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ザ・チューニーズ   作者: 野川太郎
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第七章

次の日、この俺が教室のドアを足で開けると、妙に生徒の数が減っていることに気がついた。生徒嫌いな俺としては大変結構なことであったが、負の感情の吸収率が減少してしまうことだけが気がかりであった。

 俺が教室に入ろうとすると、生徒たち全員から悪意に満ちた目で俺をにらみつけていた。

 いいぞ、さあもっと悪意に満ち溢れろ。そうすれば俺はさらに強くなれる。最強を超越することができる。

 彼ら小市民のことなどどうでも良かったので俺は堂々と自分の席に座った。すると、クラスのリーダー的存在である桜井がこの俺の机にやってきた。

「あなたのせいで影村君たちや他のクラスの子たちが革新学校の生徒たちに襲われたのよ!」

 だからどうした。結構なことじゃないか。

「あなたが条約を破ったからこうなったんじゃない。これからも向こうの学校からの攻撃が続くわ。そしたら、皆が迷惑する。責任取なさいよ」

「断る」

 俺は大声で叫んだ。

「確かに、この俺がそのくそくだらない条約を破ったとしよう。だからどうした。俺は別に構わない。お前たち無能力者がどうなろうと知ったこっちゃ無い。生きようが死のうが障害者になろうが精神疾患になろうがどうだっていい。ただ一つだけ言えることがある。俺には何の問題もない。何せ俺は最強だからな。超能力学校の生徒が攻撃してこようが俺には通じない。今のこのご時勢。自分さえよければそれでいいんだよ」

 俺は椅子にもたれかかりながら笑顔で答えた。

「あなた、それでも人間なの?」

「そうだそうだ」

 クラス中からの罵声がこの偉大なる俺に降りかかる。

憎悪に満ちた感情は俺の栄養分。とても気持ちがいい。全身に力がみなぎってくる。精神的にも幸福を感じる。

「先生たちを影村たちといっしょにいじめているお前たち小市民に言われる筋合いはないよ。今まで自分たちがしてきたツケが回ってきたってことだよ。自分自身の人生を反省したらどうだい。桜井さんよ。ましてや、倉田をリンチしようとしていたお前や影村がどうなったって自業自得ってやつだぜ。どうだい、すばらしき正論だとは思わないかい?」

 我ながら完璧な正論だ。こんなやつらにどうこう言う権利なんてない。小市民未満の愚民共が。

「あんた・・・・最低よ。人間のくずよ」

「違うな。人間を超越した存在だ。これだから小市民は」

 俺は鼻で笑ってやった。

 すると、クラス全員の視線があちこちに散らばった。目の前にいる桜井までもが俺から目を離している。

 こんなメス豚に見られてもちっともうれしくないから助かったぜ。

 しかし、この反応・・・・そうか、この小市民たちは超通信を聞いているのか。でもなぜだ?今日は水曜ではない。何かあったのか・・・・ま、いいか。どうせ俺には流れないからな。倉田か平和同好会の小市民たちからでも聞くか?

 それから数分して、超通信が終了したらしく、皆席に座っていった。しかし、桜井の憎悪に満ちた目は未だに俺に向けられ、最後にこう言った。

「あんたさえ能力を持たなければ」

 そう言うと桜井は席に戻っていった。

 愚民ごときが偉そうに。

「握間君、倉田さんいる?」

 教室のドアから斉藤が顔を出していた。

「よ、どうした?」

「超通信は聞いた?」

「もちろん聞いてない」

「まあ、いいわ。倉田さんは?」

「まだ来てないぜ」

「そう、じゃあ、握間君だけでもいいから来て、今から緊急会議よ」

「俺には勉強という大事なことがあるんだが」

 もちろん、嘘である。

「あなたには特に大事なことだから来て」

「しょうがない。この俺が登場するしかないようだな」

 俺は斉藤といっしょに平和同好会のホコリくさい教室に向かった。

「超通信がなんか言ってたんか?」

「やっぱり、聞こえてないんだ。あなたには」

 部室には鹿沼と川島がパイプ椅子に座っていた。俺は鹿沼の前に座り、その隣に斉藤が座った。

「超通信から緊急の情報が流れたの。条約が破られたことで革新学校の一部の生徒たちがこの学校の生徒たちに攻撃を仕掛けるって言ってきたの」

「そうか・・・・」

 いよいよ始まるのか。戦争が。結構なことじゃないか。

「条約を犯した握間太郎がいる学校の生徒を対象に攻撃を仕掛けるって言ってたわ」

「まるで、この俺が諸悪の根源みたいな言い方だな」

 すると、三人の目が一斉にこちらをにらみつけた。

「何だ?その目は」

「別に・・・」

 斉藤は一瞬微笑みながら顔を俺から背けた。

 俺に対する悪意に満ちた感情。そうだ。もっと憎め。条約を破り、学校を混沌とさせるこの俺を。そうすれば、俺の力はさらに磨きを増していく。

 今、町で一番有名となったこの俺。悪の根源とされながらも圧倒的戦闘能力に誰もがひれ伏すこの状況。この優越感。なんてすばらしいんだ。これが・・・俺の喜び。感動。そして幸せ。

 この状況を楽しめるのは世界でこの俺だけだ。超能力専門革新高等学校のやつらがかかってくるなら返り討ちにするまで。ま、この俺以外の生徒を襲った場合はそのままスルーするが。こんなくそ学校の小市民生徒など救う価値がない。皆やられてしまえばいいのだ。そう、これこそが俺の偉大なる考え。俺の絶対思考能力。

 やはり、人類を超越した究極にして最強の深層心理だ。俺はなんてすばらしい人生を送っているのだろうか。

「どうしたら、この状況を打開できるのかしら?」

 斉藤はかなり悩んでいる様子だ。

 悩む必要はない。考えたって無能力者たちが能力者たちにかなうわけが無いのだ。諦めて駆逐されればいい。もちろん、この俺は例外だが。

 例え、俺以外の全生徒および職員たちが被害を受けようと俺が生き残っていればそれでいい。諸悪の根源が生き残り、無実の無能力者たちが駆逐される。非常に愉快だ。快感だ。究極の優越感とはこのことだ。実にすばらしい終末だ。

 さあ、無能力な小市民たちよ。恐怖するがいい。自分らがいかにちっぽけな存在か思い知るべきなのだ。

「人生諦めが肝心さ」

 俺は三人を諭すように言った。もちろん、反感を買うことは分かっている。分かっているからこそ言うのである。真実を。現実を。そして、今直面している究極の不のスパイラルを。

「何言ってのよ!皆の命がかかっているのよ。そんないい加減なこと言わないで」

 斉藤はかなりご立腹のようだ。結構結構。

「いい加減ではないさ。真実を言ったまでだ。ま、俺にはどうでもいいことだが」

 良いぞ俺。三人の負の感情がどんどん力になっていく。

「あなた、最低よ」

「ふ・・・はははは」

「何笑ってんだよ?」

 鹿沼が憎しみに満ちた目で俺に言ってきた。

「本当に最低なのは俺じゃないさ。この学校の生徒たちを暴行しようとしているやつらのほうさ。そんなことも分からずによく世界平和を唱えてられるな。本質を見失ってんだよこの学校の生徒たちはな。怖がってばかりで何もできない。お前たちもそうだ。結局は俺の力を頼るんだろ。この諸悪の根源である俺をな」

「私たちは別にあなたのことをそんな・・・」

「そう思ってることくらい俺には分かるんだよ。力には力で対抗するしかない。だから結局俺に頼ようとする。俺を憎みながらも俺に頼る。それがお前たち、いやこの学校の心理さ。じゃあ、聞かせてくれ。斉藤。どうすればこの状況を打開できるかを?」

 俺は楽しそうにニヤニヤ笑っている。なぜなら、この状況をとてつもなく楽しんでいるからだ。

「それは・・・・」

 そう、答えられるわけが無い。なぜなら、そんなものないからだ。超能力犯罪が激化しているこの日本で警察は対処しきれない状況であり、警察官たちが命を落とすケースが激増している。そのため、警察はまったく当てにならない。力のないものは力のあるものに屈服するこの世界で『特殊能力』こそ絶対なのだ。それがない人間は生き残れない。実にすばらしい現実だ。

「しかしだ。そんな使えないお前たちにできることはあるぞ」

 俺が上から目線で言い放った。

「え?」

「条約があるってことはそれを管理しているやつがこの学校にいるってことだ。そもそも、条約の内容が分からないんじゃどうしようもない。逆に言えばだ。条約の内容次第ではこの状況を打開できる・・・・かもしれないってことだってありうるさ」

 さあ、この俺が珍しく『希望』を示したぞ。どう対応するかな。平和同好会は?

「握間君の言うとおりかもしれない。私たちは条約って言葉に振り回されてるのよ。内容だってろくに知らないのに」

 斉藤から負の感情が徐々に消えてきている。非常に残念なことだが、これで条約をわざわざこの俺様はが調べる必要はなくなった。

「じゃあ、三人でがんばって調べるんだな。俺は帰るぞ」

「あなたは手伝ってくれないの?」

「分かってるはずだ。俺がこの状況を楽しんでいることを。俺は諸悪の根源だからな」

 俺はホコリくさい教室を後にした。

 さて、敵の攻撃に備えて俺は更なる進化を遂げなくては。条約のことはあいつらや超通信者に任せるさ。

 俺は再び教室に堂々と戻ると、教室では生徒間の恐怖に満ちながら騒いでいた。

 自分が狙われたらどうしようとでも思っている哀れな少子民たちが。

 この俺は何事もなかったかのようにドアを足で開けると、一瞬でクラスの声が止まった。

 諸悪の根源が教室に戻ってきたとでも思っているのだろう。実に哀れな生徒たちだ。

 この俺は何事もなかったかのように席に戻った。

「早く授業が始まらないかなぁ」

 この言葉はこのクラスに対する最大の嫌がらせである。皆が恐怖している中、混沌の原因である張本人が究極の超能力者であるがゆえに、本人以外の人間たちに被害が及ぶ。そんな状況の中で罪悪感をまったく感じていないことを表現した言葉なのだ。

