神銀の魔神
次のエピソードの設計図になります。
カクヨムでは次からこの神銀の魔神編が始まります。どうぞ一読してください。ほしいです。
# TID:C01_P01_T0620_I00__07P__神銀の魔神
# EID:07P
# タイトル:神銀の魔神
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## ■ 季節
・夏
## ■ 舞台
・ベイルスレイブ
・冒険者協会立冒険者養成校
## ■ 登場人物
・ミナト(15)
・リーン(17)
・ジン
・カナリア(158)
・ニーコス(15)
・琉生(15)
・商人
・一般生徒たち
・ミスリルゴーレム(神銀の魔神)
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## ■ 目的(必ず“増えるのはOK/減らすのはNG”)
1. ミナトの六属性統合の成長段階を描く
2. ミナトの劣等感と焦燥感を掘り下げる
3. リーンとの信頼関係を強化する
4. 亀の甲羅の遺物とリュミエールの伏線を進行させる
5. ミスリルゴーレム起動事件を発生させる
6. ミナトの解析能力が戦局を変えることを示す
7. ジンとカナリアの高位実力者としての戦闘を描く
8. ミナトが「候補」から「当たり」であることを示す
9. 終結系解除の有効性を実戦で証明する
10. 今後の六属性統合研究の必要性を確立する
11. 神銀の魔神事件を通じてミナトを一段成長させる
12. 次章の日常パート(街探索)へ繋げる
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## ■ テーマ
「才能と努力」
「理解できない力への挑戦」
「信頼が人を前へ進ませる」
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## ■ 物語構造(Dual Structure / Multi Structure)
Aパート:ミナトの六属性統合と自己成長
Bパート:リュミエールの遺物が引き起こす神銀の魔神事件
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## ■ beats(物語の流れ)
① **Scene1:展示された遺物**
・育成校へミスリルゴーレムが持ち込まれる
・商人は動かない置物だと説明する
・ミナトだけが不吉な違和感を覚える
② **Scene2:ミナトの特訓**
・統合魔法の鍛錬を続ける
・二~三属性は安定して成功する
・六属性統合は巨大な光を放つだけで制御不能
③ **Scene3:リーンとの約束**
・リーンが特訓後のミナトを励ます
・ミナトは劣等感を吐露する
・リーンが未来の可能性を保証する
④ **Scene4:連動する亀の甲羅**
・六属性統合へ反応して遺物が起動する
・古代文字が浮かび上がる
・遺物が破壊され魔力波動を放つ
⑤ **Scene5:カメの甲羅の調査**
・ジンとカナリアが遺物を調査する
・リュミエールの名が浮かび上がる
・破片から強大な波動が放出される
⑥ **Scene6:ミスリルゴーレム起動**
・神銀の魔神が起動する
・六属性適合者を認識する
・ミナトを目標として突進を開始する
⑦ **Scene7:ゴーレム解析**
・ジンとカナリアが迎撃を開始する
・全身が古代文字で覆われていると判明する
・原因がリュミエールである可能性が浮上する
⑧ **Scene8:聖級魔法の激突**
・ジンの聖級魔法が炸裂する
・カナリアも干渉魔法を試みる
・神銀装甲があまりにも強固で止まらない
⑨ **Scene9:ミナトの確信**
・ミナトがゴーレムの術式を解析する
・危険を理解しながらも逃げられない
・『理の力』の法則を感じ取る
⑩ **Scene10:極限の作戦会議**
・胸部の古代文字の内容が判明する
・術式を書き換えれば破壊可能になると分かる
・ミナトが囮になる作戦を提案する
⑪ **Scene11:理の光**
・六属性統合がゴーレムを誘導する
・カナリアが胸部術式を書き換える
・決戦準備が整う
⑫ **Scene12:砕けぬ胸部**
・ジンが頭部を破壊する
・しかしコアは健在だった
・ゴーレムが再起動を始める
⑬ **Scene13:神銀の猛追**
・ゴーレムがミナトを追撃する
・リーンがミナトを救う
・ミナトが終結系解除で防壁を破壊する
⑭ **Scene14:決着**
・ジンの最大火力が直撃する
・神銀の魔神が完全停止する
・事件が終息する
⑮ **Scene15:激闘の余韻**
・被害処理が始まる
・ミナトの活躍が認識される
・六属性統合が当面禁止される
⑯ **Scene16:大人の事後処理**
・損害計算と事件の整理が行われる
・ミナトの素質が再確認される
・亀の甲羅遺物の謎が残る
⑰ **Scene17:超級浴場**
・事件後の日常が戻る
・カナリアらしい軽さで締められる
・大人側の緊張が解ける
⑱ **Scene18:静かな夜と約束**
・リーンがミナトを治療する
・休日に街へ出る約束をする
・新たな日常編へ繋がる
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## ■ 物語の意義
・ミナトが六属性統合の適合者であることを世界へ示す
・ 解析眼と終結系解除が物語の中核戦力であることを証明する
・ リュミエールの遺物群が現代へ影響を与え続けていることを示す
・ ミナトとリーンの主従関係を精神的な支え合いへ発展させる
・ ジンとカナリアを高位戦力として描写する
・ 今後の大規模事件へ繋がる伏線を大量に配置する
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## ■ 次回へのフック
・ 亀の甲羅遺物の本来の用途は何だったのか
・ ゴーレムはなぜ六属性適合者を探していたのか
・ リュミエールは何を未来へ残したのか
・ リュミエールが言う近いうちが実は20年後だが、
読者にはほんとに近いうちだと思わせる。
作者の体を張った森の人のギャグを通す。
・ 六属性統合は今後どこまで進化するのか
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## ■ 固定ルール
- この台帳は “増えるのはOK/減らすのはNG”
- beatsは 最低3以上(短縮禁止)
- 目的は 2項目を基本とし、削除不可
- 物語構造(A/Bパート)は必ず記述
- テーマは 最低3行
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【Scene 1:昼・育成校広場(展示された遺物)】
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【ト書き】
昼。
ベイルスレイブ冒険者協会育成校。
広場。
日差しが白く石畳を焼いている。
生徒たちの賑やかな声が響く中。
