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尻軽女が暴力系ヒロインに転生したので、暴力を封印してみた  作者: 春無夏無


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尻軽女の擦り合わせ

女子高生がおしゃべりしてるだけの回です。

「方針を変えようと思う」


 我が家にやってきた絵麻さんが紅茶を飲みながら切り出した。

 どうやら北原君と距離を詰める計画はまだ上手くいってないらしい。

 テストも終わり夏休みを待つだけとなった今、継続は困難と判断したのだろう。


「元はと言えば鹿波さんのせいだからね。毎回毎回限界まで搾り取ってたら常に賢者モードよ」


「私から搾り取ってるわけじゃないから搾り取られにきてる人に言って」


 セーブさせようという気持ちはある。もう1回と言われたら断ってないだけだ。


「それで北原をどうにかするのは諦めたわ。私がここから逃げられるなら、結ばれるのが原作通りじゃなくてもいいの。それこそ鹿波さんと北原がくっついても問題ないわ」


「それはないと思うけど」


「全く目に入ってないのか。まあそれでアプローチ先を変えて、まだ具体的な婚約話が湧いてもいない婚約者をどうにかする方法をとろうかと思って」


 物理的に始末でもするのだろうか。


「原作で私が婚約破棄した後、じゃあ代わりに他の人って話が出なかったのは、近い年頃の家格の合うフリーの男性が他に居なかったんじゃないかと思うのよ。大事な局面で婚約ぶっちぎった娘を見限った可能性もあるけど、うちの付き合いならそれでも条件悪めの申し入れはある筈」


「年齢的にもまだ需要がなくなる歳じゃないものね」


「なら本格的に話が持ち上がる前に、発生を潰そうかと」


「できるの?」


「どうかしら? 鹿波さんの協力次第ね」


 ん? 今の話に私が協力するような部分あったかな。


「夏休みに避暑で高原に1週間ほど滞在するのだけど、一緒に来てくれない? そこに未来の婚約者が来るの」


「すでに面倒な予感がしてる」


「簡単よ。北原にしているように限界まで搾り取ってほしいだけだから」


「いやそれかなりの暴投だと思うけど。そもそも女子ならともかく男子が他所でつまみ食いしたところで影響なんてないのでは」


 種を蒔いて芽吹いたら困りはするだろうけれど。良い家柄ならお金で解決できそうだ。

 なお私は生理不順で中学の頃からOC処方されてるから芽吹くことはないし。芽吹かせるつもりもない。


「多分……いや断言できるけど、鹿波さんは男を溺れさせる才能があるわ。その後の人生を左右するくらいね」


「底無し沼扱いされるとは思わなかった」


 というか、絵麻さんの言い方だと北原君や加賀さんが私に溺れてるみたいじゃない。

 手近に使える体があるから使ってる人と、仕事でしてる人なのだから、どちらも溺れたりはしてないと思う。

 そもそも加賀さんとはまだそんなに機会がない。


「いい具合に女に溺れて堕落してくれれば婚約者候補に上がらなくなると思うの」


「駄目だよ、人を騙したり陥れたりするのは。他に方法がないか私も一緒に考えるから」


 絵麻さんはとても残念そうな表情をしている。

 そんなに人の人生を狂わせたかったのだろうか。


「……わかったわ。鹿波さんの負担が大きいものね。でも普通に旅行は一緒に行かない? 私以外はSPのみだからいつも退屈なのよ。美術館や博物館、動物園に牧場、名刹に温泉があって、創作のインプットにはいいと思うのだけど?」


 それはなかなか魅力的なお誘いだ。

 インプット不足だとアウトプットが枯渇するのはよくあることで、そういうときは本や映画や絵画を摂取している。

 普段行けないエリアで新しい美術品や風景に触れたら創作意欲が湧きそうだ。


「旅費や交通手段はこちらで用意するし、泊まるのもうちの別荘じゃなくて、近くにあるうちのホテルにしていいわよ。リゾート感重視で特別室は全室離れになっていて露天風呂完備。料理の味も保証するわ」


「話がうますぎてそれはそれで怖い」


 今だって病院や加賀さんなど随分お世話になっているのに。それだってクラスメイトとしては破格の待遇だ。


「自覚がないのね。私にとって鹿波さんは特別な人なのよ?」


 はて、そんなに親交を深めていただろうか?

 部活動では仲良くしているし、こうやってお互いの家を行き来するようにもなったけれど。

 高校生で家を行き来するのは仲良いほうなのかな。


「この世で唯一、私の前世が妄想なんかじゃないって証明してくれたのは鹿波さんだもの。同じマンガの記憶があって、この世界を舞台だと認識している人がいるなら、かつて男の子だった私も絶対存在してた。それがとても嬉しいの」


 私は生前の記憶が妄想かもしれないと思ったことはなかった。

 同性だったせいかもしれないし、培った手芸の知識をこちらでも使っていたためかもしれない。

 でも絵麻さんの孤独はわかる気がする。

 だって持っている記憶を証明するものはなにひとつないのだから。


「それに私のSPの福利厚生を兼ねた旅行だから、特別手当を現物支給で要求した加賀に鹿波さん連れて行くって約束しちゃったのよね」


「それは知りたくなかった」


 さっきの感傷的な気分を返してほしい。

 特別手当は大事だけど景品扱いはあまりいただけないですよ。


「鹿波さんは加賀と一緒は嫌?」


「嫌じゃないけど」


 感覚としてはお世話になってる大人の人?

 好きとか嫌いとか考えるカテゴリにはいない。

 話せば楽しいし、体の相性もいいから、好意は持っていいのかもしれない。


「旅行中ずっと加賀さんと一緒にいたら、昼間歩いて観光できないじゃない」


「行く前から諦めないで。その辺りはきっとセーブしてくれるはずよ……もしできないなら部屋まで見学しに行くって脅しておくから」


「それはなんだか加賀さんは見られても全然平気そうで、私だけが恥ずかしい予感」


 私はあくまで尻軽であって露出狂ではないからね。人に見せつける趣味はないよ。


「この前平然とキスマークつけて登校して周囲をざわつかせたくせに。唯花ちゃんは虫刺されって信じてたけど」


「虫じゃないけど挿されてはいたから間違いではないでしょ」


「それでどの口が恥ずかしいと言うの」


 リアルタイムと事後じゃ話が違うと思うのだけどなあ。

 世の中には本番そのものより事後の雰囲気のほうに興奮する人もいると思うけれど。


 とりあえず旅行には付き合うことにしましょう。

 折角の夏休み、予定が全くないのはさみしいからね。

 旅先で行ってみたい場所を検索しながら相談するのは、結構楽しかった。

 私がずっとしてみたかった女友達との親密な付き合いってこんな感じなのかもしれない。



 ところで婚約者(予定)の人はどうするのだろう。

 やはり物理かな。

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完結済み前作です。
ゲームで育てた不人気作物パースニップでみんなを元気にしてあげる
VRMMOで成人女性が農業したり育てたマンドラゴラに振り回される話です。
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