第1話 【フリーズ引けたら死んでもいい】
騒がしいホールの中、一人の中年男性が液晶を睨みつける。レバーを叩く。止める。何も起きない。
「違う……違うだろ……!そうじゃないだろ…」
碼樽純増は財布から千円札を取り出し、サンドへ突っ込んだ。
吸い込まれる。また吸い込まれる。今日だけで何十枚目だ。
「頼む……!何でもいい!確定役でもレア役でもいい!チャンスをくれっ!出来たら元だけ返してください!」レバーオン。スン。何も無し。「おぉぉいっ!頼むって!」
また千円。また飲まれる。またレバーオン。スン。
「もう勘弁してくれ!分かった!今日で引退する!本当だ!だから最後に勝たせてくれ!」
店内に響く電子音。誰かの笑い声。自分の台だけが酷く静かだった。財布を開く。残っていたのは、最後の千円札一枚。純増はそれを両手で持ち、天を仰いだ。
「頼むっ……!」千円をサンドへ入れる。
「元でいい!元で手打ちにしてくれ!」レバーを叩く前心の底から祈った。「……フリーズ引けたら、もう死んでもいい!!」体重を乗せたレバーオン。
その瞬間だった。『➖➖本当に?』
誰かの声が聞こえた気がした。
「えっ?……あ?」レバーが下につくかつかないかの次の瞬間。
グゥゥゥゥゥン……。台全体が震えた。液晶がテレビを消したみたいにブラックアウトする。
「う、うそ……引けた…」
フリーズ。本当に引いた。黒い画面に、自分の顔が映る。口角は耳まで裂けそうなほど吊り上がり、目は血走り、まるで獲物を見つけた獣だった。
「……キモっ。」自分でも画面の顔に引いた。だが、もう笑いは止まらない。
「ははっ……。はははははっ!ぬはははははっ!!」
神の左手。神の引き。これだからスロットはやめられない。数時間後。純増はドル箱を抱え、満面の笑みで特殊景品に変えて店を出た。
「ぬははっ! 神の左手を見たか!」
勝った。今日は最高の日だ。人間、こんな日に死ぬわけが➖➖➖ズガゴンッッッ!!
「……え?」何が起きたのか理解する間もなかった。世界がぐるりと反転し、意識が闇へ沈んでいく。
◇◇◇
「……おーい!誰かいますかぁ?ここどこですかぁ?スロット打ちたいんですけどぉ」真っ暗だった。上下も左右も分からない。純増はゆっくりと立ち上がる。
「おーい!誰か聞いてんの?ここどこだよ!?」返事はない。「くそっ!誰もいねぇのか…何で真っ暗なんだよ。こっちはもう脳汁ブッシャーしたいのに…」
トボトボと歩き始める。すると、キュイン♪
聞き慣れた澄んだ電子音が、闇の中に響いた。
純増の足が止まる。「……おい…今のって…」
もう一度。キュイン♪純増の目が輝く。
「間違いない!今の確定音じゃないのか!?」
全力で走る。音のする方へ。やがて、闇の先に五つの扉が現れた。
青。黄。緑。赤。そして、虹色。
純増は迷わなかった。「……こんな確定演出、一択だろ!」ニヤリと笑う。そして虹色の扉へ手をかけた。
ゆっくりと開く。眩い光が、闇を切り裂いた。
続
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