告白
ミラー少佐達と合流したティル隊と、さらにジェイコブ大尉達も合流し、都市コロンへと腰を落ち着かせることとなる。
コロンの守備隊が都市の入口で一行を出迎え、迎賓館でささやかな戦勝祝賀会を催すこととなった。
都市の防衛隊の指揮官が代表で謝辞を述べ、労いの言葉をかけてゆく。
「お噂はかねがね少佐、今回の働きでまた勲章が増えますな!ジェイコブ大尉とティル准尉もご無事でなによりです、そして貴女がベロニカの亡霊さんですね?我々としても心強いです、お疲れでしょう宿で疲れをとって下さい。迎賓館で、ささやかな会食を用意しました」
「ありがとう指揮官殿、お言葉に甘えさてもらうわ。数日程厄介になる、セレスの動向に注意してくれ!」
「ジェイコブ大尉です、厄介になります。敵がきたら教えて下さい」
「ティル准尉です!」
「トアです…、亡霊かどうかはわからないけど、最善を尽くすわ」
「任せて下さい少佐、大尉と准尉に亡霊さんも、楽にして下さい」
主だった士官達と握手を交わし、指揮官同士の簡単な会話のやりとりが終わると、続々とランドールの部隊がコロンへとなだれ込む。どこか観光するかのような顔つきで。
今回のギフト持ちの合流と、その保護を目的とした任務は、ほぼ完了した。
あとはマリーベルの指揮所にいる、ニミッツ中将へと護送するだけ。
兵達は脱力状態だった。
「あったかいベッドで寝られる!」
「俺は歓楽街だ!」
「俺は、えーと、一杯食べる!」
「なんだよそれ?」
ガヤガヤと兵士達は、それぞれに振り分けられた隊舎へと入り、各自が思い思いの自由な時間を過ごす。
また兵士達の関心事は噂のギフト持ち達に集中していた。
様々な噂や憶測が、隊舎の中を駆け回ってゆくこととなる。
「ミラー少佐、相変わらず出鱈目なギフトだよな。少佐が敵だったら、今頃俺達は墓の下だな、間違いない」
「けど美人だよな少佐、恋人に立候補しようかな俺?魅力的だよな?」
「お前じゃギフトで一捻りだろ…」
「スミス大尉も大概だろ、姿が消えるなんて反則だぞ。やっぱり俺ら凡人とは根本が違うんだよ、神様は理不尽だと思わないか?なぁ!」
「それよりもだ!噂の亡霊さん見た奴いるか?気になって寝れねーよ」
「いんや、知らんな!」
「自分は見ましたよ、ティル准尉の側にいた黒髪の女性でした。ミラー少佐に負けず劣らずの美女でした、自分は断然に亡霊さんがいいですがね。こう、全てを包み込むような暖かみが…」
兵達の夜更かしは明け方まで続き、朝方には酒に酔い潰れた者達が、死屍累々と隊舎に転がる始末だった。
そんな惨状を目撃した当直の士官は、緊張の連続で、張り詰めていたものを解き放っていると考え、当直日誌に異常なしと書き込みその場を後にする。
会食会場となっている迎賓館では、ティル隊のメンバーと、ミラー少佐とスミス大尉に、他の代表的な士官達と談笑の最中であり、和やかそのもの雰囲気がその場を満たしていた。
「しかしびっくりしましたよ准尉、トアさんとの家族宣言。自分達は深読みしてしまい、挙式でもあげるのかと思いましてな。こういったご時世だからこそ、真実味もありましたし」
「時々だがトアは、突飛な事を話す時があるんだよ。それが重要な時もあるんだけどね曹長、僕も焦ったさ…」
「けど准尉?まんざらでもなさそうでしたよ?あとは准尉次第ですねー」
「ちゃ、茶化さないでくれ!」
ティル隊達の男性陣が下世話な話で騒ぐ中、話題の中心であるトアは窓際に腰掛け、物憂げな様子でお酒をゆっくりとなめるように呑んでいる。
ティル隊が話し込む中、そこへ馴染みのある男性から声をかけられる。
「お姫様を口説いたらどうだ准尉?攻め時を間違えると取り返しがつかない、恋はタイミングも重要だ。行ってこいティル、こっちの上司は俺が宥めておくからさ。気にするなよ」
「大尉、わかりました!」
ジェイコブ大尉はしたり顔でティルに諭す、恋は駆け引きだと、消極的でも積極的でも、匙加減で変わるとも。
一方のミラー少佐は、ティルが結婚するという事に衝撃を受け、勘違いが一旦は治まったものの、今は未婚の女性通信士を捕まえてからみ酒をしている。
結婚は人生において重要なのか?
