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織田家のアナザー・ジャパン  作者: 青い水


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第14章 ボング、海賊を倒し、金竜疾風、アムール川に到達する

粉雪、かわいいよ。やるときはやるけど。

海賊と日本の反乱分子、一網打尽だ。

 夏の蝦夷地は快適だ。からっと澄み切った空気が心地よく、紫色に野山を染め上げる野草が咲き誇る。雪乃、氷雨、寒蔵、凍吉は、鍬や鶴嘴など採掘道具を持って山を登っていた。


「夏で良かったな、鉱床調査、冬だったら死ぬぜ。」

「ばかね、凍吉、冬には実施しないの。3月から10月までだけよ。」

「しかし、なんで俺たち金竜疾風が鉱床調査してるんだ?専門家じゃないぜ。」

「山中活命訓練ですってよ、山の中で生き延びる技を身に付ける。って、あんた説明を聞いていなかったの?」

「訓練しながら石炭を見つけろってか。まあ一石二鳥だわな、石炭だけに。」

「あんたね、ぜんぜんしゃれになっていないから。」あきれたように雪乃が肩をすくめる。

「あ、あそこ怪しいんじゃない?」と先行していた氷雨が指さす。

「確かに石炭ぽいものが見えてるな。掘ってみよう。」


 4人で小規模の採掘を試みると、鉱床らしきものが見えてきた。


「よし、戻って報告しよう。あとは陸軍が大規模な採掘をしてくれる。」

「私、あの青い花を摘んで帰るわ。調合すると良い香水が作れそう。」


 蝦夷地の金竜疾風の里に戻ると、4人は頭領に呼び出された。


「雪乃、氷雨、寒蔵、凍吉、調査ご苦労であった。これからおまえたちには新たな任務についてもらう。忍びとなって3年、もう大丈夫であろう。異国に潜入してもらう。」


4人の顔に緊張と期待が広がる。


「樺太から大陸へ渡ると大きな川がある。その川に沿って南下し、自然環境や現地人の暮らしを報告せよ。樺太ではさらに2人が合流する手はずになっている。活命訓練の成果、存分に発揮せよ。」


 翌日、準備を整えた4人は樺太に向かった。夏なので、樺太といえども過ごしやすい。樺太に居住して陸軍に協力していた粉雪と冷矢が加わった。一行は樺太を北上し、ポギビという村を目指した。この村から大陸へ小舟で行ける。その距離2里。金竜疾風にとってはたやすい海路だ。何なら泳いでも行ける。


「さて、最後の餅を食おうぜ。日本の飯は今日で終わりだ。明日からは活命訓練の実践編だ。何が食えるかわからんぞ。」

「砂糖もそんなに持って行けませんからね、甘味をどう調達するか、それが私の大事な任務かな。」

「粉雪よ、そんなのんきなこと言ってると、餓死するぞ。」

「そうだそうだ、甘いんだよ、粉雪は。甘味だけに。」ここぞとばかりに凍吉がドヤ顔で言うと、雪乃が背中から蹴りを入れた。


 一行は川を目指して林の中の獣道を進んだ。しばらく人里は見つからなかった。原住民との交流のため、先輩くノ一が天竺で発明したのど飴を持ってきた。粉雪が盗み食いしないように、皆はかなり本気で警戒していた。夏なので木の実や果実は豊富に採れた。土を掘れば、根菜類もあった。リスやウサギもたまに遭遇したし、様々な大きさの鳥もたくさん飛んでいた。


「毎日腹一杯食えるな。」

「でもそろそろ水浴びしたいわ。川はどこかしら?」

「お、あそこに人里らしきものが見えるぞ。行ってみよう。」


「はいはーい、こんにちは、怪しいものじゃないよ。」

「そうですよー、ほら、これあげる、甘くて美味しいよ。」そう言って粉雪はのど飴を差し出しながら、ちゃっかりと自分もひとつ口に入れた。

「あっ、てめえ。」


現地人が群がってきて、のど飴を受け取って、噛みきれないので手に吐き出した。


「ほら、こうやって舐めるのよ。」粉雪が口を開けて舌で飴を転がして見せた。現地人は手に吐き出した飴をまた口に含んで笑顔になった。地面に吐き出した者は拾って口に入れた。


