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レガシークエスト  作者: 鯣烏賊
殺し屋、娑婆に舞い戻る
12/25

メインウエポン

 時刻にして午前4時。

早起きが体に染み付いた俺は目を覚ました。

俺は今四方八方を悪魔に塞がれている。

俺は人間をダメにする悪魔の道具....ちょっと硬いけど体に馴染んで、暖かい掛け布団にジャラジャラした石みたいな物が入った枕を組み合わせたベッドから体を起こした。

ずっと寝てたい...が、朝日は容赦なく差し込むし、しっかり癖が染み付いた俺の脳みそは睡眠をやめようとするし、極めつけに隣の部屋からの目覚まし時計が容赦なく俺の睡眠を妨害してくる。

断腸の思いで掛け布団を床に投げ捨て、二度寝に体を奪われないよう無理矢理体を起こす。

近くにあった着替えを手に取り、パジャマを脱ぎ捨てて着替える。

放り出したパジャマを持って部屋を出て、洗面所の半分以上の面積を用いて鎮座している洗濯機に放り込む。

この事務所、マトモな依頼が舞い込んで来ず、大抵何かあった時に電話が舞い込んで来るのみなので、応接室がこれでもかと散らかっている。

まあつまり、一般住居でいうリビングのような感覚になっているわけだ。

そんな状況の事務所の古き良き(?)固定電話の上にはとあるカレンダーが括り付けられている。

それはメンバーのオフの日を記入しているもので、休日が1週間に1度回ってくる。

まあ怪獣が出てくると休日は無かったことにされて戦闘になるので、行動範囲は制限されているわけだが。


「お、今日は俺なのか」


 ルキ家にいた頃は本家から貸出されていた趣のある(褒めてない)アパートに1人で住んでいたし、いつ誰がやってくるかも分からなかった。

ので、仕事の依頼がない日も自宅待機。

一度の仕事で二三ヶ月帰ってこないことも多々あったので、そんなときは帰ってくれば俺の住処は忌々しき蛆虫たちの住処へと変貌していて。

帰ってきた直後は蛆虫とカビの退治に追われていたときもあって。

洗脳なのか何なのか当時は何ともおもっていなかったが....今ではすっかり思い出したくない呪われた時間だった。

ああ、記憶に鍵をかけたい。


 俺は近くにあったメモ用紙を引きちぎって近くを散策してくることを記す。

そのメモ用紙をミクロさんの机に無造作に起き、ヒガンバナの飾ってある花瓶を文鎮がわりにして固定した。

俺はこの間ミクロさんに小遣いとして貰ったお金をおおよそ財布とも呼べないものにねじ込み、通信端末と何かあったときのために一応武装を持って玄関ドアを開けた。


 ここに就職してから1週間。

俺史上、初めての休日である。


「今日はどこに行こうかなー」


 初の休日に、30日の休みでも貰ったかのようなワクワクした気持ちで予定を考える俺。

だがしかし、時刻にして午前4時半。

世間を知らない俺がどの店もやっていない事に気づくのは、もう30分くらい後の話だ。



















 時刻にして午後2時半。

さびた金属を引っ掻いたような不快なチャイムの音が応接室に響き渡る。

絶対に耳に悪い音だが、リンはもう慣れた。リンは周りを見渡す。

ベロキはどこにいるかわからない、ミクロとアロは応接室にいない。

今応対できるのが自分しかいないことを理解したリンは、母親とのチャットを取りやめて重い腰を上げた。

今日は何も無いと思っていたのにな、と少し残念な気持ちになったが、これではいかんと意識を切り替える。

今のリンはバリバリ仕事モード(自称)だ。

鍵を上げ、ドアノブに手をかける。


「はーい、今出ますー」


 信じ難いことに旧式の手動キーであるドアを開ける。

そこには格闘家かと見紛うような体格の男が2人と、30手前程の落ち着いたなりと態度の女性がいた。

3人とも微動だにせず、蝋人形なのでは、と思ってしまうほどに無表情だ。

何を話していいか分からず、リンだけが気まずい気分になる中、女性が口をひらいた。

