王女と金の涙4
「ねぇ、今までこんなに話を聞いてくれた人はいませんでしたの。だから、今とってもおかしな気分なんです」
リリアンが何と答えようかと迷っていると、ベルは下ろしてくださいと言った。
「もう自分で歩けますわ」
彼は膝をつくとベルを支える手を放した。彼女の足が地を踏むとすぐに立ち上がり彼女の手を取った。
空はまだ薄暗い。だが、急がなくてはならない。
「もうそんなに歩かなくていい。国境はすぐそこだ」
そう声をかけると、リリアンは歩き出した。しかしすぐ、後ろからベルが手を引いた。ふり返ったリリアンに、彼女は倒れ込むようにして抱きついた。驚きと戸惑いに様々な思いが駆け巡り、混ざり合って彼の胸は激しく脈打った。
呼びかけても、彼女は顔を上げようとしなかった。
リリアンは恐る恐る腕を上げるとベルの背中を包んだ。彼が彼女の名前を呼んだとき、胸に突き立てられたものがきらりと光った。
いなくなった魔女と看守を追って、牢獄の番人たちは松明を片手に広い森を捜しまわった。
シモンもまた友人の身を案じながら、懸命に捜索を続けていた。彼は、空が白む頃、ひとり国境の大河まで辿り着いていた。
水音に交じって人の声が聞こえる。
声のする方へ進むと、木の根元に魔女を見つけた。魔女は横たわったリリアンの頭を膝に乗せ、子供を寝かしつけるように何度もその髪を撫でている。俯いた魔女の顔を窺い知ることはできない。シモンの胸はざわついた。
まるで似つかわしくない。
乾いた唇から洩れる優しげな歌声は魔女のそれとは思えなかった。友人の胸に深く刺さったナイフがシモンの目にはいる。彼の足は歩みを止めた。
このナイフには見覚えがある。この罪人は友人を騙してナイフを奪ったのだ。
彼は腕の震えをおさえながら、ゆっくりと魔女に近づいた。そして、自分のナイフを引き抜き、それをふり上げる。
ふいに魔女が顔を上げた。長い髪の隙間から赤く腫れた目が覗き、シモンは息をのんだ。
朝日が女の白い顔を照らす。その頬に、一筋の透き通った雫が静かに伝った。




