス!□
悪魔の僕が光り輝くと、少女は巨大なクッションに埋もれていた。
指パッチン一つで残りの砂を消し去ると、クッションの上でゴロゴロしながら副目標の達成に満足する。
「人間の目の前で悪魔を暴れさせることには成功したであります。これで悪魔全体のイメージが負け役から多少は変わって鬱陶しい思考のノイズが減るはずであります」
「なるほどポン」
だらけながら結果を声に出す事で状況を整理していた少女姿の悪魔は、予想だにしなかった視聴者の存在にモタモタと振り返る。
「ッハ!? お前たちは先ほどの魔法少女コンビ! と……ポン太殿」
「先ずはお立ちになられた方が、よろしいのでは……?」
そこには空飛ぶ巨大ハムスターなポン太と、先ほどまで少女と争っていた聖女さんと拳聖さんの二人組が立っていた。
白い少女は目を険しくしてファイティングポーズをとる。その姿は聖女さんも指摘しているがクッションに転がったままであるため全く様になっていない。
そんな少女に両手を上げて戦う意志が無い事をアピールした拳聖さんは、その理由を少女に教える。
「ここは夢だから、戦ってもすぐ元通りさ。おじさん達も無益な争いはしないよ」
「夢? 何かの比喩でありますか?」
拳聖さんの発言に白い砂地へ降り立ちながら首を傾けた悪魔。
「この通りっ。お前の魂はガチャられて、僕の担当の夢に捕らわれたポン」
「痛!……くない……? 本当に夢、でありますか?」
そんな悪魔をポン太はピンクの前足で叩く事により、拳聖さんの言い分の正しさを証明しながら、つぶらな漆黒の目を細めつつ更に衝撃的な事実を告げた。
その言葉に半信半疑な悪魔は、ポン太に導かれ砂浜を歩いていく。
「う~ん。にわかには信じがたいでありますな」
「証明ならわかりやすい奴があるポン。こちらだポン」
白い砂浜から小高い丘を登り、遠くに雄々しい山々を見ることのできる草原を通り抜けると、人が集まっている場所を見つけることが出来た。
その場所は遮るものが何もない平地にあり、人の集まっている場所から少し離れた所には大柄な何かが立っている。
ベルフェゴールにとっては見慣れた姿に声が漏れると、先導しているポン太が来歴を教えてくれた。
「アレは……。雑魚悪魔アバターでありますか……?」
「アバターをガチャられると、アバターだけが夢の中に来るポン」
中身が入っていないらしく微動だにしない雑魚悪魔へ集まっている少女達が、思い思いの構えで手に持つ特徴的な形状をした銃のかまぼこ板を平行に並べたような銃口を向けている。
板と板の間が青白く光り、光弾が射出された。
次々と撃ち込まれ何発か命中した光弾が雑魚悪魔を打ち据えて、屋台の景品の様に倒してしまう。倒れた雑魚悪魔に少女達から歓声が上がった。
「あの子たちはチャコと彼女が保護した……。魔法少女の魂ポン」
「保護? 協定では我々悪魔や精霊が魂を同意なしに利用するのは、馬鹿らしいほど重い罰則になっていたはずであります。保護が必要でありますか?」
「協定締結前に保護した子たちポン。協定前の状況は酷いものだったポン」
「なるほどであります……」
悪魔や精霊の中には死者の魂を契約で縛り利用する者も存在する。
同じくチャコの魔法である【鬼籍の再演】は使用条件として蘇生する強い死者の魂を集めておく必要があるため、悪魔や精霊にこき使われていた魂を奪い返したり、死んでしまった子の魂を先んじて回収する事で保護していた。
……保護しすぎて夢の中が魔法少女だらけになってしまったので、全く眠った気がしないのも彼女の魔法の持つデメリットの一つだ。
そんな彼女たちの元へポン太がベルフェゴールを連れて近づいていくと、半目のチャコと金髪の子の楽し気に自慢する声が聞こえてくる。
「ふふん。前に精霊城で衝動買いしましたが、ダンジョンの敵には十分ですね」
「流石は我らがステイツ! ダンジョンで銃が使えないなんて過去の常識デース!」
「うおお! コイツ止まらんぞ!?」
「剣聖さん……。トリガーを離そうか?」
銃のストックを肩に乗せて撃つという謎の撃ち方を披露していた子の焦った声に、隣でそれを眺めていた子が身振り手振りのアドバイスをしてあげていた。
