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眠らずの都の住人  作者: 同田貫
果てなき消耗戦の渦中へ
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再会

ティル隊のメンバーが、都市部コロンへと遁走するさなか、段々と後方にあるセレスの陣が騒がしくなる。


他の憲兵隊員達が戻らぬ仲間を捜し、ティル達が脱ぎ捨てた軍服が発見され、陣中に潜んでいたランドールの者の手にかかったと判断し、厳戒態勢となる。


「捜せ!ランドールの屑共が紛れ込んでいるぞ、噂の亡霊かもしれん!まだこの辺にいるはずだ!」


「戦友達の無念は、奴らの首で償わせる!隊伍を組め、三人一組で探索し、発見したら信号弾をあげろ!」


「「了解しました!」」


「戦車隊、前進せよ!歩兵と連携し、敵を追い立てよ!敵は亡霊ではないという証拠を、我々が実証する」


セレスの部隊は必死だ、散々辛酸を舐めさせられ、追っていたはずの敵がここにいたという事実。

目つきは血走り、どこか病的な表情を浮かべるセレスの兵士達。


都市部コロンの防衛部隊がでてくるのなら、一戦交える覚悟がある。

殺してやる、その思いが部隊を包み込んでいるかのようであった。



歩哨の巡回や、捜索隊が各所に散らばる中、撤退中のティル達も身動きがとれなくなるまでそう時間はかからなかった。今は廃村になった小さな村の、一軒の家屋の中で少休止していた。


廃村になったといっても、住人達が離散したといった方が正しいかもしれない。生活の跡が散らばっている。

離散した者達はどこにいったのか…。


そんな事を考えながら、トアは慣れ親しんだあの洞穴の中を思い出していた。

現地のあの者達は生きているか?


【居場所を追われるのは、誰だって辛いわよね…。私もこの廃村と一緒かな?ふふふ、また『始まりの個体』にどやされるかもしれないわ】

雑念を振り払い、トアは意識をティル達に集中させ、方策を練る。


「いやはや、人気者は辛いですな准尉。セレスのファンに追い回されるのも、ですが、いささか飽きましたな」


相変わらずの口調で曹長が准尉に話しかける間にも、ティルは油断なくギフトを発現しながら窓から外を監視する。


「曹長、現在地はコロンの警戒範囲の外縁部辺りか?コロンの都市部は見えはじめたが、まだここからは遠いな。セレスの奴らの捜索隊とかちあうのが、先になりそうだ。この辺りでもかなりの数だ、なかなか難儀しそうだね」


「はい准尉、外縁部辺りで間違いないかと、コロンの防衛部隊がくるかどうかは微妙なところですな」


「准尉!奴らにまた鉛玉をぶち込みますか?セレスの奴らに…」


「いや、今奴らに攻撃したところで、包囲されてアウフベン駅での戦いの二の舞いになる可能性が高いよ。君の熱意だけ受けておくよ」

「左様でありますか、准尉…」


部下の兵士が気落ちしないように配慮を忘れないティルだが、コロンまでの道のりが遠い。


「トア、君はどう思う?」

「ん?そーね、どうしようか…」


トアもなにか思案気だが、考えが纏まっていないのか、難しい顔をしている。

そんな状況で、再び窓から外を観察するティルは、思いもよらぬ景色を目撃することとなる。


ランドール側から、セレス側への陽動攻撃をかけるミラー少佐率いる大部隊。

まともに横殴りの攻撃を受けて、現在進行形で陣が乱れている。


「少佐が動いてくれた、みんな!荷物をまとめてくれ、味方と合流する」


ティル達は小さな廃村を後にして、行動を開始する。

少佐がきてくれた、ティルは年相応の笑顔で喜びを表している。


ティルにとっては少佐は大事な恩人であり、恩師でもある。





ミラー少佐率いるランドールの部隊が、セレスの部隊へと猛攻をかける。


ミラー自身も指示を出し続けながら前進し、両の手をかざしながらにセレスの戦車を、ギフトで弧を描くように投げ飛ばし、大破させ、迫り来る弾丸の雨を四散させている。


「砲兵隊!敵は我らが勢力範囲に足を運んだ、その報いを受けさせろ!セレスの馬鹿共に教えてやれ」

「斉射開始!」


「はっ!右列は砲撃を散らして放て、左列は面制圧射撃を実施せよ」


セレスを殲滅する、そんなミラー少佐の意思を汲み取る部下達の士気も旺盛であり、会戦を経験した部隊でもある。


ニミッツ中将は、自軍の精兵をミラー少佐の麾下に組み入れ、ティルと噂の亡霊の保護に熱意をあげている。


「ジェイコブ大尉!貴様達情報部隊は、敵の指揮系統を壊乱させろ、ここの敵の頭をくびり殺してやれ!」


「おー怖い怖い、お任せを少佐。少佐達もお気をつけて、ではいくぞ紳士諸君、薄汚い戦争をしようか!」


ジェイコブ大尉を筆頭にした情報部隊の一団が、音もなく姿をくらます。

敵の指揮系統を寸断させ、打撃力をもって敵を一網打尽とする策。


会戦の際やその他の戦いにおいて、ミラー達が行う常套手段であり、必勝の策でもある。

敵もわかっていても対処のしようがない、同様の攻撃力を持ってしても、いつの間にか頭を潰され、あとは手足をもがれ、内側を喰いやぶられ、内蔵をしゃぶられ、事態を把握した時は部隊が潰走している。


