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手紙より

“クリスは象徴であり、髑髏もまた象徴である。われわれはゆるく結ばれた泥縄に縛られ、また泥縄により二つの異種を結ぼうともがく、” LCC社章の由来(ボスの演説)


〈小さきものは、宵さ起きん。けっ、小さい。小さい。せいぜいムにしようじゃないか、トウサ。

 さあ、いつもの挨拶も済んだことだし、状況を報告することにするよ。えっと魔族には俺の方が先にあうことになったね。へへ、うらやましいか。ま、お前も直ぐに会うんだろうけどね。そうそう。ところで勇者のお嬢様はお元気か。始めて見たときは驚いたが魔族の住まう地にいる今思うとあれはあれでいいような気もするな。従者の役目、頑張れよ。トウサ。俺も頑張るからね。

 それでだ。結論から言うと、俺、魔族王に会ったぞ。

 だけど、まずは、魔族領に潜入する前にお前たちを待ち受ける勇者の登竜門イグ=チリで魔族の姿を観察したのを報告してから、だね。そこで見た魔族はこう眉毛の上あたりから角が生えていて、美形ばかりで、警戒もせずカード遊びに興じていて、いかにも堕落し誘惑しています、というオーラを出していたからね、俺も観察し始めた最初はどういう性質なのか看破できなくて困ったことをまず書いておく。実際、てきとーに造った角をくっつけたばればれの変装で「魔族の皆さん、ご機嫌いかが」とマジックス列伝に描かれるプストフェロスの真似したりして打ち解けるまでは散々悩んだね。それからカード遊びに混ぜてもらったんだが、意外によく出来ていてびっくりしたよ。あれ。星民4族にあわせた区分と伝承話が上手くまとまっていて本当びっくりした。うん。どうでもいい話だね。観察していると、そうそう、お前も気をつけたほうがいい、こちらもだいぶ観察されていたからね、あれは。特に魔道の話には俺もつい引き込まれてしまって、相手の質問にも大分答えさせられることになったからね。あそこで得た情報は今思うとあまりなかったね。そこで知ったことといえば魔族社会では高位の時魔法と位相魔法は禁忌にふれるらしいこと。そして魔族には変装が効かないことだね。お前に効かないみたいにね、トウサ。

 魔族王が交代するだろうという噂は魔族たちの間でもよく話題に登っているぞ。後、それに関連してだけどね、魔族たちの間にはもう一つある噂があるみたいだぞ。なんでも今暦の勇者で魔族王の統治が終わりを告げ世界は終末を迎えるという予言があるらしい。俺はその噂を利用するつもりだけど、これはいくらお前でも今はそれ以上は言えないね。

 魔族領の横断には神経を張り巡らせてようやくだったよ。イグ=チリから南方4万ポインタの地点から続く大いなる骨の道を進むことに決めたのは他に方法を思いつかなかったからだけどあれは絶対止めたほうがいい。魔道を弱める結界が施された土地へと踏み込むと、勇者カーズが数百の手勢と共に進んだという、死の台地を越え、絶望の峡谷にかかる気泡の浮橋を渡り、見たこともないような巨大な、不気味な怪物と渡り合いながら深緑の森を漂うこと数日、硝子の海を眼前に8千ポインタもの長きに渡った骨の道を抜けたときは、まだその道が先へ先へと続いているような気がして何度も振り返ったね。全く、時魔法が使えないのがあんなに不便だとは思わなかったね。

 それから斜めへの北上のルートには5万4000ポインタ分の移動の大半を飛ばして俺の5日間の行程は終わりを迎えた。目指す魔族王宮は巨大の一言に尽きたけど、おかしなことに街は見なかった。魔族王の離宮としての役割なのかと想像している。見た目は重奏する幾何学模様、そんな感じかな。マジックスのそこで俺は魔族王に面会の許可を得るために、お前の真似してやったぞ。「魔族王テウソ、あなたを盗みに参りました」てね。

