第55章 カスバの女になりそこねた
カスバって要塞の意味だったんですね。
「双子の家系ってあるんだね。」ミネが言った。
「ミナさんのひ孫が双子だなんて。」ルネが言った。
「それを言うならうちも同じ。」夢火が言った。
「夢羽さんのひ孫が双子、そして男女。」夢水が言った。
「5人でウィーンへ行くのよ。」カイアが言った。カイアはラナのひ孫だ。
5人はフロリダ軍港で国際スパイ組織金竜疾風の幹部から作戦の概要を聞いていた。組織の名前が長いが、信太郎国王がこの名前を気に入っているらしい。軍艦は目立ちすぎるので、駆逐艦を改良した高速秘密作戦艇を用いる。租借地であるフロリダの軍港から軍の船でヴェネツィアまで運んでもらう。途中の補給地はモロッコだ。モロッコにはイギリスやフランスに売り込む資源を積んだ船がたくさん集まるので、札びらを切って積み荷の石炭を買う。モロッコを出たらジブラルタル海峡を抜けて地中海に入り、イタリア半島を経由してアドリア海へ抜ける。ヴェネツィアからウィーンは500キロ未満なので、陸路からでも行けるが、リンツまで出てドナウ川を下る船に乗ると良い。
「なんか楽しそうな旅路ね。」ミネとルネがユニゾンで言う。
「まずモロッコで何か美味いもの食べられそう。」夢火と夢水は男女なのでハーモニー。
「ここは地の果てアルジェリア、遠くカスバの夜に泣く~♩」カイアは歌った。
「カイアさん、何それ?」
「酒場の~女の~ 薄~うなぁさぁけ~!」なんだこの独特な歌唱法は?
「カイアさん、何それ?」
「わかんない。モロッコのことを考えていたら歌い始めていた。」
「怖っ!」
モロッコまでの船旅は順調だった。小型船なのであまり目立たず、帆を上げて偽装しているので誰にも気づかれない。船長は偽装船歴10年のベテランである。周囲の状況を見てこまめにスピードを変える。海の忍者と言っても過言ではない、と陸の忍者たちは思った。
「補給している間、遊びに行っても良いよね?」とミネルネ。
「じゃあ5人で行こう。」
5人にとっては物珍しい町だ。白い建物が並び、モスクと言われる尖塔が随所に屹立する。モスクからは決まった時間になると詠唱が流れ、それが他のモスクの詠唱と絡まって独特の幅のある旋律になる。
「ねえ、おなかが空いたよ。」ミネルネがユニゾンで訴える。
「そうねえ、料理屋が見つからないわ。」
「あ。あそこに屋台があるよ。」夢火と夢水は目ざとい。
「うわ、スパイスが効いて超美味い!」
「食べたことがない味!」
「旅の醍醐味はグルメ!」
5人はグルメを堪能して船に戻った。船には燃料の石炭以外に新鮮な野菜や果物も積み込まれた。ここからヴェネツィアまでは2500kmなので5日もあれば到着するが、途中でサルディニアに立ち寄って一泊し、食糧を積み込むという。船長の思いやりか、はたまた船長のわがままかはわからないが、この決定に反対の者は誰もいなかった。
旅が楽しすぎて、たぶんもっと寄り道するから、なかなかウィーンにたどり着かないかも。ウィーンへは5回ぐらい行きましたよ。ある暑い夏の日は、ホテルの1泊を無駄にして近郊のバーデンに行きました。避暑地で飲む白ワインは最高でした。