そんなことが大遠征中何度もあった。


ミラーはセレスの兵士達を空高く放り投げ、自由落下した兵士の死骸で辺りは赤い染みが点々と続く。

ギフトの力で身体を圧迫させて圧死させたり、首の骨を折るなど、赤ん坊が積み木細工を壊すかの如く、容易く人が死ぬ。


ミラー少佐の前に死が振りまかれる。

その後をランドールの歩兵達が隊列を敷きながらに、火線を形成しながらに続く。


乱れた敵軍を端から撃ち、生き残りに淡々ととどめをさしてゆく。

慈悲の心など、どこかに置き忘れたかのような戦争狂い達。


彼らにとっての戦争は快楽の一つであり、ランドール大公の掲げる理想など、どこ吹く風か、彼らは快楽を優先している。


「何度も何度も、むかってくるセレスの阿呆め。痴呆症の奴等には、私が再び鉄槌をくれてやるわ。戦意が挫けるまで、私が教え込んであげる…」


「私は優しいからね、死ぬまでお前達を教育してやるわよ…」


ミラー達の蹂躙はとどまることなく続き、前衛部隊をあらかたたいらげると、右翼の隊列、左翼の隊列と順番に襲撃する。


ジェイコブ大尉も暗躍を続け、天幕の中から煙のように現れ、喉を掻き切り、脳天にナイフを刺しこみ上級士官達を殺戮する。


上級士官達を殺戮し終えると、次に通信兵達を率先して狙い、通信機材を根こそぎ破壊して通信線を寸断してゆく。


「あらかた終了しました大尉。ミラー少佐達と合流いたしますか?」


「いーやまだだ、集積所やめぼしい兵器の破壊をするんだ。あぁそれと、そこにある葉巻と、高そうな酒ビンは貰っとけ。中将へのお土産と、俺達の臨時ボーナスだ。死人には過ぎたもんだろ?」


「そうですな、大尉は悪い人ですな」

「ぬかせ、お前達もご同類だ!」


血塗れの天幕から抜け出す際に、火つけを行い痕跡を消すのも忘れない。

きっと俺達は碌でもない最期を迎えるに違いない、大公の夢に付きあった報いを受ける日が、遠からずくるはずだ…。


「まぁ、足掻いてみせるさ」


部下達に誰にも聞かれぬようにポツリと呟く大尉の姿は、どこか哀しげだった。



ミラー少佐達とジェイコブ大尉達の攻撃の前についにセレスの部隊は撤退を決断し、部隊を纏めて後退する。

ギフト持ちがいない現状、これ以上粘るのは、いたずらに兵を無駄にするだけだ…。


「ランドールの悪魔共め、お前達はこの世界の腫瘍でしかない。腫瘍からでた膿は切除するしか治らん…」


セレスの兵士の目は復讐心に満ちていた。



コロン周辺の攻防は、半日もたたずに終結した。ミラー少佐とジェイコブ大尉のギフトの力が際立った形だ。


「少佐、状況終了しました。敵方はコロン周辺より退却しました、ジェイコブ大尉達も無事のようで。我が方も損害は軽微であります、大勝利ですね少佐!」


「ジェイコブ達も首尾よくやったみたいね、ただ残敵がいるかもしれないから警戒は怠らないように、各自都市部コロンで交代で休息をとりなさい!」


「はい、伝達いたします!」


そこまで言い終わると、ミラー少佐の表情はみるみる弛緩し、ある一点で釘付けになる。少し前にミラー少佐達のいる指揮所に現れた、ティル達を眺めている。


「あのー、ミラー少佐?ご無沙汰しています、少佐もお元気そうで…」


遠慮がちにミラーに言葉をかけるティル。

ミラーは嬉しくてたまらないと様子で、ティルに色々と質問をする。


「ティル!良かった、お前達の部隊がアウフベン駅で消息を絶ったと聞いた時は、息が詰まるかと思ったよ。ティルを軍に誘った自分を恨みさえしたよ…、元気な様子で安心したもんだ。もっと近くにおいで」


「ミラー少佐、いやヨハンナさん!くすぐったいよ、僕は無事なんですから」


ワシャワシャとティルの頭を撫でるミラー少佐の手つきは粗暴だが、どこか愛嬌のある表情を浮かべている。


普段の様子とは真逆の上官に、お側付きの部下達が白い眼で見ているが、ミラーはまるで気にしない様子だった。


「…ところで、ティル?」

「はい、ヨハンナさん何です?」


「あちらの女性はどちらさんだい?」


馴染みのある髭面の曹長や、ティル隊の兵士達がぎこちない笑顔を浮かべる中、端の方でのんびりと観察しているトアへ、いきなり矛先が向かい本人はどこかキョトンとした表情で、ミラーへ自己紹介する。


「私?私はティルの家族よ、名前はトアというの、よろしくミラー少佐!」


「…ティルの家族?どういうことかしら?ティルに家族なんて…」

「家族になったのよ、つい数日前に」


これにはミラー少佐の他に、曹長達も驚愕の表情を浮かべている。


これに慌てたのはティルであり、自分達が天涯孤独な身であるから、共通のファミリーネームを名乗ろうという経緯を説明した。

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