番外編 ペラルさんのいる生活
俺の自室の話をしよう。
事務所内で俺が寝泊まりしている部屋の話を詳しくしたことはなかったと思う。
興味はあまりないかもしれないけど、聞いてくれ。
まずは、俺の部屋の話の前に、間取りのことから話さなければならないね。
事務所は玄関から入ると、まずは応接室がある。
縦10メートル、横5メートルくらいの、比較的広めの部屋だ。
ここには長机と、所長であるミクロさんのデスクがある。
応接室には壁がなくて、代わりに1番奥にはカーテンがかけられている。
このカーテンの奥には、縦4メートルくらいのスペースがある。
ここにはキッチンがあって、ほとんどリンさんの領域だ。
メジャーな調理器具はだいたい揃っているから、夜食を作ろうと思えば作れる。
けれど、整理整頓がガサツなせいで、調味料の場所かわからなくなるところまでがセットだ。
そして、応接室とキッチンの間のあたりで左右を見てみると、右と左にはまた別のカーテンがかけられている。
両側にかけられたこのカーテンをくぐると、その奥には廊下がある。
これより先、一般のお客様の立ち入りは禁止だ。
お客様なんてめったに来ないけれど。
廊下には、左右..........つまり、台所側と応接質側にそれぞれ違う部屋がある。
まずは、台所側の説明からしていこう。
玄関から見て右側の台所側スペースには、アロ君が何かごちゃごちゃやっている謎の部屋がある。
一応、ノックすれば、素っ気ないけれど返事が返ってくる。
ちなみに、中へ入ったことはない。
怖すぎて入ることができない。
そしてその向かい側の廊下側スペースには、ふたつの狭い部屋がある。
それぞれ、ミクロさんとアロ君の自室になっている。
ふたりはここで寝泊まりしているのだ。
そして、左側の廊下。
台所側スペースには、誇りを被った旧型のVR機器が置いてある物置がある。
俺が初めてVRにダイヴしたのは、ここだ。
ちなみに、物置の横には小さい部屋があるけれど、そこは教養のトイレだ。
入るときには必ず、ノックをしなければならない。
必ずだ。
油断すると、命がいくつあっても足りないようなトラブルに発展しかねない。
肝に銘じておくべきだ。
そして、応接室側。
ここには俺とリンさんの部屋がある。
ふたつある部屋のうちの、手前側が、俺の部屋である。
さて、ようやく、俺の部屋のことだ。
俺の部屋は縦4メートル、横3メートルくらいの狭い一室だ。
ここに人によっては、苦情が出てくるくらいに狭い場所だろう。
ちなみに、事務所の中の自室はすべて同じ造りをしている。
この程度で文句を言う人はいない。
俺もそうだった。
俺はまだここに来てから日が浅いし、試験や日本滞在などがあってこの部屋に住んでいる実数はそこまで多くない。
けれど、文句はなかったのだ。
だって机があって、布団を敷いて眠ることができるんだ。
十分に快適だった。
そう。
"ひとり"なら。
「これからよろしくねっ!」
「..............................。」
このひとはペラルさん。
苗字は知らない。
1か月前の夜中に突然現れた女の人。
まるで色を全て抜いたみたいな真っ白い髪を持つ人だ。
そして、俺の日本滞在にまるでコバンザメのようについてきた人でもある。
どうやらミクロさんの妹であるらしく、かなり仲も良いようだった。
....................そう考えると、ミクロさんとペラルさんは兄妹ふたりで髪を染めていることになるのか。
なんたってペラルさんの髪色は、俺と同じくらい真っ白だ。
色素を抜いたか染めたかでないと説明のつかない白さだからだ。
さて、彼女がここに来たということで、当然のように寝床は足りなくなってしまった。
誰かの寝室を半分だけ献上し、ペラルさんとふたりで寝なければならない。
死んでもゴメンだ。
俺は日本へ行くときの片道を未だに根に持っているぞ。
ミクロさんは、仮にも妹である彼女と寝るのが嫌だからと、キッパリとこれを拒否(ペラルさんは満更でもなかったようだが)。