 もちろん、この俺は勉強が大嫌いだ。

 感じるぞ。俺に対する激しい憎悪。そして、身の危険を案ずるがゆえの恐怖と絶望。最高のクラスじゃないか。ここは。

 と、俺はあることに気がついた。

 ホームレス?の倉田が教室にいないことである。あいつこそ一番のエネルギー要員なのにな。ま、これだけ俺が憎まれていれば十分か。所詮、倉田など俺のエネルギー要員にしか過ぎない存在なのだから。あいつがどうなろうが負の感情さえ出し続けてくれたらそれでいい。それ以外に何の価値もないのだから・・・・そういえば、あいつは怪我を治すヒーリング能力を持っていたな。ま、この偉大なる俺が怪我をすることはないだろうが、あいつがいるといろいろ便利だな。やはり、近くに置いといた方がいいのかもしれない。


 昼食時間になっても、倉田は学校に現れなかった。俺は屋上でのんびりと学校中の恐怖を感じ取りながら楽しく過ごしていた。

「そろそろいいだろう」

 誰もいない屋上で一人立ち上がった俺は空に向かって黒炎を放った。火炎放射器のように空気抵抗を受けながら、空に舞った。

「ダークバーニングをもっと強化すればあのテレポーターに勝てる。そのためには火炎放射レベルのダークバーニングをより強化しなくてはならない。そう、やつを倒す方法は周囲全体に黒炎を放つこと。これこそ、ダークバーニングの新たなる進化。そして、俺自身を超越することに相当する。

 ダークバーニングを周囲に。そのためには大量の負の感情が必要だ。だからこそ、この学校はそれに適している。周囲にいる敵を一瞬で黒き領域に包み込み、精神を崩壊させる能力。ダークバーニングを超越したダークバーニング。

『ダークフィールド』

 これを作り出すことが今の俺の絶対任務なのだ。諸悪の根源は強くなくてはならないのだから。ただの肉弾戦では迫力に欠ける。より圧倒的強さを身に着け、どのようなタイプの能力者にも完全なる絶対勝利を得なければならない。

 これが人類を超越した存在に課せられた試練なのだ。

「さあ、もう一度だ」

 俺は全身に力を集中させる。すると、全身から黒炎が発生するが、銭湯から上がってきた親父の湯気程度であった。

 まだだ。負の感情をもっと吸収するんだ。俺にはできるはずだ。俺は絶対的な存在のはずだ。俺は最強のはずだ。

 しかし、昼食時間が終了しそうになっても『ダークフィールド』を完成させることはできなかった。

 倉田がいないせいではない。負の感情でも恐怖だけでは足りないのかもしれない。恐怖を超えた負の感情。やはり、人間の『悪意』なのだ。今のこの学校にはそれがない。恐怖ばかりで少し飽きてしまうくらいだ。

 では、悪意に満ちた人間および場所を見つけるしかない。しかし、そんな場所どこにあるだろうか・・・・・やはり、刑務所か。しかし、この町に刑務所はない。では夜になって犯罪者を探すか。それも面倒くさい。

・・・・そうか。悪意に満ちた場所が二つほどある。一つは超能力学校。この高校を狙っている感情は悪意以外の何物でもない。そして、もう一つは・・・・反能力者学校だ。

 あの学校は能力者を嫌っている。それだけではなく、能力者を嫌うような洗脳教育をしているという噂を聞いたことがある。超能力者は人間ではなく悪魔だとか、宗教関連に結び付けていると聞いたことがある。そこなら、最高の『悪意』を手に入れることができるかもしれない。

・・・・ん?

 感じる・・・感じるぞ。悪意に満ちた感情が。

 最近になって負の感情の吸収範囲が広くなっていることに気がついた。だから、学校付近の負の感情は手に取るように感じる。吸収できる。

 すると、激しい突風が学校校舎全体に吹きつけられた。学校の窓ガラスが揺れ、割れる音が聞こえた。きっと、ベランダ側の窓ガラスがほとんど割れたのであろう。この俺自身も風に飛ばされそうになったが、どうにか踏ん張った。

 この突発的風は・・・間違いない。能力者の仕業だ。感じる。負の感情を感じるぞ。

「見つけたぞ。悪意の塊を!」

 俺は大声で叫んだ。ほしいものが手に入る喜びに満ち溢れてしまい、俺は四階建ての屋上からジャンプし、負の感情の方角めがけて飛んでいった。

 まるで、空を飛んでいるような感覚に陥った。風が心地よく、髪がなびく。しかし、ジャンプ力にも限界はある。屋上から数十メートル付近で落下し始めたのである。それでも、絶叫マシーンに乗っている最高の心地であった。そして、乾燥した校庭に地響きと共に着地した。

 すると、学校全体に設置されている網枠に数人の人間がいることに気がついた。

「見つけたぞ。悪意の集団を」

 俺はニヤニヤしながら、全速力で走っていった。学校中の負の感情を吸収しているため、俺の身体能力はまさに超人を超えるレベルにまでなっていた。頑丈な体に究極の腕力。そして光より早いスピード・・・これは言いすぎだが、オリンピック選手よりも速く走っていることは事実であった。

 網枠の向こうには4人組の超能力学校の生徒と思わしき男子三人女子一人がいた。

 乱れた制服を着ている四人組の髪をオールバックにしている一人が突風を操っていることが分かった。両手を使って気流を自在に操る能力といったところであろう。ま、この俺には通用しないが。

 向かい風は強さを増したが、それでもこの俺の走りを止めることができない。無能力者ならとっくに飛ばされて大怪我を負っているはずである。

「てめぇどうして止まらない」

 気流使いのオールバックが叫んでいる。だから、この俺も叫んでやった。

「人類を超越しているからだ!」

 すると、全身から黒炎が出始めた。

 やはり、俺の進化には人の『悪意』が必要だ。こいつらを使って俺は更なる進化を遂げてやる。

 俺は走るのをやめ、地面を強くたたきつけた。すると、地面はへこみ、地響きと共に俺の身体が若干沈んだ。

 これなら、止まっていても風に飛ばされる心配はないからだ。

「さあ、超能力対決を楽しもうぜ!」

 俺は笑顔で答えた。全身からの黒炎がどんどん増している。

「訓練も受けていない、てめぇなんかに負ける俺たちではない」

 オールバックが叫んでいたが、説得力に欠けていた。

「アタイにやらせてよ」

 金髪でロングヘアー、ミニスカートの女子生徒が隠し持っていた金属バットを持ちながら言っていた。

「分かったよ。ちゃんと倒せよ」

「任しときな」

 ふ・小市民ごときが。

 女が相手だろうと俺は何のためらいもなく傷つけることができるんだぜ。この俺は。

「あんたが握間ってやつかい」

 そのメス豚は偉そうに聞いてきた。

「偉大なる握間太郎とはこの俺のことだ」

 女は校庭内に入ってきた。バットを引きずりながら。

 すると、背後から無数の恐怖の塊を感じた。俺の華麗なる戦いに気がついた学校の小市民たちがこちらを見ていたのだ。教室の窓ガラスの破片など気にもせず、ただこちらを見ているだけ。気がつくと、一人ひとりの負の感情は違うので誰が俺たちを見ているか判別できるようになっている。さすがはこの俺である。平和同好会の三人も部室からこちらを見ている。

 しかし、彼らに共通していることは一つ。結局何もできないことである。これがこの学校の本質である。

 実に哀れで滑稽だ。

「あんた、一人ぼっちでかわいそうだねぇ」

 悪意に満ちた声でヤンキー系の金髪女が言ってきた。

「かわいそう?・・・・ははは、それはお前たちの方だよ。一人じゃ何もできないからこうして四人でやってきたんだろ。『結束』ってやつができなきゃ何もできない超能力学校の哀れな能力者にどうこう言われる筋合いはない。覚えておくんだな。自分たちの愚かさと弱さを」

 俺は笑顔になりながら高笑いした。

 これが人類を超越したこの俺の特権。偉大だ。偉大すぎる。

「ちょーしこいてんじゃねーよ」

 金髪女は切れたご様子だ。これだからヤンキーは。実に滑稽な動物だ。人間に値しない。こんなくそみたいな動物が能力を持っている。実に理不尽な話だな。

「調子をこいているのはお前たちの方だ。恥を知れ」

 すると、金髪女は憎しみに満ちた不細工な顔をしたかと思うと、一瞬でその場から消えた。

「消えた?・・・・後ろか」

 すると、金属バットが俺の頭を直撃し、衝撃音が鳴り響いた。

「うわぁ・・・いてぇ・・・・なんてね」

 ぜんぜん聞いてないぞ。メス豚が。これが革新学校生の力か。実に哀れだ。

 全身から黒炎を放ちながら俺は余裕の笑みを浮かべていた。

 こいつは高速移動ができるのか。目に見えない速さで動ける。あのテレポートやろうに匹敵する速さだ。この女を利用すれば俺の能力は更に進化することができるかもしれない。少し遊んでやるかな。このメス豚未満とな。

「この共学があぁ、ざけんな!」

 金髪女はその場を離れ、高速移動で再び俺の背後をとり、金属バットを今度は横に振り、俺の頬に命中した。しかし、俺が傷つくどころかどんどん金属バットがへこんできている。

「金属バットが泣いているぞ。女」

「うっせい」

 金髪女は後方に下がり、左右を高速移動しながら俺を翻弄していた。といより、翻弄しようと努力しているようであった。

 これだけの高速移動なら金属バットの衝撃も相当なものであろう。並みの人間ならとっくに成仏している。しかし、俺は並みなど当に超えている超人なので死ぬわけがない。

 しかし、金髪女の高速移動は並大抵ではないことは分かっていた。正直、この俺よりも速い。まさにスピードの女神。いや、スピード狂のヤンキー娘と言ったところか。

「残念だけど、お前のスピードに俺の反応速度は追いついているよ」

 俺には分かる。反射神経が強化されているが、それ以上にあの女の負の感情がどこから発しているのかが手に取るように分かるのである。

 今の俺の目的はこのメス豚未満の『悪意』だ。それ以外に何の興味も無い。

 すると、全身から出ていた黒炎が増してきていることに気がついた。

 もっとだ。もっと燃えろ。そして、周囲を暗黒の領域に変えるのだ。

 高速移動をしている金髪女が真正面に突撃してくるのが分かった俺は右に軽く動き、攻撃をかわした。

「アタイの攻撃を避けた」

「悪いけど。見えるんだよ。この俺にはな。お前の愚かな行動が!」

 悪意が足りないぞ。女。これでは俺の進化が中途半端なものになってしまう。

「アタイが負けるわけない」

 金髪女はまた正面から突撃してきたので、今度はジャンプし、空中で一回転しながら避けた。もちろん、俺には体操経験はなかったが、運動神経が飛躍的に向上している。

 女は高速移動を止め、こちらをにらみつけた。

「あんた、一体どんだけ能力持ってんのよ?」

「それを知りたければ、この偉大なる俺を倒してみるんだな。超能力学校の生徒さんよ」

 俺は笑みを浮かべた。

 高速移動できるだけのスピード狂女が。この俺に勝てるわけないだろうが。それに俺にとってお前はただの道具にしか過ぎないのだ。俺が進化するための道具。そう、この学校の小市民たちは俺にとって負の感情要員にしか過ぎないのだ。それ以外は何の役にも立たない、いてもいなくてもいいような人間の集まり。こいつらくそ能力者も例外ではない。

