表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世神話Ⅰ 赤い瞳に創造と破壊を宿す転生女神、滅びの島から紡ぐ女神たちの三国志  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/153

第142話 前哨戦 ―献立対決―


竈に火を入れ、中台に道具を揃えている時――


(あれ、華蓮様と絵蓮様の気配が消えた)


女神たちが座る舞台に目を移すと、何か違和感がある。


(華蓮様も絵蓮様もいるわね……でも、まるで映し出された像を見ているような感じがする)


不安になり、指揮を取っている曹英と琴葉の顔を見る。

曹英は違和感に気づかないようで、料理の進行表を真剣に見つめていた。

琴葉の方は気付いたのか、私と目が合うと、頭を傾げて両掌を上に向け、

「分からないよ」と言うように首を左右に振った。


(琴葉は気付いたみたいね……)


私は心話で華蓮に声を掛けてみた。


(華蓮様……華蓮様?)


無反応。今度は神経を集中して呼びかける。


(か・れ・ん・さ・まーー!!)


――何よ、煩いわね。もう少し静かに話しかけられないのかしら


(えっ、違和感が無くなった……さっきの女神席だけ時間が止まったような感じは何だったの?)


――あら、あなた、料理対決で頭までおかしくなったかしら


(そんなことありませーん! この通りしっかり働いてまーす!)


――うふふ、しっかり働いて、おいしい料理を献上なさい。楽しみにしていますわよ


なんかごまかされた気がするけど……。


そう思っていると、絵蓮の声がコロシアムに響き渡った。


「では、そろそろ、“灯花庵の偉い人”と“黄河の猪親子”の両班から、

今日の献立を提出してもらおうと思いまーす!!」


観客の歓声が上がり、私の意識も献立へと向かった。


「曹英、献立はあったわよね」


私が言うと、曹英は真剣な表情で頷き、一枚の紙を渡してきた。

私はその献立を見て、思わず苦笑いを浮かべた。


「相変わらず図は上手なんだけど……字がね」


曹英は私の手元を覗き込み、ふふっと微笑む。


「あら、なかなか味のある字だと思うわよ。

星愛の字が優等生すぎるのよ」


琴葉がニコニコしながら身を乗り出してきた。


「ねえねえ、私の字も相当味があると思わない?」


私と曹英は目を合わせ、声を揃えた。


「琴葉の字は読めません」


「ひどーい!」


琴葉は両頬をぷくっと膨らませ、非難の目を向けてくる。


「ぷにー」


私は人差し指で琴葉の頬をゆっくり押した。

琴葉の頬はむにゅっと潰れ、ゆっくり萎んでいく。


そんな私たちを見て、曹英が慌てて声を上げた。


「今はそんなことをしている時ではありませんよ!

ほら、女神の舞台に上がった許褚が、こちらに非難の目を向けています!」


言われて舞台を見ると、腕を組み、鋭い眼光でこちらを睨む許褚がいた。


私と琴葉は目を合わせ、


「こわー……」


と小声で揃えて言い、私は慌ててペコリと頭を下げてから、

女神たちの舞台へと足を運んだ。


私が舞台に上がるのを待っていたかのように、絵蓮が声を張り上げる。


「さあ、ここに両班の班長が献立を持ち揃いました!

まずは、回る周る二位通過の“黄河の猪親子”から献立を発表してもらいまーす!」


許褚は鼻を鳴らし、筒状に丸めた大きな献立の用紙を勢いよく開いた。

バサッ――

紙が風に揺れ、墨の香りがふわりと鼻をくすぐる。


「どうじゃ、これが黄河の猪親子の献立よ」


ちらりとこちらへ視線を送り、勝ち誇った笑みを浮かべる許褚。




―――――――――――――――


曹魏・冬の市饗宴


≪≪≪≪≪◆◆◆◆◆≫≫≫≫≫


一.五彩冷盤(魏の宮廷前菜)

二.猪骨湯(薬膳)

三.紅焼仔猪(宮廷の主菜)

四.香辣炒め(黄河流域の香辛料)

五.小麦餅(黄河文明)

六.刀削麺(黄河の名物)

七.蜜棗の蒸し菓子(薬膳)


――――――◆◆◆――――――


―――――――――――――――




献立がコロシアムの幕に映し出されると、観客席から大歓声が上がった。

許褚は自信満々の表情で、今度は私を鋭く睨みつけてくる。


(何よ、この人……絶対に鼻を明かせてあげるんだから)


――あらあら、その前にあなたの鼻が明いたんじゃありませんの?


(いいえ華蓮様! 私たちの料理の方が絶対に凄いの!)


――うふふ、それは楽しみですわ……

一つ訂正させていただきますわね。

私たちではなく、澪の料理なのではなくて?


(断絶神たるもの、そんな小さいことは気にしてはいけません!)


――断絶神の仕事は、繊細で綿密な計算のもと、

周到な計画を立てて行うものですわよ?


