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創世神話Ⅰ 赤い瞳に創造と破壊を宿す転生女神、滅びの島から紡ぐ女神たちの三国志  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第144話 灯花庵の前菜


灯花庵の三品が、いよいよ女神たちの前に並ぶ。


私たち四人が銀糸で繋がり、

多腕の料理神として動き出したあの瞬間──

すべては、この時のためだった。


そして今度は──

私たちの料理で、女神たちを驚かせる番だ。



沙良が静かに“楼蘭干し果実とザクロの宝石盛り”の一皿を差し出した。


女神たちは、花のように咲く乾燥果実と、

宝石のように散るザクロの赤い輝きに目を奪われる。


虹麗イリスが首を傾げ、目を細めて静かに言葉を発した。

「いいわね。私好みよ」


そう言って沙良へ視線を移し、にっこり微笑む。

「ねえ沙良、私の前に置いてもらえるかしら」


沙良は優しく頷き、皿を両手でそっと持ち上げた。

虹麗の横に立つと、静かにテーブルへ置きながら口を開く。


「冬の市で女神たちに供される、絹の道風の前菜──」


いったん言葉を切り、皿がテーブルに触れる小さな音が響く。

――コトッ。


「楼蘭の干し果実とザクロの宝石盛りです」


虹麗は前に置かれた一皿を静かに見つめる。

沙良は続けた。


「ふっくらと柔らかく戻した楼蘭の干し葡萄と干し杏が淡く輝き、

和田の羊乳チーズを小さな象牙色の角切りにして添えています」


虹麗がそっと沙良の瞳を見つめ、続きを促す。

その静かなやり取りはコロシアムのスクリーンに映し出され、

観客を静かに魅了していた。


「ザクロの赤い粒は宝石のようにきらめき、

黄金色の蜂蜜が細いリボンのように光をまとって流れ落ちます。

砕いたロースト胡桃が香ばしい食感を添えています」


虹麗は静かに頷き、視線を皿へ落とした。


「魔法の冬の光が皿を照らし、空気には柔らかな光粒が舞います。

温かみのある異国情緒と、儀式料理らしい優雅さを再現しました」


虹麗はスプーンとフォークを手に取り、

赤く散りばめられたザクロの粒をそっと一掬いした。


虹麗は口に運んだ瞬間、そっと瞳を細めた。


「……なるほど。干し果実の柔らかさと、ザクロの弾ける食感。

この対比が、とても心地よいわ」


赤い粒を舌の上で転がしながら、静かに続ける。


「甘さが強いわけではないのに、深い余韻があるのね。

冬の光を閉じ込めたような……そんな味がする」


調理を続けながら、琴葉を通して虹麗の反応が頭の中に流れ込む。

私たちは思わず顔を見合わせ、そっと頷き合った。

気をよくした私たちの手は、さらに神がかったように動き始める。


一方、女神の舞台では──

虹麗が一度スプーンを置き、沙良へ視線を向けた。


「丁寧に戻した果実の柔らかさ。蜂蜜の細い光。

どれも祈りを感じるわ。儀式料理として、とても美しい」


その言葉に、観客席がざわりと揺れた。


虹麗の評価が届いた瞬間、私たちは同時に口元をほころばせる。

「「「当然よ」」」

小さく、しかし確かな誇りを込めて呟いた。


その様子を見ていた郭淮の瞳に、わずかな焦りが宿る。

琴葉はその変化を見逃さなかった。


虹麗の言葉を聞き、次に美優がにっこり微笑んで琴葉に声を掛けた。

「琴葉ちゃん、お母さんに二皿目の料理を運んでくれるかしら」


琴葉の心が弾むのが、私たちにも伝わってくる。


「はい、お母さん。今持っていくね」

琴葉は母の横に寄り添うように立ち、美優の前へ皿を置いた。


「秋収穫のオリーブとフェタのギリシャサラダだよ」


美優の瞳を見つめながら、琴葉は誇らしげに説明を始める。


「これはね、冬の祭りで女神たちに供される、

ギリシャ風の冷菜前菜をイメージしたサラダなの」


「あら、どんなところが“女神に供される”のかしら?」


美優の問いに、琴葉は鼻を鳴らして答えた。


「うん、例えばね。十一月に収穫されたばかりの新物オリーブ油を使っているんだよ」


「なるほど。感謝の意味を込めて新物を供するわけね。

オリーブ油が艶やかに輝いているわ」