「調子こいてんじゃねーよ」

 再び、高速移動した女は俺の右に来てバットを思いっきり振り、俺の股間を攻撃した。物語の約束事では股間を攻撃された男の百パーセントは一瞬ひるみ苦しみだす演出が一般的だが、体全体が進化している俺にはそれすらも通用しなかった。

「いたくねーぞ。それがお前の限界か。哀れだ。実に哀れだ。お前も所詮は小市民か。悲しいな」

「あんた、金玉付いてないんじゃないの?」

 これだから小市民は。俺は下ネタが大嫌いなのだ。

「もういいや。お前に用はない」

 俺はダッシュし、金髪女を右ストレートで攻撃したが、高速移動でかわされてしまった。

「少しはやるな。じゃ、これはどうだ」

 高速移動を繰り返している金髪女にダークバーニングを放った。すると、移動方向を完全に俺に読まれていたため、攻撃が命中し、動きが止まった。

「は・・・アタイ・・・なんで・・・生きてるの?」

 精神錯乱が始まった。自分自身の存在価値に疑問を抱き、絶望が内面に増殖していく。これが俺のダークバーニング。相手を精神的に焼き尽くす火炎だ。

「てめぇ、佐々木に何しやがった」

 気流使いのオールバックが怒りに震えている。

 この女の名前は佐々木か。実にどうでもいいな。こんな女の名前など。きっと、数分で忘れてしまう。覚える価値などないからだ。

「彼女は今新世界にいる。絶望という名の暗黒の世界に」

 佐々木の全身は黒炎に包まれ、燃え続けている。俺の炎に殺傷能力はないが、精神破壊を起こす。このまま佐々木が燃え続ければ彼女の精神は崩壊し、二度と立ち直れないだろう。

「早く、助けてあげたらどうだい。それが『結束』ってやつなんだろ」

「もう、生きていたくない。アタイなんて生きててもしょうがないんだ」

 今にも消えそうな小さな声で佐々木が絶望し続けている。

 佐々木の負の感情を感じる。ああ、なんて俺は幸せなのだろう。絶望もまた俺の生きがい。人の不幸は俺の幸福そのものだからな。

「佐々木!」

 オールバックが突風を起こし、佐々木の全身に燃え続けていた黒炎が吹き消された。

「っち。面白くないな」

 俺はそういいながらも笑みを崩さなかった。

「あのくそは俺にやらせろ」

 今度は小柄で両耳にピアスをつけた男子が叫び俺に向かってきた。

「『火炎放射鬼』と呼ばれている俺の紅蓮の炎を食らえ」

 そのピアスやろうは両手からその名のとおりの火炎を噴出してきた。その量は半端ではなく、数十人をいっぺんに飲み込んでしまうくらいの勢いであった。

「やめろぉー・・・なんてね」

 やつが炎で攻撃するならこちらも炎で対抗するまでだ。

 俺は右手でダークバーニングを放ち、やつの迫りくる炎に対抗して見せた。すると、赤き炎と黒き炎は交わり、激しい摩擦を起こしている。互いの炎の威力が互角のため、紅蓮と漆黒の炎が校庭に撒き散らされている。

「てめぇを燃やし尽くす」

 ピアスの男が叫んでいる。

「それはどうかな?」

 俺はニヤニヤしながらダークバーニングを放ち続けた。体力の消耗はない。なぜなら、周りの負の感情を吸収し続けているかぎり、俺の力は無限に続く。しかし、あのピアスやろうもなかなかやる。炎はさらに大きく広がり、学校の校舎をも多い尽くすくらいの勢いがある。これが超能力学校で強化された力・・・・・ふふふ、だからどうした!

 俺には消耗はないがやつにはある。いずれは力を使い果たす。それまで、この状況を楽しむまでだ。

 やつの火炎のおかげで校庭に植えられている植物たちが燃えていた。もちろん、やつの火炎攻撃がすさまじかったことが理由だが、もう一つの要因が隠されていた。

 俺が手を抜いていたからだ。

 俺は校舎を後方にしているため、俺がやられれば校舎は火炎に包まれている状況である。俺がダークバーニングを強く放射していればやつごとき能力者など一瞬で精神疾患にできる。しかし、それをしないのは、内心俺の通っているこのくそ高校に火がついてしまえばいいというすばらしき考えがあるからだ。そうすれば、小市民生徒たちは恐怖に震えるだろう。それが俺の力になり、俺を幸せにしてくれる。

 ま、火事になって死んでしまたら元も子もないのだが。

 今の俺ならこの火炎攻撃をはるかに凌ぐ黒炎を放てる。しかし、戦闘を楽しみたい俺は攻撃を弱めてやられそうなふりをして恐怖を集めている。

「もう少しでてめぇは終わりだ。俺が火炎地獄に送ってやるよ」

「ふ・・・・小市民が」

 俺は次第に炎に飲み込まれそうになっていた。ダークバーニングを直線状に放射するだけでなく、俺の周囲を繭のように包み込みこむこともできる。彼らの悪意が俺に更なる進化を与えてくれたのだ。今の俺なら一瞬でこの校庭全体に黒炎を放ち、こいつらおよび学校生徒たちを一瞬で精神崩壊させることも可能であろう。

 これが、これこそが世界に選ばれた存在。この握間太郎の絶対超越能力。暗黒の力なのだ。

「さあ、俺の火炎地獄に包まれろ。この共学の雑魚が!」

 ピアスやろうは、その醜い笑みを浮かばせながら火炎の威力をどんどん上げ、俺のダークバーニングを凌ぐ勢いで俺に襲い掛かる。とてつもない熱風が俺を襲う。

 そして、俺の身体はやつの火炎に包まれ、完全に飲み込まれてしまった。

「握間が死んだ」

「うそでしょ」

「マジかよ」

 学校中の生徒たちは条約を破った最低の人間であり、同時に最後の希望でもあった握間太郎を殺されてしまったショックで叫んでいた。

「おい、あいつ・・・くたばったぜ」

 ピアスの男が言っている。

「そのまま学校にも火つけちまえよ」

 オールバックが金髪で倒れている佐々木を抱きかかえながら言った。

「そうだな。火事だぜ」

 全身に力をこめたピアス男は火炎を消さず、そのまま学校に向かって放射し始めた。

 すると、何人かの生徒たちが学校の校舎からやってきた。その中には桜井も含まれていた。

「何だ?てめぇらは」

「私たちはあなたと同じ能力者なの。だから、私たちは見逃して」

 無能力者だけを襲えばいいというすばらしい提案を桜井ら能力者たちが言っている。

「それはできない相談だな」

 ガタイのいい坊主頭の四人目の男子が現れた。非常に目つきが悪い。

「おい、女。俺たちは仲間の佐々木をあんな目に合わされたんだぞ。どう責任取るつもりだ」

「すべての原因を作った握間はあなた方によって死にました。これでは駄目なのですか?」

「もう遅いんだよ。それにな。条約を管理しているそちらの下野川高校の生徒たちから許可は得てるんだよ。お前たちを襲っていいという権利をな」

「そんな・・・・」

 桜井はショックを受け、その場に崩れ落ちた。

「知りたいな。その条約を管理しているやつというのを」

 火炎の中からこの俺、握間太郎が叫んだ。

「何?生きているだと」

 すると、火炎は次第に弱くなり、黒炎が大きくなっていった。

「馬鹿な。俺が負けている」

 ピアス男が恐怖を抱きながら叫んでいる。

 そして、体力を消耗したピアスやろうは火炎放射をやめた。

 そこには全身を黒炎で囲ったこの俺が立っていた。

「俺が死ぬわけないだろうが。俺はお前たちを超越した存在なんだぞ」

「お前、死ねぇ」

 坊主頭の目つきの悪い男子生徒が俺に向かって殴りかかってきた。俺はそれを右手で受け止めた。

「威力はある。怪力能力といったところか。火炎、速度、気流、怪力の四人組がこの偉大なる俺に挑んできたわけか。非常に愚かなやつらよ。これだから小市民は」

「黙れ!」

 今度は左ストレートで俺の顔面を強打した。しかし、数百人の負の感情を取り込んでいる俺にはその程度の攻撃では傷一つ負うことはなかった。

「痛い・・・わけないだろーがぁ」

 俺は顔から黒炎を発生させ、坊主頭に点火した。黒き炎がやつの体を蝕んでいく。

「やめろぉぉ」

「やめるわけ無いだろ。これが楽しくて生きてるんだからさ」

 非常に愉快だ。最強の力を持ったこの俺が、自分たちが最強だと勘違いをしているやつらを叩きのめす。非常に愉快だ。

「もういい、決着をつけよう。もう目的は果たした」

「何の目的があんだよ」

 オールバックが聞いてきた。

「小市民には理解できないよ・・・・そうだ。一つだけ聞きたいことがあったんだ。おい、お前。条約を管理しているやつは誰だ?」

「お前、そんなのもしらねーのか?」

 オールバックは俺を馬鹿にした態度をとっているがやつの内面は恐怖で満ち溢れている。見た目倒しだな。だから、不良は嫌いだ。生理的に受け付けない。哀れな小動物未満だな。こいつらは。

