第六章
次の日、いつものように退屈な授業を受け流しながら日々を送っていると、昼休みの屋上であの中二病三人組が現れた。
「ね、昨日超能力学校の生徒を倒したの。握間君でしょう?」
噂がすでに広まっていたようだ。超通信の仕業か?
「ああ、そうだけど」
「やっぱりそうなんだ」
眼鏡をかけた中二病女子生徒が言った。
「でもさ、お前ただで済むと思ってのか?」
癪に障る言い方で小柄の男子生徒が言った。
「小市民は所詮称小市民。たいしたことではないさ」
「前から聞きたかったんだけどどうしてそんなに強いの」
眼鏡少女が聞いてきた。
「俺だから」
完璧な解答だ。
「だって、訓練もろくに受けてないような握間君が革新学校生徒相手に対抗できるなんてなんか不思議。もしかして、何か隠してない?」
ギク・・・・
「隠す必要は無いさ。これが俺だから」
人の負の感情をエネルギーにしていることは秘密だ。誰にもばれてはいけない。
「絶対何かある」
この女、しつこい。
「人類を超越した存在だからじゃ納得できないか」
「できない」
三人が同時に言った。すばらしいチームワークだね。
・・・・・俺の嫌いな言葉だ。
協調性とか友情、恋愛、青春、想像しただけでぞっとする。小市民の考えは理解できない。
「人類を超越した俺を人類ごときが理解できるわけ無いか」
所詮小市民。しかもこいつらは中二病末期患者たちなのだからなおさらだ。もう終わっているのだ。
「一人にしておいてくれないかな?小市民に干渉されるのは嫌いだから」
「一匹狼を気取ってるつもり?」
うるせい眼鏡ブスが。だから学校は嫌いだ。学校制度を作った小市民を恨むぜ。
「人類を超越した俺と対等に話せる人類がどこにいるんだ?」
俺は彼らを馬鹿にする顔で言った。
「人類を超越しているようには見えないけど」
眼鏡ブスがはっきりと言った。
「じゃあ、聞くが世界平和を願っている君たちは一体どんな能力があるって言うんだい。それをぜひ教えてもらいたいね」
俺はわざと意地悪く言った。こんな小市民たちとこれ以上会話をしたくなかったからだ。
すると、さっきまで調子に乗っていた眼鏡ブスが黙り込んでしまった。
俺の偉大なる能力が感じている。この女の激しい怒りと憎しみと悲しみが渦巻いている。実にすばらしい。俺の力が増していく。
「帰るわよ」
眼鏡ブスは二人をつれて屋上を去っていった。
すると、小柄の男子生徒が憎しみに満ちた目で俺を一瞬にらみつけ、屋上の扉を閉めた。
「やっと帰ったか小市民どもめ」
学校の生徒というのは実に迷惑な存在だ。
そういえば、あいつらの名前を聞いてなかったな。それにあいつらに能力があるかどうかも知らない。やつらが一方的に俺に話しかけてくるだけで俺はやつら小市民たちのことを何も知らない。ま、知る価値がないということだ。
俺は再び屋上を大の字でねっころがると、また別の人間の感情を感じ取った。
「今度は誰だよ」
と言っているが察しはついている。倉田だ。
倉田はドアを開け、この俺の方に近づいてきた。
「昨日は・・・・ありがとう」
どこかぎこちない言い方であった。
「どうだっていいさ。世の中のことなんか。昨日はいい暇つぶしにはなった」
「じゃあ、今日も来てくれる」
倉田の負の感情が徐々に消えていくのが分かった。
駄目だ。お前は暗くなければ。負の感情の塊だから価値があったのにこれでは何の役にも立たない。お前は俺のエネルギー機関であればいいんだ。
「断る。ホームレスを救うことに意義を感じていないから」
すると、倉田の内部が黒く染まっていく。
いいぞ、ダークサイドだ。暗黒面をもっと引き出すんだ。
「つまんないやつ」
倉田はそっけなく言ってとっととその場を去ろうとした。
つまんないやつ?意味が分からない。俺の周りには本当に理解不能な小市民ばかり集ってくる。
「つまんないってどういう意味だ?」
「君、つまんない。だって、自分の力を有意義に使ってないから」
「有意義だって?」
「あなた、自分の力に酔ってるだけの中二病。そんなんじゃ小市民以下よ」
この・・・この俺が小市民以下だと・・・・許せん。この女許さない。絶対に助けにいくものか。
「ホームレスなんかを助けているお前などに言われる筋合いはない。あのヒーリングでどれだけの人間を救うことができるか。お前こそ分かってないんだよ。小市民が」
しまった。普通の正論を言ってしまった。この俺としたことが。
「君なんかに何が分かるっていうのよ」
この女もさっきの女同様負の感情を増加させている。こいつらの負の感情が見えてもそれ以上のものを見ることができない。一体何があるんだこいつらに。
俺は気になってしまい、神経を集中させて倉田の内面の奥底に眠る負の感情の根源に迫ろうとしたがうまくいかなかった。
「どうしても協力者が必要っていうんならあの三人に任せれば良いさ」
俺はあの中二病三人組の話を倉田に説明した。
「そんな人たちがいたんだ。でもな・・・・」
一体何が不満だというのだ?