最初は嫌がっていた通信士も、段々と意気投合していた。
「だきゃらー、私はぁー世の中が、悪いと思うのさ!今の男達は、理想とは違うんだよー!そぉうよね?」
「わかるぅ、わかるよヨハンナ!」
完全な酔っ払いである。
両者に近寄るのも躊躇う程の、独特な世界を形成している。
今また、大人しそうな士官が捕まり、魔界へとその身を拘束されている。
上官のだらしない姿を黙認し、トアの元にそそくさとゆくティルの背中を、見送りながら、大尉は曹長とティル隊の兵達に、賭け事をする事に提案する。
「曹長、緊急の案件を思いついた。一口乗ってみないか?もちろん君達も」
「なんですか?」
「ティル准尉とトアさんの、ワンナイトがあるかないかを賭けないか?」
「ほっほー乗りましょうかその話、ジェイコブも相変わらず好きですな!ワンナイトがあるに銀貨3枚!」
「私はしないに銀貨2枚!」
「できるに銀貨5枚だ、准尉なら必ず」
ジェイコブ大尉と髭面の曹長の下世話な話は更に加速し、賭けの結果は翌日の二人の雰囲気で答え合わせとなった。
トアは会食を抜け出すと、『始まりの個体』との報告の真っ最中であり、今後の方策を練っていた。
トアの頭に、機械音声でできた人口音声が頭に鳴り響く。
「他者との関わりあいを拒んでいた貴女が、ここまで成長するとは、これは貴女の評価を一段階上げる必要がありますね。それで、今後どうするの?」
「協力者を確保した、次は機械人形の仲間が欲しいところね。@@@@、この辺りに機械人形はいるのよね?」
「えぇ、そのはずですよ。シグナルを確認しています、後は本人達のやる気を出させるのが、貴女の仕事です」
「了解ー」
「…ではまた次の報告で」
唐突に報告を打ち切る始まりの個体、不思議に思っていると、その理由がすぐにわかった。
ティルの姿を確認したからだ、変に義理堅いなと思うトア。
「トア、こんな所にいたのかい」
「少し夜風にあたりたくてね、ティルこそどうしたの?」
「いや、その君と話をしたくてね…。この間の事、改めてお礼を言うよ。ありがとうトア、命の恩人だよ」
「どういたしまして…」
「それとねティル、以前君が、私が何者か聞いたじゃない?君にまだ話してない事を今話すわね…」
どうにか会話しようと考えていた矢先に、トアから話を切り出してきた。
しかし、その様子は真剣そのもので、最近思い悩んでいた事かもしれない
「私は機械人形なの、大昔に人の手で創造された、人と似て非なる存在なの…。貴方に私が協力する理由は、主人より私に課せらた命題を解くため、打算的なものなんだよ。それでも、貴方は私の側にいてくれる?」
「それでも、トアはトアだろ?機械人形だろうがなんだろうが、君は僕に力と、名前を貸してくれた。今はそれで充分さ、理由がそれじゃダメかい?」
あっけらかんとしたティルの態度に、トアは面喰らっている。
なんだか心配したトアが拍子抜けするほどに、ティルは底抜けに明るい表情で、トアに微笑みかける。
「君は面白いね、これからも頼むわね私の弟君!今は君の優しさに縋るとするよ、なんだか安心したよ」
「そう、よかったよトア!」
二人は迎賓館へと戻り、会食の続きを思う存分楽しんだ。