 それから丸一日の後、魔族王に伴われて俺はようやく集団が暮らす集落とでも口にすべき地へ招待された。それまで出会ったのはイグ=チリで人を見慣れた魔族と、恐ろしく強い怪物たち、そして魔族王とその側近数人だけだったから、俺はそのとき巷の魔族本と照らし合わせながら思ったね、『真の現代魔族社会との最初の接近者は盗賊であった』とでもトリスの奴に向かってあいつの口真似で言ってやろうってね。その機会はちょっと逸してしまってね。永久に来ないものになってしまったようだから話の種に俺がそんな感想を抱いたことをお前への手紙に載せてやることにする。

 俺が魔族の地で出会った一人の魔族について記しておく。ユースト=フレイスラ。これから、こいつのことを書かなければならないのだけど、どうしても書く筆が鈍ってしまって困る。前魔族王にして伝説のスメヌースについてはお前も知っているよね。そのスメヌースが2万の兵と精鋭強襲部隊を率いる勇者カーズとの戦いで深手を負いながらも勝利を収めたことも。これから先のことは手紙でどう現したらいいのだろうと俺は悩むぞ。本当にね。トリスのやつに誘惑石の調達を頼んだのもこの話しに関係しているのだけれどね。そうそう、そう言えばトリスのやつがお前に頼まなかったのは俺のミスだと激しく責めるからこの場を借りて謝っておくことにするね。お前の能力は誰よりも知っているつもりだし、つまらないことは考えないで欲しいと願うよ。

 いけない、もうこんなに紙面を使ったのか。

 と、そう丁度今嘆いたところ。新しい手紙を付け足すついでに記してやる。必要なものほど上手く書きつくすことが出来ないものだとそう思うよ、トウサ。ユースト=フレイスラのこと。ユースト=フレイスラ。魔族の子供、だね。ああ、性別は、魔族はどちらか分かりにくい感じがする奴らもいるのだけどこいつは確かに男の子だ。なにから書けばいいかな。そうそう、こいつは俺が魔族社会であった最初の子供だ。魔族の長命は有名だけどここまでほとんど子供は見ていないね。このことも何かあるのかもしれないな。フレイスラは何をしていたのかというと、この集落の食料庫の番人見習いみたいなこと、あと、家畜を追ってみるようなこともやっていたな、用は子供ができる雑用を手がけていたようだね。俺があまり生活に関することを詳しく書けるタイプではないのはお前の方がよく知っているだろうから詳しいことは省くことにするね。魔族の集落は、といってもこの集落は、純粋魔族は住んでいないのだから

 書き忘れた。フレイスラは魔族ではあるけど魔族とだけは言えないことを伝え忘れていたよ。いくら俺が達人的弁舌を持っていたとしても、また、人付きのする愛想を真似ることが出来るとしても、またまた、風の民トーリの伝説上にあるナルーズのような魅力があったとしても、一日で魔族の重要集落へと案内してもらうことは出来ない相談だろ。案内されたのは必然、まだ信用できない俺にも明かせるような土地ということになるね。つまり、案内されたのは魔族ではあるけど魔族とだけは言えないフレイスラのような魔族が住む集落だったわけだね。俺への配慮もあったのかもね。どうせ配慮するんだったら噂に聞くアスアの方がよかったけどね。ともかく半人半魔。差別語では忌み子、だったかな。スラングはあまり覚えていないから。盗賊だったらそういう言葉を使いこなすべきなのだろうけどね。どうやらその名は魔族領でも“特別待遇”を受けているみたい。憤るべきなのだろうかは、よく分からないや。ただ俺が案内された限りでは彼らは自由に見えたよ。でも、噂に聞く皇樹玉を用いた都市型の開発は行われていないみたい。魔族領に着いたら是非見てみたいものの一つだったんだけど。ここは中核から外れた土地なのだろうと思う。のどかな農村だよ。一緒に探索に加わったイカヘンナの村を思い出させる雰囲気だといえばお前には伝わるかも。

