尻軽女はセンチメンタルを咀嚼する
「カナ、まだ寝ないの?」
「明日は土曜だし、販売用の作品少し作ってから寝るわ。アキ君は先に寝てて」
「そうする。発作が起きたら遠慮なく起こしていいからね」
ベッドへ向かうアキ君を見送って、黙々と作業台と材料の準備をする。
今ショップに並べている春のモチーフが売り切れたら次は初夏のイメージのアクセサリーを並べたい。
そういえば鈴さんも私と同じ運営サイトでアクセサリーショップを始めていた。弟さんと妹さんに手がかからなくなってきたのだろうか。
元々の手先の器用さと、季節を問わないアンティーク風の作風で、徐々にファンを増やしている。
色々雑多に置いている私のショップとは方向性が違うから大丈夫だけど、同じだったら強力なライバルになっていそうだ。
去年の文化祭で私が提供した葡萄のリボンフック争奪戦から漏れた人に頼まれて、ショップをクラスの女子に教えたら、結構みんなアクセサリーを買ってくれるようになった。
クラス委員の梁田さんなんてすでに常連だ。
学校で購入者から直接感想をもらったりもするのでありがたい。要望が耳に入りやすいとすぐに次に生かせていいわね。
去年の春にはこんな風に周囲から受け入れられている今を想像もしなかったな。
硬化したレジンを冷ます間、ミルクティーにウイスキーをひと匙混ぜた飲み物を飲む。
これはクリスマスに絵麻さんが置いていったウイスキーだ。少しずつなのでまだ結構な量は残っているけれど、いつかは無くなってしまうのだろう。
同じ銘柄を買ってもそれは絵麻さんが残したものではないけれど、きっと次に買う機会があれば同じ銘柄を買うのかもしれない。
今日は発作が起きるほうではなく、悲しくて涙が止まらないほうに心が揺れているようだ。
本当は良くないし、アキ君に知られたらいい顔はされないだろうけど、泣くのはひとりで泣くようにしている。
まだ寂しさも悲しさも私の中には留まり続けていて、消化しきれない。
絵麻さんのように甘えていいのだと言われても、やはりアキ君は絵麻さんにはなれない。
私が寄りかかってもきっと倒れたりはしないが、ジメジメとした私をいつまでも受け入れてくれるとは思えない。
発作のほうだっていつまで面倒見てくれるかわからないよね。
今も飽きずに回数を重ねているけれど、いつかは飽きてしまうのだろうし。
早く男性恐怖症から完全に脱却して、外で発散できるようにしないと。
ワンナイトでも数を増やせばその分アキ君の負担は減るだろう。
新入部員たちがわいわいと盛り上がっている。あれから何人か見学にきたけれど、結局残ったのは初日にきた3人だけだ。
約束通り見学期間中に問題を起こすことはなかったので天成君も天音さんも正式に部員となった。
今は教本を見ながらふたりでぬいぐるみに使う布について話し合っている。いきなりぬいぐるみに挑戦しているけれど家で裁縫をしているだけのことはあるのでそれほど問題はないだろう。
鳰君はふたりに対し、ぬいぐるみ用の帽子やバスケットなどを提案している。
可愛さに小物は重要と考える鳰君ととにかく可愛いぬいぐるみを作りたいふたりで盛り上がっているのはいいことだ。
「やっぱり鳰君って中学時代のアッキーに似てる気がする」
「顔立ちが優しいところとか背格好は似てるよね」
一方鈴さんと唯花ちゃんはそんな話をしている。
にょきにょき伸びて精悍な男性となり、漫画の主人公とは容姿がかけ離れてしまったアキ君の代わりに投入された代理主人公、と言われたら信じてしまうかもしれない。
このまま鈴さんと唯花ちゃんが鳰君を意識しだしたら主人公交代かと思うけれど、今のところ後輩を優しく見守る先輩たちの目である。
なお手元にあるのはビーズなので、もう少し集中して悲劇を回避してもらいたい。
ひっくり返してぶち撒けても拾うの手伝わないよ。
「そういえば今年って手芸部の活動の方針あるの?」
「特にはないけれど、人数増えたし部員の手芸スキルも上達したから去年より文化祭に力を入れたいな。ただ作品を並べるだけでなく、展示テーマを決めて、それに沿った展示にするとか」
「鹿波ちゃんと鈴ちゃんは問題ないけど、私はそんなに上達してないから自信ないな」
「唯花ちゃんも随分上達してるよ」
生前から手芸経験者の私、元々手先が器用な鈴さん、前からうちに入り浸りほぼ私の直弟子と化したアキ君と比べたら見劣りするというだけで、ちゃんと唯花ちゃんも成長しているのだ。
「そういうテーマってもうこの時期に決めておいたほうがいいのかな? どうしたって展示点数増やそうと思ったら時間かかるし」
統一感のある展示にするには点数も大事だし、鈴さんの言う通り早めに動いたほうがいいだろう。
文化祭の予算申請するにもスムーズになるし。
「そうだね。次くらいに話し合いかな」
「可愛いのがいいなあ」
文化祭なんてまだ先だと思っていても今年は修学旅行もあるし、時間が足りなくなる前に決めてしまおう。
2年目の新生手芸部はなかなかやる気に満ちている。
繁忙期に入りました。
職場が遠いので在宅勤務したい……




