第11章 チェンナイの金竜疾風
くノ一がチーフメイド
「ミスター・ジョーンズ?」薬箱の補充に行った錫影はメイドに問い直した。「はい、来週からこの家のご主人様はイギリス人のミスター・ジョーンズになります。お薬のことは、ご主人様にご相談ください。」
金竜疾風の一行は、宿を引き払ってチェンナイに家を借り、隠れ家とした。薬の販売は軌道に乗り、日本から持ってきた金塊に手を付けなくても調査の続行は可能になった。植生が違うので天竺の薬草から薬を作るのは最初は難儀したが、幼いときから鍛えた毒性への免疫で、新薬の人体事件は簡単にクリアでき、天竺製尾張薬品は、良く効く薬として市場の信頼を勝ち取った。
「イギリス人がやってきたか。となるとくノ一が女中として潜入するのが一番良いな。錫影は薬屋として女中に顔が割れているから、ここは鋼音に潜入してもらおう。おまえはスペイン語ができないが、中国語ができる。おそらくメイドの同僚には中国人もいるだろう。うまいこと接触して、英語も学べ。」
「お任せください。籠絡はこの鋼音の一番の得意技、必ずや結果を出して見せましょう。」
「なあ信宏よ、調子はどうだ?」
、
「あ、青水さん、すごく順調ですよ。蝦夷地はみんな喜んで日本になりました。副産物として、松前藩の中抜き不正やアイヌいじめも発覚して、言うことなしですよ。」
「そうか。で、アイヌの人たちはもっと北にある土地について何か言っていたか?」
「はい、蝦夷地の北には樺太という大きな島があって、原住民が住んでいるようです。話を聞くと、昔の台湾と同じように、国というよりは部族で、漁業と狩猟で生きています。」
「やるのか、餅つきと盆踊り?」
「いえ、蝦夷地のように話が通じる相手ならそれもありでしょうが、樺太でいきなりそんなことをしたら弓矢が飛んできますよ。まずはアイヌたちを前面に立てて餌付けですね。」
「千島列島やカムチャッカはどうだ?」
「どれも似たり寄ったりですね。」
「ここはアイヌ衆に任せて時間をかけて取り組むか。」
「はい、お茶がなかなか有効みたいです。アイヌの民もそれまで飲んだことがなかったのですが、饅頭とお茶の組み合わせがとても気に入ったようで、大量に欲しがっていました。北方の原住民にもアイヌを通じてときどき饅頭とお茶を届けさせましょう。だんだん懐いてくれると思いますよ。」
チェンナイの金竜疾風一行は、薬屋営業を通じて簡単なタミル語を覚えていた。現地の人々と軒先でかわす雑談は、ときに意外な情報を提供してくれる。最近、中国人の商人の一家がこの町に引っ越してきたということがわかった。茶や薬草、そして漢方薬を取り扱うらしい。「うむ、商売敵か。しかしここは協力すべきだろう。われわれは商売をしに来ているわけではないからな。」金三は嬉しそうに顎をなでながらそう言った。「鋼音、ちょっと行って探りを入れてこい。」
「ニーハオ!初めまして、私は小梅と申します。朝鮮からやってきて、近くで仲間と薬の行商をしています。以後、お見知りおきを。」
「おや、かわいらしいお嬢さんだ。ニーハオ、私は天福と申す者。ここに店を出す予定だ。漢方薬も取り扱うのでご同業だね。」
「爸爸、お客さんなの?あ、女の子だ。かわいい。私は玲玲、よろしくね。」
「小梅よ、よろしくね、玲玲。あ、これあげる。私が作った飴よ。この地域の果物が入っているので甘酸っぱくて喉にも良いの。」
「ありがとう、小梅、とても美味しい!」
「今度作り方を教えてあげるね。」
「ええ、是非!」
「どうだ、鋼音、うまく取り入ることができたか?」
「ええ、同じ年格好の娘がいたので、すっかり仲良くなったわ。」
「そうか。ならば、その娘と一緒にミスター・ジョーンズの家の女中になれ。一緒に英語も学ぼうと誘うと良いと思うぞ。商人の娘なら、これからこの地で英語が役立つことは感づいておるだろうからな。」
