髑髏の紋章
コロンでの束の間の休日を過ごすティル隊と、ミラー少佐率いる部隊。
セレスの部隊の攻勢が小康状態の中、3日間程のんびりと過ごした。
都市コロンには様々な娯楽があり、多様な出店や商店、無声映画に本国からのラジオに新聞、さらには酒屋に娼館など選り取りみどりであった。
兵士達は、慣れ親しんだ紺色の軍服を脱ぎ去り、自分達がいつも着る私服に着替えて休日を楽しんでいる。
ある者は屋台の出店を食べ歩き、またある者は賭博に明け暮れ、平日の昼間から酒屋に入り浸る者など様々だ。
ティルと曹長は、ハーフパンツ姿で街の若者といった出で立ちであり、どこか涼しげな格好であった。
「で?准尉、トアさんとは昨夜どこまでいったんです?何もなかったなんて答えは却下ですぜ!」
「特に何もなかったさ曹長、君が期待するような事はなにもないさ。僕とトアは戦友であり、仲間であるんだ!」
「はぁー、賭けは自分の負けのようですな大尉、取り分をあげますよ…」
「毎度曹長、准尉のヘタレに敬礼!賭け金の銀貨にも敬礼!」
「ついてない、厄日だ…」
「なんだ、どういう事だ?」
「いえ、こちらの話さティル准尉」
煙のように現れたジェイコブ大尉は、タバコをくもらせている曹長から賭け金を頂戴してご機嫌であった。
彼の姿は、ラフなジャンパー姿にジーパンというものであった。
対するミラー少佐は男装の麗人のような格好で、男女問わずにランドールの兵士達に注目されていた。
トアもまた淡いワンピースを羽織り、ふんわりとした雰囲気を醸し出しており、買い物を楽しんでいる。
いつの間にか少佐と仲良くなり、一緒に買い物をする仲になっていたのは、ティルをはじめ、ジェイコブ大尉も目を見開き驚いている。
「ヨハンナー、ここのお店の雑貨可愛いと思わない?このぬいぐるみとか、似合うと思うけどな!」
「いやいやトア、私にはそんな乙女チックな物は似合わないよ。君にこそ、そういう物が映えると思うけどね?」
楽しそうに買い物をしている2人を、信じられないという表情で見つめるジェイコブ大尉が呻く。
「気難しい少佐が短期間で攻略されるなんてな。准尉、ありゃあ大物だよトアさんは、まぁ…頑張れよ」
「な、なにをです!大尉!」
すぐにからかいの視線を向け、ティルをおちょくる大尉。
照れ隠しにティルは反論するも、隠しきれてないのを本人は知らない。
そんな穏やかな時間は直ぐに過ぎ去り、数日後には、懐かしの紺色の軍服に身を包むと、前線に応援にきたランドールの部隊に、コロン防衛を任せて一行はニミッツ中将の元へ急ぐ。
マリーベル線司令部にある執務室。
そのドアが直参の武官の手により、両開き開かれると、中将が首を長くして待っていた人物達が入室する。
ニミッツ中将は、トアやティル達ギフト持ちの訪問を心から喜び、満面な笑顔を浮かべている。
まるで親戚の叔父さんのように、よく笑う人物であった。
「よくきた、よくきた諸君。まぁかけなさい、今日は紅茶ではなくコーヒーの気分だ、カフェインは良い。眠った脳を覚ます清涼剤だ、病みつきになると抜け出すのも怖い、実に悩ましいな。早速報告を聞かせてくれ、ミラー少佐にジェイコブ大尉、時間は有限だ…」
「はい中将、コロン周辺にいた軍勢は駆逐いたしました。連中は現在、部隊を後方に下げ機会をうかがっております。追撃して撃滅しますか?」
「いや、それには及ばんよヨハンナ。敵が寄せたら打ち払う、従来のやり方で構わないさ。こちらに余裕はないからね、悔しいが現実だ。仕方がないがね」
「現状は待機ですか?敵が再編しますと、また厄介だと意見しますが。私の部隊が引導を渡しますよ」
「ジェイコブ大尉…」
「余計な事はしなくていい、私はさっきも言ったぞジェイコブ?現状維持、これに努めろと。本国からの増援が不透明な中、博打はうてないのだ」
「…理解いたしました中将」
笑みが消え、獰猛な表情となる中将。
大尉が直ぐに引き下がるのを確認すると、柔和な笑顔を張り付けた。
この人はなんだか考えが読めなくて、昔から自分は得意ではない、だがギフト持ちを厚遇する稀有な人でもあると認識しているティル。
男性なのに切れ長のまつ毛だなと、真剣な表情の中将を盗み見て、なんでもない事を思案するトア。
トアの視線に気づいてか、中将もにっこりと微笑みかけ、話を切り出す。
「君がベロニカの亡霊か、まずは協力に感謝する。我が軍団の将兵を救っていただいたこと、報酬はなにがいいかな?我が軍団に仕官したいと風の噂で聞いたが、私の裁量で君を採用してもいい。私は強者がなにより好きでね」
「ありがとうございます中将閣下、ティル准尉達を救えたのは、度重なる偶然が重なっただけですよ。ただ仕官の話は受けようかと思います。部隊を率いるだけの位をいただきたく…」
「ふむ、よかろうトア・ナノローグよ。今日より私の裁量で准尉とする、存分にギフトの力をみせてくれ。ティル准尉の副官に任命しよう。そうなると新設の部隊に、部隊の紋章を決めなくてはな。なにかないかな?」
トントン拍子で話が進むのに、ティルは目を白黒し、こうなるだろうと予測していたミラー少佐とジェイコブ大尉は、どこか澄まし顔な様子である。
中将はティルとトアを、敵を呼び出す宣伝部隊のように扱うつもりだ。
部隊章とはすなわち隊の紋章であり、隊の誇りそのものだ。
兵士達はその紋章の元に集い、戦い、そして散っていく。国旗の次に重要になる、兵士達の符号とも呼べる。
ミラー少佐達の部隊章は、アザミの花をモチーフにしており、少佐自身も気に入っているものでもある。
また、ジェイコブ大尉の部隊章は墓守犬の黒犬がモチーフであり、両部隊とも不吉なイメージをあえて部隊章という、レリーフに用いている。
そこにトアもあやかろうと、ティルに相談もなく、中将に直談判する。
人に原始的な恐怖を呼び起こす象徴とされるマーク、古くは海賊達が自らを表す為に好んで使った、伝統的な物。
「中将、私とティルの新しい隊の紋章には、髑髏を使用したいと考えております。退廃的シンボルマークは、見る者の戦意を挫くのに役立つかと?」
「はっはっは、髑髏か、髑髏とな?死を表す不吉の代表格を戴く部隊か。面白いなぁ、トア准尉。凝ったデザインのモノを用意すると、約束しよう」
「髑髏か、おもいきったデザインだな。悪行を為すと、自分達で宣伝するようなものなのにな…」
「不吉の代名詞、あえて使うか。普通は縁起の良い物が一般的だがな、俺達と考えは似ているのかもな」
中将の他に、ミラー少佐とジェイコブ大尉も剣呑な雰囲気を発しながらにどこか楽しげな様子であった。
「髑髏の紋章か…」
「ますます嫌われそうだ准尉」
ティルと曹長も、どこか楽しげな様子であり、トアもまたクスクスとどこまでも嗤っていた。