「お前たちの学校の条約を管理するやつは女だ。倉田っていう女」

・・・・・馬鹿な。あの日陰女が・・・そんな・・・あんな女がそんな条約を

「それは本当か?」

 俺はオールバックの内面を調べた。やつの内面は恐怖だけで満ち溢れていて人をだまそうとするような悪意は感じられない。

「ああ、そうだ」

「分かった。これでお前たちを生かしておく理由はもうない。今から新世界の入り口に案内してやるよ」

「やめろ!」

「やめろといってやめるやつはいないよ。それでは超能力学校の皆さん。いつまでもお幸せに」

 俺は全身からダークバーニングを放ち、あたり一面を黒き炎に包み込んだ。例の四人組はもちろん、近くにいた桜井ら能力者をも包み込んでしまった。

 オールバックは風を使い、黒炎を抑えようとしたが、俺の力の方が圧倒的で闇に飲み込まれてしまった。

「見ているか学校のくず共が。これが俺の暗黒の力だ!」


 戦いは終わった。

 この俺の圧倒的勝利で幕を閉じたのだ。

 例の四人組は全員精神的に倒され、絶望のあまり、我を忘れている。

 病名で言ったらうつ病か。それとも統合失調症か。ま、どうでもいいかあんなやつら。

 桜井ら能力者たちも巻き込まれ、同じ状態で倒れている。実に結構なことだ。

 学校の小市民たちは俺の力に度肝を抜かれている。

 俺は両手を開き、ダークバーニングを少しだけ点火させた。

 この力は本当にすばらしい。この漆黒の輝き。人間を精神的に焼き尽くす暗黒の力。これが、これこそが俺の力。人間を不幸にし、俺を幸せにする闇の光。

 俺は校庭で自分の能力に見とれているとあることを思い出した。

 条約の管理者、倉田真美。

 そして、俺は全速力でその場を後にした。

 倉田を探すか・・・・といってもあいつはきっとホームレス公園にいるに違いない。もし、いなかったとしても夜にもう一度行けばいいだけの話しだ。

 感情の吸収範囲が広くなっているために、力が発動状態のため、ものすごいスピードで公園にたどり着いた。

「あいかわらず、汚いとこだな」

 いつも、夜にやってくるのでここがいかに汚いところが分かっていなかった。汚れたブルーシートにぼろぼろのダンボール屋敷。これが社会の実態。下の下以下の集団の場所だ。

 すると、負の感情の中に一人だけ異常なまでの恐怖と歪んだ喜びを感じた。

 倉田か?今までの感情とは違うが・・・

 俺はその方向に向かった。すると、円柱型の水道の前に倉田が空を見上げながら立っていた。

「学校が壊れるのがそんなに楽しいのかい?」

 俺は倉田の内面が手に取るように分かっている。

「・・・え、握間・・・」

「お前のせいで俺はまた進化を果たしたよ。ま、その代償は俺以外の生徒たちに受けてもらったがな」

「・・・・・・」

「何か話せよ。条約の管理者さんよ」

「知っちゃったんだ」

 倉田は下を向きながら低い声で言った。

「ああ、超能力学校の不良たちから聞き出した」

「彼らはどうなったの?」

「俺が新世界に送ってやった。あれじゃ、当分は精神科医か心療内科に通って向精神薬でも投与してもらうしかないな。ま、どうだっていいさ。今この俺が知りたいのは条約の内容だ」

「そ、じゃあ、教えてあげる」

 倉田は顔を俺に傾けた。

「一年前、私は条約の管理者に選ばれたの。っていっても名前も知らない先輩たちに強引に押し付けられたんだけど」

 人間とは実に愚かな存在だ。

「内容は簡単。革新学校の生徒たちが私たちの学校生徒たちを襲わない。その代わり、月に二十万寄付することが条件だったの」

 あの小市民たち。結局はただのカツアゲか。腐ってるな。

「今までの管理者たちは弱い生徒を脅したり、募金と称してお金を集めて革新学校生たちに寄付してたの。でも、私にはどちらもできないから、超能力を使ってお金を稼いで一人でがんばってたけど・・・・・嫌になったの」

「だから、この俺に条約を破らせたってわけか。この偉大なる俺を利用した」

「そうなるね」

 彼女の内面はいつのまにか罪悪感に満ちていた。

「それにね。私あの学校嫌いだから。めちゃめちゃになればいいって思ったの。だから、向こうの学校の生徒にそうたのんだの。私って最低ね」

「ああ、最低で最高だよ」

「・・・え?」

「お前のおかげで学校はめちゃめちゃ。生徒たちは恐怖に震え上がってるし、すばらしいことになっている。全部お前のおかげだ。感謝する」

「感謝するってあなた・・・喜んでるの?」

「ああ、俺もあの学校は嫌いだ。それに戦闘して楽しかったし、別にお前を恨む理由はないし、お前が条約の管理者だってことも言わない。俺も破壊は大好きでね。人の不幸だって大好きだ。今日ここに来たのは、条約の内容とお前に感謝するためだ。お前はもう金集めする必要はないし、めでたしってわけだ」

「でも、君はこれからも狙われるよ」

「結構じゃないか。これで俺はさらに進化できるってわけだ」

「君ってそうとう狂ってるね」

「どういたしまして」

 本当に狂った会話だ。さすがは俺だ。偉大だ。これこそ人類を超越した会話なのだ。

「じゃ、俺は他にやることがあるから」

「何をやらかすの?」

「やらかすとはまるで俺が悪い人間みたいじゃないか」

「・・・・・・」

「何だその目は?」

「別に」

 倉田が一瞬だけ笑った。

「ああ、でも超通信者にはばれるかもな。どうする?」

「そのときは君が助けてくれるでしょ」

「それは断る」

「・・・・そう」

 これで謎が一つ解けた。次はあのテレポートやろうを倒し、二度と俺にはむかえないようしなければ。

しかし、やつが何者なのか俺には分からない。

 駄目だ。やることが多くなってきて暇がなくなってしまった。

 俺にとって人生とは暇をつぶすことと考えているが、忙しすぎるのは嫌いだ。人生余裕をもってこそなのだから。

 倉田が管理者だったことをあの平和ボケ三人組に話すかどうか?世界平和を唱えるやつらのくせに誰一人助けられないでいる三人。

 時代がやつらのような存在を作り上げたのか。

 この超能力に頼りきっている世界で、能力がないことは無力という何よりの証拠だ。

「そうだ。強姦やろうをさがさなくちゃいけなかったな。すっかり忘れてたぜ」

 変態やろうの悪意はどのような味がするのか楽しみだな。

「私、あまり乗り気じゃないんだよね」

 倉田の負の感情が増している。

「どうしてだ?」

「私ができることといえば人の怪我を治すくらいで悪人を倒すとかは私じゃ・・・ちょっとね」

 倉田が目をそらしながら言った。

「そうだな。俺も乗り気じゃない」

「え?」

 倉田が驚いている。

「君は人とけんかをするのが好きなんでしょ」

「何だその知ったかぶりは。俺はすべてを超越しているんだ。今更けんかしたって俺が勝つことは決まっている。俺が今求めているのは『超越を超えた超越』つまり、進化だ。それには俺に匹敵する能力を持った能力者と戦う必要がある。正義とか悪とか世界平和とかなんてどうだって良いんだ。この俺にはな。その強姦魔が強ければいいが弱ければ戦う価値もない。それでは何の意味の無いんだよ」

 我ながらすばらしいことを言った。

「学校に戻らなくていいの?」

 倉田が不意に聞いてきた。

「ああ、今面倒くさいことになってるからいいんだよ。それにたかが高校ごとき休んだって死ぬわけじゃないだろう。今頃はガラスの片づけやらでだいぶパニックだろうしな」

 実に愉快だ。快感だ。幸せだ。

「私がひどいことしたから・・・・」

 すばらしい罪悪感だ。さすがは日陰女。倉田だ。

「条約なんて最初にしたやつが悪いんだよ。それに能力に溺れた哀れな小市民たちの自業自得ってやつだ。実に哀れだ」

 能力に溺れていないこの俺だから言える台詞なのだ。さすがは俺である。

「君もだいぶ溺れてる気がするけど・・・」

 倉田がこの・・・この俺に突っ込みを入れた。馬鹿な。倉田ごとき日陰女にこの俺が馬鹿にされるとは」

「俺は溺れてなどいない。コントロールできている。能力こそ俺を象徴する絶対的物だ。それはお前だっていっしょだろうが」

「そこが溺れてると思うんだけど。超能力って自分を象徴するものかもしれないけど、私は単なる自分の一部だと思うけどな」

 単なる一部・・・・そんなことはない。俺の・・俺の能力は俺自身であり、絶対であり、真実であり、象徴だ。

 ま、いいか。倉田も所詮小市民。耳を傾けたこの俺が愚かであった。

「価値観の違いだ。お前とそんなこと話したって何の意味は無い。ま、とりあえず行くとこもないし、ここでホームレスでもしてるかな」

「それはうれしいんだけど、本当に怒ってないの?私が学校の生徒を裏切ったこと」

「ぜんぜん、怒るわけないだろ。お前に非はない」

 倉田のおかげで俺は更なる進化、無敵になったのだから。学校のやつらがどうなろうと知ったこっちゃ無い。俺のエネルギー要員だけでいればいいのだから。

「さてと、ホームレスごっこだ。適当に地べたにでもねっころがってるかな。それで強姦くそやろうをどうやって見つけるか考えるとするかな」

 今の俺なら犯罪者の悪意を一発で見抜ける。エネルギー変換効率も上がっている。今日の戦闘であれだけの力が出せたのは学校にたくさんの負の感情があっただけではなく、負の感情を取り入れ続けているせいか、進化していることが分かる。

 これが未知なる俺の力。

 今は負の感情を識別するだけだが、いずれは人の心だって完全に読めるかもしれない。人の暗黒面のさらに深い所だって見ることができるかもしれない。ただの感情ではなく、その人の不の本質を見抜くことだ。

「ねえ、君は死にたいって思ったことある?」

 突然、倉田が聞いてきた。

「何を急にそんなこと」

「私はある」

 聞いてねぇよ。そんなこと・・・てか知ってるし。お前に漂う死への願望。随分と世話になったからな。

「君の象徴が能力だって仮定するとしたら、私はそれを家族に否定されて、捨てられた。超能力を否定する家系に生まれた私に居場所はなかった。能力は幼い時から身についてて両親はそれを病気だっていったの。どこも悪くないのにいろいろな病院に連れて行かれて、挙句に最後は捨てられた。化け物だって。君と違って私はこの能力は好きでもあり嫌いでもある。この能力で手に入れたものもあったけど同時に失ったものもある。家族に自己を否定された悲しみ、苦しみ。君は分かる?」