荷馬車から下ろされた巨大な「置物」が人だかりの中心にあった。
琉生
「すげーーーー!!!」
「これがミスリル(神銀)でできたゴーレム!?」
一般生徒B
「動くのこれ!?」
引率してきた商人
「いやいや、動かんよ」
「ただの頑丈な置物さ」
「どこかの遺跡の最奥で眠っていた代物でね」
「魔力をいくら流してもピクリとも動かない」
「だからこそ、こうして冒険者協会に研究用、あるいは素材として買い取ってもらうために持ち込んだのさ」
【ト書き】
人だかりの後ろ。
ミナトが銀色に輝くゴーレムを見上げている。
美しい彫刻のような金属の体。
だが。
その瞳に光はない。
ただの冷たい彫像。
ミナト(内心)
(ミスリルゴーレム……)
(綺麗な金属だ)
(だけど、なんでだろうな)
(見てると妙に背筋が寒くなる……)
【ト書き】
ミナトは首を振る。
そして。
人だかりを離れ、
薄暗い教練棟の裏へ向かって歩き出した。
────────────────────────
【Scene 2:夕方・教練棟裏(ミナトの特訓)】
────────────────────────
【ト書き】
夕方。
赤黒い夕日が谷の端を染めている。
教練棟の裏手。
人気のない古い演習場。
ミナトは汗だくになりながら杖を構えていた。
ループ世界で味わった、
法則の分からない恐怖。
そして。
自分の才に対する焦り。
それらが彼を突き動かしていた。
ミナト
「くっそ……!」
「二つ、三つの統合なら安定して効果を出せるのに……!」
【ト書き】
杖の先から魔力が放たれる。
ミナト
「水、風統合――『氷』!」
【ト書き】
一瞬にして地面へ鋭い氷柱が咲く。
ミナト
「闇、光統合――『無音無光の空間凪』!」
【ト書き】
周囲数メートルから光と音が消える。
完全な静寂。
ミナト
「水、土、風統合――『土石流』!」
【ト書き】
地面の土砂が鉄のような岩盤へと変質する。
だが。
ミナトの表情は晴れない。
ミナト
「ダメだ……」
「四属性、五属性になるとモヤみたいになって霧散する」
「そして――」
【ト書き】
ミナトが全魔力を引き出す。
地。
水。
火。
風。
光。
闇。
六つの属性が体内で収束する。
ミナト
「六属性統合……!」
【ト書き】
その瞬間。
杖の先から、
言葉にできないほど純粋な光が溢れ出した。
だが。
指向性はない。
ただ。
何処までも沈み込む様な引力を持った光が周囲を照らすだけ。
ミナト
「くそっ」
「やっぱり光るだけだ……!」
「しかも一度発動させたら自発的に消せない……!」
【ト書き】
魔力切れ。
ミナトはその場へ膝をつく。
汗が砂地へ落ちる。
消えない光はミナトの心を抉る。
ミナト(内心)
(発動系は弱い)
(構築系だってすごいわけじゃない)
(解析がいくらできても)
(これじゃ口だけになる……)
【ト書き】
砂を握り締める。
ミナト
「終結系は壊すことはできても……」
「このままじゃダメだ」
「外の世界を見に行けない」
「行っても、すぐに何もできなくなる」
【ト書き】
脳裏を過る。
自分を置いて先へ進んでしまうかもしれない周囲の背中。
そして。
あの音のない世界。
ミナト
「何か……」
「俺にしかできなくて」
「役に立つ何かを……」
────────────────────────
【Scene 3:夕方・教練棟裏(リーンとの約束)】
────────────────────────
【ト書き】
「主様、お疲れ様です」
不意に降ってきた柔らかな声。
見上げる。
木陰。
リーンが冷たい水の入った水筒を差し出していた。
いつからそこにいたのか。
一人で泥だらけになりながら特訓するミナトを。
いつも見ているのはリーンだけだった。
ミナト
「……リーン」
「いつからいたんだ」
リーン
「『水、風統合』のあたりです」
「ミナト」
「まずはこれ飲んでください」
「息が上がっています」
【ト書き】
ミナトは水筒を受け取る。
冷たい水を一気に喉へ流し込む。
リーン
「無理をするのがミナトですね」
「ですが、これ以上体に負担をかけさせると」
「リーンは張り切ってお世話しますよ?」
ミナト
「……ごめん」
「無理をしないと追いつけないんだ」
【ト書き】
ぽつり。
ミナトが漏らす。
いまだに光り続ける六属性統合魔法を維持している
手元の杖を睨み付けるように見つめる。
ミナト
「俺には才能がない」
「何か一つに特化した奴らには普通にやってたら絶対に勝てない」
「俺にしかできない何かを見つけないと……」
「外の厳しい世界に出た時」
「俺はただの足手まといになる」
【ト書き】
静かな沈黙。
リーンは隣へしゃがみ込む。
泥だらけのミナトの手を見る。
その手には。
新しいマメと傷がいくつもあった。
リーン
「ミナトは足手まといなんかじゃないよ」
ミナト
「リーン……」
リーン
「ミナトの魔法はいつも私を驚かせるよ」
「この魔法も綺麗で、大きな力を感じます」
「今はまだ少し言うことを聞いてくれないだけ」
「絶対にいつか」
「ミナトはあの時みたいに」
「リーンやお父様を助ける力を手にするよ」
「私が保証する!」
【ト書き】
角が光る。
リーンは心から信じ切った笑顔を向ける。
ミナト
「……リーンの保証か」
「なら」
「やっぱり頑張らないとな」
リーン
「はい」
「リーンは見ておりますから」
【ト書き】
ミナトの肩から少しだけ力が抜ける。
ミナト
「……ああ」
「じゃあ、もう一回だけ付き合ってもらう」
【ト書き】
ミナトが再び立ち上がる。
杖を構え、解除魔法を使い、六属性統合魔法を消す。
そして、再び意識を集中し、これまでより強く大きい魔力を練りこみだす。
リーンは誇らしそうに、
そして一瞬たりとも見逃さないように見つめていた。
────────────────────────
【Scene 4:同時刻・遺物保管庫(連動する亀の甲羅)】
────────────────────────
【ト書き】
薄暗い遺物保管庫。
棚の隅。
埃をかぶった「カメの甲羅」の魔道具。
普段は、ただの感度の低い試験紙のようにみなされていたおもちゃ。
だが。
教練棟の裏で。
ミナトが深く、深く魔力を練り上げる。
リーンの視線を受けながら。
迷いを捨てた一撃。
ミナト
「――はあぁぁぁっ!!」
【ト書き】
本日一番の。
純粋で眩い『六属性統合』の光が、夕闇の演習場を満たす。
【ト書き】
その瞬間。
保管庫の「カメの甲羅」が。
ドクン、と心臓のように怪しく脈打った。
表面に。
二万年前の超古代の青白い文字が、くっきりと浮かび上がる。
【ト書き】
ミナトが諦めずに。
何度も何度も六属性の光を放つ。
リーンが。
「すごい、綺麗……!」
と声を上げる。
【ト書き】
その「成功」が重なるたびに。
保管庫のカメの甲羅の文字が、明滅を繰り返す。
チカ。
チカ。
チカ。
その光の間隔がどんどん狭まっていく。
【ト書き】
そして。
ミナトが、この日最後の魔力を振り絞り。
今日一番の美しい光を放った瞬間。
【ト書き】
甲羅に浮かんだ古代文字が。
明滅から。
完全な『点灯』へと変わる。
──パキ。
──パキンッ!!!
