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罠

「もうすぐ、ブレーメンちゃんの消えたトラップだ」


 白雪さんが俺の耳元でささやく。


「うわっ、そ、そうなんですね……」


 ダンジョンフロアは再び石造りの迷路タイプに戻っていた。


「そこ、近いですよっ!」


 茜さんの鋭い注意が飛ぶ。

 しかし白雪さんも慣れた様子で、その時には俺から離れて周囲の警戒をしているふりを完璧に行っていた。


 うまく間を外された形になった茜さんは、俺の方に来ようか一瞬迷った素振りを見せつつも、結局、大きめのため息をつくとそのまま陣形の維持をするようだった。


「ふふ、茜姫のご機嫌斜めシーンは視聴者に好評みたいだぞ」


 またその隙を狙って白雪さんが話しかけてくる。

 俺はチェックし忘れていたコメントを慌てて確認してみる。


 '茜タソのあの瞳に射抜かれたわ'

 'あの口調でめっちゃ責め立てられたい'

 'いいぞ、白雪、もっとやれ'

 '今回の配信はサービス回ですか?'

 'きむきむのカミカミタイムまだー'

 'あ、きむきむが白雪に言われてコメ確してる'

 '愛されてるなーきむきむ'

 '頑張れよ、コメ確はライバーの基本だぞ'

 'そうそう'


「す、すまない。すっかり見るのを忘れていた……」


 かなり未読のコメントが貯まっていた。

 俺は思わず撮影ドローンのラジ夫に向かって謝ってしまう。


 そんな俺を得意気に見てくる白雪。

 茜さんの額に刻まれた縦シワがさらに深くなる。


 ──さ、さすがに不味いよね。白雪さんはいったいどういうつもりで……。いや、彼女は彼女なりにコラボ配信を盛り上げようとしてくれているんだろうけど、この方向性でいいの?


 そんなことを悩みながらも、俺は全探査スキルに現れているモンスターの接近に合わせて半ば無意識にカンストさせた魔法スキルを使っていく。


 ちなみに、ちゃんとモンスターが撮影ドローンに映ってから倒すようには心掛けていた。


 今も現れたアイアンゴーレムを魔法スキルで倒していく。


「い、今のはアイアンゴーレムですよね!

 す、すごい。魔法耐性があるのに、あっという間に……しかもあれ、二つの魔法スキルを併用してますよっ 」

「グレーちゃん、落ち着いて。ね」


 はしゃぐグレーちゃんを赤帽子さんが宥めている。


「グレーちゃんも魔法スキル持ちのうちの火力担当の一人だからな。興奮してんだわ。はしゃいでいるグレーちゃんは可愛いだろ」


 そんな二人の様子を解説するみたいに伝えてくる白雪さん。


 しかしこの短い時間の付き合いで、俺もようやく白雪さんがどういう人なのかわかりかけてきていた。

 たぶん、俺が不用意にここで可愛いと言おうものなら、大いにそれを弄ってくるに違いない。

 それもコラボ配信を盛り上げると言う大義名分のもとに。


 さすがにそんな作戦には引っかかないぞと白雪さんへジト目を向ける。

 しかし、それでも俺の読みは甘かった。


「そうかそうか。グレーちゃんみたいなのはスキルマスターさんのタイプじゃないのか。やっぱり、あか──」


 俺の警戒スキルが、そこで最大限の警戒を告げる。


 俺はすべてを遮るように、通路の先に見えてきた場所を指差すと叫ぶ。

 そこがブレーメンちゃんが消えたと聞かされたお休みトラップに違いないと、確信して。


「お休みトラップ! 何か出てきますよっ」


 俺のカンストさせている全探索スキルにも未知の反応が現れる。

 魔素が、その場所から溢れだしてきた。




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