人生やりなおし
「お前マジで出ることになったのか?」
「そうだね・・・明日でここともおさらばだ」
「そうか・・・じゃあな」
俺はここから出ることになった。
どうやら俺の無期懲役は他のものとは少し勝手が違ったらしく、「上」からの無言の圧力が伴った要請があれば監獄から出ることが出来るらしい。
今回の場合、「上」を指すのは国営の怪獣討伐隊である。
国営の討伐隊がメッセンジャーとしてミクロさんを寄越した理由は謎だが、そのお陰で俺はここから出ることができるわけだ。
正確に言うとこの制度は他の囚人にも設けられているのだが、俺の場合は外に出れる期間に制限が設けられていないらしい。
当然の話だが、外に出た程度で犯罪者のレッテルは消えない。
当然罪を犯せばもう一度監獄に戻されるわけだ。
が、極悪犯罪人を外に放り出すわけだ。
そのくらいのリスクは当然だろう。
「まあ、元気にやれ」
隣の囚人(国家転覆罪)からの応援の言葉を受け取り、俺は明日の出発に向けて寝ることにした。
翌日、別に持っていける荷物も無い俺は手ぶらの状態で待合室にいた。
足をぶらぶらさせたりして暇を潰して待っていると、十五分ほどでミクロさんがやってきた。
「おや、どうも」
「問題を起こさぬよう、監視をよろしくお願いいたします」
ミクロさんの挨拶に、腰を九十度に曲げた看守が定型文で返す。
前後左右にいる看守が全員腰を折ったため、俺も雰囲気に呑まれワンテンポ遅れたタイミングでぺこりとお辞儀をする。
顔を上げるとミクロさんも軽く会釈をして、手招きをしてきた。
看守の方を見上げると、「早く行け」というように唇で指示してきたので、指示に従ってミクロさんの方に歩いていく。
ミクロさんと俺が並ぶような位置関係になると、ミクロさんが話し始めた。
「では、今日から預かります。逐一報告はしますので、思うことがあれば言ってください」
「承知しました。他には何かありますか?」
「あぁ、あとはそうですね、アレはいつ頃届きますか?」
「......一週間もすればお届けできるそうです」
さっきまでいた監獄から出ると、ミクロさんは俺を車の所まで案内した。
俺を助手席に乗せるとミクロさん自身も乗り込み、ドアを閉める。
「じゃあ、出発しようか....とはいえ、十分で着くけどさ」
コンピュータが静かな音を立て、車の電源を入れる。
ミクロさんが操作をはじめると車は重力に従ってゆっくりと浮上し始める。
「仕事以外で乗るのは初めてか?」
「ええ、そうですね。一応運転もできます」
「すごいじゃん」
空に引かれた線を基準とした道路を走り、ビル間を駆け巡っていくと、徐々に住宅が集合した場所になってくる。
「事務所に着いたらまずは君を部屋に案内するよ」
「部屋なんてあるんですか?」
「住み込みだからさ、あと一部屋余ってるんだ」
「着替え諸々の荷物は全部用意してあるから安心しな」
「ありがとうございます」
「あと、武器もあげるよ、好きなの選びな」
何から何までフォローされてるな。
案外といい職場を見つけたんじゃないか?と思いを馳せていると、突然爆発音がした。
「うお、このタイミングでくるか」
「怪獣ですか?」
ミクロさんは「多分ね!」と言いながら車を旋回させ、地上に近い位置に向かう。
そんなとき、ミクロさんは俺にこう尋ねてきた。
「さて新人くん、初仕事だ。銃と剣どっちが好み?」
俺は質問の意図を理解し、勢いよくドアを開け放つ。
「剣!」
返答と同時に俺に向かって投げられてきた柄を受け取り、そのまま飛び降りる。
そして柄にあるボタンを押して剣を起動、コスモが結晶化した剣を構える。
着地の直前に4mサイズの4本脚の蜘蛛のような形をしたそれの関節部に一撃叩き込み、後ろに跳躍。
そのまま突進で距離を詰め、右脚と左脚を1本ずつ交互に切り落とす。
左脚を切った体勢でそのまま回転し、殺さなかった勢いを縦切りに乗せ、胴から頭にかけてを2つに捌く。
後ろを振り向くと小型怪獣は塵になって消えた。
剣の電源を切って刃を収納すると、ミクロさんが後ろにいた。
「さて、うちの事務所にようこそ」
目の前には小汚い雑居ビル。
そして【スターダスト事務所】の比較的新しい看板。
俺の新生活が幕を開ける。