【ト書き】
限界を迎えた二万年前の古い甲羅が。
大きな魔力の負荷に耐えかねて。
粉々に砕け散った。
【ト書き】
それと同時に。
目に見えない強大な魔力の波動が。
カナリアとジンの目の前を過ぎ、
真っ直ぐに「あの場所」へと走る。
────────────────────────
【Scene 5:夕方・遺物保管庫(カメの甲羅の調査)】
────────────────────────
【ト書き】
少し時間が戻った薄暗い遺物保管庫。
ジンとカナリアが。
机の上に置かれた「カメの甲羅」の魔道具を囲んで調べている。
カナリア
「よっと、ほい。――三属性統合」
【ト書き】
カナリアが指先から三つの属性を統合した魔法を放つ。
甲羅がぼんやりと。
感度の低い試験紙のようにほんのりと光る。
カナリア
「うん。やっぱり近くで統合魔法を使うと光るね」
「でも、それだけ」
「ただの魔力チェッカーにしては感度が悪すぎるし……」
【ト書き】
その時。
教練棟の裏で。
ミナトが今日一番の、純粋で眩い『六属性統合』の光を放つ。
【ト書き】
ドクン……!!!
【ト書き】
突然。
カメの甲羅が激しく脈動する。
保管庫全体が昼間のように真っ白に染まるほどの強烈な光を放ち始めた。
カナリア
「うわーーー!目があああー!目があああ!!」
ジン
「うるせぇ。どっかで聞いたセリフ吐いてないで、調べろ」
カナリア
「はーい……。うう、眩しい……」
「あ、これ、起動?」
「文字が浮き出て……」
「へー」
「発見、通知、リュミエール、保護、だって」
「アハハ」
「これも師匠の置き土産じゃん」
「何が起きるんだろ……」
「とりあえず、壊して封じとく?」
ジン
「その必要……ねぇだろ。割れたぞ」
【ト書き】
パキンッ!!!
【ト書き】
乾いた音を立てて。
二万年の歳月に耐えてきたカメの甲羅が。
負荷に耐えかねて粉々に砕け散った。
カナリア
「ほんとだ」
「真名が書いてあったから、多分、凄く古い奴だよこれ」
「師匠に聞いても、覚えてなくて出てこない系だ」
【ト書き】
砕け散った甲羅の破片から。
目に見えない強大な魔力の波動が。
一気に「外」へと突き抜けていく。
【ト書き】
ジンは眉をひそめる。
割れた甲羅。
そして。
波動の抜けていった方向。
ジン
「いや、待て……」
「今、何かが外に逃げなかったか?」
────────────────────────
【Scene 6:夕方・広場(ミスリルゴーレム起動)】
────────────────────────
【ト書き】
夕暮れの広場。
荷馬車の上。
商人が、
「ただの置物さ」
と笑っていたミスリルでできたゴーレム。
【ト書き】
その瞳に。
突如として。
冷酷で。
恐ろしく深い蒼い光が宿った。
商人の男
「……あれ?」
「おい、今、この置物、光らなかっ――」
【ト書き】
ズウウウウン……!!!
【ト書き】
重低音。
置物だったはずの。
数トンの神銀の塊が。
不気味な関節駆動音を立てて。
ゆっくりと片足を踏み出した。
【ト書き】
荷馬車が。
重さに耐えかねて。
爆発するように大破する。
生徒たち
「うわあああ!?」
「動いた!?」
「下がれ!」
「暴走だ!!」
【ト書き】
悲鳴を上げて逃げ惑う生徒や商人たち。
だが。
神銀の魔神は彼らを一顧だにしない。
【ト書き】
ゴーレムの頭部が。
ギギギ、と回転する。
【ト書き】
感知した。
『六属性適合者』の魔力の座標。
【ト書き】
教練棟の裏手。
【ト書き】
ゴーレムの全身から。
眩い魔力光が噴き出す。
ターゲット確保。
それのみをインプットされた。
二万年前の神銀の魔神が。
砂埃を巻き上げ。
ミナトのいる教練棟の裏へとまっすぐに突進を開始した――。
────────────────────────
【Scene 7:夕方・育成校 中庭から訓練場への通路】
────────────────────────
【ト書き】
夕暮れの校内。
中庭から訓練場へ続く石畳の通路を、銀色に輝く巨大な影が地響きを立てて進んでいく。
神銀の魔神。
その巨体は夕日を浴びて神々しくさえある。
だが。
全身には「落書き」のような文字がびっしりと刻まれていた。
【ト書き】
知らせを受けて駆けつけたジンとカナリアが、校舎の物陰からその姿を確認する。
カナリア
「うわ、出た! 本当に動いてる!」
ジン
「……おい、カナリア」
「あのゴーレムの全身に彫られている文字、読めるか?」
「停止コードか、弱点になるような術式が刻まれているかもしれん」
【ト書き】
カナリアが目を細める。
ゴーレムの額。
そこに刻まれた、歪で禍々しいほど古い文字。
【ト書き】
『■■■は■□』
【ト書き】
カナリア
「うわ、額のやつ凄い古い言葉だ……!」
「見たことあるけど全然読めない!」
「骨董品クラスだよこれ!」
【ト書き】
続いて背中を見る。
【ト書き】
『保管』
『しばらく不要』
【ト書き】
カナリア
「あ、背中の言葉は読める」
「えーっと、おじいちゃんやおばあちゃんが使ってた古い森の人の言葉だね」
「……なになに?」
「『保管する』」
「『しばらく不要』」
「だって」
「どういう意味よ!?」
「現役バリバリで動いてるじゃん!」
ジン
「……それ以外は?」
カナリア
「胸はねぇ……」
【ト書き】
『○○ない』
『確保』
『〇の力』
【ト書き】
カナリア
「あー、これも古い言葉だなぁ」
「……『確保』しかよくわからない」
ジン
「文字から魔力の流れは?」
カナリア
「あ、魔力を帯びてるのは胸の言葉だけだね」
「ってことは、額と背中のやつはただの落書きだよこれ!」
ジン
「落書きだと……?」
カナリア
「うん」
「でも、こんなの作れるのあの人しかいないから」
「状況証拠的に百パーセント師匠のせいです」
ジン
「……あのクソ長寿め」
「何を残していきやがる」
【ト書き】
額を押さえる。
ジン
「壊していい」
「なんとか止められないか?」
カナリア
「やってみるけど、これ全身ミスリルだよ?」
「めちゃくちゃ保険があった方がいい」
「……ねえ、聖級以上の魔法使い、今から呼んでおいて?」
ジン
「無茶言うな」
「そんなホイホイ来るかよ……」
【ト書き】
ジンが深いため息を吐く。
その瞬間。
神銀の魔神が訓練場の方を向きゆっくりと手を伸ばしながら動き出す。
【ト書き】
その視線の先。
まだ何も知らないミナトとリーンがいた。
────────────────────────
【Scene 8:夕方・訓練場手前の中庭(聖級魔法の激突)】
────────────────────────
【ト書き】
夕闇を切り裂く凄まじい魔力の波動。
ジンの前に、数十万個以上に及ぶ一辺十センチほどの漆黒の立方体が展開する。
それは学園全体を覆い、下から見上げると、自転する銀河を間近で見るようだった。
【ト書き】
ジンが杖を振り下ろす。
立方体の群れが暴風雨のような大質量となってゴーレムへ降り注いだ。
【ト書き】
ギギギギギギギギィィィッ!!!
