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 そして、今現在こうなっている、というわけなのよねー。

 ようやく息遣いが元にもどり、一度大きく深呼吸してそろりと廊下を見渡してみる。

 よしっ!敵影イケメンなし!

「お、花月。九条が探してたみてぇだぞ?」

「う、うぅわっあぁああ!?」


 ほっと息をついた次の瞬間に思わぬ方向から声をかけられて飛び跳ねてしまう。慌てて振りむくと、そこには両手をポケットに突っ込み、猫背でこちらを見下ろす無精髭を生やしたおじさん…ではなく、霧島先生の姿が。


「せせせせ、先生!脅かさないでくださいっ」


 先ほどとは違う意味でドキドキと音を立てる胸に手を当てて大きく息を吐く。


 また鬼が来たかと思った…!

 はぁ、びっくりした!


「あぁ~。すまん。驚かせるつもりはなかったんだが」

 思わず涙目で睨みつけると、霧島先生は苦く笑いながら右手でぼりぼりと頭をかいた。

 ゆる~く気の抜けた声で「ははは」と笑う姿がいつも通りで、こちらも肩から力が抜けてしまった。

やっぱり、霧島先生といるとほわ~んってなるなぁ。

 決して気弱ではなく、むしろ高圧的といえるような態度なのに、いつも猫背なせいか、だらしなくて腰の低い印象を受ける。声もわりと低くて、口を開けば渋く色っぽいはずが、たばこを吸っているせいで少し掠れただみ声が響く。どこをとっても完璧とはいえない少し抜けているところが、私は結構気に入っていたりする。一緒にいると落ち着くのはそのせいかもしれない。


 …にしても、鬼め。まだ諦めてないの?

 もう執念に近いんじゃないの!?

「霧島センセ。私、もう帰るから九条君に会ったらまた明日って言っておいてくれない?」

 私は明日も話すつもりはないがな!

 心の中で舌を出して、当然顔には出さずににっこりと先生に微笑んでみせる。

「そうしてやりたいのはやまやまだが、そいつぁ無理だな」

「…え?なんで?」

「ホレ。そこにいんぞ」


 ………え?(汗)


 ギギギと、機械仕掛けのように首を動かし後ろを向くと、うっすらと上気した頬に汗をかいた輝く人が、そこにいた。

「やっと、見つけた。」

「く、九条君…」


 うっわ、やっば!どうしよ~。

 内心滝のような汗を地面にぶつけながら、ひきつった笑みを浮かべる。

 輝く人(九条君)は、はぁはぁと息を吐き出しながらも私を見て嬉しそうな笑みを浮かべた。それこそ、道行くお嬢様方が振り返って歓喜のあまり気絶してしまいそうな威力の笑顔だ。

 相変わらずイケメンですね。眩しくて笑顔が見えねーや、ハハハハハ。

「おー、九条。見つかってよかったな」

「はい、先生。ご協力ありがとうございました」


 私が現実逃避している間に、霧島センセは「じゃぁなー。さっさと帰れよー」と言葉を残してさっさと立ち去ってしまった。

 て、ちょ!待ってセンセ!待ってよ~~~~!

「せんs「やっと、話ができるね」

 おい、セリフ被せんな!(怒)

 にこやかに話しかけてくる九条を前にイラッとしながらも、二重、三重に猫をかぶってふふふと笑い返しておく。


「ねぇ、花月さん。最近、僕の事避けているよね? さっきも逃げていたし……、僕、何かしたかな?」

「そんなこと……」

 うわ、ばれてらー。

 いつかバレるとは思ったが、意外と早かった。


 困惑したように少し俯いて、どうにか逃げる算段を立てようとするもこれまで避けに避けていた分、逃げ場もなくなりかけていた。

「急に追いかけてきたから、びっくりしちゃって」

(そもそも、最初に逃げたのは私ですけど。)

 ごめんね、と呟いて少し前まで鬼の形相をしていた九条を恐る恐る見上げてみる。

「そっか。そうだよね。急に追いかけたらびっくりしちゃうよね。僕こそごめん」

 うん。人間に戻ってた。良かった!

 上気した頬で、軽く首を傾げる姿は、年上のお姉さま方のハートを乱れ打ちしたに違いない。この場に私しかいないのが残念だ。そういう言う私の心臓も、あまりのイケメン面にドキドキと音を立て、かーっと顔に熱が集まってくる。

 いくら私でも今世では今まで恋人なんていなかったし、カッコイイと思った人はテレビや雑誌の中だった。現実でイケメンと接する事なんてなかったから意識してしまう。


「あ、のさ。話が……あるんだ」

「う、うん……」

 うっわ、この雰囲気無理!無駄にピンク色のオーラが周りに漂っている気がする!

