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織田家のアナザー・ジャパン  作者: 青い水


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第10章 北の人々

蝦夷地で織田祭り、天竺で活動開始

 信宏は鳴海城へ赴き、三代目斑鳩と対峙した。


「このたび即位した信宏じゃ。以後、よろしく頼む。」

「はい、こちらも三代目目になりますわね、三代目の斑鳩紅葉でございます。女だてらに頭領を拝命いたしました。よろしくお願いつかまつります。」

「斑鳩の。金竜疾風は今や構成員が1000人を超える大組織になり、薬屋稼業も順調で国庫を潤し、その情報網は国境の壁を越え海外10カ国に及ぶ。国を維持するための重要な機関となった。その活躍、今後とも期待しておる。」

「ありがたきお言葉です。今後も一層努力いたします。」

「そこでだ、我らと同じくスペイン艦隊を撃破し、今この太平洋地域で勢力を拡大し続けるイギリスを監視して欲しい。奴らは天竺に展開し、そこを拠点にアジア地区に拡大しているようだ。天竺へ忍びを潜入させ、イギリスの言葉を習得させてくれ。これは将来の日本にとって非常に重要なことになると思う。」

「わかりました。そういうことでしたら、言葉の習得が得意な忍びを5人選んで潜入させましょう。異国への忍びの潜入、ほどなく35年になります。3年ごとに帰国と新規派遣を繰り返し、帰国者は後進に外国語を教えるので、順調に業務は回ってございます。抜かりはございません。ご期待ください。」


 金竜疾風の、金三、銀三、鉄三、錫影、鋼音の5人は、シャムに潜入中の同僚と合流していた。シャムには王室が日本と正式契約した傭兵の武士が5000人いて、敵対勢力に対して国を守っていた。忍びは傭兵団の首領と密接に連絡を取り、情報提供に努め、傭兵団員が帰国し交代が来る場合には、報告書を託していた。5000人もいるので、毎年200人ぐらいは交代しているのだった。これは日本人の国際知識に大いに寄与した。


「我らはこれから天竺へ侵入する。天竺についての情報はないか?」

「天竺はムガルという大帝国で、織物、宝石、そしてなにより香辛料が交易の中心だ。ヨーロッパ諸国はこぞって進出し、おりあらばものにしようと考えている。まるで大きな獲物に群がる獣が互いに牽制しながら獲物の肉をかじっているようなものだ。」

「西洋のどの国が一番深く齧り付いているのだ?」

「ここからではそれは調べがつかん。おぬし等の調査がそれを明らかにするだろう。」

「なるほど。それでは、ここから天竺までの道はどうなっておる?」

「陸路は難儀するだろうし、夜盗や野武士の類いもいるだろうから避けるほうが賢明だ。海路なら、ここからビルマへ出てヤンゴンという町を目指すが良い。そこは港町で天竺のチェンナイという港へ交易船が出ている。チェンナイでは最近イギリス人の動きが見られるらしい。天竺は広い。しかもここのように日本の侍衆もいない。無理はするな。」

「わかった。状況によっては日本に増援を頼むことにしよう。」



「おーい、信宏、初めましてだな、青水だ」


「あ、青水さん、初めまして。うれしいなあ。来てくれたんんですね。何かアドバイスですか?」


「うーん、そうだな、おまえにできるかな?」


「何でしょうか?」


「おまえの爺ちゃん、餅ぺったんで琉球と台湾を手に入れたの知ってる?」


「はい、それ以来当家では、いや尾張では、餅つきが非常にに重要な行事になりました。」


「おまえも餅つきは得意か?」


「お爺ちゃんに仕込まれましたからね。」


「ならやってみせよ、餅つきで北に領土を広げてみせよ!とりあえずは蝦夷地、そしてさらに海の向こうまでも視野に入れて。」


「よーし、それなら餅ぺったんに盆踊りも足して楽しもう!」


「なんかおまえ、信忠と比べて軽すぎないか?」


「父は、成り行きによっては爺ちゃんといっしょに死んでいたかもしれないし、そもそもいつ死ぬかわからない時代で育ってきたので、爺ちゃんに厳しく躾けられたみたいだけど、でも私は初孫で、ただもうかわいいかわいいと育てられましたからね。」