【ト書き】
金属が削り合う高音。
中庭の大地がめくれ上がる。
衝撃波で教練棟の防壁が揺れ、防壁の揺れに防壁を支えている
魔術刻印を中心に壁にひびが走る。
校舎の防壁が最大出力で赤く明滅した。
【ト書き】
しかし。
その聖級魔法の直撃を受けても。
ミスリルゴーレムは少し強い風に押されている程度にしか見えない。
一歩。
また一歩。
強引に前へ進んでくる。
カナリア
「さすがは聖級」
「えぐい出力!」
「――だけど、これでも止まらないか!」
【ト書き】
カナリアが杖を構える。
魔力を編み上げる。
ゴーレム全身の魔力結節点へ向けて、精密な干渉魔法を放つ。
カナリア
「一、二、三……ッ!」
【ト書き】
流れるような干渉魔法。
だが。
術式が神銀装甲へ触れた瞬間。
すべて無害に霧散する。
カナリア
「まったく、硬すぎるなぁ」
「こういうところだけは、本当に師匠の仕事って凄いと思うわ」
ジン
「感心してる場合か!?」
「俺の最大級だぞ!」
「なんか少しゆっくりになった程度じゃねぇか!」
【ト書き】
ジンの繰り出す魔法が黒雲の様に学園の上空を覆い
瀑布の様に流れて光る巨人を押しとどめようとしている。
────────────────────────
【Scene 9:夕方・訓練場(ミナトの確信)】
────────────────────────
【ト書き】
爆音と地鳴り。
異常な魔力波動に引かれ。
ミナトとリーンは訓練場から教練棟へ駆け出していた。
【ト書き】
そこで目にしたのは。
中庭を埋め尽くす黒い立方体の濁流。
そして。
それに押さえつけられながらも前進する銀色の魔神だった。
ミナト
「動いてる……?」
「でも敵性なのか?」
「ジン教官が本気で攻撃してる……」
【ト書き】
ミナトたちを見つけたカナリアが怒鳴る。
カナリア
「学生はすぐ退避しなさい!!」
「危ないから!!」
「危険度六以上よ!!」
「超級位階もしくは教官以外は今すぐ退避ーー!!」
【ト書き】
危険度六。
その言葉に周囲の学生たちが血の気を失う。
一斉に逃走を始めた。
【ト書き】
その流れの中。
ミナトだけが立ち尽くしている。
リーン
「ミナト!」
「早く逃げましょう……!」
【ト書き】
リーンがミナトの泥だらけの手を強く握る。
引っ張る。
だが。
ミナトの足は動かない。
【ト書き】
その視線は。
四方八方から圧迫される神銀の魔神へ向けられていた。
正確には。
胸に刻まれた文字。
そこから流れる魔力へ。
ミナト(内心)
(危険度六……)
(勝てない)
(あんな化け物、今の俺じゃ絶対に倒せない)
(なのに……)
(なんで逃げる気にならないんだ?)
