尻軽女の埋め合わせ
お盆にお母さんたちの実家に行っていた唯花ちゃんがお土産を持ってやってきた。
唯花ちゃんと北原君のお母さんは幼馴染で毎年お盆は一緒に帰郷なんだよね。
「鹿波ちゃん、なにか私に言うことない?」
会って早々の今現在、唯花ちゃんから真面目な顔で詰め寄られている。不機嫌そうでも久し振りに会うから可愛い。
「えっ、おかえりなさい?」
「違うよ」
隠していることは多々ある。
もしかして北原君に聞いたのだろうか?
いや、それはないと思うけれど。
「私がいない間に鹿波ちゃんとお泊り会して、アイスクリームパーティしたって絵麻ちゃんが言ってたけど、どうして私がいるときにしてくれないの!」
ああ、そっちか。
「ごめんね。お泊りもアイスクリームパーティも話の流れで決まったから」
「絵麻ちゃんばっかり鹿波ちゃんを独占してずるい」
そう言って頬を膨らませている。やっぱり可愛い。
「じゃあ、残りの夏休みで一緒になにするか考えようか。予定は今なにもないから唯花ちゃんに合わせられるよ」
「お泊りと、お買い物と、あとみんなでプールにも行きたいし……あと月末にうちの近くで夏祭りがあるから一緒に行きたい!」
なかなか夏っぽいイベントが目白押しだ。
しかしプールか……水着あったかな?
唯花ちゃんもスクール水着しか持ってなさそうな気がする。
「プールに行くなら、一緒に新しい水着買いに行こう。いつがいいかな?」
「今日でもいいよ」
ここから電車乗って行ける大きめのモールならわりと遅くまでやってるしこれから行っても問題ないか。
唯花ちゃんはどんな水着が似合うかな?
かなり胸が大きいしビキニが一番着脱は楽だと思うけれど、目立つのは嫌がりそう。
胸の切り返しでフリルがついたタンキニがいいのかな。
大きなリボンやフリルが胸にあるとそこが大きく見えるから、胸の下から段のフリルになってるデザインなら胸が目立たなくなる気がする。
生前は私もそこそこ胸が大きかったけれど、大人になってからプールや海に行ったことがないから水着はいまいち詳しくないのよね。
私はワンピースかな。落ち着いた暗めの色が似合うと思うけれど、老けて見られるし単色じゃないほうがいいかもね。
いそいそと出かける準備を始めながら、ふと思う。
この超絶美少女唯花ちゃんと行って、トラブルが起きずに楽しめるプールってどこだろう?
道中、プールに行くことを絵麻さんに連絡すると、絵麻さんちのプールに行く提案をされた。
プールも持ってるのか高梨家。いや、ありそうな気はしていたけれど。
それならナンパの心配もないので安心だ。
メンバーは私、唯花ちゃん、絵麻さん……
「北原君も呼ぶの?」
「アキト君、夏休み入ってからちょっと体の調子悪そうなんだよね。ずっと関節痛とか筋肉痛とか?」
「どこか痛めたのかな? 心配だね」
「でも呼ばないのも可哀想?」
「誘うだけ誘ってみようか」
なんというか唯花ちゃんが北原君に対して、乗り気じゃないというか、他のことに気を取られているような気がする。
お盆中なにかあったとかじゃないとは思うけれど。
……ひょっとしてもうひとり呼びたいのかな?
「今回の集まりって手芸部仲間のくくりになると思うけれど、部員の麦野さんも呼んでいい? 今までは幽霊部員だったけれど夏休み後には普通に部活動に加わる予定だし」
麦野さんの名前を出した瞬間、唯花ちゃんがびくっとした。
そろそろ一区切りつけたいけれど、単独で会うのは怖くて、だけど複数人のときに自分の事情に巻き込みたくない、というところか。
「いいの?」
「怒り続けるってパワー使うからね。唯花ちゃん疲れちゃったでしょ?」
「……うん」
「休み中に気持ちに一区切りつけるのはいいと思うよ。前と同じ間柄には戻れなくても、普通に話すくらいはできたほうが楽だし。区切りをつけた結果やっぱり許せないってなることもあるけれど」
唯花ちゃんはあまり怒ったことなさそうだから、振り上げた手を降ろすタイミングがわからなかったのだろう。
今回の諍いは一生許せないとか、相手の消滅を願うほどのものではないから、一区切りつけば普通のクラスメイトくらいには戻れそうだ。
「なんだか鹿波ちゃんと私の大事な思い出が壊されたみたいで悲しくて、辛くて、鈴ちゃんたちを許せなくて……でも」
「大丈夫だよ。私との思い出はちゃんとあるし、新しい思い出も作っていける。唯花ちゃんと麦野さんの間の大切な思い出がちゃんと残ってるみたいに、もし私と縁遠くなっても残るものはあるよ」
「鹿波ちゃんはどっかいっちゃやだ」
「私も唯花ちゃんと一緒にいたいけれど、未来は誰にもわからないからね」
それこそまたどこかでうっかり死んでしまうかもしれないし。
少なくとも卒業までは生きていられるとは思うけれど。
さて、お誘いを送ったところ、全員プール参加とのこと。
麦野さんは妹だけ連れてきていいかと言うけれど、あらましの又聞きとはいえ唯花ちゃんの精神衛生上やめておいたほうがいいと思うので、麦野さんだけで来るようにお願いした。
おそらく唯花ちゃんへ妹さんから謝る機会が欲しいのだろうけど当事者ふたりいたら唯花ちゃんも落ち着かないでしょう。
それは唯花ちゃんと麦野さんの間が落ち着いてから、個人間でやってほしい。
シーズン終わりのためか若干安くなった水着を買い、モールにあるパーツショップに寄って新しいシリコンモールドや空枠を補充すると、日が緩やかに傾く時間になっていた。
「夕飯はどうする? モールで食べていく?」
「ちょっとお母さんに聞いてみるから待ってて」
今日はそんなに遅くなるような予定じゃなかったし、用意されてるようで、夕飯はとらずこのまま帰ることになった。
プール前日にお泊りしたいとのことなので、メニューなにがいいか考えないと。
考え事をしながら、ふと唯花ちゃんが私を見つめていることに気付いた。放置し過ぎた?
「どうかした?」
「ううん。鹿波ちゃんと一緒だと、やっぱり嬉しいなあと思って。夏休みもいいけど、平日は毎日会えるから早く学校も始まってほしいな」
「私もそう思う」
唯花ちゃんといると穏やかな気分でいられる。
別に普段からストレスの多い暮らしをしているわけではないけれど、この空気は大事だ。
しいて言えば今日は抑制薬を多めに飲まなくては。それもこれも唯花ちゃんがとてもとても可愛いのがいけない。
驚いたことに前作の「ゲームで育てた不人気作物パースニップでみんなを元気にしてあげる」が第2回アース・スターノベル大賞の一次選考を通過しました。
最終結果も楽しみですが、44/4251作品に選ばれたことを励みにこれからも頑張ります。