「そうか、まあ頑張れ。」


 1616年の蝦夷地では松前藩という小さな藩がアイヌと交易をしていたが、この地域全土は主にアイヌが支配しており、日本に帰属はしていなかった。そのため義務教育令の徹底も蝦夷地においては限定的であり、将兵採用試験の応募も少なかった。信宏は季節を夏に選び、チンドン屋を仕立てて倭人とアイヌが共生している地域を回ってビラを配った。ビラには金色の文字で「織田祭り」と書いてあった。 


「さあさあ、明日は広場で織田祭りだよ!美味しいものと楽しいことが盛りだくさんだよ!帰りにお土産もあげるよ~!」子どもたちがぞろぞろ付いてきた。アイヌの子も倭人の子もだ。信宏は広場に着くと、子どもたちに、「明日ここで織田祭りをするから、お父さんやお母さんや兄弟も誘って家族みんなで来ておくれ。日本の王様がそう言ってたってね。ほら、これは今日のお土産だ」と言って、1人1人に金平糖を手渡した。


 翌日、広場にはたくさんの人々が集まっていた。信宏は舞台に上がり、開会の挨拶を始めた。


「皆様、今日はお日柄も良く、楽しい祭りにしましょう。私は、日本国王の織田信宏です。はい、本物ですよ。びっくりしました?蝦夷地に1度も来たことがなかったので、王宮の皆さんに駄々をこねてやって参りました。今日は内地で食べられている料理をたくさん持ってきたので、おなかいっぱい食べていってくださいね。お酒もありますよ。薩摩の芋焼酎、肥後の米焼酎、清酒は灘、越後、そして我らが尾張の鬼殺し、たくさん用意したのでお楽しみください。」食卓には琉球のラフテー、肥後の馬刺し、筑前の筑前煮、瀬戸内のたこ焼き...、西国から順番に準備しているうちにもう限度を超えたのでそれで打ち止めだが、集まった人々は大喜びで山海の珍味を味わった。


「では、これから餅つきぺったんを行います。どうかご唱和ください。」信宏は片肌を脱いで杵を握った。「行きますよーっ!」

「ぺったん!」、「ぺったん!」、ぺったん!ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん...。広場の皆の心がだんだんひとつになる。信宏は今わかった。これが祖父が経験したも餅ぺったんの力なのだと。

挿絵(By みてみん)

「できましたーっ!餅がつき上がりました。それでは国王信宏がついた餅、みなで食らおうではありませんか!」信宏が合図すると女中たちが粒あん、ずんだ、醤油と海苔を運んできて、会場は餅パーティとなった。誰もが笑顔になった。


ひとしきり食べたところで信宏が合図すると、三味線や笛や太鼓を持った楽士たちが舞台に上がった。「さて皆様、祭りはまだ終わりではありませんよ。まだ盆ではありませんが、早めの盆踊りをします。まず手本に芸妓たちが踊るので、皆さんも見よう見まねでご参加ください。これは蝦夷地で盛んなニシン漁を表現した歌と踊りです。大漁のニシンがかかった網を引き上げるめでたい踊りなので、どうかお楽しみください。」


盆踊りが始まった。覚えやすい動き、並んで踊る快感、単純にしてのめり込みやすい音楽。参加者たちはみんな輪になって盆踊りを楽しんだ。櫓の上で太鼓を叩いていた信宏は、「ふふふ、爺様、信宏の手腕、見てくださいましたか?」と天に向かってつぶやいた。


「言葉がまるでわからぬな。」チェンナイに到着した金竜疾風の一行は途方に暮れていた。中国語を解する者が3人、スペイン語を解する者が2人、シャム語を解する者が4人、金竜疾風の中でも外国語に秀でた者たちで編制した部隊だったが、天竺のチェンナイではまるで役に立たなかった。「とりあえずわれわれが使える言葉を理解する人間を捜し、そこから突破口を開こう。」