「俺たち、川を捜してるんだが。」寒蔵が口を開くと現地人たちの顔が曇った。

「私たち、水が流れている場所に行きたいの。」氷雨が言うと笑顔が戻った。どうやら女は歓迎され、男は警戒される部族のようだ。


 雪乃、氷雨、粉雪が身振りで川の場所を聞き出そうと奮闘していた。身振り表現は訓練されたことがないので、やり方はバラバラだった。雪乃が水筒を出して水を汲む仕草を見せた。どうやらそれで伝わったようである。村人が指さす方向に向けて一行は出発した。


「ねえ、砂糖を作ろうよ。」粉雪が目を輝かせて提案した。

「砂糖ねえ、楓の木があれば。」

「あ、あれ見て、あれ楓じゃん。スエルテ!」粉雪が場違いなスペイン語で「ラッキー!」と言った。

「おいおい、楓から樹液を取って煮詰めてって、ここは工場じゃないんだからそんなことやってる暇はない。手っ取り早く蜂の巣でも見つけたほうが早い。」

「そうね、それなら私が」」と氷雨が竹筒から何やら粉を手につまみ、風に乗せて飛ばす。しばらくするとミツバチの群れが集まってきた。ミツバチはひとしきり粉を集めると、同じ方向に飛んで行く。氷雨は慎重にそれを追跡し、木にぶら下がる大きな蜂の巣を発見した。

挿絵(By みてみん)

蜂よけの網装束を身にまとった6人は、焚火で蜂をいぶりだし、「ごめんねー!」と粉雪が小太刀で巣を切り裂いた。粉雪は竹筒に蜂蜜をたっぷり採取し、採取した指をペロペロしゃぶった。



「龍虎の旦那、これが今日の上がりです。」奔吾は銀貨の詰まった箱を龍虎に渡した。

「うむ、ご苦労。どうだ、仕事には慣れたか?」

「はい、というか何も問題が起こらないので暇ですね。たまに暴れないとむずむずします。」

「そうか、ならば喧嘩試合にでも出てみるか?」

「喧嘩試合?何ですか、それは?」

「金持ちを集めて荒くれどもの喧嘩を見物してもらって、勝つと思うほうに金を賭けさせるんだ。勝者と勝者に賭けた客は金がもらえるって話さ。おまえの大立ち回りは俺たちしか知らないので、たぶんおまえは大穴になる。俺はもちろんおまえに全力で賭ける。負けたら死ね。試合に負けて生きていたやつはあまりおらん。」

「わかりました。では明日にでも。」

挿絵(By みてみん)

 翌日、奔吾は喧嘩試合の会場で対戦相手と対峙した。あいては2m近くある巨漢で、どこの国の人間かわからないような風貌であった。羽織を脱ぎ捨てると、筋肉が脈打つその肉体には極彩色の刺青が掘られていて、その威圧感は見た者を震え上がらせるほどの迫力であった。

「俺は龍虎に世話になっている奔吾だが、おまえは何者だ?」

「俺か?俺は海賊王の懐刀人鯱だ。」

「ほう、海賊か、面白そうだな。俺が勝ったら船に乗せてくれるか?」

「おまえが勝つことはないので無理だな。」


 試合が始まった。一方的だった。人鯱の攻撃はことごとく外れた。まるで巨猿が鳥に挑んでいるようなもので、奔吾はほぼ空中にいて人鯱を翻弄し、たまに顔を蹴りつける。蹴りのダメージより不発に終わる攻撃の繰り返しが人鯱を追い込む。息切れで倒れ込もうとするところに奔吾の跳び蹴りが炸裂し、さらに倒れ込む巨体を奔吾は軽やかに投げ飛ばして試合を決めた。観客は大激怒だった。試合会場になだれ込んで人鯱を踏み殺そうとする者まで現れたので、奔吾は乱暴者を次々に試合会場から投げ飛ばし、大声で威嚇した。


