第8話 【パトライトは突然に】
宿へ向かう道は、妙にざわついていた。
行き交う人々の視線が、ちらちらとこちらに落ちる。
「……おい。」「見ろよ、マグロだ。」「本物か?歩いてるぞ……」小さな声。
だが、ダークエルフの耳にははっきり届いていた。
純増は眉をひそめる。「……ん?」少し歩調を緩めた。横に並ぶダークエルフに声をかける。
「ねぇ、気に障ったらごめんなんだけどさ…一つ聞いていい?」「……はい」彼女は小さく答える。
「みんな、君のこと知ってるの?マグロ、マグロって……」
その言葉に、ダークエルフの指先がわずかに震えた。次の瞬間、ぽろぽろと涙が落ちた。声は出ない。ただ、静かに、こぼれるように泣いていた。
「ごめん!!」純増は即座に両手を振った。
「ごめんごめんごめん!!嫌だよね、そういうの!自分ではめっちゃ頑張ってんのにさ、意味わかんないこと言われるの一番キツいよな!ほんとごめん!」
純増は彼女の手を取った。
「よし、早く行こう!」少しだけ強く引く。
「今日はもう休もう!」ダークエルフは、引かれるままに歩いた。涙は止まらないまま。
◇◇◇
宿は古びた木造だった。
カウンターの男は、ダークエルフを見るなり顔をしかめる。
「……マグロと泊まるのか…」
「あはは、すいません。静かにしますんで…」
「頼むぞ。本当に…面倒は御免だからな」どこか警戒した目だった。
だが純増は気にしない。部屋に入る。木の床。狭いが清潔な一室。
「ふぅ……」純増は荷物を置くと、ぐるっと見回した。「いやぁ……異世界の宿ってこんな感じかぁ」振り返るとダークエルフは、部屋の隅で正座していた。
「……え?いやいやいや!」純増は慌てる。
「座るならこっちに座って!普通に!そこじゃなくて!こっちこっち!少し話しもしたいしさ!」
ダークエルフは静かに首を振る。
「私は……ダークエルフです。“マグロ”と呼ばれ、忌み嫌われる存在…なぜ、こんな私を買ったのですか?」部屋が静かになる。純増は一瞬だけ黙った。
「えっと……」少し考える。
「“マグロ”の意味ってそっちのことなんだ……」ぽつりと呟く。そして、笑った。
「選んだ理由?」軽く笑顔で頭をかく。
「心のパトライトが回ったから、かな?」
「……?」意味は分からない。でも、その言葉と笑顔は妙に軽かった。
張りつめていたものが、ほんの少しだけ緩む。
ダークエルフの目がわずかに信頼に揺れた。
「……名前はなんて言うの?」純増が聞く。
「名前……?」「そうそう、名前知ってるとさ、なんかこう……いい感じになるでしょ?興奮するというか…」「……?」また意味は分からない。だが、純増の言葉には悪意がなかった。
「私は……名前を持ちません。そういうものです」
「へぇ……」純増は腕を組んだ。「じゃあさ、俺がつけてもいい?」
ダークエルフは少しだけ目を伏せる。
「……ご主人様のお好きに」「うふふ、じゃあ決まり」少しだけ間を置いて。
「ジュリナ!ジュリナなんてどう?」純増はそう言った。「今日から君はジュリナ。」
「……ジュリナ。」彼女は小さく繰り返す。
「かしこまりました。これから私は……ジュリナと名乗ります。」
その言葉に、ほんのわずかな違和感が混ざる。
(んっ?今日だけじゃ……ないの?)でも、純増は気づかない。なぜならもうすでに気持ちが先走ってるから。
「よし!」満足げに頷く。「じゃ、ジュリナ、シャワー行こっか。」ジュリナは静かに頷いた。コクン、と。
その従順さは、優しさなのか、それとも、、
扉が閉まる。水音が落ちる準備を始める。
夜は、まだ始まったばかりだった。
◇◇◇
シャワーでジュリナに洗ってもらい、二人はベッドへ戻る。
ジュリナは静かに口を開いた。
「あの、ご主人様……最初なので優しく……お願いします。」
(ふふふ……今日、俺とが初めてってことね…)
純増は軽く頷いた。「了解!!」
◇◇◇
一時間後➖➖➖
静かな部屋。純増は天井を見ながらタバコの煙を吐いてぽつりと呟いた。
「ジュリナ……全然マグロじゃないじゃんっ!!」
「??……申し訳ございません…。お気に召さなかったですか!?」
ジュリナは小さく頭を下げる。純増は腕を組んだ。
「いや、めっちゃお気には召したんですけど……。ところで今日は、何時までOK?」
「ご主人様の……気が済むまで大丈夫です…」
その瞬間、純増の目が見開かれる。
キュイン♪キュイン♪キュイン♪
脳内でパトランプが回る。
「ふぁぁぁっ!パトランラ〜ン♡」「きゃっ♡」ジュリナは小さく声を上げ、覆い被さる純増にそのまま軽く抱きついた。
続
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