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織田家のアナザー・ジャパン  作者: 青い水


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第13章 アモイの快男児

ボングが登場してハードボイルドになったよ

 チェンナイの埠頭にて。

「玲玲、ごめんね、私、ミスター・ジョーンズに辞表を出してきちゃった。」

「小梅、どうしたの?チーフ・メイド辞めちゃうの?」

「うん、実家の母さんが帰って来いって。後任には玲玲を推薦しておいたわ。」

「え、そんな、私、子どもを産んで2年間お休みしていたのに。」

「でも、玲玲ほど英語ができるメイドは他にいないわ。そしてビジネスについてもよく理解している。ミスター・ジョーンズもそこはよくわかってらっしゃるわ。きっと後任に採用されると思う。頑張ってね。」

「ありがとう、小梅。」

「ね、玲玲、これあげる。」

「これは?」

「前にあげるって言ってずっと忘れていたのど飴のレシピよ。」

「ありがとう、小梅。娘がときどき咳き込むので助かるわ。」

「いろいろ良くしてくれてありがとうね。爸爸にもよろしくね。」

挿絵(By みてみん)

「ボングよ、跳躍して敵を蹴り、その反動でまた跳躍する。それによって原理的には着地することなく常に空中で敵の攻撃をかわし翻弄することができる。これが琉球空手でも限られた者しか使えぬ奥義飛影乱舞だ。まずは動かぬ岩を相手に300回練習してみよ」

「わかりました。」


「次は金属の防具を身に付けたで指導者相手に試してみよ。奴は受け専門の指導者がとてつもなく頑丈だ。遠慮なく打ち込むが良い。」

「押忍!」


 シャムに滞在する侍傭兵団は、半分を残し、ビルマへ目立たないように侵入した。ここからさらに天竺へ侵攻する。できるだけ避けて、チェンナイを目指す。その数、約3000人。武装はたち太刀と弓と銃剣。フリントロック式の銃に脇差しの刃を付けた特殊仕様の武器だ。一方スリランカには、ポルトガル総督府の許可が出たので、日本陸軍10000人が滞在していた。イギリス軍との武力衝突の要である。日本の兵員輸送船は、圧倒的な制海権を持つ日本海軍に守られながら、難なくスリランカに到着できた。金竜疾風はフル稼働で諜報活動を展開し、イギリス東インド会社の動向を日本軍に伝書鳩で届けた。そしてしばしば、イギリス調布諜報部員の活動を忍び道具で無効化した。手裏剣、毒吹き矢、鎖鎌、幼いときから親しんだ暗器を使いこなして、金竜疾風は敵の諜報員を根絶やしにした。


 イギリスは確かに強力だ。大英帝国としていずれ世界の覇者になる国だ。しかし、アジア太平洋地区で宣戦布告されても、本国からの距離があるので、総力戦に対応できる態勢に持ち込むことは難しい。アジア太平洋地区に展開するイギリス海軍は、日本海軍の半分以下である。個々の船舶の性能も日本が勝っている。日本の素早い展開にイギリスは戸惑った。信宏は、かつて祖父信長がスペインにしたように、あえて侮辱して戦意を煽って、怒って攻撃してきたところを撃破する作戦を考えていた。イギリス以外の他国は不干渉を決めている。膨張するイギリスに悪感情を抱いているからだ。次々にスパイを消されて潰されているイギリスは、不安と焦りに苛まれ始めた。信宏は大量のビラを作らせた。イギリスは遠く離れた土地での孤独を感じて、初めて自分たちが思い通りに覇者になれないということを悟った。


 イギリス海軍の旗艦キング・ジョージ以下10隻がスーラトに帰還しようとしたとき、日本海軍の軍艦15隻と駆逐艦30隻による海上封鎖で入港できなくなった。日本海軍からは、武装解除と乗組員全員の投降、そして船舶の放棄という条件が受け入れられない場合、総攻撃で撃破すると通告があった。船長は悩んだ末これを受け入れ、日英太平洋戦役は日本の不戦勝に終わったのである。

 