【ト書き】
ドクン。
ミナトの胸が鳴る。
六属性統合の残滓がまだ体内に残っていた。
【ト書き】
ゴーレムの胸。
『壊れない』
『確保』
『理の力』
その魔力術式。
その法則が。
今のミナトには驚くほど透き通って見えていた。
ミナト(内心)
(……なぜかわからない)
(だけど)
(――行ける、気がする)
【ト書き】
握られたリーンの手を。
ミナトが静かに握り返す。
【ト書き】
その瞳から。
恐怖は消えていた。
────────────────────────
【Scene 10:夕方・中庭(極限の作戦会議)】
────────────────────────
【ト書き】
立方体の黒い濁流に抗いながら。
銀色の魔神がじりじりと前進する。
【ト書き】
逃げ惑う生徒たちの怒号。
その向こうから。
ミナトがジンの防護陣近くまで走り込んできた。
ミナト
「カナリアさん!」
「『壊れない』『確保』『理の力』って何ですか!?」
「胸に、そう書いてある!」
カナリア
「――は?」
【ト書き】
驚きで目を見開く。
カナリア
「嘘」
「読めるの!?」
「でも『壊れない』ですって……」
【ト書き】
一瞬考え込み。
そして。
何かを閃いたように笑う。
カナリア
「アハハ!」
「そうか!」
ジン
「どうした!?」
カナリア
「ジン!」
「動き止められる?」
「手があるかも!」
ジン
「どういうことだ!?」
カナリア
「『壊れない』っていう古い森の人語はね」
「ほんの少し調整すると別の言葉になるの」
「私が知ってるのは――」
「『囲われない』」
ジン
「なんだそれは」
カナリア
「術式を書き換えるの!」
「そうすると壊せるようになる!」
ジン
「本当か!?」
カナリア
「うん!」
「ただし!」
「魔術的にも完全に止められなくなると思う!」
ジン
「なんだそれは!!」
カナリア
「でも壊せる!」
「足を壊せば結局動けない!」
ジン
「だが俺が抑えても」
「誰が文字を書き換える?」
「お前か?」
カナリア
「私がやる!」
ジン
「……無理だ」
【ト書き】
ジンの額に汗が流れる。
ジン
「今も見ろ」
「ゆっくりだが進んでる」
「足止めだから成立してる」
「完全停止なんて無理だ」
【ト書き】
重い沈黙。
だが。
ミナトの目は死んでいなかった。
ミナト
「カナリアさん!」
「『理の力』ってもしかして六属性統合魔法ですか!?」
カナリア
「ん?」
「そうだけど?」
「なんで?」
ミナト
「俺、使えます!」
「使うとどうなりますか!?」
【ト書き】
カナリアの視線がゴーレムの胸へ向く。
刻まれた文字。
壊れない。
確保。
理の力。
【ト書き】
数秒。
考える。
カナリア
「……あー」
「多分」
「拉致されるね」
ミナト
「じゃあ俺に向かってきますよね?」
カナリア
「そうだね」
ミナト
「それなら隙ができる」
【ト書き】
カナリアが不敵に笑う。
カナリア
「……なるほど」
「いいわね」
「やる?」
ジン
「おい!!」
「本当に大丈夫なのか!?」
ミナト
「行ける気がします!」
カナリア
「ああ言ってるし」
「多分いける!」
ジン
「多分!?」
【ト書き】
ミナトが前へ出る。
後方。
リーンが息を呑む。
【ト書き】
ミナトは静かに呼吸を整えた。
両手で杖を強く握る。
体内の全属性魔力が一つへ収束していく。
ミナト
「――六属性統合!!」
【ト書き】
世界を塗り潰すほどの。
純粋で圧倒的な光が解き放たれた。
────────────────────────
【Scene 11:夕方・中庭(理の光と神銀の魔神)】
────────────────────────
【ト書き】
ミナトの手から光が溢れる。
【ト書き】
不思議な光だった。
明るい。
だが眩しくない。
鮮やかだが派手ではない。
【ト書き】
ただ。
世界を揺るがすことなく。
真っ直ぐに。
深く。
輝いている。
【ト書き】
その光に照らされた瞬間。
神銀の魔神の動きが変わった。
【ト書き】
ジンの立方体の拘束を無視し。
ゆっくりと。
正確に。
ミナトの方へ向かい始める。
ミナト
「よし」
「こい」
「こっちだ!」
【ト書き】
ミナトは光を維持したまま後退する。
ゴーレムを中庭中央へ誘導する。
【ト書き】
そして。
目の前まで来たところで。
ゴーレムはぴたりと停止した。
【ト書き】
蒼い瞳が点滅し、口部位から光がミナトに向かって照らされ始める。
カナリア
「さって」
「行くか」
「ジン、階段作れる?」
ジン
「そこ使え」
【ト書き】
空中に。
黒い立方体の階段が構築される。
ゴーレムの胸部まで一直線。
カナリア
「ありがと!」
【ト書き】
軽やかに駆け上がる。
【ト書き/ミナト内心】
(なんで止まってる?)
(まぶしい、視線を胴体に移す、全体をとらえる)
(だが、あっちは俺を見てる?)
(違う)
(この光を見てるのか……?)
【ト書き】
カナリアが胸部へ到達する。
素早く術式へ干渉を始めた。
【ト書き】
ゴーレムは動かず、光をミナトに当てながら
目を点滅させている。
だが、ミナトの緊張は増していく。
汗が顎を伝う。
【ト書き/ミナト内心】
(動くな)
(頼むから今動くな)
(カナリアさんを潰すなよ……)
(まぶしい、くそ、ゴーレムの全体がとらえられない)
【ト書き】
その時、視界の端に映るゴーレムの
蒼い瞳の点滅に違和感を覚えた。
【ト書き/ミナト内心】
(三回?)
(チカチカチカ)
(チカチカチカ)
(規則的だ)
(なんだこれ――)
【ト書き】
突然。
神銀の魔神全身が橙色に発光した。
カナリア
「そこの子!!」
「離れて!!」
【ト書き】
叫びながら飛び降りる。
カナリア
「ジン!!」
「壊せるはず!!」
「ついでに足の要も削っとく!!」
【ト書き】
空中から放たれた術式が。
ゴーレム膝部へ命中する。
青い火花。
神銀装甲の一部が脆化していく。
────────────────────────
【Scene 12:夕方・中庭(砕けぬ胸部コア)】
────────────────────────
【ト書き】
ミナトが反射的に後退し、
リーンの手を取りゴーレムから離れるように走り出す。
【ト書き】
同時に。
ジンの魔力が爆発した。
中庭を埋め尽くしていた数万の立方体。
それらが一瞬で変形する。
巨大な漆黒の円錐。
ジン
「――貫けぇぇっ!!」
【ト書き】
上空から。
凄まじい質量を持つ巨大円錐が落下する。
轟音。
衝撃。
粉砕。
神銀の魔神の頭部が吹き飛んだ。
銀色の破片が中庭へ飛び散る。
ズウウウウン――
頭を失った巨体が地響きを立てて倒れる。
砂煙。
静寂。
【ト書き】
ミナトは息を吐いた。
ミナトは、握ったままの手に気づき
離して、リーンを見る。
ミナト
「終わった……?」
【ト書き】
リーンは、目を見開いてミナトを見ている。
無事であることを確認した。
その瞬間。
ミナトの瞳に虹色の光が灯る。
ミナトは振り向き神銀の魔神を見る。解析。
【ト書き】
ゴーレムの奥。
胸部。
そこに渦巻く巨大な魔力。
【ト書き】
ミナト
「いや――違う!」
「まだ魔力が残ってる!!」
リーン
「え……?」
ミナト
「動く!!」
【ト書き】
叫ぶ。
【ト書き】
ほぼ同時に。
ジンが追撃を放った。
【ト書き】
再び巨大円錐。
今度は胸部へ。
【ト書き】
ガギィィィィィンッ!!!!
