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プロローグ
世界は、光と闇に分かれている――そう教えられてきた。
光は人の住む場所に宿り、闇は魔王の城に集う。
勇者は光から生まれ、魔王は闇から生まれる。
それが、この世界の“当たり前”だった。
だが、その夜だけは違った。
空は裂けたように歪み、星々は息を潜めていた。
まるで世界そのものが、何かを見ないようにしているかのように。
魔王城の最奥。
誰も近づくことの許されない、深い闇の中。
そこに、“それ”は生まれた。
産声はなかった。
ただ、静かに――あまりにも静かに、命が灯る。
玉座の前で、それを見下ろす影がひとつ。
「……また、か」
低く、押し殺した声。
その声には怒りも喜びもなく、ただ諦めに似た響きがあった。
影はしばらく動かなかった。
やがて、ゆっくりと手を伸ばし――
ほんの一瞬だけ、ためらった。
「今度こそ……」
言葉は最後まで紡がれなかった。
次の瞬間、闇が揺らぎ、気配は消える。
そこに残されたのは、小さな命だけだった。
そして同じ頃――
遠く離れた人間の村で、ひとつの光が生まれる。
祝福の声。
喜びに満ちた涙。
“勇者の誕生だ”と誰もが疑わない、まばゆい奇跡。
けれど。
その光は、ほんの一瞬だけ――
まるでどこか遠くの闇に呼応するように、かすかに揺らいだ。
誰も、それに気づくことはなかった。