「おーい、信宏、孫ができたそうだな?」


「はい、イギリスとの戦が終わってすぐに。信高と名付けました。」


「おまえはいくつになった?」


「1585年生まれで今は1630年ですから45歳です。」


「そろそろ隠居か?」


「いえいえ、勘弁してくださいよ。」


「まあいいさ。最近の日本はどうだ?」


「台湾の景気が爆上がりです。ルソン、安南、中国に近く、港には数多くの交易船が押し寄せ、捌ききれないほどです。人口はこの5年で10倍に増えました。その多くが琉球と九州からの移住者です。琉球も、台湾で捌ききれない交易船の寄港地として栄え、九州を経ない新たな航路も開かれました。」


「ほう、では北方はどうだ?」


「樺太、千島、カムチャッカの義務教育は順調で、現地ではほぼ問題なく日本語が通じます。ただカムチャッカは半島で大陸とつながっているので、どこが国境なのか判然としないのが問題です。北端ではしばしば行方不明者や死体となって発見される者もいます。国境に城壁を建設して、出入りを管理させようと思っています。産業の要は漁業と牧畜と林業で、蝦夷地との間に複数の航路が開かれ、物資の輸送は活発です。厳寒の地なので燃料が重要ですが、石炭という新燃料が発見され非常に重宝しております。石炭は大きな需要が見込めるので、日本各地で探査が行われ、たくさんの鉱床が発見されました。」


「それは素晴らしい。これからは燃料の時代になる。燃やして動かす時代もそこまで来ている。製鉄もはかどることだろう。どんどん掘り出して使い道を考えることだ。」


 ボングは中国の福州に潜入していた。交易も盛んになり、現地の諜報活動が重要になったので、金竜疾風の活動が強化されたのである。漢字以外の文字は使えないので、奔吾と名乗った。


「良く来たな、新人、俺はここのリーダーをやってる雷風だ。中国は現在変革期だ。満州族が攻め込んで金という国を興し、明はそのうち滅びるだろう。漢人たちは表面は平然としているが内心は穏やかではないだろう。とはいえ、ここ福建は南方との取引の町。商売が忙しいので、北のほうで何が起こっているかなんて、みんなあまり気にしていないようだ。」

「奔吾です。琉球の里から来ました。英語と中国語とスペイン語が話せます。お役に立てるようがんばります。」

「とりあえずアモイの港へ行って、賭博場に潜り込め。あそこは情報が集まりやすい。」

「了解しました。」


 奔吾はアモイにテラス付きの部屋を借り、鳩小屋を設置した。ここから台北なら中継所なしでも連絡が取れる。市内で買った暗緑色の漢服を着て繁華街へ向かった。港町の繁華街特有のギラギラした危険な香りが充満していた。賭博場はいくつかあったが、とりあえず人で賑わっている酒場に入り、町の事情に詳しそうな人間を見つけて話をしてみた。

「よお、俺は奔吾っていうんだが、きのうアモイに来たばかりでよ、右も左もわからないんだ。1杯おごるんで、いろいろ聞かせてくれないか?」

「おお、1杯なんてけちくさいこと言わねえで、5杯ぐらいくれよ、あと鶏の手羽先な。ここのは最高に旨いんだ。」

「ああ、いいぜ。どうせこのあと博打で儲ける予定だからな。良い賭場知ってるか?」

「なんだ、博打打ちか、ずいぶん自信があるな。」

「目が良いから動きがわかるんだ。」

「ほお、そりゃ便利だな。なら龍虎閣に行ってみな。地元の顔役がやっている店で、ここいらでは一番でかい。」

「ありがとよ。酒を5杯飲める金をここに置くから、あとは勝手にやってくれ。」


 龍虎閣は、その名の通り左右の大きな竜と虎が対峙する看板を掲げていて、すぐにわかった。入り口には門番らしい大男が立っていて、来訪者を品定めしている。

「ちょっと遊びたいんだが入れてもらえるか?」

「金は持ってるんだろうな?」

「ああ、あんたにもお裾分けしてやるよ。」と酒代を渡す。

「入れ。騒ぎは起こすなよ。」

「ははは、大勝ちしたら帰りにもお裾分けだ。期待して待ってろ。」


 場内ではさまざまな賭け事が行われていたが、一番人が集まっているのはサイコロのようだ。出目を当てる勝負らしい。ルールを聞くと、サイコロ3個の目の合計が多いほうが勝ちだが、いくつか役があって、それを出せば18より上と判定される。場には4人が参加でき、賭場のスタッフが務める親と合わせて計5名の戦いだ。サイコロを場に振ると同時に蓋が閉められ、出た数字は振った者だけが知ることができる。5人が振り終わると、ベットになり、最高で銀貨10枚まで賭けられる。一通り勝負が終わって、次の参加者の募集が始まった。