アロ君は....................まあ、うん。
そもそも、部屋から出てこなかった。
俺とリンさんは、こんなやつ物置の適当な隙間に寝かせようと声を大にして主張したが、ミクロさんに反対されたので却下。
いつぞやのように、俺とリンさんは神聖なるジャンケンの神に、ジャッジを任せることになってしまった。
当時の俺は"ふはは、勝ったな。俺がリンさんに反射神経で負けるわけがあるまい"と、心の底から慢心していた。
事実、俺はリンさんがパーを出そうとしてくるのを見た。
パーが強いというのは有名な話だ。
俺も何かで見たことがある。
しかし俺の反射神経ならば、リンさんの手を確認してから、俺の手を出すことができる。
残念だったなリンさん、ペラルさんと一緒に寝ることになるのは君だ。
諦めて布団を用意するん....................。
「勝者、リン!」
「っしゃぁぁぁ!!!!」
「え?」
俺は確かにチョキを出したんだ。
そう、リンさんがパーを。
パーを。
パーを。
パー....................。
そこには、グーの拳を高々と突き上げるリンさんの姿があった。
そして、その拳を俺に見せつけて、勝利の余韻に浸っている。
そしてその後ろには、あの怪しいカミサマよりも邪神らしい顔をしたペラルさんが。
すごい笑顔だ。
これまでどんな人生を送ってきたら、あんなに邪悪な笑顔をできるんだろうか。
絶対に、ペラルさんがなにか細工をした。
俺はそう確信した。
あの邪悪でニタニタした笑みは、そこから来たものに違いがない。
しかし、泣こうが喚こうが、俺が敗北しである事実は揺るぎない。
かくして、俺とペラルさんは、屋根を同じくして暮らすことになってしまった。
不服だ。
部屋に入ってきた瞬間に、とりあえず重いのを一発、彼女の顎へアッパーをぶち込んだアレで、チャラにすることにしてあげよう。
俺は寛大な男なのだ。
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さて、ペラルさんが長期出張とやらから帰って来たおかげで、いろいろと楽になった。
まず、人手が増えた。
これは素晴らしいことだ。
一日中まるごと事務所の周辺をパトロールするという仕事....................控えめに言ってその"苦行"が俺に回されてくる頻度が著しく下がることになったのだ。
諸手を上げて喜びだい。
大事な仕事なのだが、このパトロールは、疲労感が凄まじい。
なにせ日中に、エンドレスで周辺の街中を見張り続けるのだ。
人が多い時間帯に、危険なことが起きないのかを見張り続ける仕事だ。
飲み物を買ったり、食べ物を買ったりなどの少しの休憩は許されているけれど、あまり長い休みは取っていられない。
そりゃ、そうだ。
俺たちがぬくぬく休んでいる間に、誰かに危険が及ぶ可能性だってあるんだから。
何も異常かなかった場合、コレは本来、喜ばしいものなのだ。
しかし、当事者である俺たちは、それと同時にこれまでの作業が無駄になってしまったというどうしようもない複雑な焦燥感に駆られてしまう。
このときの気分はなかなかに最悪だ。
別にイライラするわけでもないのに、ものすごくやるせない気分になるんだ。
かといって小さな怪獣と戦闘に発展しても、それはそれで"戦闘"ということに変わりはない。
別の種類の疲労がたまる。
そして俺たちのその戦闘は大抵、規模も小さく、ほとんど住民のひとたちが危険になることはないのだ。
仕事は果たしている。
そういうことをすべきだからだ。
だから住民の人たち日常の一コマとして処理されることもしばしば。
戦闘に気づかれない場合だって多い。
....................いや、ヒーローは、何も言わずに背中で語るものなのだ。
このような仕事が、以前は2日に1度の頻度で回されてきていた。
さらに言うと、俺がいないときはリンさんが毎日ひとりで回していたのだ。すごい。