倉田の負の感情から恐怖と疑念を感じる。そうとうの人見知りか?それとも何か隠しているのか。まあ、どちらにしても興味など無いが。この俺にとって、この女の発する負の感情にしか興味は無い。
「やつらが役に立つかは知らないけど俺よりはやる気はあるんじゃない?」
俺はそっけなく言った。
「ありがとう、じゃあ」
倉田はとっとと屋上から出てってしまった。
なんだかさびしいな・・・・・わけねーじゃん。
さーて、小市民もいなくなったことだし、暇を有意義に使おうじゃないか。
まずは俺の能力のことだ。あの黒い煙がなんなのか考えなくては。
黒い煙に触れた人間の負の感情が増大したことは分かっている。しかし、あの感情は絶望に近かった。怒りや憎しみといった感じではない。絶望・・・いや、あれは欝に近い感じか。だとしたら、相手を欝状態にできる能力。実にすばらしい。全身に喜びを感じる。人の不幸。これこそが俺の生きがい。
とは言っても俺はうつ病ってやつになったことはないから、そういう精神疾患を理解できない。何せ心身ともに健康なのだから。
今の俺の能力は身体強化。攻撃力と防御力が強化されてはいるがそれ以外はどうであろうか。視力や聴覚は特に変わりは無い。やはり、未知なる力を秘めたこの俺の力。この能力をさらに開花させ、この俺自身をも超越した存在となる。
やはり、能力を強化させるには実験台が必要だ。負の感情をもった小市民と対峙することで・・・・いや、対峙する必要はない。そうだよ。負の感情を簡単に手に入れられる場所があるじゃないか。
この町は実にすばらしい。やはり、人の不幸は俺の幸せだ。
学校が終わり、俺は学生服の着た状態で急いでその場所に向かった。町に住んでいる人間の負の感情のおかげで速く走ること・・・・いや、限りなく高速移動に近い状態で目的地に到着した。坂の上にあり、周りが木で覆われているその場所は、そう精神病院だ。うつ病やトチ狂った哀れなる小市民たちが暮らすまさしく鳥かご。
いや、俺にとっては負の感情の宝庫というべきか。
人とかかわりたくないので病院の近くの森に姿を隠した。
すると、全身に負の感情が漂ってくる。
数多くの人間の負の感情。それは単に怒りや憎しみ、悲しみではなく、分かるのだ。一人ひとりの違った感情が。言葉では説明できないが怒りが人によって違う。それは度合いではなく、『個性』といったほうが良いかもしれない。
誰がどこでその感情を出しているかもなんとなく分かる。位置だけだけれど分かるんだ。俺には分かってしまう。人類を超越している俺には。
精神病院。実にすばらしい。
倉田の感情なんかよりよっぽどすごい。死のにおいではなく『死』そのものを感じる。絶望、悲しみが特に強い。こんなに幸せな所があるなんて、なんて最高な所なんだ。
人の不幸はすばらしい。
すると、あの黒い煙が全身から湧き出てきた。
「これを待ってたぜ」
煙は勢いを増し、煙から徐々に炎のようになっていく。黒い煙から黒い炎と化し、俺の全身から湧き出てくる。
すると、全身により力がみなぎってきた。
この力をコントロールしたい。どうしたら、この黒い炎をコントロールできる?俺にはできるはずだ。俺にはその資格がある。俺は今こそ自分自身を超え、さらに超えなくてはならない。
それから数分したが、黒き炎は俺の体を包むだけでそれ以上のことは何も起きなかった。
身体強化だけでは駄目なのだ。もっと、この俺を象徴する何か能力がほしい。
負の感情を象徴する何か。絶対的な何かがほしいのだ。
俺はついいらつき右手を思いっきり振った。すると、黒き炎が一瞬ではあったが火炎放射器のように前方に飛び出したのである。
・・・・・これだぁー
俺の中の何かがそう言っている。
これだよこれ。そうだ。これが俺の象徴。暗黒の炎こそ俺の輝き。俺にとって絶対の奇跡。
よし、この炎を自発的に発生させるようにしなくては。