「でしょ。それに白いフェタチーズが小さなサイコロみたいに散りばめられてるでしょ。

お母さんたち、ギリシャの女神はチーズ大好きでしょ?」


美優は少し困ったように微笑んだ。


「うーん、そうとも言えないけれど……ここにいる女神たちは皆好きね」


美優が他の女神へ目配せすると、皆が苦笑いを浮かべる。


「こ、これは依怙贔屓というものでは……」

郭淮の従者が言いかけた瞬間、美優の鋭い視線が飛び、

従者は慌てて口をつぐんだ。


そのやり取りを見ていた愛麗アフロディテが、ため息をつきながら間に入る。


「もう、二人とも。親子で何をしているの?

そういう話は家でしてくださいな……。

誰が見ても、これでは贔屓していると思われるわよ」


観客席も無言で頷いた。


琴葉が頬を膨らませ、美優が不服そうに言い返す。


「あら、そうかしら。そんなことはないと思うけど」


「もう、親子してそっくりですね。ここからは私が引き継ぎます」


愛麗が亜衣を呼び、自分の前に皿を置かせた。


「あら、熟したトマトと胡瓜が鮮やかな彩りを添えているわね。

それに、香り高いオレガノがふわりと舞っている」


亜衣が静かに微笑み、言葉を添える。


「今年搾ったばかりの新油のオリーブオイルが、

黄金色の光をまとって全体を包み込んでいます。


清らかな地中海の色彩と、秋の実りの温かさが同居する一皿です」


愛麗はフォークを手に取り、熟したトマトをそっと刺した。

その動作だけで、観客席の空気がわずかに揺れる。


「……まあ。口に入れる前から分かるわね。

この香り、今年の新油でしょう?」


トマトを唇に運んだ瞬間、愛麗の表情がふわりとほどけた。


「ん……。これはいいわ。

トマトの瑞々しさと、胡瓜の清らかな歯ざわり。

そこに新油の柔らかな香りが重なって……」


愛麗は目を細め、舌の上で味を転がすように続けた。


「オレガノの香りがふわりと立ち上がって、

まるで地中海の風が吹き抜けたみたい。

秋の実りの温かさと、冬の祭りの厳かさが同居しているわね」


フォークを置き、愛麗は満足げに微笑んだ。


「これは……祈りというより祝福ね。

食べる者の心を明るく照らす味だわ」


その言葉に、観客席から小さなどよめきが起こった。

美優と琴葉は思わず顔を見合わせ、胸を張るように微笑んだ。


一方、郭淮は唇を噛みしめ、視線を逸らす。

愛麗の評価が、確実に会場の空気を変え始めていた。


「では、次の料理を用意してくれるかしら」


(あっ、この口調と声は……華蓮様ね)


――あら、私で不服でもあるのかしら?


(い、いえ。不服などありませんけど……公平に採点してくださいね)


――まあ。まるで私がいつも不公平みたいな言い方ね?


(華蓮様と星愛は、いつもこんな会話をしていたんですか)


曹英の心話が割って入ってきた。


――そうでしたわね。そちらの舞台の料理人は銀糸で融合していましたわ。

  言葉には気をつけなさい、星愛。


(そのセリフ、そのままお返しします)


(ちょっと、お二方。今は言い争いをしている場合ではありません。

もう、華蓮様の前に料理が運ばれていますよ)


燈灯(でんでん)が慌てて二人の間に入り、言い争いを止めた。


亜亥が華蓮の前に、湯気をまとったスープをそっと“据えた”。


――あら、この子……星愛のことを気に入っている子ね。

 星愛のどこがいいのかしら。ふふ、何も言わないでおこうかしら。


(えっ、華蓮様、いったい何を言っているのですか)


――あなたって、本当に鈍感よね……。他にも、あなたの思い人はいますわよ。

  うふふ。そこの二人、愛麗に橋渡しをお願いしてみてはいかがかしら。


頬を染めたのは曹英と、燈柚(でんよう)燈灯(でんでん)燈澄(でんちぇん)だった。

その光景を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられるような痛みが走る。


(な、なんなの……この感覚。意味わからないのだけど)


――あなたはいつまでお子様なのかしら……。

  と言うより、新たな思い人までできていましたのね。うふふ。


燈灯が、何かを隠すように声を荒げた。


(もう、何度も言わせないでください! 華蓮様の前に料理が運ばれています!)