 結論から言おう。ちっとも分からん。

「でも、ここの人たちはそんな私を受け入れてくれたの。ホームレスだってお金持ちだってそんなの関係ない。私は受け入れられた。必要とされたの。だから、またこの能力が否定されるのが怖いの。今度否定されたら私、死ぬかも」

 ああ、否定してぇ。でも、こいつが死んだら負の感情が手に入らない。それは非常にまずいことだ。生と死の狭間にいるからこそ、この女の負の感情は極上だ。俺に究極の力を与えてくれる。

「なるほど。じゃあ、俺やここの家なし集団以外、能力を知ってるやつはいないのか?」

「そうね。あの三人組にも教えてないし」

 人間不信ってやつだな。ま、俺も人は信用しない方だけどな。少なくとも人間に対して恐怖は感じない。そこが俺と倉田の最大の違いだ。

「お前ってもしかして、反能力者系統の県出身か?」

「そうよ。だから、捨てられたとき、頼れる人が誰もいなかったの。特に私が住んでた町は能力者狩りが流行ってて、暴行事件が多発してたから」

 正直に言おう。その町に行ってみたい。そして、時代遅れの愚かな小市民たちの悪意を吸収してみたい。これが俺の本音だ。

「よく、無事だったな」

「能力のことは友達と家族以外誰も知らなかったから」

「そうかい」

 ここで、何か暗い話が来ると思ったのでつい落胆してしまった。

「両親を今でも恨んでるのか?」

 俺は核心に迫る質問をしてみた。これが俺の悪意だ。

「・・・・分からない・・・・でも、悲しいかな」

 倉田の目にうっすらと涙がこぼれるのを見た。能力を使わずとも分かる。今の倉田は悲しんでいる。両親に認められなかった悲しみ。絶望。

 大変すばらしい。人の不幸話は実に楽しい。

「あんた!何倉田ちゃんを泣かせてるの!」

 ブルーシート小屋から小汚い格好のおばさんが出てきた。たぶん、四十歳は超えていると思う。

「この俺が倉田を泣かせただと!」

「あんた、能力があるからって調子に乗ってんじゃないよ」

 うるせいババアだ。能力者が嫌いなのか?この偉大なる俺の存在価値を理解できない旧人類が。

「おばさん。気にしないで。私が勝手に泣いただけだから」

「倉田ちゃん。こんな男かばう必要はないんだよ。倉田ちゃんは私たちホームレスにとって女神みたいなもんなんだから」

「ホームレスの女神か」

 俺はつい笑ってしまった。

「あんた、人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ。この悪魔め!」

「握間ですが何か?」

 俺はこのくそうるさいババアをおちょくった。

「あんた、そんな態度とると痛い目に遭うよ」

「黙れ、小市民。この俺がお前たちをホームレス狩りから助けたんだぞ。それを忘れて何が痛い目に遭うだ。むしろ、こっちの台詞だ」

 これだから小市民は。

「二人ともやめてよ」

 倉田が少しだけ甲高い声で言った。

「こんな男といっしょにいることないよ。倉田ちゃん。私には分かるんだよ。この男は人を不幸にする。男で失敗してる私が言うんだから間違いないさ」

 人の不幸を見るのは好きだが、自ら他人を不幸にするより、それを上から傍観している方がもっと好きだ。これが世界に選ばれたこの俺の特権なのだから。

「俺が人を不幸にする?それがどうした?」

「あんた、正気で言ってんのかい?」

「ああ、正気だ。人の不幸。すばらしじゃないか。人は不幸になるために生まれてきたようなもんだ。苦しみこそ真実さ」

 俺は楽しいけどな。

「あんた、何言ってんだい?それでも人間かい?」

「違うな。人間を超越した存在だ」

 ふ・決まったぜ。

「おかしいよ。あんた」

「ばあさんが俺についてこれないだけさ。俺という名の新時代にさ」

「あんた、馬鹿だねぇ。付き合ってられんよ」

「じゃあ、付き合うな。俺も貴様ごときに用はない。とっととブルーシート小屋に帰れ」

 俺は邪険に言った。

「最低だよ。あんた」

 そう言うと、ババアはテントへと戻っていった。

「言いすぎだよ。君」

 倉田にしかられた。

「大丈夫さ、そんなことで傷つくようなばあさんじゃないだろう」

 あのばあさんからも負の感情は感じ取れたが、俺の発言に対して傷ついている様子はまったくなかった。むしろ、別のことを気にしているようであった。

 ま、ホームレスだ。いろいろとわけありなのだろう。詮索するつもりはないさ。

「これが今の社会の実態なんだよね。超能力主義社会になった日本の実態。能力がないだけで就職に不利で切り捨てられる」

 倉田が淡々と述べている。

「でも、一方でそれを否定するやつらもいる。お前の両親みたいにな。人間は所詮こんなもんさ。ちんけな価値観だけに縛られた愚かな下等生物だよ」

 俺は倉田の前で堂々と人類を否定した。

「君って本当に変わってるね」

 倉田が笑顔になって言った。やつの負の感情が小さくなっている。

 駄目だ倉田。お前は病んでいてこそ価値があり、俺がここにいる。お前が幸せになったら何の価値もない。

「ホームレスを救おうとし、かつ俺を利用して条約を破らせ学校を破壊しようとしたお前に言われる筋合いは無い。それに俺は変人ではない。俺からすれば俺以外のすべての人間が遅れているだけなのだ。それを変わり物と考えるのは民主主義のエゴだぜ」

 そう、これが民主主義の限界。別に社会主義やら共産主義、独裁主義を肯定しているわけではない。しかし、人間とは間違う動物だ。民主主義が絶対であるわけがない。民主主義の決定的弱点はマイノリティを始めから否定していることだ。これは何も政治の話だけのことではない。人間関係にも言えることだ。マイノリティな人間は否定され、いじめの対象になる。今の倉田がいい例だ。人類は力や技術は進化しても内面を進化させることには失敗している。これが今の新世界だ。能力に溺れ、己のエゴのためにしか使えない。一連の学校やホームレス襲撃事件や次に対処するであろう強姦魔だってそうだ。能力を悪用するか、倉田のようにごく一部の人間にだけを助けるか。前者を悪、後者を善と愚かな人類なら区別するであろうがそれでは駄目なのだ。善悪を超越した考えを持とうとしない愚かな人類では真に進化することはできない。

「しかし、今頃学校はどうなってるかな。どっちの学校もな。もしかしたら、俺は逮捕されるかもな。結構なことだが」

「怖くないの。能力を悪用した人間は刑が厳しいって聞いてるわよ」

「この偉大なる俺を刑務所に隔離できるわけないだろうが。それに警察は能力者犯罪に対処できない。学校の教師たちだってそうだ。この日本は腐敗している。だから、俺が生まれたのだ」

「え?」

 倉田は俺の言っていることを理解できていないようだ。当然だ。俺から見れば倉田も下等生物のようなものだ。俺以外のすべての人間・能力者は下等生物。愚かな歴史をし続けるだけの哀れな小市民だ。

「俺はこの世界に適用した人間なのだ。いや、人間を超越し、能力者以上に進化した存在だ」

 さすがは俺である。

「自己愛の塊だね」

 倉田が調子に乗っている。

「お前は自己愛が足りないんだよ。両親に否定されたくらいでなんだ。両親は所詮DNAがいっしょのだけの存在だ。絶対じゃない。それを超えてこそ真に進化した自分に出会えるのだ」

 すばらしい解答だ。これが人類を超越したこの俺の思考。自己愛こそ俺のすべてだ。俺は自分大好き人間だからな。だからこそ、周りに影響されない。自分を持っているからこそ今の俺がある。自己愛を超越したからこそ、俺は友達がいないし、俺の考えを理解する人間はいなくても俺の精神は安定している。倉田のように病んだりはしない。孤独そこ俺の真実であり、世界の真実。孤独を恐れ、誰かと結婚し、子供を作り家庭を築くなど弱い人類がすることだ。俺は誰も好きにならないし、愛さない。自分だけを愛している。それで十分だ。これが人類のあるべき次の進化のステップだ。守るべきものを作ろうとする人類などもう必要がないのだ。

「君ってすごいこと言うのね。もしかして強がってない?」

 やはり、倉田には俺の考えが理解できないか。俺を疑っている。その負の感情。実にすばらしい。吸収しがいがある。今の俺にとって、人類の負の感情を吸収することが絶対的になっている。これは幸せなことだが同時に人類に頼っているという俺の孤独主義に反することでもある。それだけが唯一のネックだ。

 ま、たいしたことではないが。

「強がる必要はないだろ。言いたいことは分かるだろ」

「そうだね。君は強いからね」

 そう、俺は強いのだ。これは絶対的真実だ。

「よく分かってるじゃないか。ほめてやるよ」

「そんなのいらないよ。なんだかんだ君に助けられてるから」

「それもそうだな。ははは」

 俺は笑った。同時に倉田も笑い、負の感情が消えていく。

「私が条約の管理者だって平和同好会の三人には言うの?」

「言わない。言ったって何の意味もないし、今学校でもっとも重要なことはこれからどうするかだ。この俺が随分とめちゃくちゃにしちまったからな。愉快爽快」

「人の不幸を喜ぶなんて、やっぱり最低だね」

 そう言っている倉田も喜んでいる。

「次は強姦魔を見つけ出して、新世界に送らなければな」

「どういう意味?」

「知らない方が身のためだぞ」

 俺は意味深な笑みを浮かべた。

 新世界。それは精神を崩壊させ、絶望へと突き落とすすばらしい世界。この俺にはそれができる。これこそ暗黒の力。ダークサイドの能力。人類を超越した存在だ。

「前から聞きたかったんだけど・・・その・・・あの黒い霧って何なの?」

 控えめな言い方ではあったが、倉田はこの俺の能力に興味津々であった。

「あれが新世界の入り口だ。絶望という名の新世界。あれを浴びればお前も新世界にいけるぞ」

 俺は両手から黒炎を発火させて見せた。

「・・・・遠慮しとく」

 正しい選択だ。

「お前、最近地元新聞でにぎわっている強姦魔の情報とかなんかないのか?」

「し、知らない」

 倉田からは強姦という言葉に対する嫌悪感だけしか感じない。嘘はついていないようだ。

「じゃあ、ホームレスにそういったことを知っているやつはいないのか?」

「・・・どうだろう・・・・分からないわ」

 ホームレスは所詮ホームレスか。使えないな。

「なんか探すの面倒くさくなったな」

「君はどうして平和同好会の皆に付き合ってるの?」

 倉田が普通に聞いてきた。

「俺が知りたいのは人の暗黒面だ。それだけを見たいんだよ。世界平和なんてどうでもいい。そんなことは英雄願望の強い中二病がやっていればいいんだよ。俺は人助けに興味はない。しいて言うなら、暇つぶしだ」