チャコの次なる目標はダンジョン内のガチャから出る身長を伸ばす景品。
堂々と魔法少女パワーでダンジョン攻略をやっていては、どんな問題が起こるか分かったモノではない為、チャコが個人的にコレクションしていた装備を夢の中で試し撃ちしているらしい。
この銃はアメリカで開発された魔法の銃だ。
ダンジョン内は物理法則が歪んでおり火器は無効。その事に発狂したアメリカが精霊達から提供された想像力についての情報を研究し開発した銃であり、ダンジョン内のモンスターを粉砕する破壊力を持つ。先日、ベヒモス相手に照射していた車載兵器の小型縮小版である。
しかし、魂だけで存在できるほど強い力を持つ少女達にとっては玩具みたいな物なので、試し撃ちというよりはみんなで遊んでいる。
夢なので複製も自由自在な上、現世では高額な弾薬も無限に使えてしまうのだ。
バレルを開閉して遊んでいたチャコが、近づいて来たポン太達に気が付き一緒に遊んでいた魔法少女達と一緒にやってくる。
「三人共、新たな悪魔のお迎えご苦労様です」
「大人しいから大した手間じゃ無かったポン」
「新たな……? 吾輩とポン太殿以外に悪魔が居るのでありますか?」
「あと二体ほど世界を滅ぼそうとした悪魔が捕らわれているポン」
チャコの言葉に引っ掛かりを覚えた少女姿の悪魔が聞き返すと、鋭い牙を見せつけるように笑ったポン太が他の悪魔について語り、続けてピンクの前足を広げその姿に似合わない大仰な仕草をしながら歓迎の言葉を伝える。
「チャコの夢へようこそポン。ここは魔法少女の見る夢であり、悪魔の牢獄でもある場所ポン」
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称賛の言葉を並べる魔法少女が謎の機械に赤く輝くリンゴの中心をセットし、レバーを回転させると面白い様にリンゴの皮がむけていく。その隣では剣聖さんと呼ばれた少女が自信満々で剣を抜き、止められてシュンとしている。
「素晴らしい! これぞ文明開化!! この道具は革命的だ!!!」
「リンゴぐらい、私の剣でむいてやるぞ?」
「剣聖さん……。敵を叩き切る剣で口に入れるものに触れるのは、ちょっと……」
ぶつぶつと不満を漏らす少女姿の悪魔は、次々と同じ機械を具現化している。
「何故に吾輩がこんな物を作る羽目に……」
「ここは現世と遮断された場所ポン。故に悪魔は住人の役に立たないと消えるポン」
ポン太の厳しすぎる言葉に少女姿の悪魔は半泣きになって、リンゴの皮むき器を具現化しつつ問いかける。
「ポン太殿は一体どんな形で役立っているのでありますか?」
「僕はこの島【楽園島】を提供しているポン。リンゴの木も沢山植えたポン」
「ベルフェゴールさんの今後の活躍に期待です」
チャコが居れば果物ナイフを具現化してもらい、皮むきをすることが出来る。
しかし、彼女がここに来るのは眠っている時だけなので、ポン太が島中に植えたリンゴは固い皮が邪魔で食べづらいと不評だったのだ。
順番待ちでリンゴ片手に長蛇の列を作るキラキラとした目の魔法少女達。甘いものに飢えている彼女達に、ベルフェゴール印のリンゴむき器は大人気だ。
もらった子が自慢するものだから、配っても配っても列に並ぶ子は増え続けている。
絶望的な光景に少女姿の悪魔は両手で顔を覆い現実逃避した。
「吾輩の怠惰なスローライフは何処に……?」
「そんなモノはないポン。黙って手を動かすポン」
この章ではついにチャコが身長+一センチを当てましたね!
彼女の目標身長まであと1センチ!
必勝法を見つけたかのように思われたチャコでしたが、そう上手く行くことはなく。
精霊城が悪魔の襲撃により失われた為、チャコの望みを叶える施設もまた失われてしまいました。
次章からのチャコは身長を伸ばす為、ダンジョンに挑戦する予定です。
チャコは今後も頑張っていきます。
あと一センチの為に!
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