 フレイスラについてだったね。ニチシラネン病。この病については博識なお前も知らないと思う。俺もこの手紙に書くことが起こるまでは知らなかったから。後で魔族領において忌み子が必ず通る道なのだと魔族王は語ってくれた。必然なのだと。結論から言うとフレイスラは魔族の用意した料理に舌包みを打つ俺を親切に食料庫に案内してくれた後、目の前で突然に倒れ込み、そこで俺は誤った対応を取ってしまったんだ。始めのほうに書いておいただろ。魔族は高位の時魔道を禁忌としていると。だから脈と魔道の流れが消えたフレイスラの小さな体に俺は聖魂伝儀の秘術を施そうとしてね。ここから先の話は高度に魔道学的な話しで教えてもらった俺にも理解できていないし、伝えることはなおさら困難だから、魔族王にも説明して貰ったもののうち記憶にある分だけ書くことにする。それで許してくれるよね、トウサ。

 いけないまた紙面を使いすぎた。もう一枚、かな。読むのに飽きたらごめんよ、トウサ。もう暫く続くから。

 純粋な魔族や純粋な人であればこのようなことはありえないことだがと、魔族王テウソはフレイスラの置かれた状況を確認するとそう前置きしながら語り始めた。“聖魂伝技は降り注ぐ聖魂を輪廻の枠に沿い抽し、常に崩壊する位相の一体性を在りしときの姿に回復するギフトであるから”とそういう調子で続いたと思う。“従って聖魂に刻まれた寿命そのものを覆すことは困難を極めるのだよ。いまさら言っても仕方がないことだが君が行う行為は魔族領において”魔族王は俺を責めることはしなかったけどそれが余計俺に何かを負わせて来るのさ。トウサ。こんな感覚になることは余りない俺だけど、過ちを盗みとる機会があるとするならお前だったらそうするだろう。だから俺は方法を尋ねたね

 少し筆が走りすぎたね。魔族王の説明はこう続いた。“彼の肉体上の寿命は確かに尽きていた。だが、彼は混血だ。TERSだ。彼の聖魂における寿命はこの程度に病では尽きはしない。ここに住まう彼らTERSは人としての肉体が寿命を迎えた後”この辺りの話しは詳しくは分からない。“客人よ。この少年はその受け継ぐ聖魂が余りに巨大すぎたのだ。その全てを引き止めたがために彼の聖魂に付随するはずだった位相としての肉体を保ち得なかった。TERSであるこの少年の聖魂としての部分だけがこのように”魔族王が捕まえようとして失敗するフレイスラのふわふわ浮かぶ実態のない姿は、怪物たちの一部にも見られるあの不確実な揺らぎの姿に似ていたかな。“マジックスか、あるいはゴースト族の御業の中にはこのような状態に関しての伝聞が残されていると聞いたことがあるが”

 ここまでくればもう書きつくしたも同然だね。“霊魂連結石に位相と記憶をつなぐ働きがあると聞いたことがあるが”始め霊魂連結石といわれても何のことだか分からなかったからもう一度聞き返すと、そこにお前が語ってくれたマジックス伝承に似た名前が出てきたような気がしてもう一度同じことをたずねかえしたぞ、俺。“客人よ。あなたたちの世界では誘惑石と呼ばれているもののことだ”

 そういう経緯で俺はトリスに頼んで探してもらった誘惑石を手元に持つことになったわけでね。そういえばトリスのやつが何に使うのかしつこく聞くのはどうしてだったんだろうね。何度も聞くからこのややこしい話を説明して用途を答えてやったけど。何を不安に思っていたのかほっとしたような顔をして“何だ、そんなことか”だってさ。全くトリスのやつ俺が何に使うと思っていたんだろうね。

 それじゃ、トウサ。俺はこれから過ちを盗み取ろうと思う。フレイスラについてはまだ伝えきれていないことがあるけど、トリスのやつが書くなって言うからここで終わりにしようと思う。紙面がいっぱいだし、これ以上は書く気力も尽きたから。もうしばらく真っ白な紙面を見る気にもなれない。

 いつもどおり挨拶に代えて。

 風かみ吹きて言葉ちらす前に楽しき夢あるかな。

 ヨギより〉

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