 これが偉大なる俺の本音である。

「ここの人たちを助けたのはただの暇つぶし?」

 倉田から絶望と失望の感情が渦巻いている。

「そうだ」

 これが現実だ。現実を直視し、絶望しろ。倉田。

「そんな・・・・・」

 倉田。正義のヒーローなど妄想に過ぎないのだ。人は能力に溺れる。能力の無い劣等種族はそれに怯え、恐怖し、否定する。これが今の新世界。負の感情に満ちた世界なのだ。

「ま、何でも良いさ」

はたして俺は学校を退学になるか。何もなかったことになるか。普通に考えれば退学だが、今の俺にはどうだっていいことだ。超能力がある。それだけで俺の人生は満たされているのだから。

「学校にでも戻ってみるかな」

「え、何言ってるの?」

「平和同好会の小市民たちといっしょに犯罪者を捕まえないとな」

 俺はホームレスたちの負の感情をエネルギーとし、高速移動のようにその場を去った。

「待ってよ」

 倉田が最後に言った言葉だ。


学校に戻った俺はすばらしき光景を目の当たりにする。

 救急車がやってきており、ガラスで身体が傷ついた生徒や俺が倒してしまったやつらが運ばれるのを学校の校舎外の壁に隠れながら、その光景を楽しんでいた。

 実に愉快爽快。感動だね。お涙頂戴ものだねぇ。

 人の惨劇がここまで楽しいものとは思っても見なかった。これが今の新世界なのだ。

 俺はたまりに溜まった負の感情を吸収しながら、両足を曲げ、勢いよくジャンプした。俺の身体は空気摩擦をもろともせず飛び続け、屋上に着地した。

「ここからならより最高の光景が見られる。ああ、なんて幸せなのだろう。この俺は」

 大きな声で独り言を言い、俺は屋上に取り付けてある鉄格子に寄りかかりながら下から小市民たちを見下ろした。

 いわゆる高みの見物というやつだ。

 すると、平和同好会の三人組が怪我をした生徒たちを看護しているのが見えた。

ちゃんと人助けしてるじゃないか。結構なことだ。ま、どうでもいいがな。負の感情さえ吸収できればそれだけでいいのだ。俺にとって人類とは負の感情の塊以外何の価値もないのだから。後、暇つぶしの道具か。まあ、それくらいだ。

 桜井たちも救急車に運ばれている。

あいつらは心の傷でも負ったのだろう。病院で治せるような代物でもないだろうに。無意味に運ばれている。精神疾患はそう簡単には治らない。実にすばらしい。

 しかし、警察の姿が無い。人手が足らないというのが現状なのだろう。何せ能力者犯罪が多発し、しかも能力を使った証拠を見つけるのは至難の業であるため、立証が難しく、それに付け込んだ能力者が更なる犯罪を起こす。犯罪の激増は必須といってもいい。

 待てよ、もしかしたら俺が逮捕されてしまうのだろうか。法律の知識に乏しい・・・いや、法律という古き考えが俺に追いついていないだけなのだ。大丈夫だ。もし、仮に警察に捕まえられそうになっても俺の能力があれば何の問題もない。

 さすがはこの俺である。

 これが人類を超越したものの特権である。

 俺は腕を組みながら、校庭で混沌としている哀れな小市民たちを傍観し続けた。

 しかし、まったく飽きない。

 けが人が多すぎるのだ。もちろん、これは俺のせいではない。あの馬鹿能力者たちのせいだ。やつらが現れなければこんなことにはなっていなかったのだから。

 実に哀れだ。実に滑稽だ。そして、実に快感だ。

 人の不幸は蜜の味。いや、それ以上だ。最高の好物であり、俺の生きがいだ。そして、屋上で一人小市民たちを見下ろしている。いや、見下している。俺のみに与えられた特権であり、俺にのみ許された行動なのだ。

 この俺はしばらく屋上にいながら、運ばれる生徒やガラスの破片を片付けているやつらをただ見下し続けた。

負の感情が一気に集まるすばらしい場所である。

 学校が大嫌いだった俺は今なら好きになれるかもしれない。能力に目覚め、生徒たちを圧倒し、負の感情を食い続けている俺はなんて幸せなのだろうか。

 この世界で一番幸せに違いない。

 しかし、ずっとここにいるのも飽きたので、この俺は屋上を後にした。向かった先は平和同好会のホコリくさい部室である。

 理由は特に無い。しいて言うなら暇だからだ。

 俺のせいで皆を傷つけてしまった・・・・なんて思うわけが無いこの俺には罪悪感など微塵も無い。

 階段を下りると、あたり一面がガラスの破片でいっぱいであった。これが能力者社会の実態であり、能力におぼれ、進化しきれなかった愚かな人類の産物がこの現状なのだ。

 部室のドアを開けると中には誰もいなかった。

「あいかわらずホコリくさいぜ」

 中には資料が散漫していて何がなんだか分からない状態であった。

 きっと、斉藤らが強姦魔を調べているのだろう。結構な努力なことだ。

 俺は前から気になっていた本を見つけ出そうと、辺りを見渡すと、割れた窓の近くに一冊の本を見つけた。

『超能力者になれる本』

 斉藤が俺に見られたくなかった本がまだおいてあるとは。

 元能力者、斉藤。一体どんな能力だったのだろうか?それが気になる。桜井みたいな小さな水玉を出現させるだけのちんけな能力だったら笑えるがな。

 この俺は斉藤の本を手に取り、中身を拝見した。

 目次のページを開くと、実にくだらない本題が書かれていた。

『能力者になりやすい食べ物』『能力者になるための体操』『超能力と遺伝』などなど。

 今更こんな本を読んだとこで能力者になれるものか。斉藤は実に哀れな女だ。滑稽といっても過言ではない。

 すると、このホコリくさい部室に負の感情が近づいていることに気がついた。

 あの感情は・・・・・斉藤か。

 俺が部室にいると知ったらどう思うのだろうか?上位者である俺に感謝するか。それとも、被害を出したことで激怒するか?まあ、どちらにしてもこの俺は気にしない。気にするはずが無い。

 小市民の戯言など聞く耳を持つ価値などありはしないのだから。

 これが今のこの俺の心情だ。

「そこにいるのは誰?」

 斉藤がドアを開けながら言った。

「この俺だけど」

 俺は笑みを浮かべながら威風堂々と述べた。

「・・・あなた。ここで何してるの?」

「暇つぶしだ」

 斉藤の感情には俺に対する憎悪が増幅されている。実に結構なことだ。

「あなたのせいでどれだけの被害者が出たと思ってるの?」

「知るか」

 これがこの俺の解答だ。

「あなたなら手加減して彼らを止められたはずよ。それなのにあなたは能力を弄んでた」

「手加減をしたつもりだが何か?」

 俺は笑顔でとぼける。

「あなたは悪人よ」

 悪人・・・そんな低次元な存在だというのかこの俺が・・・・それはありえない。

「悪人ってのはあの超能力学校の四人組のことをいうと思うがな」

「あなたもよ」

 斉藤のこの俺に対する憎悪はすばらしい。どんどん増幅されている。これが下等生物の本質だ。

「じゃあ、俺はどうすれば良かったんだ?斉藤」

 この俺はいたって単純な質問をした。

「力を見せ付けて追い払えばよかったのよ。あなたが強いことが分かれば、あういう連中は恐れをなして逃げたのに。そうすれば無用な争いは起きなかった」

「・・・・ふふふ・・・はははは」

 この俺は笑った。高々と大声で。

「何がおかしいの?」

「正義の味方の斉藤さんらしい発言だ。これだから正義は嫌いだ」

「どういうことよ?」

「力を見せ付けたじゃないか。この俺の偉大なる力を。しかし、やつらはそれでも引かなかった。むしろ抵抗した。この俺を殺そうとまでした」

「でも、それは・・・」

「俺はな。不良とかヤンキーが大嫌いなんだよ。生理的に嫌いだ。そんな社会のゴミ以下の存在にお前の正義を実行していたら命がいくつあっても足りないよ」

 まあ、俺の命を奪えるやつはいないけど。我ながら愚かな詭弁をしてしまった。

「それにな。やつらはこの学校を襲ったんだ。実に愚かな行為だ。それを我慢して対話でもしろというのか。条約ごときくだらないことのためにか?」

「条約のことなんて本当かどうか」

「本当だから言ってんだよ」

・・・・しまった。俺としたことが。本当のことを言ってしまった。あーあ、面倒なことになりそうだ。これだから劣等種族は嫌いだ。

「どうして、条約が本当にあるって言えるのよ?」

 本当のことを言えば倉田が皆からのバッシングを受ける。あれ以上病んだら自殺しそうなか弱き精神の倉田は自ら成仏してしまう。これでは極上の負の感情が手に入らなくなる。それだけは非常に困る。

「不良たちがそう言ってた。まあ、誰が条約を管理しているかは教えてくれなかったけどな」

 教えてくれましたけど何か?