【ト書き】
中庭全体を震わせる衝撃音。
【ト書き】
だが。
割れない。
【ト書き】
神銀の胸部装甲が歪む。
曲がる。
砕けない。
【ト書き】
ジンの攻撃を受け止めたまま。
魔神は動き続ける。
【ト書き】
ギギ。
ギギギ。
【ト書き】
頭を失い。
胸を潰され。
それでも。
銀色の魔神は砂を掴む。
【ト書き】
そして。
ゆっくりと。
再び立ち上がり始めた――。
────────────────────────
【Scene 13:夕方・中庭から演習場(神銀の猛追)】
────────────────────────
【ト書き】
頭部を失ったまま立ち上がったミスリルゴーレムが。
腕を広げ狂ったようにミナトを目がけて駆け出す。
【ト書き】
速い。
【ト書き】
五メートルに及ぶ巨体からは想像もつかない。
質量と速度を伴った突進。
ミナト
「くそっ!」
「こっちだ!!」
【ト書き】
ミナトは中庭の遮蔽物を縫うように走る。
進路は広い演習場。
【ト書き】
その後ろをリーンが追う。
さらに後方。
カナリアとジンも全力で走る。
【ト書き】
走りながら。
ミナトの虹色の瞳がゴーレム内部を凝視する。
ミナト(内心)
(あれは魔力を動力にしている)
(尽きたら止まる)
(……いや)
(減ってる?)
【ト書き】
魔力の渦。
確かに弱まっている。
【ト書き】
そして。
ミナトは気付く。
ミナト(内心)
(頭部と胸部が修復されてる……)
(そうか)
(再生に魔力を使ってる)
(削れる)
(削れるぞ!)
ミナト
「弱っています!」
「削れます!」
「――俺もやれるッ!!」
【ト書き】
ミナトは走りながら解析を続ける。
ミナト(内心)
(装甲を守る防壁はいくつだ?)
(六つ……!)
(いくつか消せる!)
リーン
「ミナト――っ!!」
リーン内心
(掴まれる、ミナトは見えてない、ダメ、潰される
そらさないと、ミナト、ごめん)
【ト書き】
リーンの叫び。
同時に。
ミナトの身体へ衝撃が走る。
【ト書き】
リーンが放った水の弾丸。
それがミナトの身体を真横へ吹き飛ばした。
【ト書き】
直後。
ミナトがいた場所を。
ゴーレムの巨大な腕が抱きかかえるように空を切る。
【ト書き】
轟音。
風圧。
土煙。
【ト書き】
地面を転がるミナト。
だが。
起き上がると同時に杖を突き出した。
ミナト
「――終結系解除!!」
【ト書き】
バキバキバキバキッ!!!
【ト書き】
空気が引き裂かれる。
悲鳴のような音が響く。
【ト書き】
ミスリルゴーレム表面を覆っていた不可視の防壁が。
一枚。
また一枚。
砕け散っていく。
【ト書き】
後方から追っていたジンが目を見開く。
ジン(内心)
(やるな――!)
(今行くぞ!)
────────────────────────
【Scene 14:夕方・演習場(決着)】
────────────────────────
【ト書き】
ジンの指先から構造体が展開される。
【ト書き】
先ほどまでとは比較にならない。
より長く。
より太く。
より鋭く。
研ぎ澄まされた一本。
【ト書き】
漆黒の巨大な円錐。
【ト書き】
ド、パンッ!!!
【ト書き】
音を置き去りにした超音速の巨杭が。
夕闇を切り裂いて飛ぶ。
【ト書き】
防壁を剥がされ。
完全に無防備となったミスリルゴーレムは、
膝をつき何もない両手を見た後、ミナトの方を振り向く。
そして、その目が青く2回点滅────────
その脳天へ。
巨大な黒杭が真上から叩き込まれる。
【ト書き】
一瞬の静寂。
【ト書き】
次の瞬間。
凄まじい爆音と爆風が演習場を吹き飛ばした。
ミナト
「うわあああっ!?」
リーン
「ミナト――っ!!」
リーン内心
(あの男、正気?あんな大魔力をミナトの側で?
あああ!ミナトが落ちる、ダメ、私がミナトを守る)
【ト書き】
リーンの叫びが響く。
ミナトの身体が宙へ舞う。
地面に向かって落ちていく。
――地面とミナトの間に水が噴水の様に湧き出す。
【ト書き】
ぽちゃん。
柔らかな音。
ミナトの身体は。
中空へ展開された巨大な水玉の中へ沈み込んだ。
【ト書き】
衝撃を完全に吸収する。
水玉は静かに弾ける。
ミナトは砂地へ着地した。
リーン
「ミナト!」
「ミナト、大丈夫ですか!?」
【ト書き】
リーンが駆け寄り。
水のせいで泥だらけになっているが全く気にもせず、
ミナトを抱き起こし、再び水玉で包み込む。
【ト書き】
ミナトはリーンの水玉の中で咳き込みながら。
正面を見る。
演習場の中央。
【ト書き】
ミスリルゴーレムは。
肩から足元まで。
一本の巨大な黒杭によって大地ごと串刺しにされていた。
完全に縫い止められた銀の魔神。
【ト書き】
ミスリルゴーレムは、バキバキと体を崩しながら
ミナトの方に向き、しばらくの間。
未練がましく虚空へ手を伸ばす。
指が不気味に動く。
【ト書き】
だが。
やがて。
その指先から力が抜けた。
【ト書き】
蒼い瞳の光が消える。
砂煙が静かに落ち着いていく。
今度こそ。
神銀の魔神は完全に沈黙した。
ミナト
「はぁ……」
「はぁ……」
「終わった……のか……」
リーン
「ミナト、ミナト、もう大丈夫?」
【ト書き】
水玉がはじけ、びしょ濡れになったミナト。
しがみつき、震えているリーン。
水玉のせいで濡れた顔をくしゃくしゃにしながら
ミナトの顔を手でぺたぺたと触りながら、確かめていた。
リーン
「うん、うん、よかった、よかったぁ」
【ト書き】
遠くから。
カナリアとジンが肩で息をしながら歩いてくる。
────────────────────────
【Scene 15:夕方・演習場(激闘の余韻)】
────────────────────────
【ト書き】
静まり返った演習場。
【ト書き】
泥だらけのミナトが。
リーンの肩を借りながら立ち上がる。
【ト書き】
そこへ。
息を整えたカナリアとジンが歩いてくる。
【ト書き】
カナリアは。
巨大な黒杭で地面ごと串刺しになったゴーレムを見上げた。
カナリア
「いやー」
「ジンの本気、久しぶりに見たわ」
「怖ぁ」
ジン
「カナリア」
【ト書き】
深いため息。
ジン
「悪いが……」
「損害と復旧手続きを始めてくれ」
カナリア
「はーい」
「まあ神銀の素材はいっぱいあるし」
「売れば何とかなるでしょ?」
ジン
「……買い取ったばっかりなんだよ」
「損失計上確定だ」
カナリア
「……後で師匠に文句言っときます!!」
【ト書き】
冷や汗を流しながら敬礼。
そして逃げるように走っていく。
【ト書き】
残されたジンは。
鋭い視線をミナトへ向けた。
ジン
「ミナト」
「途中で何をした?」
「いや――」
「何枚破った?」
ミナト
「えっと……」
「多分、三枚です」
ジン
「そうか」
「四枚目も揺らいでいたな」
【ト書き】
ジンは小さく頷く。
ジン
「統合魔法の教官からも言われていたと思うが」
「六属性統合魔法は当分禁止だ」
ミナト
「っ……」
ジン
「ただし」
「めったにできる事じゃない」
「相応の鍛錬ができる場はこっちで用意する」
「それまでは我慢しろ」
ミナト
「……はい」
「分かりました」
ミナト(内心)
(ばれてる……)
(外でやるなって言われてたのに)
(完全にばれてる……!)