金三、銀三、鉄三、錫影、鋼音の5人は、市場で小綺麗な現地の衣服を買い求め、宿屋で今後の活動の方針を話し合った。


「まず薬屋の稼業を軌道に乗せないと何も始まらない。」

「その通りだ。訪問販売の前に市場で薬屋として認知される必要があるな。」

「錫影、おまえは絵を描くのが得意だから、簡易的な看板を描け。薬で傷が治ったとか病が治ったというような。」

「わかった。まかせて。」

「何語で人に呼びかけるかだが、ここはやはり西洋語がよかろう。鉄三、おまえがスペイン語で口上を述べよ。」

「おう、任せておけ。ポル・スクエスト!」

「人目を引かねばならんからな、銀三と鋼音は寸劇の踊りで人を集めろ。薬で命が助かる物語だ。」

「お任せあれ。我らの舞で魅了してしんぜよう。」

「わしはその寸劇で魔物の役でも演じよう。忍びの術はあまり人目にさらす機会はないが、こういうところで役に立つ。」


「メディカメント、ポル・ファボール!メディカメント・デ・ハポン!」鉄三が市場で声を上げると、何人か興味を示して集まってきた。「パラ・ラ・エレイダ、パラ・エル・ドレール・デ・カベサ、メディカメント・デ・ハポン!」


 紫煙の煙幕が投げられると、天竺風の衣装を着た銀三と鋼音の舞が始まった。幸せな恋人同士の若者、しかし魔物の毒が女の命を奪おうとしている。そこで青年は魔物を倒し、その死骸から魔法の薬を調合して女に与える。生き返った女と若者は永遠の愛を誓う。集まった群衆は大きな拍手。錫影は集まった人々にビラを見せながら、スペイン語と中国語で、誰かここの言葉を教えてくれる人はいないか聞いて回った。

 薬箱を使った「尾張の薬屋」の営業方法はまだ使えそうになかったので、単品で薬の販売を終え、一行は宿へ戻った。「初回にしてはなかなかの手応えだった。スペイン語を解する現地の商人も紹介してもらえたし、あした薬箱を土産に訪れてみよう。」

 

 旭川と十勝の織田祭りを終えると、アイヌの長老たちから信宏のもとへ書状が届いた。羅臼で待つと。羅臼へ赴くと、とても厳粛な雰囲気の歓待の場が設えてあり、檻に熊やイノシシや鹿が捕らえられており、いかにもこれから屠られるような様子だった。


「お招きいただきありがとうございます。」

「日本の国王、織田信宏よ、おまえはアイヌを日本に併合しようとしておるな?」

「いえ、いや、半分はそうですが、説明させてもらってもよろしいでしょうか?」

「うむ、詳しく述べてもらおう。」

「私たちがまず今の時点で求めているのは、義務教育令に従って無償の教育を子どもたちに受けて欲しいということです。読み書き、計算、その他様々な知識は、これからの世の中を生きるために必ずや必要になります。交易においても、そうした知識がないと何も始められません。」

「われわれから税を取り上げる気はないのか?」

「税を徴収できるだけの収入になるまでお手伝いします。漁業や農業の技術改革、内地で売れる商品の開発、収入を増加させるすべての方策をともに考えてゆきましょう。それで利益が出るようでしたら、その一部を税として支払っていただきます。でも、現状に比べてみなさんの懐には何倍もの収入が転がり込むとお考えください。」

「宗教を押しつけたりはしないのか?」

「まさか。われわれは日本国設立以来、世俗国家です。かつて日本を霊的に、精神的に支配してきた神道も仏教も、もはや特別な存在ではありません。すべて宗教省の管轄で管理されています。みなさまのコタンの祭りも、同じ権利で宗教省の管轄に入ることになるでしょう。」

「つまり、われわれの子どもたちはただで読み書きや計算を学べ、農業や漁業の技術も進歩して収入が上がり、宗教や文化は保護される、そういうことか?」

「はい、その通りです。そして毎年一緒に餅つきをして盆踊りを踊りましょう。」

 アイヌの長老たちは破顔一笑、「うまい話は1度は信じ、それが嘘ならぶっ殺す!」と言って広場に躍り出て、「イーヨマンテ!イヨマンテ!」とうなりながら円陣を組んで踊り出した。信宏もつられて踊り出し、酒が振る舞われ、羅臼の夜は更けていった。

 


イーヨマンテ、イヨマンテ

天竺の忍びはどうなるの?

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