「そうなの・・・」

 どうにか納得したようだった。結構結構。

「ま、そんな済んだことはどうだっていいさ。次のお仕事でもしようぜ。斉藤」

「お仕事?」

「変態強姦魔を捕まえるんだよ。この俺が・・・いや、俺たちがだ」

「今のあなたとはいっしょに戦えないわ」


 第一次超能力抗争が終わり、俺は退学を覚悟した。被害者を大勢だしたからだ。しかし、校長はおろか、他の先生たちは、誰も俺に話しかけようともしなかったために、事実上退学回避になった。それでも、停学くらいなってもおかしくなかったのだが何事も無かったかのように日々が過ぎ去っていった。

 いいのかおいっと、突っ込みたくなったが正直退学になろうがならないかなど今の俺にはどうだっていいことだった。

 この俺には能力がある。史上最強の能力が。それだけでこの俺は十分であった。

 強姦魔の情報が少なく、待ちぼうけをくらう毎日を送っていたら、担任の先生が俺に話しかけてきた。

「握間君。ちょっと校長室にきなさい」

 と先生が俺に怯えながら言った。

「分かりました」

 俺が席を立つと周りの生徒たちが一斉に注目した。

 桜井や影村たち中心人物たちがいなくなった教室は実に滑稽であった。俺に対する恐怖心が周りから伝わってくるのだ。

 恐怖心を吸収できるのは大変結構なことなのだが、正直哀れとしかいいようがなかった。小市民というよりは小動物に見える。

 唯一俺に恐怖心を抱いていなかったのは倉田だけであった。

 俺は一瞬だけ倉田を見ると、俺を見て笑っていた。

 感情を見る限り、俺を馬鹿にしているようには見えなかった。なんかうれしそうであった。正の感情は俺の専門外なので、よく分からないが少し不気味だった。

 俺は教室を離れ、校長室に向かった。すると、周りにいる生徒たちが一斉に俺に注目している。クラスの反応と同じだ。

 この俺に恐怖を抱いている。殺人鬼がいるかのような強い恐怖心。

 劣等種族はどこまでも劣等か。・・・・

 校長室のドアの前につくと、担任の先生がドアをノックし、

「失礼します」

 といいながらドアを開けた。

 この俺は何も言わず、校長室に入ると、そこには白髪でしわだらけの校長先生と見知らぬ三十代くらいの女性が黒い椅子に向かい合わせに座っていた。

「あなたが握間君ね」

 この俺を知っている?そうか超通信者が俺を愚弄していたからな。有名人は辛いぜ。

「まあ、席に座りなさい」

 校長ごときが俺と担任を誘導し、校長の隣に担任の先生、俺の順に座った。

「握間君。こちらは超能力専門革新高等学校の教員をしている杉村先生だ。実は君を革新学校に転入を薦めに来たんだよ」

 何?俺が革新学校の教師の目に留まった。これは進化した人類として認められた証拠だ。

「先日は我が高校の生徒たちが大変な騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありませんでした。彼らは現在入院中なのですが、超能力に長けていたあの四人は力があるゆえ、それに溺れ、学校では問題児でした。Sレベルの能力者だったのですが大変残念でした」

 SレベルとはAレベルを超えたスペシャルクラスの意味であり、超能力に長けていて、かつ社会や戦争なのに役立つ人材を意味している。

「学校でも問題を起こしていた四人をたった一人で倒してしまった握間君をぜひ我が高校に推薦したく参りました」

 女性は笑顔で言った。

「私も君のようなすばらしい能力者は我が高校にいるのはもったいないと考えてね。どうかね握間君?」

 もったいないのではなく、怖いのだ。俺には分かる。俺の能力が教えてくれる。校長が俺を退学にしなかったのは報復が怖かったからだ。別にそんなことをするような小市民ではないこの俺だが、周りの劣等種族からすれば怖いのだろう。だから、退学ではなく、転入という形をとって俺をこの高校から追い出そうと考えている。俺の能力を理解していないのだ。

 しかし、この革新学校の教員である女。気に入らない。鼻に付くというか心の奥深くに悪意を感じている。それを隠そうと必死で演技しているみたいだ。上っ面で小市民をごまかせてもこの俺をごまかすことはできない。この女は非常に性格が悪い。入院してしまった哀れな桜井に匹敵する。

「私たちの学校に来てください。そして、その才能を生かせるよう訓練しましょう。もちろん、転入テストはありますが、今のあなたなら絶対にSクラスに入ることができます。私たちの学校に入学してください!」

 入学してくださいと強く言われた俺はある疑問が浮かんだ。普通は私たちの学校の入学について考えてみませんかというと思うのだが、入学してくださいとまるで命令されているようだ。

「お断りします」

 俺ははっきりと述べた。

「・・・・え、今なんとおっしゃりました」

「こ・と・わ・るっていったんですよ。先生」

 俺は笑みを浮かべながら言った。

「どうしてですか?」

 急にその女性教員はヒステリーでも起こすように叫んだ。

 やはり、何かおかしいぞ。この女。

「自分の能力くらい自分で強化できるからです。いいや、今の俺ならSレベルをも超越しているはずだ。だから、お断りします。今更そんな高校に興味はないです」

 これが偉大なるこの俺の今の本心だ。もう革新学校に興味はないのだ。

「も、もう一度言います。入学してください」

「嫌だ」

「入学しなさい」

 完全に命令形だ。この俺に命令するとはいい度胸だ。

「どうして・・どうして私ののう・・・いいえ何でもありません」

 ん?今のう・・・能力と言おうとしたのか。この女、もしかしたら『洗脳』能力を持っている可能性がある。洗脳して俺を操ろうとした。だから、入学しなさいなどと俺を洗脳しようといた。内面に隠れている悪意がやっと理解できた。まったく汚い女だ。

・・・じゃあ、俺は洗脳されなかった?

 俺がふと校長と担任の先生たちを見ると、鼻の下が伸びていた。

 この典型的リアクションはこの女教師に見とれている証拠だ。

 確かに、三十代とはいえ、きれいな女性ではある。しかし、俺にとってそんなことは実にどうでもいい。超能力学校の生徒のSレベルがあの程度だったことに正直失望している俺にはその学校に入学する理由がない。

「この俺の意思は固くてね。あんたの学校の生徒があの程度だったが非常に残念だ。訓練してあの程度とは・・・・・お・ば・さ・ん」

 俺はニヤニヤしながら調子に乗った。

 すると、女性教師の内面がダークサイドに覆われていく。非常に結構なことだ。

「お・おばさん?」

「この俺から見ればそうだ。女は年をとったら醜いからな。身の心も。すさむすさむ」

 この発言をすべての女性が聞いたら、俺は世界の敵になるだろうな。それもおもしろいか?

「じゃ、そういうことで。俺はもうしばらくこのくそ高校にお世話になることにするよ」

 俺は立ち上がり、その場を離れようとすると、ドアにたくさんの男子生徒たちが校長室を覗き込んでいた。

「邪魔だ。小市民ども。この偉大なる俺が通る道だ。離れろ」

 しかし、ドアや窓から覗いている男子生徒たちは無反応であった。皆、あの女教師に見とれている。

 男でも虜にする能力でも持ってるのか。あの女。フェロモン操作とでも言うべき能力かもしれない。非常に不愉快だな。男の鼻の下を伸ばす能力とは笑えたものだ。

 俺はドアを無理やり開けたが、男子生徒の群れが邪魔でしょうがなかったので、周囲にダークバーニングを放った。もちろん、最小限にだけれど。

 すると、男子生徒たちが絶望するように倒れこみ、自分たちの人生に価値を見出せない状態になり、事態は収束した。

「これがあなたの能力?」

 女教師が恐れながら言った。

ダークバーニングを浴びなかった生徒たちは正気を取り戻し、俺を恐れるように離れていく。

「それでいいんだよ」

 俺はそのまま教室に戻っていった。


 昼休みの屋上で一人ぼっちのこの俺は弁当を食べなかった。

 最近食欲が無くなっていく。その代わり、人の負の感情をもっと吸収したいという欲求が強くなってきた。

 もしかしたら、負の感情がこの俺にとって、食事代わりになっているのかもしれない。昨日も食欲がなく、何も食べなかったし、水分も取っていない。

 人間をさらに超越している証拠だ。さすがはこの俺だ。

 食事を取らない体になっているなら、金をかせぐ必要もない。実にすばらしい。能力者の特権とは偉大なり。

 すると、負の感情の塊がこちらに近づいてくるのが分かった。倉田に違いない。

「君、いつもそこにいるね」

 倉田は機嫌が良さそうに言っている。

「何かようかい?」

「斉藤さんが呼んでるの。超通信者から情報をもらったから来てほしいって」

 見つけたか。変態キチガイ強姦魔を。さあ、狂った外道民族の負の感情を吸収するチャンスだ。

「行くかな。部室に・・・・て、倉田はどうするの?参加するのかい?」

「私は遠慮した。後は君に任せるよ」

「分かったよ。ホームレスの女神さん」

 俺は倉田の横を通り過ぎ、階段をゆっくりと下りていく。

 そして、ホコリくさい教室にいつもの平和ボケ三人組みが椅子に座っていた。

「やっと見つけたかい?」

 斉藤から俺に対する嫌悪感は抜けていなかった。革新学校生徒とのいざこざをまだ根に持っているようだ。しかし、このグレートな俺の力なくして強姦魔とは戦えない。斉藤はそれを分かっている。小市民にしては賢い判断だ。

「今日の朝に超通信者が私にテレパシーで教えてくれたの」

 斉藤が負の感情を隠しながら言った。

超通信とは実に便利な能力だ。いちいち調べるなんて馬鹿らしいからな。

「超通信をメモった紙を読むわね」

 斉藤は机においてあった白い紙を手に取った。

「精神病院近くの森に三人の男が現れる。三人はそれぞれ能力を持っているが、どのような力があるかは不明。今日の九時ごろに現れる。以上よ」

「なぜ、精神病院の近くの森に来る必要がある?そんな場所に誰もいないだろうが」

 俺が斉藤に問い詰めた。

「知らないわよ。そんなこと。でも、行ってみる価値はありそうね」

 確かに、今の俺たちでは情報が不足していてどうしようもない。いや、本当は調べるのが面倒なだけなのだが。被害者に会って情報を引き出すことはできたはずだが、この三人はそれをしなかったようだ。

「強姦って最低よね。一生の傷になるんですから」

「そうだね」

「だな」

 三人がいたって普通の会話をしている。それが俺には面白く見えた。

 俺には友達はいない。それは俺が望んで選んだ道であり、仮に望んでいなくても偉大なる俺に匹敵する価値ある人間がこの世界にはいないので、結果的には友達はできなかったはずだ。

