マッシュオーランドが買い取った。
「あなたは……もしかしてラリッサの救護院のトップの方ですか?」
「あぁそうだよ。よくわかったね。君も関係者かな?」
彼は僕の手を握ったまま笑顔を向けてくる。
「初めまして、元救護院で雑用をしていて、現在は冒険者のパックです。こちらが仲間のリリとドラです。よろしくお願いします」
「あぁこちらこそよろしく。僕はラリッサの救護院トップのオーランドだ。それももうすぐ名乗れなくなりそうだけどね。それで僕を知っているようだけど? 自己紹介したってことは知り合いってわけじゃないよね?」
オーランドはリリとドラにもあいさつをしてくれる。
「ラリッサの救護院を襲った犯人についてちょっとお話をしたいことがありまして」
「もしかして盗賊が捕まったって話かい? 僕もそれは聞いたよ。でも、彼らが盗んだ盗品は全部根こそぎ無くなっていたし、盗賊が盗んだものは盗賊を退治した人に権利がうつるからね。今さら盗賊を捕まえても仕方がないんだよ」
俺は一瞬目をそらす。
いくら権利が僕たちにうつると言われても、僕たちが頂いてしまったものなので少し後ろめたい。
「その盗賊たちに盗む指示だしていたのが町長というのはご存知でしたか?」
「えっ? なんだその話は!? いや、あのいけすかない奴ならやりかねないか。どういうことか詳しく聞かせてもらってもいいかな?」
僕たちは、もう一度留置所の方へ戻り、マッシュを交えてオーランドに町長の話をする。
「クソ! どうりで救護院の経営もダメになっているし、墓地庭園の草も伸び放題になっているはずだよ。全部町長が裏で取り仕切っていたからか」
留置所では先ほど対応してくれた兵士が同じように対応してくれていた。
「それで、オーランドさんどうされますか?」
「あっえっと……」
オーランドは兵士の方を見て言葉がつまる。
「コルビーです」
兵士は自分から名前を名乗ってくれた。
「そうコルビーこのマッシュを買い取りたいんだが、いくらかかる?」
「取り調べはある程度終わっているので。あとは犯罪奴隷として売りに出されるだけなのですが、このままオーランドさんに売ってしまっていいのか、ちょっと上司に確認してきますね」
「あぁ悪いけど頼むよ」
コルビーはそのまま留置所から出て行く。
「ところで、オーランドさんお金あるんですか?」
「もちろんない。救護院の経営状況はかなりやばいからな。なんとか値切ってみようと思っている」
僕はオーランドさんにお金をそっと渡す。
「これは……?」
「どうぞ。犯罪奴隷だったらこれくらいあれば足りると思いますので」
僕は一般的な犯罪奴隷が買える金額より少し多めに渡す。
余ったお金は救護院のために使ってもらったらいい。
「ありがとう。大事に使わせてもらうよ。慈愛の女神ティス様のご加護がありますように」
オーランドは僕たちにおおげさに祈りのポーズをとる。
「それでパックくん、これからどうするつもりなんだい?」
「もちろん、町長を捕まえて領主様につきだしますよ。でも、そのためには決定的な証拠を掴まないと難しいと思います。なのでマッシュにもう一度町長を呼び出してもらいます。そこで話しをさせて捕まえます」
「いいのかい? パックくん。君には別にこの件に関して何も得することはないと思うんだけど」
「そうですね。損得で考えれば個人的にはまったく得することはないですね。でも、ラリッサの街ではまだ少ししか滞在していなくても、多くの人と知り合いになれましたし、その人たちを助けることが、結果的には僕のまわりの幸せにもつながりますから。幸せの花は世界を回すってやつです」
「そうか。さすがだな」
この世界のことわざに幸せの花は世界を回すというのがある。
生きて行く上では沢山の理不尽なことが起こる。
魔物に無意味に襲われたり、貴族から無理難題を押し付けられたり、食事も毎日取れない人だっている。
だけど、殺伐とした世界でも助け合うことで世界は少しずつ変えることができる。
弱い人でも誰かの幸せを願い助けることで、誰かの心に幸せの花の種を植えることができるのだ。
その幸せの花は大輪を咲かせ、やがてまた沢山の種を作る。
そうやって、花を増やしていくことで、やがては自分や自分のまわりにも沢山の幸せな花で溢れさせることができるという考え方だ。
殺伐とした世界だからこそ、助け合いは大切なのだ。
「さて、それじゃあラリッサの街に盗賊が捕まったのが伝わる前に、僕たちも急いでラリッサの街へ戻りましょう。今から戻れば夕方には戻れるはずです」
「何を言っているんだ? ここからだとどんなに早くても数日はかかるぞ」
「それは……」
そこへコルビーがちょうど戻ってくる。
「上の許可がおりましたよ。マッシュは犯罪奴隷として売っていいそうです。ただ、こいつが盗賊のリーダー格だったため少し値段は高くなりますが」
そこに示された金額は僕が渡した金額とほぼ同じだった。
もう少し安いと思ったのだが結構価値が高いらしい。
オーランドはその金額を見た時にあからさまにがっかりしていた。
僕が渡したお金で余ると思っていたのだろう。
感じからすると、余ったお金をどう使うか頭の中でシミュレーションされていたようだ。
「もう少し……これは安くならないのか?」
「あぁー俺もそう上司に言ってみたんですけどね。こいつには懸賞金が結構かかっていたらしいんですよ。その分の上乗せがあったって話です。それとも他の奴隷にしますか? 他の奴隷はそれほど襲撃については詳しくないようですけど」
オーランドはしぶしぶコルビーに金を払う。
この人はまったく損をしていないはずなんだけど。
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