殺し屋
「今日の労働は終わりだ。さっさと寝ろよ」
ーーー俺の部屋の扉にロックがかかった。
監獄というものは、案外何も無い訳じゃあない。
それが監獄で半年ほど過ごして得られた俺なりの感想だ。
食事は与えられるし、案外隣人・・まぁ別の犯罪者である訳だけれども、他の囚人との話もできる。
俺の家族(家族と言っていいのかは微妙なところだが)は皆死刑になったが、当の密告者たる俺は死刑を免れている。
とはいえ無期懲役。
非常につまらないものの、人殺しよりかは何倍も愉快な事務作業たちをこなせば、雀の涙程ではあるがお給金もしっかり貰える。
ルキ家にいた頃よりも、何倍もマシな生活だ。
160に満たない小さな背丈、初対面の人が恐怖する程の真っ白な肌と髪、そして白に近い灰色をした目。
変装しやすいように極限まで色素を抜かれて薬漬けにされ、ついでに犬なみの嗅覚やチーターほどの脚力たちを与えられた半人造人間。
それが俺だ。
俺は半年前、所属していた殺し屋集団であるルキ家の情報を全て公安に渡し、お縄にかかった。
理由はぼんやりとしか覚えていないが、人を殺めるのが嫌になったことは分かる。
自分の同じ形をした生命体を、自分の手で殺す。
いつしか、その動作にうんざりし、遂には嫌悪感を抱き始めた。
毒、刺殺、射殺、絞殺、暗殺・・・幾つもの方法をやってきたが、もちろん気持ちのいいものは何一つなかった。
そのくせして、家族には殺せば殺すほど褒められる。
外の世界で言う勉強に当たるのだろう。
地位が高い、権力のある、金を持っている、情報を持っている・・・そんな者たちの権力争いや個人的な恨みの鉄砲玉として用いられていた。
当然金は入るが、それは俺へは回ってこない。
ルキ家のトップとは会ったことはないが、少なくとも戦闘能力は無いと聞いた。
つまり、ルキ家とはビジネスだった。
俺はそれを知って、俄然やる気をなくした。
いや、なくしたよりも、元々無かったと言う方が正確だ。
元々離れようと思っていた世界から、離れる理由ができたからだ。
「なんでお爺様を殺したの!」
「俺はやってないって!」
「嘘つけ!警察に行って自主してきなさい!」
俺はとある任務で執事を演じて、家の住人に殺しの罪を擦り付けていたときに、自首という言葉を知った。
警察があるのは知っていたものの、自分から罪を認めて捕まる・・なんて言うアイディアはその日まで俺の中には存在していなかった。
それを知ってから俺は証拠という証拠をかき集め、三ヶ月後に仕事にいくフリをして警察署に足を踏み入れた。
「自首でいいのかな?がしたいです」
結果、俺はルキ家に関する知り得る情報全てを持ったうえで自首し、その情報を全て公安にぶちまけてやった。
警察に襲われる事なんて考えていなかった俺の家族は一晩で崩壊し、全員の死刑が決定された。
ただ1人、俺だけが死刑を免れ、無期懲役になった。
それから半年間、俺は従順に監獄生活をしている。
別に反抗するつもりは微塵もない。
反抗する意味もないし、自分から外へ出るつもりもない。
命の軽い世界で生きてきたが、人を殺すことがいい事では無いことくらい・・・・・・
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「・・・またこの夢か」
目を開けると、代わり映えのない真っ白な天上。
毛布をどかし、俺はよっこらせと体を起こす。
最近、自問自答の夢をよく見る。
自然に目が覚めたってことは、看守は起こしに来てないのか。
・・・・じゃあまだ起床時刻じゃないな。
時計は無いので時間はわからないが、看守が来ていないということはまだ時刻じゃない。
そう考えもう一度床に着こうとしたとき。
「ベロキ・ルキ、面会の時間だ。」
顔見知りの看守が、扉を開けた。
セキリュティの解除と共に、俺の手に黄色く光る光の手錠が嵌められる。
その手錠は看守の腕へと繋がっていて、看守が俺の腕を引くように歩き始める。
俺は面会室に行ったことがないので、道がわからない。
看守が見慣れない順で廊下を歩いて・・・
「ほら、着いたぞ」
・・・・意外と早いんだな。
「入れ。失礼するんじゃないぞ」
失礼するんじゃないぞ、か。
・・・偉い人なのか?
だとしたら何で俺に会いに来た?
そんなことを考えていると扉が開けられ、セキリュティが解除される。
中に入ると、俺の前には分厚いガラス板を一枚介して一人の男性が居た。
「ほら、座りな」
通話のデバイスを通して、男性の声が聞こえる。
当然、顔見知りですらない。
男性は俺に椅子に座り向き合うよう言ってきたので、俺はそれに従った。
俺が席に着くと。男性はいきなり話し出した。
「君、半年前まで殺し屋してたんでしょ?」
「はあ」
それがどうしたというんだ。
「折角能力があるのだから、活かしてみたくはない?」
・・・活かす?
「ああ、申し遅れたね。僕は個人事務所で怪獣退治をしている。ミクロだ。以後よろしく!」
ルキ家
殺し屋集団としてかなり有名。公安も名前と存在自体は把握していた。
推定六代前から存在している。
自分たちに不利益なことは子孫に伝えていなかった模様。
取り敢えず世間とは隔絶されていた。