【ト書き】
ジンは視線を移す。
リーンを見る。
ジン
「ミナト」
「それからそっちの青髪の子」
「怪我はないか?」
「あるなら今すぐカナリアに治してもらえ」
【ト書き】
リーン、一歩前へ出る。
美しく礼をする。
リーン
「お気遣いありがとうございます」
「ですが」
「主様の治療でしたら」
「私の方で十分でございます」
【ト書き】
リーンの瞳。
そこには譲らない意志があった。
【ト書き】
ジンはふっと笑う。
ジン
「そうか」
「じゃあ気を付けて帰れ」
「――明日も休まず来い」
ミナト
「はい!」
「ありがとうございました!」
【ト書き】
ミナトとリーンは深く礼をする。
【ト書き】
夕闇の演習場。
支え合いながら去っていく二人。
【ト書き】
その背中を。
ジンは静かに見送っていた。
────────────────────────
【Scene 16:夜・教練棟 執務室(大人の事後処理)】
────────────────────────
【ト書き】
夜。
教練棟の執務室。
机の上には書類の山。
魔導計算機が淡く光っている。
【ト書き】
カナリアは机に突っ伏しかけながら唸っていた。
ジンは部屋の隅で上着を脱ぎ、椅子に背を預けている。
カナリア
「うーわー……」
「どう計算しても三万ラナ(三千万円相当)はマイナスだ……」
「どうするのかしら」
「師匠に言って出してもらう?」
「んー」
「でも絶対ろくでもないことになる……」
ジン
「いくらだ?」
カナリア
「三万ラナ」
「ミスリルゴーレムの購入費が思ったより安かったのと」
「残った神銀素材の売却益を見込んでも」
「どうしても三万ラナほど足りない」
ジン
「神銀はすぐには売れん」
【ト書き】
机に肘を置く。
ジン
「損失ではなく減価償却にしろ」
「その期間に合わせて神銀を少しずつ売る」
「単年度の損失を軽減しておくんだ」
カナリア
「え、それいいの?」
「小林さんに知られたら怒られない?」
ジン
「……大丈夫だ」
「問題ない」
カナリア
「そ」
「じゃあそういう感じで経理に回しとくねー」
【ト書き】
数枚の書類をめくる。
カナリア
「あ、ところで」
「あの子の入学時の記録、調べたよ」
「……候補だったのね」
ジン
「ああ」
「そうだ」
【ト書き】
少しだけ口元を緩める。
ジン
「そして」
「当たりだった」
【ト書き】
カナリアが窓の外を見る。
夜空。
遠くの訓練場。
カナリア
「楽しみねー」
「世界は師匠が残した可愛いおもちゃばっかりじゃないから」
「きっとあの子の力が必要になるわ」
ジン
「ああ」
【ト書き】
少し間を置く。
ジン
「……ところで」
「あの砕けたカメの甲羅だが」
「結局なんだったんだ?」
カナリア
「わかんない」
「でも」
「ミスリルゴーレムの起動装置だったと思うと、なんとなくしっくりくる」
「全部じゃないけどね」
「それだけじゃないでしょって感じもする」
ジン
「探査と起動か……」
【ト書き】
小さく息を吐く。
ジン
「リュミは何をしたかったんだろうな」
【ト書き】
沈黙。
カナリアが苦笑する。
カナリア
「天災リュミだからね」
「師匠は……あ、もしかして」
「いや、もしかしなくても……」
「ミナトを保護したかったんじゃないかな」
ジン
「あ、あれか、森の伝承か?」
「理の力を探す始祖ってやつ」
カナリア
「そのころの師匠が仕込んだ、六属性統合魔法使いの保護プログラム……」
ジン
「……裏とれるか」
カナリア
「近々会うんで、聞くだけ聞いてみます!」
「今回は私も迷惑被ったので!きついの一発言っときます!」
【ト書き】
カナリアの口調はしっかりしていた。
ジンは、ほう?と思いカナリアの目を見ると、
見事に目が泳いでいた。
ジンはため息をついて「天災……か」とつぶやき、
俺が生きているうちに確認できたら儲けものと気づき
ひときわ深いため息をついた。
────────────────────────
【Scene 17:夜・教練棟 執務室(超級浴場)】
────────────────────────
【ト書き】
ひとまず書類をまとめ終えたカナリアが、大きく背伸びをする。
長い金髪が肩から流れ落ちた。
【ト書き】
ジンは時計を見る。
そして椅子から立ち上がる。
ジン
「カナリア」
「今日はお疲れだったな」
「ここの超級浴場設備を使っていいぞ」
「疲れを癒していけ」
【ト書き】
カナリアの耳がぴくりと動く。
ジン
「……俺は帰る」
カナリア
「えっ!?」
【ト書き】
ぱっと表情が明るくなる。
カナリア
「いいの!?」
「やったぁ!!」
「ここのお風呂、本当に疲れが取れるから大好きなんだよねー」
「普段も一般開放すればいいのに」
ジン
「魔石を稼いでくれば」
「いつでも使わせてやるぞ」
カナリア
「お風呂!!」
「お借りしまーーす!!」
【ト書き】
カナリアは荷物を放り出すようにして立ち上がる。
そして。
パタパタと小走りで執務室から飛び出していった。
【ト書き】
静かになった部屋。
ジンはその背中を見送り、小さく笑う。
【ト書き】
残された書類を鞄にしまう。
夜はまだ続いていた。
────────────────────────
【Scene 18:夜・宿舎 ミナトの部屋(静かな夜と約束)】
────────────────────────
