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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
番外章:地に輝くアルビレオ

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偉大な母

登場人物


・ティア

アルムとミスティの娘。銀髪に青い目をした十六歳。


・ベルフィーナ

アルム世代であるフラフィネの娘。茶髪でショートカットの十六歳。

ティアの友人だが、親同士が友人であることは知らない。


「ティアは母親似よね」

「……そう?」


 ティアの友人でもあるベルフィーナは、この話題に対するティアの反応があまりにも意外で着替えの手が一瞬止まった。

 同級生として一緒に入学し、前期はいつも一緒に過ごしたと言っていい友人同士。

 ベルフィーナの目から見て、ティアは両親を一番に尊敬していると言ってもいい。

 そのティアが母親似と言われて、喜ばないとは思わなかった。

 ティアが個室のシャワー室から出てくると、ベルフィーナはティアの口元を確認する。


「……緩んでない」

「え?」

「なんでもない。タオル」

「ありがとうベルフィーナ」


前期を共に過ごした経験として、ティアは貴族にしてはとてもわかりやすい人間ということをベルフィーナは知っている。

 気品があって誰よりも貴族らしいかと思えば、嘘をつくのが下手で、嬉しい時は口元をによによと緩ませる。八面玲瓏で嫌味が全くなく、親しみやすい。

 そして両親を尊敬していて、家族を誰よりも愛している子。

 裏でどう思っているかわからない貴族達との接し方があまりわからず、子供の頃から引っ込み思案のベルフィーナが友人になれたのも、ティアの性格が大きいだろう。


「ごめん。無神経だった?」

「え?」

「他意はないの。一度お見かけした時に綺麗な青みがかった銀髪と青い瞳が……改めて似ているなと思って」

「ふふ、ありがとうベルフィーナ。お母様に似ているって思われるのは嬉しいわ。お母様は私の目標でもあるから」

「……帰っていた時に、お母さんと何かあったとか?」


 ティアの様子に、ベルフィーナは当たり障りのない反応をやめて踏み込む。

 このまま話を流してしまうのは簡単だが、自分から言っておいてそれはあまりに友人として冷たいように感じた。


「んー……?」


 ティアの微妙な反応に、踏み込み過ぎかな、と不安になるベルフィーナ。

 一先ず、頭を下げる心構えは出来ていた。常世ノ国(とこよ)の伝統謝罪方法である土下座の準備のため、ベルフィーナは中腰になる。


「相変わらず、優しいお母様だったわよ。私のことを一番に思ってくれて、私が帰ってきた途端に仕事を一旦止めるくらいには……領主の返事待ちしている人達にはちょっと悪いことしたかなってくらい私に付き合ってくれたもの」

「北部を動かす偉い人達に幸あれ……ってとこかしら」

「子供の頃から領主の仕事にお母様を取られていたんだもの。こういう時くらいはお母様を返して頂かないと不公平だわ」


 ティアの様子を見るに、母親と何かが原因で仲違いしたわけではなさそうだ。

 親子喧嘩といえば簡単に聞こえるが、この国最強の魔法使いとされるミスティとその愛娘の喧嘩と考えると、ベルフィーナには壮絶に聞こえてしまう。

 少なくとも、帰郷期間の間に最悪の出来事が起こったわけではない。

 だからこそ、ベルフィーナには何故先程ティアが微妙な反応になったのかが想像つかなかった。


「ただ……ね……。私ってカエシウス家にしては普通というか、あまりいい結果を出せなかったから……お母様に相談したの」

「……ティアは文句なしでトップの成績だったと思うけど」

「お母様に比べたら、全然だったわ。お母様は同級生の標的にすらならないくらい圧倒的だったんだもの」


 比べる相手が悪いのでは、という言葉を喉元で引っ込める。

 ベルフィーナにとっては雲の上でも、ティアにとっては身近な人物。

 娘としての重圧がティアにはあるのだろうと察することができる。


「でも、私は前期の頃から魔法儀式(リチュア)を申し込まれても……それだけの力を示せていない。お母様の娘なのに、お母様の才能を受け継ぐことができなかった」

「そうかな……私はそうは思わないよ」

「ありがとうベルフィーナ。でも私自身がそう思っていたの。だからそのことをお母様に謝罪したら……」

「したら?」


 何故か、聞いているだけのベルフィーナが緊張してしまう。

 タオルを動かす手が止まった。


「私は、お母様と似ていないんですって」

「え……?」


 ティアの言葉に、ベルフィーナの胸がきゅっと辛くなる。

 こういう時に友人としてどんな言葉を掛ければいいのか咄嗟に声が出ない。

 そんなベルフィーナのほうをティアは振り返って、


「そう言われたわ」


 普段と同じような笑顔を浮かべていた。

 ベルフィーナはティアが笑顔になる意味がわからず、癖のように自分の茶色の髪をいじるしかできなかった。

 ティアはベルフィーナに拭いてもらった髪をさらに火属性の魔道具で乾かすと、すぐに制服を着る。


「じゃあ私、実技棟に行くわね。今日の実技は模擬戦ばっかりだったのもあって、基礎練習がまだできていないの」

「いつもやってる無属性魔法を使った魔力操作の練習? さっきあんなに戦ったのに……大丈夫?」


 実技の内容が模擬戦になると、友人であるアルカが真っ先にティアに絡むのは今の一年生の定番行事とも言える。

 片やカエシウス家、片やオルリック家。まだ一年生とはいえ、四大貴族同士の衝突は並ではない。ティアも魔力をかなり消費したはずだが、シャワー室から出るティアの足取りは軽かった。


「毎日やらないと落ち着かないの。ベルフィーナは先に帰っていてもいいわ。でも、待っていてくれたら嬉しいわ。待ってくれるなら、帰りに甘い物でも食べに行きましょう。それか、あそこのパン屋さんでもいいわ。それじゃあ先に行っているわね」


 そんなことを言い残してシャワー室から出ていくティア。

 ベルフィーナが何かを言う前に、行ってしまった。


「……ずるいわね、全く」


 あんな言い方をされて断れるわけがないじゃない、とベルフィーナの口元が緩む。

 ベルフィーナも制服を着ると、ここから一番近い実技棟を目指すのだった。

 ティアの気分転換に何かできないかを考えながら。

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― 新着の感想 ―
ママンがおかしいだけだからなぁ アルムには蕩けるけども ティアがどう着地させるのかが見所ですね
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