――まあまあ、お二方。心話とはいえ、進行の妨げになりますよー。

……おーい、聞いていますかー? 帰っておいでー!


絵蓮のおどけた神話の声に、私はようやく我に返り、許褚を睨み返した。


(何さ、澪さんが考案した私たちの料理の方が絶対に凄いんだから)


――うふふ、間違いに気付いたみたいですわね。関心、関心。


――華蓮は余計なことを言わないの!


絵蓮が華蓮を軽く窘め、今度は私に向き直って微笑んだ。


「では、灯花庵の偉い人の献立を発表してまいりまーす!」


私は静かに微笑み、ゆっくり女神席へ歩み寄ると、

献立を一枚ずつ丁寧に女神たちの前へ置いていった。


くすくすと忍び笑う女神たち。


(えっ、どうしたの? 私、変なことしたかしら……?)


そして、コロシアムのもう一つの幕に灯花庵の献立が映し出された。

その瞬間、観客席がどよめく。


「「「よ、読めない……!」」」


女神席では、


「うん、ミレイアの字ですね」

「久しぶりに見たわ」

「ミレイアの字ですわね、うふふ」

「間違いなくミレイアの字だ」


「これで、ミレイアがヘスティアを操っていたことになりますわね」


華蓮がそう言うと、女神たちは納得したように頷いた。


(ちょっと待ってください。観客と言い、女神と言い……

反応、料理じゃなくて字に反応しているのですか……?)


絵蓮が頭をかきながら、観客席へ向けて声を張った。


「灯花庵の偉い人、星愛の字が達筆すぎて、

皆さん読めないようですねー!」


夢咲星環府府庁の私に気を使っているのか、

忍び笑いが静かに広がり、小声で話す観客たち。

その様子がかえって辛く、まるで針の筵に座っている気分になる。


許褚も何とも言えない表情で私を見ていた。

私が視線を向けると、慌てて目をそらし、映し出された献立を見ながら呟く。


「いや、実に達筆ですな……なかなか趣のある字ですな……」


絵蓮は私たちの様子を見て、笑いをこらえながら話を続けた。


「では、私が読み上げまーす!」


「「「お願いしまーす!」」」


観客が一斉に声を揃える。


―――――――――――――――


  冬の市の食材で綴る異国の宴


❄︎✧❄︎✧❄︎✧❄︎


一.楼蘭干し果実とザクロの宝石盛り

二.秋収穫のオリーブとフェタのギリシャサラダ

三.バグダッドの香辛料スープ(ハリース)・秋仕立て

四.茸入りドルマ(葡萄の葉包み)

五.ローマ風仔羊の香草焼きの秋トリュフ添え

六.シルクロード蟹ビリヤニ

七.秋茄子のムサカ(重ね焼き)

八.新疆風ナン・秋の胡桃ディップ添え

九.ローマ風蜂蜜ケーキ・栗と干し果実添え

十.トルコチャイ・秋のスパイス仕立て


✧❄︎◆❄︎✧


―――――――――――――――


読み終えると、観客から大歓声が巻き起こった。

絵蓮が満足げに頷き、手を挙げると、場内はすっと静まり返る。


絵蓮は静かに頷き、口を開いた。


「そうでしたか、読めなくて当然です。

漢字の他に異国の言葉も混ざっていました。

わたしー、女神なので言葉は全部わかるから気になりませんでしたー!」


観客席はどよめき、そのどよめきが納得の声へと変わっていく。


(そっかあ……私たち、子どもの頃から異国の言葉を習っていたから

全然気にならなかったけど……曹英は……曹英は何で読めたの?)


私はそのことが気になり、早く自分たちの舞台に戻りたくて仕方がなかった。

そんな気持ちを知ってか、絵蓮が私を見てにっこり笑い、口を開く。


「さあ、それぞれの班の献立も出そろいました。

最後に妃良、一言、二人の班長に声掛けをお願いしまーす」


妃良は頷き、席を立つと、まず許褚へ向き直った。


「黄河の猪親子さんは、名前から思うに宮廷料理ですね」


許褚は両手を頭の前に翳し、深々と頭を下げる。


「私も口にしたことのないものばかりのようですね。

味だけでなく、目も楽しませてくれそうです」


「はは、ご期待に添えるように、尽力を尽くします」


許褚は頭を下げたまま、太く通る声で答えた。


妃良は静かに頷き、今度は私の方を見る。


「灯花庵の偉い人の料理は、私たちにとって懐かしい味ばかりですね」


私は母の芳美から聞かされてきた話を思い出しながら頷いた。


「はい、女神様がたどってきた道に合わせた献立です。

ギリシャから中華までの料理を、冬の市の食材で再現しようと思いました」


――あら、澪はそんなこと言っていたのかしら、ふふふ


(華蓮様、静かにしてください。きっと澪様も同じことを考えての献立です)