【ト書き】
夜。
宿舎。
ミナトの部屋。
【ト書き】
部屋の中央。
ミナトとリーンは大きな水玉の中に包まれていた。
部屋を淡く照らす治癒魔法。
【ト書き】
リーンはミナトを優しく抱きしめている。
柔らかな魔力の水が。
擦り傷。
打撲。
腫れ。
疲労。
それらを静かに癒していた。
【ト書き】
やがて。
最後の傷が消えていく。
【ト書き】
パチン。
【ト書き】
水玉がシャボン玉のように弾けた。
二人が床へ着地する。
【ト書き】
リーンは自分より背の高いミナトを見上げた。
リーン
「主様」
「どこか痛いところはありませんか?」
【ト書き】
ミナト
軽く肩を回す。
腕を動かす。
問題ない。
ミナト
「大丈夫だよ」
「何もなかったみたいに元気だ」
「ありがとう、リーン」
【ト書き】
リーンの角がぽうっと光る。
心から安心したような表情。
リーン
「それは、よろしゅうございました」
【ト書き】
嬉しそうに微笑み。
そして一歩下がる。
いつもの丁寧な礼。
ミナト
「特訓、バレちゃったな」
「でもジン教官もやらせてくれるらしいし」
「しばらくは二〜五属性統合で我慢かな」
リーン
「はい」
「それが良いと思います」
【ト書き】
リーンは少し首を傾げた。
リーン
「……今日はお疲れでしょう」
「この後お風呂を焚きますが」
「明日のご予定を教えてください」
ミナト
「明日は羽を伸ばすよ」
「休みだし」
「街を見て回ろうと思うんだ」
【ト書き】
少し笑う。
ミナト
「――リーン」
「ついてきてほしい」
【ト書き】
リーンの目が少しだけ細くなる。
嬉しそうだった。
だが。
すぐにいつもの落ち着いた表情へ戻る。
リーン
「承知いたしました」
「では、そのように」
【ト書き】
深く礼をする。
【ト書き】
そして。
嬉しそうな足取りで風呂の準備へ向かった。
【ト書き】
その背中を見送りながら。
ミナトはベッドへ腰掛ける。
【ト書き】
明日は休日。
街歩き。
少しだけ胸が躍る。
【ト書き】
窓の外。
静かな夜。
【ト書き】
神銀の魔神は沈黙した。
だが。
世界はまだ広い。
【ト書き】
ミナトは知らない。
今日起きた出来事が。
これから先へ続く。
さらに大きな因果の一端だったことを。
────────────────────────
【Scene 19:同時刻・(場所不明)未開の魔境(天災の予兆)】
────────────────────────
【ト書き】
夜。凍える大地、溶けることのない氷
人類の足が届かぬ未開の魔境。
3~4つの属性を纏い統合された気配でさえ可愛げに見える。
凶悪な無数の気配が蠢く極点付近。
世界を書き換えていく凶悪な気配を無遠慮に放つ巨大な原生魔物たちが群れをなして蠢く、
常人ならば一瞬で精神をすり潰され、肉体は凍てつく死の土地。
だが、そこには不釣り合いなほど軽やかな、鈴の鳴るような少女の声が響いていた。
リュミ
「あ! まだ動いていたんだ」
「そっかぁ、見つけたんだね」
「近いうちに会いに行こうかなぁ」
【ト書き】
金色の髪を流しながら、青い瞳を輝かせて、見た感じは10代後半もしくは
20歳くらいの森の女性――リュミエールが、楽しげに独りごちていた。
彼女は、数メートルはある凶悪な魔物が咆哮を上げて迫りくるのを、一瞥すらしない。
リュミが、いたずらが成功した子供のように、耳を大きく上下にパタパタと動かす。
その瞬間。
【ト書き】
バ、グンッ!!!!
術式の展開すら見えない。
迫りくる魔物をこともなげに、不可視の力が超質量を伴い、空間ごと一瞬ですり潰していた。
戦闘とすら呼べない、圧倒的な蹂躙。
直後、ミンチとなった巨躯から、きらきらと輝く大量の魔石が零れ落ちる。
リュミ
「うーん、四属性かぁ、もう少し奥に行かないと歯ごたえないなぁ」
【ト書き】
虚無の気配を纏った巨人、マヨビツオンヒガンテ、五属性が統合され虚無と霜を纏った
凶悪極まりない巨人が迫ってくる。
リュミ
「やっぱり、これくらいは出てこないとね」
【ト書き】
リュミが杖を振ると優しく輝く立体陣形が巨人を包みだす
巨人はみるみる実体を帯び霜がはがれだす。
リュミ
「うーん、硬いなぁ」
【ト書き】
腕を振り上げリュミを押しつぶそうとした巨人の腰が八の字に割れ、畳み込まれて行く。
畳みつくされた巨人は、大きな魔石を残しその姿を消した。
リュミ
「ふふん、魔石は、大収穫、大収穫♪」
【ト書き】
リュミは零れ落ちる大量の魔石を、手も触れずに宙に浮かべて満足そうに笑っていた。
彼女の視線が、遥か遠く――ミナトたちのいるベイルスレイブの方向へと向けられる。
二万年前に彼女が仕込んだ「おもちゃ(遺物)」が壊されたこと、そして何より、
自分がかつて探していた『六属性統合魔法』の使い手「適合者」の微かな兆し。
その二つを、彼女の規格外の感知能力は正確に捉えていた。
リュミ
「どんな子かなぁ? 気が合うといいんだけど。……あ、でもその前に、あっちの街の美味しいものも調べておこうかなぁ」
【ト書き】
浮かび上がらせた魔石をこれまた入るはずもない小さな巾着にすべて飲み込ませて
楽しげに振り回しながら、長い金髪を揺らしてリュミは歩き出す。
二万年の時を超えて、世界で最も危険で、最も愛らしい「天災」が興味を持ったことを世界はまだ知らない。




