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ヤンデレ兄とニート妹の相互依存生活  作者: スイレン
連載
14/15

とある上司の日常

今日は卒業式です。

3年間、あっという間だったな‥‥。


 俺の名前は(シノ)(ハラ)(セツ)。ユキじゃない、セツだ。分かりにくい名前で申し訳ないな。俺はとある会社でまあ、それなりの地位に就いている。今日は、そんな俺の職場の部下達についての話をしたい。


 「‥‥部長? どうしたんですか?」


 今声を懸けてきたこのイケメンの名前は高坂千尋。社内での評判はかなり良く、特に女性人気が強い。稀に男の中でも熱狂的な信者がいるらしい。しかも優秀ときた。上司としては鼻が高い、んだが。


 「高坂か。何でも無い。」


 「そうですか。」


 そういうとニコリと微笑んで高坂はさっさと自分のデスクに腰を掛けた。その間他の社員との会話は一切無い。話し掛けれれば対応するものの自分から話し掛けるのを俺は一度も見たことがない。

 コミュニケーション能力に不備があるわけでもない。まるで周りに興味がないように俺には見える。本人がいいのなら文句はないが、少々心配だ。


 「遅れてさーせっしたー!!」


 ちょうど良いタイミングで現れたのは狭間新太。ぜぇぜぇと息を吐きながら自分のデスクに鞄を置く。先程の対応の難しい高坂を良くサポートしてくれるできた部下だ。しかし遅刻は頂けない。


 「狭間、こっちに来い。」


 「うげっ!?」


 俺の言葉に顔を引き攣らせながら渋々と狭間は近付いてくる。幾分上にある狭間の肩を俺は叩いて叱りつける。


 「君は馬鹿か! 急いでも急がなくてもどっちにしろ遅刻するんだ!! それなら焦らずゆっくり来い! 事故でも起こしたらどうすんだ!」


 全く最近の若者ときたらこちらを気遣って満足に有給を取りやしないし質問もしてこない。遅刻に関しても狭間のように慌ててやってくる。それで事故でも巻き起こしてみろ、それこそ一大事だ。


 「‥‥さーせっした。」


 「分かれば良い。ほらさっさと仕事しろ。」


 なにやら吹き出しながら頷く狭間に指示を出す。高坂と言えば社内で唯一親しくしている後輩にも関わらず我関せずとばかりにスルーしている。

 ちなみに高坂は堂々とゆっくり遅刻してくるし有給もバッチリ取っている模範的な部下でもある。流石だぜ。部長の俺に向かって『定時なので帰ります。』とにこやかに去って行ったのは後にも先にもお前だけだ。まあむしろ定時で帰ることは奨励しているが。残業反対ダメ絶対。

 そんなこんなで一日を終え、帰路につく。高坂は本当に嬉しそうに帰っていくな。そして狭間、お前はきちんと寄り道せずに帰るんだぞ。飛び込み自殺してしまった常磐女史とか兄貴の部下で精神病院に入院してしまった女性とかが近頃多いらしい。最近のこの辺り物騒なんだから、お前みたいなちゃらちゃらした優男、簡単にのされるかもしんないんだ。気をつけろよ。少しは高坂を見習って護身道具は持っておけ。そういうと狭間は微妙な顔をして苦笑した。何だったんだ一体。


 「お帰り、雪。」


 家に帰ると兄貴が出迎えてくれる。兄貴の名前は(シノ)(ハラ)(ケイ)。ホタルじゃない、ケイだ。兄弟そろって分かりにくい名前で申し訳ないな。兄貴と俺はルームシェアをしていて二人で住んでいる。最初は俺達以外にも二人いたんだがいつの間にかいなくなっていた。引っ越すなら言ってくれれば良かったのに。


 「兄貴、たでーま。人吉さんどうだった?」


 「‥‥。あれは駄目だ。回復の見込みはないらしい。」


 「‥‥そっか。」


 どこか落ち込んだ様子の兄貴に俺は曖昧に頷いた。‥‥兄貴がそうならなくて良かった、と思う俺は冷たいのだろうか。

 俺と兄貴は二卵性の双生児だ。生まれたときからずっと一緒だった。いつまでも兄貴にべったりだったら、いつかできる(かもしれない)兄貴の恋人に申し訳ない。第一金に困っていた学生時代ならまだしも成人して片やとある企業の部長、片やとある週刊誌の編集長になった兄弟がルームシェアしているというのは社会的にいかがなものか。


 「‥‥明日不動産いこ。」


 新しい新居を用意しなくては。そう呟いて俺は兄貴が用意した料理に舌鼓をうつ。いつも以上に冷たい眼差しの兄貴に気づくことなく。

 後日新居を勧めた不動産から入居を断られたのはまた別の話。

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