殺し屋、娑婆へ舞い戻る その11
どこかも分からない建物の真っ暗な部屋の中。
すこしでも体を動かすと、そこらじゅうに瓦礫やゴミやらが散乱しており、足の踏み場もないことが簡単に感じ取れる。
「....................そろそろかな。」
けたたましいほどに鳴り響いていた爆発音は、ちょうど10秒くらい鳴り止んだ。
俺がリンさんの攻撃の余波を食らってここまで吹き飛ばされてからの時間は、だいたい20秒くらいだ。
そろそろ攻撃も終わっだろうか。
近くからは何かがガラガラと崩れているような音もしている。
ここは危険な場所だ。
そろそろ離れるべきだろう。
幸いなことに、目が暗闇にも慣れてきた。
近くにある瓦礫がどんな感じなのかも大体わかる。
よし、これなら掴んでもずり動く、なんてことにはならなさそうだ。
手頃にある瓦礫に手をかけ体を起こ..............................。
「痛たッ....................!!」
体が重い。
叩きつけられる時に、我ながらベストタイミングな受け身をとったのでダメージは軽減されているはず。
しかし、肩を中心に体中が痛い。
わかりやすい痛みではなく、"ズキズキ"と弱い痛みが大量に点在しているような痛みだ。
骨が折れているような感じはしないから、おそらく全身を打撲したんだろう。
とはいえ、骨が折れていないのはいい事だ。つまり動ける。
このくらいの傷なら治るまで....................2分?3分?
瓦礫もその程度の時間では崩壊しないだろうし....................。
痛みが引くまで待とうか。
あのバズーカから発されたすさまじい衝撃の余波で、野球ボールのようにに盛大に吹っ飛ばされたのだから当然のことだけど、壁に背中を強く打ち付けたようだ。
吹っ飛ばされる瞬間は危険を察知して目を閉じていた。
だから吹っ飛ばされるときに俺がどうなっていたかとか、バクの様子だとかはよくわからない。
けど、暴れ回っているような音も様子も感じられないし、きっとバクのことは倒してくれたんだろうけど....................。
というか、何でリンさんはあんな砲撃の中心に居て平気そうな顔をしてるんだ?
そんなことを考えながらそばに転がってきた大きい瓦礫に手をかけ、体を起こしてみる。
お、痛みが引いている。
いろいろと動かしてみても、関節や筋肉に特別な異常はなさそうだ。
立ち上がった俺は、通り道を塞いでいる瓦礫を蹴飛ばし、建物の外へ出る。
集合住宅の比較的高い位置の部屋の、半壊したベランダに出る。
俺はどうやらここまで吹っ飛ばされたらしい。
それにしても。
「わーお..........。」
見渡す限り一面、瓦礫の山。
地面があちこち砕け、石なのかコンクリートなのかよくわからない謎の塊たちが、たくさん転がっている。
その瓦礫は線上に転がっていて、その線を辿っていくとリンさんが立っていた。
撃った先のみならず、軌道上全てが凹んだり砕けたりしているのがその威力の高さを物語っている。
リンさんの直線上には、あちこちに肉の塊が転がっている。
脚や尻尾と思われる肉片、牙や骨、そしてもう元々どこの部位にあったのかも定かではない謎の肉たち。
威力の高さを物語っている。
....................ここまでやる必要あったのかな?
まあいいや。
立っていたベランダから地面に降りて、スタスタとリンさんの所へ歩いてゆく。
「すごい威力だね....................なんで?」
「まあ最大出力だしね。
アイツの口内の防御力予想がつかないから仕方ないでしょ。」
違う違う、そうじゃない。
まあ確かに「なんで?」一言だと分かりにくいか。
俺が聞きたいのはそっちの「なんで?」じゃなくて....................。
まあいいや、質問しよう。
「なんでバクは塵にはならないの?」
俺が思ったのはこっちの「なんで?」だ?
だから俺は、その質問をリンさんにぶつけた。
この間戦ったマンティスとかいう虫型の怪獣は、倒した後に塵になって消える、という最期を迎えていた。
しかし、このバクは、弾で撃ち抜かれたであろうところに深い傷を負い、ダラダラと血を流しながら倒れている....................四肢爆散しているけど。
とてもグロテスクで、人によってはかなり得意苦手がわかれそうなこの様子は、こいつが血の通った生物であることを思い出させてくれる。
どんなに強かったコイツでも、だ。
目からはさぁーっと、ハイライトが消え、肺の呼吸音が止まっている。
あれだけ力強く使っていた手足も、だらんと力が抜けている。
人間以外の生き物が死ぬ様を見るのは、俺個人としても案外、珍しい体験だったりする。
人の死体は数え切れないほど見てきたが、それ以外の動物となると....................小さい虫や犬猫くらいだ。
怪獣なんて実物を見たこともほとんどなかった。
俺が死体をまじまじと眺めていると、後ろからリンさんが質問に答えてくれた。
「そう。
基準はわかってないけど、死体が残るタイプと、塵になって残らないタイプがいるのよ。」
「それって種でわかれてるの?」
「いいえ、個体でわかれているわ。
バクの中でも、塵になって消えた報告例もある....................割合は少ないけど。」
「別に残らないタイプが非生物って訳じゃなさそうだよね。
あれが生物じゃないとは思えないし」
あの動き方に、なんというか..............................頭が良すぎない感じに、俺は生物らしさを感じた。
明らかに敵意を向けてくる感じも、怒った時の威圧感も。
いや。
それよりも明らかな"根拠"がある。
俺はこれまで、人間のことを何人も何人も、数え切れないくらいの人数を殺してきた。
その中で、コスモで動く人間ソックリの人形....................いわゆるロボットが、警備に当たっていることもあった。
ロボットは喋れない。質問しても答えない。
だけど見た目は人間にそっくりだ。
しかし、喋れない状況下で外見だけで見分けなんてつくわけない。
そんな中、ロボットと人間を簡単に見分ける方法がある。
1つ目は動きの違いを見ること。
しかしこの方法は、俺が刑務所に入る直前....................つまり引退する頃には通用しなくなっていた。
ロボットたちのクオリティが上がっており、ぎこちなさもなく、挙動の違いがほとんどなくなっていたからだ。
そして2つ目は、心臓を見つけることだ。
ロボットは心臓の位置にある「中枢」となる機械を破壊されることで、機能を停止する。
その心臓が、しっかりと筋肉で形どられた心臓であれば人間だし、そうでなければロボットだ。
ロボットが壊れるとき、機能を停止したあと、個体コスモで作られたところが塵になって中に消えてゆく。
マンティスは塵になって消えた。
けど、アイツの体を指した時。
思い出されるのは、刃越しに俺の手へと伝わってくる鼓動だった。
その巨体から想像される通りのスピードで、どくん、どくん、と、一定のリズムを刻む生命の象徴と言うべき音。
リンさんは続ける。
「もともと、科学技術が発展する前から理解どころか予測もできていない存在だったのよ。」
俺たち人間の生活を脅かす、巨大で奇怪な獣。
例え、その外見が虫だろうと何だろうと、俺たちにとっては恐怖の対象だ。
「ひょっとしたら、理解できない存在なのかもしれないわね。
..............................私たちには、到底。」
「ベロキ、明日から3日、バクの死体の清掃ね」
「ほへえ?」
改稿 20263/22 日曜日
これにてオープニングは締めとなります
第1部の括りではございますが、一応、ここまでがオープニングであるという、作者のこだわりです。
あまり気にしなくても大丈夫です。