 ないわー。鳥肌が!と思いつつ、顔から熱が引かない為、そして光り輝く九条の顔を見ない為に俯いたまま返事を返す。

 これで相手が霧島センセだったら……いや、それもないな。

 あの先生相手にこんな甘い雰囲気になるはずもないわー。HAHAHA☆


「実は、僕…………」

 真剣みを帯びた声がして、脳内爆笑中だった私の分身たちが途端に四散した。

 九条は私の両手を取り、震える冷たい指先でぎゅっと握りしめてくる。

「君の事が、好きなんだっ」

「ぇ……」

 突然の告白に反射的に顔を上げると、汗で張り付いた髪をそのままに真っ赤な顔で真剣にこちらを見つめる瞳とぶつかった。

 瞬間、時がとまる。






 頭の奥が白くなり、ぼんやりと白昼夢を見た。

 コントローラーを握った“私”が、ソファに肩肘をついてニヤニヤと画面を見つめている。

『君の事が好きなんだ!』

 そう叫んだ九条公人の美麗な顔のアップが画面に表示され、またしても美人化された“私”が、告白に胸をときめかせた表情で彼を見つめている。二人の背景に散るキラキラした星たちの効果音が聞こえそうだ。


 ・・・っかぁあああああ!

 こんな顔してないってーの!

 何によによしてんの、私!実際はそれどころじゃないんだからね!

 頭を抱えて呻いていると、画面から明るい軽快な音楽が流れはじめる。それと同時に、ふっと私の意識は目の前の九条氏へと戻ってきた。

 彼は相変わらず、熱い目線を私に送っている。




 思 い 出 し た !


 嗚呼、またしても大変な事を思い出してしまった。

 イケメンを前に、口から白い魂がふわ~と抜けていくような気がする。


 今のデジャヴュ的な映像で思い出したけれど、これもゲームのシーンの一つだった。しかも、オープニングの。

 1年の時に何も気づかなかったわけよ。これは!

 だってこのゲームの本編は、2年生から始まるのだ。しかも、この万能人間、九条公人の告白を切っ掛けに!


 1年生の時、勉学への態度や行事に真面目に参加する姿勢に好意を持ち、私に恋心を抱いていた九条公人が、2年生でも同じクラスになったことで告白してくる、というイベントによってこのゲームは始まりを迎える。

 入学~1年の終わりはオープニング扱いとなり、ゲームのシステムや学校行事に慣れてもらうための簡易説明と主人公の育成パートとなっているのだ。狙っている相手が3年生なら、この時に出会っておかないと攻略できずに相手はそのまま卒業してしまう、というシビアな面もある。


 言わずもがな、1年の時はゲームの世界だなんて気づきもしなかったから、真面目に楽しく学校生活を送っていた。その姿勢を見て、九条が好意を持ったというのなら、なんてこった!ゲーム通りに進んでいたということだ。

 ちなみに、3年の攻略対象が誰だったか思い出していないため、今年卒業したその相手と1年の時に知り合ったかどうかは定かではない。ああ、会っていませんように……!!



 ちらり、と上目づかいで九条を見てみると、とろけるように甘い表情でじっと私をみつめていた。



 どうしよう、目の前に選択肢が浮かんで見えるよ・・・。


【  付き合う  】 ←

【 付き合わない 】


 確か初回プレイでは選択肢はなく、強制的に「ごめんなさい」の方向へ話が進んだはずだ。

 そして、学園生活で様々なイベントや出会いを経て、最終的に誰かと恋仲になる。その場合、九条との好感度が高いと「やっぱり諦められない」と、卒業前にもう一度九条に告白されるイベントもあったように思う。

 2周目以降、選択肢で九条と「付き合う」を選ぶと、最初から恋人関係のイベントが発生し、他の異性と仲良くなると、三角関係になったり、九条と別れて他の人と付き合うことになったり、初回とは別の流れを楽しめるという少し凝った内容だった。

 余談だが、2周目以降、「付き合わない」を選択して攻略対象全員と仲良く過ごすと大団円(逆ハーレム)エンドを迎える事ができるとか、できないとか……。


 いや、今はそんなことはどうでもいいわ!


 ゲームの内容は細かく思い出したけれど、今はそれどころではない。

 まるで私の選択を促すかのように、空中に浮いた文字の横でピコピコと点滅する矢印が時間をおいて「付き合う」、「付き合わない」の文字を行ったり来たりしている。

 九条は、ただひたすら優しく私を見つめるだけだ。


 選択しないと先に進めない(帰れない)って事ですか?(涙)


 人気のない校舎に、夕暮れの茜色の光が差し込み、オレンジ色に染まっている。

 私はただ呆然と立ち尽くしていた。





一体、どうしろっていうのよーーーーーーーーーーーー!!!!!








中途半端に見えるかもしれませんが、『始まるようで始まらない物語』という事でご理解いただければ幸いです。


最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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