夢見る幼馴染ヒロイン
唯花ちゃん視点です。
若干読みにくいです。
夢の中で私は知らない小学生の女の子になっていた。
お父さんの再婚でできた年の離れた優しいお姉ちゃんが大好きで、そんなお姉ちゃんにくっついて回る幸せな夢。
初めてその夢を見たのは鹿波ちゃんから初めて貰ったバレッタが粉々に壊れてしまった日の夜だった。
強く人を憎んだのはこの日が初めてで、泣き疲れて寝てしまうようなことも随分久し振りで、精神状態が悪いから妙に印象的な夢を見たと思ったのに、それから何度も同じ夢を見るようになる。
何度目かは忘れたけれど、このお姉ちゃんはどこか鹿波ちゃんに似ている気がした。
顔は全く似てないよ。鹿波ちゃんみたいな綺麗な人なんてそうそういないし。
でも手先が器用なところとか、優しいところとか、あと話し方や仕草が似ている。
夢に変化が現れたのは夏休みが始まる前の日。
避けていた鈴ちゃんが手芸部に参加して、この日もあまり心が穏やかじゃなかったと思う。
新しいお母さんが夢に出てくるようになった。
お母さんは新しく娘になった私には優しかったけれど、何故かお姉ちゃんに冷たくて、いつも仲間外れにしようとする。
お父さんはそれを窘めたりするけれど、お母さんのお姉ちゃんへの冷遇は変わることがなかった。
血が繋がった親子なのにどうしてなんだろう?
それなのに私を憎んだりせず可愛がってくれるお姉ちゃんが不思議で、でも嬉しかった。
私はきっとお姉ちゃんの特別なんだ。
きっとお姉ちゃんも私のことを好きでいてくれる。
大人になったらお母さんが邪魔できないくらい遠くの街でお姉ちゃんとずっと一緒にいたい。
その日を夢見て、必ずできると信じているそんな夢。
夢の中の女の子じゃない私はその感情を「初恋」と呼ぶのだと知っている。
お姉ちゃんへの恋を自覚してない女の子の代わりに、私は恋に似た愛しさを夢の中のお姉ちゃんと鹿波ちゃんに抱くようになっていた。
次に夢が変化したのは、アキト君を押し倒し、私の全てを差し出した夜。
本当はずっと気付いてたの。アキト君は私を選ばないって。
悲しいとは思ったけれど不思議と鹿波ちゃんを憎らしく思ったりはしなかった。
だって鹿波ちゃんがずっと見てくれるのは私だったもの。
きっとアキト君から頼まれて、優しい鹿波ちゃんは断れなくて関係を持っている。
だったら鹿波ちゃんを解放してあげなくちゃ。
だけど脅して押し切ってこのままアキト君と付き合えたとしたら、鹿波ちゃんは申し訳ないと私から離れていくかもしれない。
それはだめだ。一緒に幸せになるんだ。お姉ちゃんも鹿波ちゃんも一緒に。
だけどお姉ちゃんは家を出て行った。
就職してひとり暮らしをすると言う。
私は中学生になっていたけれど、お姉ちゃんが住む街は遠いから会いに行きたいとメールを送っても危ないからと断られて、私はお姉ちゃんが帰ってくる日を待ち望むことしかできなかった。
お姉ちゃんが一緒にいたときは世界がキラキラ輝いていたのに、急に日々が色褪せてつまらない。
早く大人にならなきゃ。大人になってお姉ちゃんに会いに行こう。私は鹿波ちゃんを独りになんてしない。
鹿波ちゃんが入院したら、私は高校生になっていた。
一度も会えないままお姉ちゃんは物言わぬ姿で帰ってきて、すぐ綺麗な白い布が張ってある四角い箱に入れられて、しばらくするとそんなに古くないお墓がお姉ちゃんの新しい家になった。
これからはお姉ちゃんのおじいちゃんとずっと一緒だから寂しくないね、とお姉ちゃんのおばあちゃんが言ったけれど、そんなの認められない。
どっちかはわからなかったんだって。
遺書もなにもなくて、ただの事故だったのか、故意の自殺だったのか、誰も知らない。
だけどお姉ちゃんを悼む大人たちの会話の端から、お姉ちゃんが子供のころからずっと幸せとは言えない人生を送っていたらしいと私は知ってしまった。
どうしてお姉ちゃんみたいな素敵な人が幸せになれなかったんだろう?
どうしてお姉ちゃんみたいな優しい人が独りで死ななくてはならなかったのだろう?
あの子のためだったと言うお母さんが嫌いだ。
お姉ちゃんを引き留めなかったお父さんが嫌いだ。
お姉ちゃんに暴力を振るった人が嫌いだ。
お姉ちゃんの居場所を奪った人が嫌いだ。
お姉ちゃんを守り切れなかった人が嫌いだ。
甘えてばかりで、なにも返せなかった、私が一番大嫌い。
小さくなったお姉ちゃんを夢で抱きしめるたびに、焦りは募っていった。
私の大切な人は目を離すと、独りでそっと消えてしまう。
なんでもいいから繋ぎとめておかないといけない。
嫌われたって大丈夫。私を一番嫌いなのは私だもの。
今度こそ私が守ってあげる。
だから、ずっとずっとずっとずっと一緒だよ、お姉ちゃん。
でも本当はちゃんとわかってるよ。
お姉ちゃんと鹿波ちゃんは別の人だって。
同じ夢を何度を繰り返して、本当にいた人みたいに思えても、あれはただの夢だって。
だけど本当によく似ているの。
きっと鹿波ちゃんはお姉ちゃんと一緒。
消えてしまうことに躊躇がなくて、残される人間の感情なんて考えてくれない。
だから、もっと強く深く食い込まなきゃ。
「あ、ごめんね。呼び間違えちゃった」
ちゃんと普通に、いつも通りに無邪気を装わなきゃ。
だけどもっと私を怖がって、ぐちゃぐちゃに崩れて、一生消えない大きな傷になって。
とっても優しい鹿波ちゃんだもの。それでも私のことを突き放したりはできないでしょ。
夢の中の女の子ももっとやって大丈夫って囁いている。
ほら抱き着いても振り払ったりしない。
「絵麻ちゃんが帰ったら、今日もいっぱいえっちしようね」
怖いのも苦しいのも私の愛で全部上書きしてあげるよ。
補足1
鹿波にとっては前世の死は喜劇ですが、前世の家族にとっては不幸続きだった娘が絶望しながら孤独に死んだ悲劇でした。温度差がすごい。
補足2
前世の妹は姉への未練が断ち切れないまま老衰で死んで姉の魂を求め続ける悪霊のようなものになりました。転生はしてません。
唯花は妹と波長が合ってしまっただけなのです。