「このおっさんと約束したことがあるんだ。殺されては困る。なんなら俺が相手になるぞ!」と拳を突き出したので、観客はすごすご帰って行った。

「やったな、奔吾、天晴れだ。何か褒美をやろう。何が良い?」

「褒美ですか?それなら数日お休みをください。しばらく酒と女でのんびりします。」

「そうか、楽しんで来い!」



「この川はアムールって名前だそうだな。いかにも異国って感じで気分が上がる。天気は良いし、釣った魚は旨いし、最高だな。」

「そうかよ?川と聞いて筏に乗って楽できるかと思ったら思い切り歩きじゃねえか。」

「しょうがないわよ、川は南から北へ流れているんだから。私たちの使命は川に沿って南に向かうこと。その過程で自然環境と住人たちを調査することなんだから。」

「私は蜂蜜がいっぱい取れて満足よ。途中でたくさん花の蜜が取れる植物も発見したしね。」

「おい粉雪、甘味以外は興味ありませんてな態度はやめろ。食えるものすべてを絵に描いて記録しとけ。そしてそこにどんな味なのかも書いておくんだ。」

「それにしても、この川沿いに住んでいる人たちはみんな親切だったわね。私なんか服もらっちゃった。」

「俺は矢尻、材料と作り方も教えてもらった。このあたりで取れる黒い石はとても硬くて武器や道具になるらしい。矢も少なくなってきたし、作ってみないか?」

「そうね、あっちの林に矢に適した木があるかもしれないから行ってみましょう。」


「お、ここは天然の武器製造所だ。黒い石がたくさん顔を出しているし、良さそうな細い木がいっぱいある。よし、手分けして材料を集めよう。」


 夕暮れまでに持ちきれないほどの矢と食べきれないほどの食糧が集まった。


「魚は美味しいけれど、これに醤油をかけたのをおかずにしてご飯が食べたいな。」

「おい、言うなよ、想像してしまうじゃないか。」

氷雨がぴょんと立ち上がると、「団子なら何とかなるかも!」と言って土を掘り始めた。

「ほら、あった。あ、こっちもいけそう。」


 いくつかの地下茎を掘り出して、くないで傷を付けて味見をし、審査に通ったものだけ皮を剥いてすりつぶし、丸めて団子にした。団子にするとき魚の身をほぐして混ぜ込んで味を付けた。

「さあ、団子汁を食べましょう。味付けは塩だけど。さっきの村で飴と交換に塩をもらったからね。次の村に行ったら醤油っぽいものがないか聞いてみよう。」


 南に行けば行くほど川沿いに村が増えてきた。どっちみち言葉はわからないが、旅の始まりのころに出会った人々とは明らかに言葉が違う。磁石を見ながら旅程を記録していた冷矢が言った。「そろそろこのあたりは、地図の横軸で言うと、樺太の南端に近い。」


 そのとき川の北東から悲鳴が聞こえた。見たことのないような剣を持った男たちに地元民が追いかけられている。男たちはみな巨体で、茶色や灰色の髪の毛をしていた。粉雪と雪乃と寒蔵がまっさきに動いた。寒蔵ができたての黒曜石の矢をつがえ、追っ手たちの前に放った。矢は上空から地面に縦に突き刺さり、さながら柵のように追跡者たちの足を止めた。粉雪と雪乃は抜刀して敵の前に立ちはだかり、くないを放って敵を足止めした。言葉は通じない。圧倒的な武力差で敵を後退させるしかない。敵が敗走したので、一行は助け出した村人を伴って彼の村に入った。