「オッケー!これ、昨日覚えた英語で諾という意味だよ。これから楽しみだ。あ、それからのど飴の評判が良かったので、少し作り置きすると良いかも。営業のときおまけにくれてやると喜ばれる。」
1617年になり、信宏は32歳になった。息子の信吉は9歳になり、すくすくと育っている。織田家の元重臣たちの子孫も、行政の各分野で活躍している。羽柴家の息子たちは、主に軍事と防衛の方面で才覚を現し、陸軍省と海軍省の高官になった。海軍省は、かつて鉄甲船で活躍した九鬼水軍の子孫が辣腕を振るった。柴田家は公安関係を引き受け、強力な警察機構と入国業務を統括した。丹羽氏の一族は、祖先の優れた行政手腕を受け継ぎ、法務関係を司った。膨大な資料を漁って判例を集め、それを元に判決の基準を明確にすることに努めたのは偉業と言えるだろう。滝川家は、農林業と漁業の振興に努めた。増え続ける日本の人口を維持するために大切な業務である。しかし信宏は、そうした各業務が世襲で引き継がれることをいつか廃止しなければならないと覚悟を決めていた。そのため、しばしば「織田会」という重臣の子孫たちと腹を割って語り合う宴を開き、日本の未来について語り合っていた。
アイヌたちの活躍によって、1620年には樺太、千島、カムチャッカの原住民は義務教育を受け入れ、日本の技術を取り入れて生産量を増やしていた。信宏は満を持して、北方地域の日本国参加の勧誘に出かけた。贈答品として大量のお茶とお菓子と、そしてお菓子作りのために必要な砂糖を持って。現地民はすでにある程度日本語を解し、日本国王を歓迎する式典を開催した。これも間に立って取り次いでくれたアイヌの長年の努力のおかげである。この年、北方各地域は正式に日本国の一部となった。
そのころ鋼音は、ミスター・ジョーンズの屋敷でチーフ・メイドとして家政一般を取り仕切っていた。英語の習得が速かったので、主の覚えめでたく、屋敷全体を掌握する立場になっていた。諜報活動はやりたい邦題である。どうやらイギリスはチェンナイを天竺侵攻の拠点とする方針のようだ。金竜疾風は、巨大な天竺で5人で諜報活動することの限界を知り、尾張に応援を要請していた。年齢を考えて、金三と錫影が帰国し、代わりに伊蔵、新八、霧葉、初音、千鶴、忍火の5名がやってきた。今後の長期滞在に対応するため、16~18歳の若者である。
「なあ、信宏、おまえんとこの信吉、何歳になった?」
「あ、青水さん、お久しぶり。信吉は13歳ですよ。なんだかませガキに育ってしまって、女の尻ばかり追い回しています。」
「そうか、それは子孫繁栄が約束されたようなものでめでたいな。」
「はあ、まあそうですけど、来年はもう元服なので、もう少ししっかりしてもらわないと。」
「親は皆、自分のことは棚に上げてそう言うものだな。」
「それはそうと、また何かアドバイスですか?」
「うーむ、領土はだいたい予定通りに広がったし、兵器と船も改良が進んで、たぶんヨーロッパにひけは取らない。あ、そうだ、あの便利な金竜疾風な、規模が大きくなってきたので、いくつか支部を作って分散させろ。」
「そうですね。尾張に集めておくのはそろそろ限界です。どうしましょう。北から南までいくつの支部を作りましょう?」
「蝦夷、東北、関東、尾張の本部、中国四国、九州、琉球の7つだな。本部に500人、各支部は200人ずつだ。足りない分は将兵採用試験で適性を見た上で新規採用しろ。ふふふふ、世界に広がる日本の情報網、これは熱い展開だ。」
「了解しました。さっそく頭領と会って指示を出しましょう。居住地が手狭になってきているので喜ぶでしょう。」
鋼音の活躍が良い感じ