私が心話で返すと、妃良がこちらを見て微笑んだ。


「私たち女神が知っている味を、あなたたちがどう再現し、

どう創造するのか、とても楽しみです。頑張ってくださいね」


「妃良様、ありがとうございます」


私は深く頭を下げた。


(十七の妃良様、めちゃくちゃ可愛い……

でも自分の好きな年齢になれるなんて反則よね)


絵蓮は私を見て首を傾げ、微笑んで言った。


「最終決戦は、中華と多国籍料理の様相を呈していますね。

皆さんはどちらを応援しますかー!!」


「「「もちろん中華だろー!」」」

「私は秦の四女神よ!」

「異国も楽しみ!」


圧倒的に中華推しの声。

次いで女神推しの声。

異国料理の声は、他の声にかき消されるほど細かった。


「ではー、皆さんもう一度、温かい拍手を両班に送ってくださーい!

以上、献立発表を終わりにしまーす!」


絵蓮の声に応じて、一斉に拍手と声援が巻き起こった。


私と許褚は声援に応えるように手を振り、女神の舞台を後にした。

階段を降りる途中、許褚がわざとらしく大きな声で独り言を言う。


「いやー、我らへの声援はよく聞こえるわい。

どこかのか細い声援より、ずっと力も湧くし、期待もされているようじゃな」


(何よこの叔父さん……妃良叔母さんの前では顔も上げられなかったくせに。

あー、腹立つ……)


ふと圧を感じて許褚を見ると、口だけ笑い、いやらしい目でこちらを見ていた。


「おうおう、やっとわしを見たのう。

曹操様や程昱殿は主らを恐れておるが、

妃良様や華蓮様がおらぬ主らなど、細い声援と同じで虫けら同然よのう」


(落ち着くのよ星愛……真っ直ぐな炎の灯りを思い出して……

でもこの猪、業火で丸焼きにしたい……)


ふう――。


私は深呼吸をして、「クスリ」とイノシシ顔の許褚に微笑んだ。


「笑ったって何も出やせんわい。

せいぜい我らの料理に恥じぬものを作ってみせるのだな。

そうそう、主らには曹英様がおるではないか。

宮廷料理の“宮”の字でも教わり……まあ、料理下手な曹英様には無理であろうがな」


(この猪、本当によくしゃべるわね……燃やしてやろうかしら)


これ以上ここにいる理由もないので、そっぽを向いて歩き出した。


「おうおう、もう行かれるか。負け犬は足が速いのう。がははは!」


よく通る声が背中を刺す。

それでも振り向かない私に業を煮やしたのか、許褚は禁句を口にした。


「やーい、お前の母ちゃん、で・べ・そ! がははは!!」


……さすがに、それは言ってはいけない。


私は反射的に振り向いた。

そこには、しゅんと肩を落とした許褚が立っていた。


視線を横にずらすと、母の芳美テイアが何食わぬ顔で紅茶を啜っている。


――あの猪、どうしようもない子供ね。芳美の光にあてられたわよ。うふふふ


華蓮の楽しそうな心話が頭に響くと同時に、

五華彩音や芳美推しの観客からブーイングの嵐が巻き起こった。


私は再び許褚に背を向け、自分たちの舞台へ向かいながらニンマリ笑った。


許褚の声は私たちの舞台にも届いていたようで、

曹英が腕を組み、怖い顔で許褚の背中を睨んでいた。

私が近づくと、駆け寄って抱きしめてくる。


「星愛、許褚の下衆な言葉によく耐えたわ……本当によく耐えたわね」


曹英と手をつなぎ、私は舞台に上がった。

ふと、あることが気になっていたことを思い出し尋ねる。


「ねえ、献立には異国の言葉が書いてあったけど、よく平気でいられるわね?」


曹英はキョトンとし、進行表を見せてきた。

そこにはすべて漢字で書かれ、難しい単語には注釈までついている。


(あらあら、澪さんは曹英のことよく知っているわね)


私はコロシアムの幕に映る献立を指さした。

曹英もつられて視線を移す。


「な、な、何ですか、あのミミズが這ったような字は……

雨上がりには、みみみ、みみずさんが字を書きまーす、るんるん」


曹英が変な歌を歌い出した瞬間、琴葉が曹英の足を踏みつけた。


「いたーい! 琴葉、何するのよ!」


「へへへ、曹英が向こうの人になりそうだったから呼び戻したんだよ」


その様子を見ていた燈三姉妹が笑いをこらえている。

手元を見ると、ザクロの赤い実が宝石のように輝いていた。


そして、楼蘭商隊から買い付けてきたのか、

干し果実を抱えた沙良の姿が目に入った。


今さらながら気付いた――私たちは、もう戦いのさなかにいるんだと。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

■ 気に入っていただけたら、☆☆☆☆☆評価やブックマークをお願いします!

■ ご意見・ご感想はコメントへお気軽にどうぞ。


更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