そして、肉声か巧妙な合成音声とも取れないような声で話し始めた、


「レスパ長官の命により、お届け物に上がりました」


レスパというのは、公営の怪獣討伐隊の長官の名前だ。

なんの前触れもなく出された公営の討伐隊の長官の名に、リンは驚いた。

この業界に関わったことがあるのなら一度は名前を聞いたことがあるはずの名だ。


「...ああ、どうぞ入ってください。」


 リンは3人を室内に招き、応対用の机前にある長椅子に座らせる。

まともに機能するのが数ヶ月ぶりの机に散乱した資料や書類をひとまとめにしてミクロの机に起き、冷蔵庫から簡単な飲み物を出す。

女性は座った後、うしろの男に合図すると、男からいかにも頑丈そうな箱を受け取った。


「間違いありませんでしょうか」


 お偉いさんからの派遣でも言い文句は配達業者と変わらないのか、と変な思考に陥ったリンだが、相手への返事には心底困った。

なにせ、何かを受け取る用事もなかった上に記入されている品名が理解できない。


固有武装(オンリー・ウエポン):(シュリュッセル)


 固有武装。

高度な技術を持つ職人や、通常武装に機能を詰め込みすぎたものなどに与えられる名。

唯一無二の性能を持ち、複製することが難しい事で知られている。

中には使用者や周りの人にまで危険が及ぶ可能性もある危険武装もある。


 リンは首を傾げた。

この事務所に固有武装を持っている人はいない。

この事務所どころの話ではない。近郊で固有武装を所持している人なんていない。

そもそも固有武装なんて易々と見れるような代物ではない。

それこそ、大きな活躍を納めてメディアに露出するような人が持っているものだ。


「あー、お勤めご苦労様ですー」


なんでこんなものがここに届いたんだ?と考えていたら、後ろからミクロの声が聞こえた。

リンがこんな応対に首を突っ込むなんて珍しいな、なんて思っていると、ミクロは首にかけていたチョーカーを外し、なにかスキャンする機械のようなもので読み込みをさせた。


「ありがとうございましたー」


「...なんですか?ソレ」


 リンはミクロが持っている腕輪の様なものを指さした。

黒い腕輪で、なにやら細かく紋様や文字がかかれているものだ。

ミクロがチョーカーをスキャンしたときに箱が開き、ミクロが受け取っていたものだ。


「ああ、これか。ベロキが帰ってきたら渡しといて」


 ミクロは腕輪をコトンと応接室の応対用の机に置いた。

改めて見てみると、かなり細かい造形だ、という印象をリンは受けた。

黒を基調になにやら赤ともオレンジとも言えない色の線が伸びていて、それが腕輪の側面の中程にたどり着いたあたりで文字がかかれている。

腕輪の内側には1つだけ小さな穴が空いていた。

その穴に向けて線が集中して伸びている。


(なにか、エネルギーを送る装置なのかな?)


 その後数十分考えてみたリンだが、答えが出ることはなかった。

結果、この腕輪は6時間ほど忘れ去られた存在に成り果てた。


















 時刻にして午後8時。

俺は帰宅した。

まずは近くの公園の近くにある建物の屋上で3時間ほど睡眠をとった。

次に

そして最後にこの間のお風呂に行き、残りの時間を全てそこで過ごした。

改めて考えたら信じられない時間をお湯の中で過ごしていたが、俺なりに楽しかったからそれでいいんだ。たぶん。

事務所に帰ってきた俺は家を出たときよりかは遥かに綺麗になった応対用机の上に見慣れた腕輪...「鍵」が置いてあるのを見つけた。

え?誰も見てないのこれ、結構貴重らしいんだけど...。

俺は「鍵」を持ち上げて腕につける。

少し動かして動作確認、穴から針が出てくる感覚もある。


「久しぶり、俺のメインウエポン」


 大体7ヶ月ぶりの再会だ。

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