11.自分の居場所
「『バリア!』『ヒール!』『ハイヒール!』『ピュリフィケイション!』」
聖女の正式な任命式から二日後、ノイルは最近瘴気が濃くなったと言われる魔の森で回復系の魔法を連発していた。
討伐遠征用に着込んだ臙脂に金の刺繍がされたローブを翻し、魔物からの傷を受けた騎士に次々と打ち込んでいく。
そのスピードたるや、怪我をした本人が下がる間もないほどである。
発表からわずか二日での討伐出立となったのには、理由があった。
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聖女の任命式は、恙なく行われた。
ニアと他の侍女が朝から徹底的に肌を磨き髪を整え、いつもより豪華な白地に金の刺繍が入ったドレスとローブに袖を通す。
銀色の髪はアップにし細かく結い込まれたあと、金極鳥と呼ばれる金色の鳥の羽を仕上げに飾った。
自身の元から持つ色彩と相まって、ザ・聖女という出で立ちである。
時間を迎え大ホールに入ると、王族と貴族、神官がずらりと並んだ先に盛装をした国王と大神官が立っている。
通常の任命式典であれば両者が立ったまま出迎えるというのは無いことだが、同格の存在であるという事を示すためにこのような形となったと聞いた。
数々の視線を感じながらゆっくりと歩み寄り、軽く腰を折って挨拶をする。
国王の右隣、初めて見る大神官は精緻な刺繍のされた白い神官服に身を包む、太陽のような金髪をした若い男だった。
「ウィングルト王国国王の名に於いて、ノイルを聖女として任ずる。
大神官、異論はないか」
「ありません。聖女ノイル、この地の安寧のためその力を貸してください」
「ありがたくお受けさせていただきます」
聖女の任命式に難しい決まりなどはない。
聖なる魔力を持つ女性が存在し、その上で国王と大神官、双方の同意があれば聖女として活動することを認められる。
聖女の称号は重く、教育期間以外にこの同意がない人間が聖女と騙ることの罪は重い。
国王と大神官が、用意された書面にさらさらとサインを書き込んでいく。
サインをもって、ウィングルト王国の聖女としての活動が始まるのだ。
再び両者に頭を下げ退室したのち、衣装を変えてお披露目パーティーが行われる。
任命直後の討伐任務に出ることになったのは、このお披露目パーティーでの事件がきっかけだった。
パーティー用の先ほどよりも少し豪華に作られたドレスに袖を通し、会場で様々な貴族と顔合わせの挨拶を行う。
話を聞いていくと、どこの領地でも最近瘴気が濃くなり魔物の数や被害が増えているとのことだった。
貴族だけでなく参加している高位の神官からも話を聞き、状況を把握していると、あまり雰囲気の良くないとある貴族が高らかに話し出したのだ。
「聖女の力があると言われていますが、元々は五属性魔法の適正も持たない落ちこぼれだったというではありませんか。はてさて、聖女の力などというのもどの程度のものか怪しいですな」
でっぷりと太り貴金属を無駄に身に着けたその男は、たしかベヘス・キリル男爵だったか――
突然のあまりの言われように目を白黒させながら脳内貴族手帳をめくる。
大半はキリル男爵へ冷たい視線を向けていたが、一部の貴族たちはそれにつられるように疑いの目をノイルに向けた。
「われわれに信用してもらいたいなら、それなりの成果を上げていただきませんとなあ!
無能な小娘一人に無駄な税金が使われては困りますからなあ。ハッハッハ」
男爵が笑うと、その雰囲気に引っ張られた少数の貴族たちがさざめくように笑う。
近くで警護をしていたウェアハルトが割り込もうとするが、ノイルはそれを手で制した。
「もっともなご意見ですね」
こういう輩は、前世で履いて捨てるほどいた。
動機はさまざまだが、女が目立つことが気に食わないもの、小娘を虐めて上に立ちたいだけのもの、あわよくば利用しようとするもの、その成果を横取りしたいものなど枚挙にいとまがない。
そしてこういった手合いと、それに引きずられるものたちを黙らせるには、実力行使が一番なのである。
前世では、どれだけ頑張ろうとも、立場がなかったが故に成果を横取りされたり握りつぶされたりしてきた。
それに比べれば、今の立場がある状況など楽なものである。
「国王に進言して、最速の討伐任務に同行させていただきましょう。
そこでもし、目に見える成果を上げられたら――
さきほどの発言の撤回と謝罪を要求します」
ノイルはただ守られるだけの小娘ではない。
自分の居場所は自分で掴まなければならないことを知っている女だった。
その姿をまぶしそうに見るウェアハルトの姿には、闘志に燃えるノイルは気づかなかった。




