第27話 エピローグ 本音と嘘のあいだで
春の風が桜の花びらを舞わせる4月、明鏡学園は新学期を迎えていた。
3年生になった教室では、クラス替えで少し席順が変わっていたものの、偶然にも湊とひなたは再び隣同士になっていた。
「なんだか懐かしいね」
ひなたが小さな声で言った。
「そうだな。去年の今頃は、ひなたがいつも嘘をついてた頃だな」
「も〜! 今さらそれを言わないでよ!」
ひなたは頬を膨らませたが、すぐに笑顔に戻った。
「でも……あの頃に戻れるなら、もう嘘なんてつかないよ」
放課後、二人は学園の「願いの藤棚」の下に立っていた。
七色の風鈴が風に揺られ、かすかな音色を奏でている。
「ねえ、湊くん」ひなたが小さな声で言った。「覚えてる? 最初に会った夏祭りのこと」
「ああ」湊も穏やかな表情で答えた。「あの日、俺は初めて他人の本音を見抜いた。泣きたいのに我慢してる少女の気持ちを」
「私も初めてだったの」ひなたは湊の目をまっすぐ見つめた。「初めて誰かに本当の気持ちを見抜かれたの。そして……初めて本当の自分でいいんだって思えた」
風鈴の音色が二人を包み込む。
「嘘つきな私も、嘘を見抜く湊くんも――」
「これからは本音だけを大切にしていこう」
湊が言葉を継いだ。
「違うよ」
ひなたはゆっくりと首を振った。
「嘘も大切にしようと思う。だって、嘘があったからこそ、私たちは出会えたんだから」
二人の手が重なる。湊の首には四葉のクローバーのペンダントが、ひなたの首には星型のペンダントが光っていた。
幻影スポットの風鈴が風に揺れ、七色の光を放ちながら音色を奏でている。
その音は、湊とひなたの心の中で永遠に響き続けるだろう――嘘も本音も全て包み込み、未来へと繋がる音色として。
(了)




