第36話 世界を守る為にLRガチャを回せ! 後編
聖女さんを見送ったチャコは、ゲンコツの衝撃により消費する想像力をカード以外で補う手段を思い出した。
「そういえば、ここに丁度精霊が居ましたね」『想像力の塊ポン』
「「「えっ」」」
戦いとガチャを手に汗握り見物していたウマ・ウサギ・ゾウの精霊達をむんずと掴み、紫色の棺に放り込むと素早くフタを閉じてガチャレバーを回転させる。
状況を理解したらしい精霊たちがドンドンと中から棺を叩く音が聞こえるが、かなり集中しているチャコは気にしない。危険な魔法なのだ。
ガチャを回しきると、棺が光り輝き開いて、萎れた精霊と共に少女が出てくる。
少女は大きなつばの付いた黒い三角帽子をかぶっており、全体的に黒いその恰好はまさに魔女っ娘だ。
「賢者さん! 良く来てくれました!」『これで勝ち確ポン』
「ボクを呼び出すなんて、茶々子は運が良いなぁ」
賢者さんと呼ばれた少女はチャコの運の良さを称賛しながら、その目を三日月のように細めて笑った。
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前線では聖女さんの支援を受けた拳聖さんが、ベルフェゴールを圧倒していた。
パンチは悪魔を抉り砕き、キックは振りぬいた場所を地形もろともに両断する。
「おじさんっ困ったなっ! これじゃあっキリがっ無いよっ!」
[そろそろ、権能の準備が終わるであります! 大人しく家畜になるでありますよ!]
しかし、悪魔は凄まじい肉体の再構成能力により拳聖さんが攻め切ることを許さず、逆に時間切れの事で煽ってくる始末だ。
「それは困るなぁ」
そんな悪魔の目の前にニッコリとした笑顔の賢者さんが現れた。
咄嗟に腕で振り払った悪魔だったが、すでにそこに姿は無く。いつの間にか悪魔の肩に現れていた賢者さんが、今度は頭部をペタペタと撫でまわす。
「良い素材だねぇ。ふむん、逆理による神と作成者以外からの干渉耐性かぁ」
[吾輩に触れるな! 【悪魔の聖杯】!]
□オーケーボス! 【極位光学術式】□
突然現れた存在からの看破に、悪魔は光で周辺を薙ぎ払った。
再び居たはずの場所から消えていた探し人が、次はガウェインの足元からひょっこりと顔を覗かせ、最初と同じく笑顔を浮かべている。
「転移封鎖されたこの場所で転移したでありますか!?」
「想像力操作の応用だよぉ。おっと、時間が無いんだっけ【術式大全】よ」
驚愕する悪魔を見てニヤリと笑っていた賢者さんは、手元に大きな本を具現化して歓声を上げながら高速で読み始める。そして、とあるページを開いたときに、その蒼く輝く眼を見開いた。
「結構術式増えてる~! おっ、神位の核熱術式かぁ。一発なら良いよね?」
「あぁ、賢者さんの悪い癖が出たみたいです」『もう止まらないから逃げるポン』
危険な発言を聞き取ったチャコは、棺にしょぼくれた精霊達を放り込むと駆け出した。
どこからともなく聞こえてきたポン太の声に、チャコの仲間たちもその後を追って走り出す。
賢者さんは現れたり消えたりを繰り返す事で、悪魔の関心を惹き付けてくれている。
目指すは塔の外だ。
「ヤバいっす! 何だかヤバいっす!」『その勘は正しいナー』
「わわわ!? みんな待って~!」「エリス! 持ち運ぶぞ!」
「おじさんも逃げとこっと!」
「【祝福の祈り】我らに翼を授けたまえ!」
チャコ達が天井を支える複数の円柱の間から逃げ出した後に、全ての柱の裏から三日月の様に目を細めて笑う賢者さんが現れて大きな本を光り輝かせた。
「アバターはぁ」「面白いよねぇ」「こんなこともぉ」「できちゃう!」
[そんな馬鹿なであります!!?]