挿絵(By みてみん)

 村人たちは集まって口々に感謝を伝え、「ルーシエ」、「ルーシエ」と憎々しげに敵の名を呼んだ。身振り手振りで会話したところ、ルーシエは西北の方からしばしば現れて村人をさらったり殺したりしているらしい。そしてもう一つ、ルーシエとは別に、西から粉雪たちと同じ文字を使う民族がたまにやってくるらしい。こちらは物々交換するだけで、ルーシエのように危害を加えることはない。そいつらは「チャ」という珍しい飲み物を持ってきて、毛皮と交換するという。中国人だ。一行は村人に飴を振る舞ってから、筏を作ってアムール川を北に下り、帰路についた。それにしてもルーシエ、早く報告しなければ。



「これが海賊船か。」人鯱に連れられて船までやってきた奔吾は、船の甲板に立って驚いていた。思ったより大きい。日本で見たことがある海軍の駆逐艦より大きい。左舷と右舷に大砲が2門ずつ設置されていた。無知を装って「これは何だ?」と大砲に近づく奔吾の前に立ちはだかって、人鯱は言った。「大砲は危ない。近寄ったら死ぬぞ。」どうやら奴も大砲が何なのかよくわかってないらしい。


「良く来たな、強者よ。」大きな声で呼びかけられた。

「これがわれらが船、闇魔道だ。日本海の地獄の使者よ。」

「強そうな船だな。軍艦とやり合うのか?」

「いや、沿岸部を襲ったり、商船を略奪したり、やりたい放題よ。軍艦とやり合うなんて割の合わないことはしない。」

「そうか、儲かるのか?」

「ああ、日本の交易船を襲って銀や布や糸を奪い、この町の龍虎という親分に収めるとたんと武器や鉄鉱石がもらえる。そして日本のご同業にそれを渡せば、また金がもらえるって寸法さ。」

「ほお、それは良いことを聞いた。」

「どうだ、我たちと働かないか?龍虎の旦那には俺が話を付けても良い。」

「いや、それでは義理が立たないので、俺が直接話を通すよ。用心棒より海賊をやりたいってな。」

「そうか、楽しみに待ってるぞ。」


 奔吾は家に帰ると福州と台北に鳩を飛ばし、事の次第を報告して次の作戦を待った。金竜疾風からはすぎに返事が来て、福州の仲間6人とともに龍虎と海賊を潰す作戦が決行されることになった。龍虎閣には約50人の手下がいるが、強敵はいない。海賊船の乗組員は約100人。こちらは船にいるので海に逃げられると少しやっかいだ。そもそも武器や鉄鉱石を密輸入する「ご同業」というのもキナ臭い。日本の反乱分子への武器供与か?これはまとめて拘束して洗いざらい白状させなければならない。台北から援護の駆逐艦を3隻回してもらうことになった。


 翌日、福州の仲間とともに奔吾は龍虎閣を急襲して親分の龍虎を確保した。屋内の迅速な行動だったので現地の公安が動くこともなく、龍虎と複数の幹部は福州に送られた。その勢いのまま港へ赴くと、海賊船は間一髪で港を離れ、あろうことか躊躇なく港を砲撃してきた。船長は甲板で大笑いしながら、「はっはっは、悔しかったらここまで泳いで来い。上から蜂の巣にしてやるがな。」と叫んだ。しかし、その船長の背後に砲声が轟いた。日本の駆逐艦が海賊船を囲み、砲弾を撃ち込み、海賊船は航行不能になった。鍵縄が投げられ、甲板では白兵戦が始まった。駆逐艦には日本海軍と金竜疾風台北支部の精鋭が乗っていた。海賊たちは無力化され、商売相手の日本の海賊についても洗いざらい白状させられることになったのである。


このまま粉雪は日本に帰るのだろうか?

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