ミクロさんがいる日はミクロさんが引き受けてくれるときもあるけど......................。
しかし、ほとんど2日に1度というペースが崩れることはなかった。
しかしこれが3日に1度となるのだ。
素晴らしい。
あまりにも素晴らしすぎる。
俺は仏教徒ではないけれど、ペラルさんに五体投地で感謝申し上げたいところだ。
すごく癪に障るけどね。
それと、もうひとつ楽になったことがある。
戦闘面の話だ。
ペラルさんは、強い。
この地域はたまに、少しだけ強い怪獣が出てくる。
いい例が「バク」だ。
あれは今思い返してみても、かなり強い怪獣だった。
その強力な怪獣とやらは、頻度は数ヶ月に1度らしいのだが、今回はその周期が普段と比較してややズレていたらしい。
バク戦からやや短いスパンで、その報告はやってきた。
そいつとの戦闘で思い知った。
ペラルさんがいかに強いひとなのかを。
俺とリンさんだけでも、勝てる戦いだった。
けど、ペラルさんがいたおかげで、想定の何倍も楽に勝つことができた。
....................そういえば、いつぞやのフォーザッツさんが、俺にこんなことを言ってくれていた気もする。
とにかく、彼女の持つ固有武装は、俺たちの戦闘を優位に進めてくれる。
この間のヒュドラ戦の前に、強力な拘束機能と妨害機能を持っているという話は聞いていたけれど、間近で見てみたら想像以上だった。
相手にしたのは、俺も名前を聞いたことがあるくらい、それなりに強い怪獣だった。
例のごとくミクロさんはどこかへ行ってしまっていて見つからないので、相手をするのは俺たち3人。
まさか負けることはないけれど、すこし時間のかかる戦闘になるかな?と思った。
そんなことなかった。
瞬殺だった。
俺がなにかしようとする前に、ペラルさんかなにか呟くのが聞こえた。
その5、ほとんどタイムラグを置かずに、相手の体があちこちから伸ばされた糸でぐるぐる巻きにされていた。
すでにチェックメイトだった。
チェスでこんなことが起きたらキレていい。
そして、歩くメガ粒子砲ことリンさんが、全く動けない相手のことを撃ち抜いて終わりだ。
そして。
そのときのペラルさんは、なんか凄く凛々しくて、格好良かった。
ミクロさんに命を助けられたあの時を思い出すような。
この日以降、彼女を邪険に扱う気に慣れなくなったことも書いておこう。
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ペラルさんがやってきたことで、生活が賑やかになった。
食卓を囲む人が多くなったことが、大きな要因のひとつかもしれない。
もともと俺だけがこのメンバーの中に入っていなかったから、ちょっと気まずくなるかと思った。
けど、ペラルさんはコミュニケーションが上手なようで、そんな事にはなる気配すら感じなかった。
感謝だ。
さて。
それはそうと、彼女はイタズラ好きだ。
3歳児かと見紛うくらい、数多のイタズラを俺に仕掛けてくる。
カバンの中に草が入っていたり。
椅子に座ろうとしたらひっつき虫のトラップだったり。
食べようとしていたお菓子が、石なんじゃないかってくらいカチカチに凍っていたり。
読んでいた本のしおりが30ページくらい前のところに戻されていたり。
本当に、こんな感じだ。
これよりも高等なイタズラはしてこない。
彼女も頭を使いたくないのかもしれない。
しかも、ターゲットは俺だけだ。
俺だけにしかやってこない。
だからミクロさんに助けを求めても、被害が広がっていないから誰も助けてくれない。
頭のいいやつだ。
この被害にあっていたのはリンさんだったらしいのだが、そのターゲットが俺に移ったのだ。
よって、リンさんも助けてくれなかった。
この中に俺の味方はいない。
俺は今後、このイタズラに頭を悩ませながら生活することになるのだ。
仕掛けているところを見かけたら、絶対に一発殴る。
頭頂にタンコブができるくらい。