――そうでしたわね。料理対決も大切でしたわ。


華蓮と私たちの心話に気づいていない亜亥が、

湯気をまとったスープを静かに据えた。


その仕草は、まるで祈りを捧げるように丁寧で、

私たちは思わず息をのんだ。


「バグダッドの香辛料ハリース・秋仕立てです。

小麦と羊肉の濃厚スープにシナモン、カルダモン、クローブ。

そして、秋の(なつめ)とクコの実を追加しました

秋の薬膳としての滋味と、バグダッドの異国情緒が同居した一杯。

お楽しみください」


じっくり煮込まれた小麦と羊肉がとろりと溶け合い、

深い琥珀色のスープが静かに湯気を立てている。

シナモン、カルダモン、クローブの香りが温かく立ち上り、

秋の(なつめ)とクコの実が宝石のように浮かぶ。


華蓮はスープの表面に揺れる光を見つめ、

ゆっくりとレンゲを手に取った。


亜亥はすかさず言葉を加える。


「バグダッド風の儀式的な香辛料スープを描いてみました」


華蓮は蓮華の上で湯気の立つスープを見つめ、呟くように言った。


「……ふふ。見た目は控えめだけれど、香りは誤魔化せないわね。

これは癒しの力を持つ子が作った味よ」


一口含んだ瞬間、華蓮の表情がわずかに和らぐ。


「優しいだけじゃない。芯があるわ。

飲み込んだあと、胸の奥がふっと軽くなる……。

これは、戦いに挑む者の心を整えるための一皿ね」


華蓮はレンゲを置き、意味深に微笑んだ。


「癒しとは、ただ甘やかすことではなくてよ。

必要な場所に、必要な強さで触れること。

この子はそれを分かっているわ」


観客席がざわりと揺れた。


そして華蓮は、わざとらしく星愛の方へ視線を向ける。


「……ねえ星愛。あなた、さっき胸が痛そうだったけれど、

このスープのせいかしら。それとも──」


続きを飲み込み、華蓮は楽しげに微笑んだ。


華蓮の言葉が響いた瞬間、観客席がざわりと揺れた。


「癒しの一皿……?」

「心が軽くなるって、どういう……」

「さっきの虹麗様、愛麗様の反応といい、これは本物だわ」

ざわめきは次第に熱を帯び、会場全体が期待に満ちていく。


一方、郭淮の席では従者たちが顔を見合わせていた。

郭淮自身も、わずかに眉を寄せている。


「……まずいな」

「三品とも評価が高すぎます」

「このままでは……」


郭淮は唇を噛みしめ、視線を逸らした。

その横顔には、焦りと苛立ちが混ざっている。


そんな空気が伝わってきたのか、胸の奥がまたきゅっと痛んだ。


(……なんで、こんなに苦しいの。

 華蓮様の言葉のせい? それとも……)


自分でも理由が分からないまま、胸の奥がざわつく。

スープの湯気が揺れるたび、そのざわめきが強くなる気がした。


華蓮はそんな私を横目で見て、ふっと微笑む。


――星愛。あなた、まだ気づいていないだけよ。

  でも……気づく時はすぐそこに来ているわ。


意味深な心話が落ちてきた瞬間、会場のざわめきの色が明らかに変わった。


次の料理が運ばれる気配が、空気を震わせる。


観客席が息を呑む。


許褚が堂々と、黄河の猪親子の主菜を掲げて舞台へと歩み出た。


郭淮の視線が鋭くなる。


胸のざわめきが、さらに強く脈打つ。


そして──

許褚が舞台に上がった瞬間、観客がその料理を見てどよめいた。


「いつまでも主らの天下ではないぞ。

 今度は儂らの至極の主菜を、存分に味わってもらおう」


その豪胆な所作には、計り知れない自信が宿っていた。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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