全員が本人の完璧なコンビネーションによって光が繋がり、一瞬で儀式場が構築される。
「ククッ、ふふふふ! ハーッハッハッハハ! 顕現せよ【神位核熱術式】!」
蒼い眼を見開いた賢者さんの宣言で、儀式場にされた精霊城の中枢は光り輝く。
空中を駆けるように飛びながら逃げていたチャコ達は、強烈な閃光を腕で遮りながら振り返った。
白亜の精霊城を金色に光る球が飲み込んでいく。
球が消えた後、精霊城は跡形もなくなっており、漆黒の悪魔城の残骸が悪魔側の異空間であるマーブル模様の空へ落ちていった。
強力な術式の余波で両勢力の拠点となっていた異空間はひび割れ、崩壊を始める。
その様子を呆然として見ているチャコ達の前に、少し焦げた賢者さんが片手をスパークさせながら現れ、テンション高めの声でその手に持っていた輝く球を投げつけてきた。
「強力な悪魔の魂を確保しておいたよ! 茶々子ぉ、何時ものヤツやっちゃって!」
「お任せなのです。よいしょっと!」
はっちゃけ過ぎて想像力を使い果たした賢者さんは、返事を聞く前に消えていく。
チャコに向けて投げつけられた輝く球、ベルフェゴールの魂は素早く開かれた棺によりキャッチされ、これまた素早く閉じられる。
チャコがガチャレバーを回転させていくと、その場にカードが現れた。
そのカードをキャッチしたチャコは嬉しそうに内容を読み上げる。
「ベルフェゴール、レアカードゲットです!」
それを聞き届けた拳聖さんと聖女さんも想像力を使い果たしたのか、チャコに一言ずつ別れを告げると消えていった。
「そろそろ限界っぽいね。おじさん大活躍しちゃったなぁ~。またね茶々子」
「また会いましょう茶々子さん」
「二人とも、また《《夢》》で会いましょう」
消えた二人に驚きチャコには聞き取れない言葉を話したフィオナは、口を指差して困惑を訴えている。そんな彼女の意図をいつも通りに聞こえているらしい二体がチャコに伝えてくれた。
「■■■!?」
『翻訳システムを破壊しちゃったからナー。今度何か探しておくナー』
「■■■■■■」
『おつかれっすと言ってるポン』
「二人ともお疲れ様。直接話せないのは不便なので、話はまた今度しましょう」
執行任務からの連戦で割と疲れているチャコは、そのまま帰ることにした。転移を助けていた精霊城は無くなったが、入ってきた場所へ脱出するのは割と簡単なのだ。鬼謀さんや他の魔法少女達も、担当の精霊に促されて脱出している。
チャコが居なくなったのを確認した仲間達も脱出すれば、その場には誰も居なくなった。
そして誰も居なくなった場所に、巨大ハムスターが現れた。
つぶらな漆黒の瞳を精霊城の残骸に向けているハムスターは、何処ともなく静かにつぶやいた。
「マモン、いつまで隠れているポン?」
「見つかっておりましたか。流石ですなポン太殿」
称賛しながら背後に現れた紳士には目も向けずにジッと残骸を見つめているポン太へ、ポン太曰くマモンは被害分析をしながら問いかける。
「これは……再建は無理ですな。ポン太殿も何かご懸念がお有りで?」
「担当の子が悲しむと思っていたポン。彼女の目的には因果の操作が必要だポン」
チャコの求めている身長+一センチを成す施設は、因果を操作するという目的に比べるとかなり高度な代物だった為に、精霊と悪魔の総力を結集して作られた精霊城の補助なしでは成り立たない施設だ。
ポン太の返事に思案顔になった紳士は、冊子を具現化すると巨大ハムスターの横に差し出した。
「ふむ……。そういった事でしたら、このようなものは如何ですか?」
「学校のパンフレットポン? 探索者学校……なるほどポン」
それを横目で見てチャコが苦手でも身長を伸ばす為にダンジョン通いをしていたことを思い出したポン太は、パンフレットを受け取り軽く目を通す。
「自前のダンジョンを持っているなんて中々良い施設ポン。手配は出来るポン?」
「もちろん、精霊の推薦枠があります。担当殿の大願成就には良き場所かと」
頷いたポン太はようやく振り返り礼を言うと、パンフレット片手に消え去る。
「良い情報だったポン。担当の子に提案してみるポン」
「お役に立てたなら幸いですとも。ご連絡をお待ちしております」
ポン太が振り返り礼を言ってから消え去るまで、ジッと礼をしていた紳士は尻餅をついて冷や汗をかいた。
「まさか軽く権能まで使ってくるとは、あまり深入りするべきでは、無いですな」
何とか立ち上がり土ぼこりを払った紳士は、ポン太と同じく消え去った。
誰も居なくなった異空間は崩壊して想像力に還っていく。