「やらせてもらってかまわないか?」

招財進寶(ショウザイジンバオ)、どうぞおかけください。」

勝負が始まった。百発百中のハンターの目は、蓋が閉まる前のサイコロの目を完全に読むことができた。あっという間に銀貨10枚が500枚に増えた。場がざわめく。

「はっはっは、この調子だと賭場ごと買い取れるかもな。」

「お客様、ちょっとよろしいですか?」

「うん、何かな?」

「あちらの部屋で、もっと高額のレートで勝負なさいませんか?」

「おっ、良いね。」

「ではこちらに。」


「って、おい。いきなり客に殴りかかるのかよ!」一撃をスウェイしてかわしたボングは戦闘態勢になった。敵は5人、手に短刀や棍棒を持っている者もいる。

「死ねやっ!」短刀を突き刺しに来た敵を大きな跳躍でよけ、そのまま顔面に蹴りを入れて倒す。着地したところに背後から棍棒で殴りかかる敵に渾身の肘打ちを食らわせ悶絶させる。残る敵は3名。警戒しながらじりじりと距離を詰めてくる。

「琉球空手は痛いぞ。まだやるか?」

「くっ、増援を呼べ!」

「いくら呼んでも良いが、俺が何をしたっていうんだ?」

「いかさましたに決まってる。」

「ほう、証拠は?」

「勝ち続けられるわけがない。胴元が役を仕込んだときだけ降りていた。」

「なんだそっちがいかさましてるのか。」

「うるせえっ!」殴りかかる敵の首に回し蹴りを決め、奔吾は言った。「俺はね、すごく目が良いんだ。動くサイコロが読めるんだよ。」


廊下がざわつき、手に獲物を抱えた男たちが入ってきた。


「おっと、この部屋でこれ以上やったら床が怪我人だらけになって足の踏み場がなくなるぜ。俺はこれでおさらばさせてもらうよ。」奔吾は銀貨がどっさり詰まった鞄を窓に投げつけ、窓枠ごと壊れた窓から脱出した。道ばたに落ちた鞄を拾い上げると、走りながら銀貨をばらまき、「ほれほれ、銀貨の雨だぞ、拾え拾え!」と通行人を煽り、あたりは銀貨を拾う人々で騒然となった。その混乱のため、追っ手は追跡を諦めなければならなかった。


 ボングは部屋に戻ると福州の雷風に「潜入のきっかけは作った」と伝書鳩を送った。鞄の銀貨はかなり減って200枚ほどになったが、これで当座はしのげる。明日から潜入生活になるので金はあまり必要ないが、鼻薬と袖の下が良く効く地域のようなので重宝するだろう。


 翌日、奔吾は午前中に平然と龍虎閣へ向かった。賭場はまだ始まっておらず、扉は閉まっていて番人もいない。奔吾は扉を叩いた。


「おーい、昨日殴ったやつらにわびを入れに来たぞ。開けてくれ。お見舞いに龍眼とライチを持ってきたからさ。」


扉が開いて男たちが出てきた。


「何しに来た?」

「お見舞い、それとお願い。」

「お願いだと?」

「ここで雇ってもらえないかな?役に立つよ、俺。」

男は値踏みするように見た後で「入れ」と言った。「はい、これ」と持ってきた土産を男に手渡すと、奔吾は中に入り、「雇い主の人に会えるか?」と尋ねた。

「こっちだ。付いて来い。」

頑丈そうな赤い扉が開くと、中に髭の大男が座っていた。

「わしがここの主の龍虎だ。おまえが昨夜の乱暴者か。」

「いや、乱暴といってもですね、殴りかかってきたのはそちらでして、俺はただ裁いただけですけど。」

「まあ、良い。おまえはここで働きたいのか?」

「はい、ちょっと前に流れ着いたもので、右も左もわからないんですよ。」

「読み書きはできるのか?」

「はい、読み書き計算はできます。異国の言葉もすこしなら。」

「ほお、ならば使えそうだな。良いだろう。戻って配下の者たちに子細を聞くが良い。」

「ありがとうございます、龍虎の旦那。」


次はどうなるのでしょうね?

新たな金竜疾風かな?

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