 だから、友人たちの会話を見るのがものめずらしいのかもしれない。

 劣等種族の陳腐な会話・・・・・・・たまにはいいのかもしれないな。

「じゃあ、八時五十分ごろに精神病院前に集合ね。特に握間君は絶対に来てよね。私たちだけじゃ手に負えないから」

「よく分かっているじゃないか。やはり、人類を超えたこの俺の力を借りるしかないということか」

 しかし、強姦魔三人組の細かい情報を知りながら、能力が分からないというのはいささか疑問だ。まあ、所詮は超通信者。俺の暗黒の力に遠く及ばない能力者などこの程度なのだろう。

「じゃあ、精神病院でまた会おうぜ」

 俺はそのまま部室を後にした。

 精神病院の近くなので負の感情を大量に吸収でき、俺にとっては非常に有利な状況だ。

 間違いなく勝てる。しかし、能力によっては相性が悪い場合がある。ましてや三人の強姦魔。人として終わっている外道未満の生物は何をするか分からない。

 実に性質の悪いことよ。だからこそ、会う必要があるのだ。腐った負の感情を堪能することができるのだから。

 廊下を歩きながら、もくもくとそんなことを考えていると、何人かの男女たちがこの俺に向かってやってきた。

 一体なんだ?この小市民たちは。

「握間君」

 一人の名前の知らない不細工な女子が俺に媚を売るような言い方で言った。

「私をボディーガードしてくれないかな?」

「ずるい、自分ばっかり」

「私が最初に思いついたんだからね」

「おい、独り占めは駄目だろう」

 こいつらは意味の分からない口けんかを始めたので俺は彼らの負の感情を吸収し、高速移動ですぐにその場を去った。

「一体何だったんだ。あいつらは?」

 しかし、やつらと同じ考えの小市民たちは他にもたくさんいたのだ。

「握間がいたぞ」

 また、名前の知らない男子生徒が大声で俺の名を呼んでいる。

「気安く俺の名を口にするんじゃない。この劣等種族がぁ!」

 俺は両腕から黒き炎を燃え上がらせ、威嚇した。

「握間はどこだ」

「いたぞ」

「え、どこ?」

 なぜ、この俺を探す必要がある。あれだけこの俺に恐怖し、嫌悪感むき出しだった小市民たちが?

 すると、生徒たちの群れが俺に押し寄せてきた。

 俺は彼ら一人ひとりの負の感情を通して深い内面を見ようとすると、あることが分かった。それは何かに対する『恐怖心』であった。俺に対する恐怖ではない。

「革新学校の生徒たちから私たちを守ってください」

 そうか、そういうことか。

「あいつら、俺たちを脅して金を巻き上げたり、暴行してきたりやりたい放題なんだ。だからさ」

「・・・・・・・・」

 俺は何も言わない。

「何か言えよ」

「・・・・・こ・と・わ・る」

「・・・・え!」

 そう、そういう顔を見たかった。

「なぜ、この俺がお前たち劣等種族を守らなければいけないのだ」

「だって、この前は私たちを守ってくれたじゃない」

「・・・・・ははははは」

 俺は悪意に満ちた声で笑った。

「この俺がお前たちを守った?それは違うよ」

「どういうことよ」

「お前たち下等生物には分からないことさ。この俺の偉大さをな。そんなボディーガードなんて安っぽいことにこの俺を利用しようとしているか弱き哀れなお前たちにはな」

 うーん。さすがは俺だ。究極の正論を言ってしまった。

「お前、最低だ」

 知らない男子生徒が言った。

「そうよ、最低」

 今度は女子生徒が言い、最低コールが冴え渡る。

「最低、根性なし、人でなし」

 こいつら・・・・どこまで腐っているのだ。

 この学校の生徒たちは腐っている。それは入学当初から知っていたが、ほとぼとこいつらには失望させられる。これがこの学校の人間の本性なのだ。

「超能力がない自分自身を恨むんだな。お前たちは進化できなかった動物なのだから。この時代に力を持たない人間は必要ないんだよ。襲われるなら勝手に襲われろ。それが弱肉強食の世界。この時代にお前らを生んだ両親を憎むんだな。じゃ、そういうことで。進化できなかった人間諸君たち」

 俺は笑みを浮かべながら、その場を後にした。

 無論、俺に反抗するやつは誰もいなかった。

当然だ。俺が言ったことは正論なのだから。

 学校の頂点にいるこの俺は嫉妬の対象なのだろう。人間の嫉妬とは実に見苦しいものだ。

 この学校には友達はいない。

 というか俺に友達もいなければ恋人もいない。俺は孤独。しかし、俺は孤独が大好きでしょうがない。俺にとって人間は負の感情を吸収するだけの餌のようなものなのだから。この世界に主人公がいるなら、この俺を置いて他にはいないだろう。もちろん、ヒロインはいない。この俺のストーリーにヒロインと呼ばれる安っぽいキャラクターは必要ない。

 この学校はこの俺を中心に動いている。俺こそが世界の中心。いや、中心という概念を超越した存在だ。どうだ。凡人には理解できないだろう。

 もう、このぐだぐだはたくさんなので早く夜になってほしい。強姦魔を見つけ出し、負の感情を吸収する。後はどうでもいい。斉藤たちが襲われようとどうだっていいことだ。

 しかし、愚民という名の生徒たちは必要に俺を追いかけてくる。まるで、有名人の追っかけのように。

 自分たちの身は自分たちで守れ。能力者は他にどこにでもいるだろうが。

 

 放課後になり、部活に入っていない暇な俺はとっとと学校を去ろうとすると、平和同好会の斉藤が俺の教室にやってきた。

「握間君、お願いがあるんだけど」

「断る!」

「まだ、何も言ってないじゃない」

 この俺にはお前の思考が手に取るように分かるんだよ。これは能力とは関係ないがな。

「この学校の生徒たちを守ってとか言うんだろ」

「分かってるじゃない。だったら・・・」

「嫌だ。俺はこの学校の生徒・・・いや、この学校自体が大嫌いなんだ。俺は俺のためにしか能力は使わない。これが俺の答えだ。それに今日は強姦集団を捕まえるんだろ。学校の生徒のことなんかより、自分の身を案じたらどうだ?」

「それは分かってるわよ。でも、どうしてこの学校が嫌いなの?」

「お前はこの学校で何を見てきたんだ!」

「え?」

 この女、意外と鈍感なんだな。もしかしたら、倉田の苦しみをまったく理解していない可能性がある。これでよく、世界平和とか言えるな。ま、『平和』なんて所詮、旧人類が考え出した概念でしかないか。

「倉田がどんな目に遭っていたかお前だって知っているだろう」

「それは一部の生徒であって・・」

「腐ったみかんは周りを腐らせる。しかし、そのみかんを腐らせるのもまた腐ったみかんだ。つまり、いじめや学級崩壊を引き起こしている一部の人間を生み出しているのもまた別の人間たちだ。この学校の生徒たちがどうなろうと知ったこっちゃ無い。それはお前や倉田、他二名も例外じゃない」

「私たちは仲間じゃない」

 仲間・・・・・これは傑作にして滑稽だ。俺はお前たちを一度も仲間と思ったことなんかないっつーの。

「お前は幸せなやつだ。元能力者さん」

「どういう意味よ!」

 斉藤から負の感情が湧き出ている。

 また、周りの生徒が俺たちを見ている。数多くの感情が入り混じっている。

「お前は自分がいかに無力でちっぽけな存在であるかを理解していない。俺には分かる。お前は心の中で自分は特別だとか思っているだろう。だから、こうしてヒーローごっこをしているんだ。ろくに周りも見えていないお前が人を救えるものか」

 完璧だ。この俺。これで、このメスは黙って帰るだろう。

「私は人を救える能力者だった!」

 大声を上げたので俺はつい驚いてしまった。周りの小市民たちも瞬き一つしていない。

「私は人を救えた。大勢の人をね。でも、もうそれは使えない。だから、こうして微力でもがんばってるんじゃない。あなたみたいに暴力で解決するような下品な方法じゃなくてもっと平和的に。もっともっと・・・・」

 この俺が下品。この俺の能力が下品と言ったな。この女、俺の存在そのものをけなした。それは死をもってしても許されない行為だ。

「貴様、俺を愚弄する気か」

「あなたは馬鹿よ。ろくでなし以下よ。もう今日はこなくていいから。もうあなたには頼らない」

「ああ、この俺および俺の能力を愚弄したお前なんかに協力してたまるか」

 俺は荷物を持って教室を後にした。

 あんな女、強姦されて病んでしまえばいいんだ。

 ・・・・・何を考えているんだ俺は、これでは強姦魔と同じ思考レベルではないか。俺はそんな愚かな存在ではない。

 しかし、人の不幸はたまらない。最高のディナーだ。もう、俗人たちに干渉するのはやめるか。やはり、俺は傍観者。それが俺の存在位置であり、上位者に与えられた特権だ。

 ああ、悪人退治は止めだ止め。

 昇降口を出た俺はまたしても大勢の生徒たちに囲まれてしまった。

「握間さん。お願いします」

「私たちの救世主になってください」

「お金なら出しますから」

 存在価値もない哀れなる小市民たちが。お前たちを助ける価値がどこにある。頭の悪い高校で、部活でも活躍しない。勉強のレベルは低く、能力者たちをただ受け入れているだけの教育方針。生徒は調子に乗り出し、学級崩壊、いじめを誘発。そしたらこのざまだ。

「お前たちに生きる価値があるのかい?」

 俺は低い声で皆に問いかけた。すると、全員が黙ってしまった。

「お前たちが生きてる価値があるなら助けてもいい。だが、お前たちは自分勝手で周りに流されるだけの存在だ。そんな人間を俺が助ける?馬鹿は学校の外で言うんだな」

 俺はそれだけ言って生徒たちを無理やり掻き分け、正門を通り抜けた。

 この学校に渦巻く負の感情はどんどん高まっていく。実にすばらしいことだ。しかし、だからこそやつらの存在はちっぽけでくだらなくて、愚民で小市民なのだ。

 もう、この学校の負の感情には飽きた。倉田のような死を感じさせる高級な負の感情こそ真にあるべきエネルギーなのだ。



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