しかし、全身から黒い炎は出ているが自分自身でコントロールできない。というよりコントロールする方法が分からない。負の感情の吸収もそうであるが自発的には行っていない。体が勝手に吸収する。それを感じ取っているだけだ。そう考えれば、俺は俺自身を超越できていないことになる。
何かあるはずだ。そうだ考えるんだ。
俺は地面にあぐらをかきながらただ考え続けた。黒き炎が全身から発生していても気にせず思考し続けた。
そもそも、俺はなぜ覚醒を果たしたんだ。確かあの時、俺は影村ごとき小市民たちに馬鹿にされ、念力で身動きが取れなかった。その時に覚醒した。
その時の出来事にヒントが隠されているかもしれない。
たいていの物語の主人公は仲間たちと協力し、謎を解いていき、友情を育むとかそういう小市民が期待する展開なのだろうが、あいにくこの俺には友達はいない。悲しいと思ったことはない。孤独が大好き。これを強がりだという小市民がいるが残念ながら違う。俺は一人が大好きだ。だからこそ、今俺は精神病院の近くでこうして謎を解いている。自分自身についての謎である。
友情や恋愛などとは違うベクトルを突き進むこの俺、握間太郎は小市民やどこかのくだらない学園ドラマのような人生を送ることは決してありえない。
孤独こそ真実。人の不幸こそ幸福。自分こそ絶対であり、神を超越した存在となる。
だからこそ、俺は進化し続けなければならない。誰もたどり着けない究極を超越した境地へ。
さあ考えるんだ。見つけろ俺の真実を。俺の力を。俺にはそれが可能であり、その境地に行く権利がある。人類を超越したものの特権だ。
あの時、俺は影村たちに対して激しい怒りを覚えた。
・・・・そうだ。なぜこんな簡単なことに気がつかなかったのだろうか。
俺は負の感情を力に変える存在だ。それは他人からの感情・・・だけとは限らない。そういうことだったのか。俺に今必要なのは他人の負の感情ではなく、この俺自身の負の感情だった。これが覚醒の鍵。
最近は自分の力に満足してしまい、怒りや憎しみを忘れていたよ。そうか、これが俺の真実か。ようやく見つけたよ。
俺はこの社会に対する不満でいっぱいだ。だから、憎むべき対象はいくらでもある。
これでやっと俺は進化できる。さあ、俺の新たなる時代だ。
夜になり、俺は新たなる力を手に入れることができた。
『ダークバーニング』
この俺が命名した新たなる力。
俺はこの力の実験台となってくれる小市民を考えた。
夜にたむろっているチンピラで十分だろう。ま、犯罪者でも誰でも構わないが。
適当に夜の街を散歩していると、例のホームレス公園まで来てしまった。
ち、この俺としたことが。またこの無意味なやつらしかいない公園に来てしまった。
すると、数多くの負の感情を感じた。怒り、憎しみ、悲しみ、悪意に満ちた感情が混ざり合っている。これは・・・いい実験台が良そうだな。
公園には昨日のバリアーが張っていたので、強引のその中をくぐっていくと、昨日の不良たちにプラスして他数人の能力者と思わしきやつらがいた。
そして、驚いたことに倉田と例の中二病三人組が全員捕まっていたのだ。
「よ、お前たち本当にきたんだな。たのしそうじゃねーか」
俺が究極の嫌味を言うと、
「あいつだぜ、兄貴」
バリアー少年が年配らしき小市民と会話をしている。
「てめーか。最近調子に乗っている能力者って」
「この俺には調子に乗る権利がある」
俺は本音を言った。
「てめぇ、なめてんのかぁ」
まさしく不良の言いそうなことだ。そういう物言いは嫌いだ。生理的に不愉快だ。ヤンキーなど死んでしまえばいい。
「なめるに値すらしない」
こんなやつらばかりだと人間に絶望してくるな。会話にすらならない。
「調子こくのもいいかげんにしろや」
「調子に乗っているのは君たち小市民のほうだと思うけどな」
「てめぇ、殺してやる」
「兄貴、やってください」
実にすばらしい。いい実験モルモットとはこいつのことを言うのだろう。とっとと実験を終わらせよう。
俺はこのチンピラに右手を向けた。
「しってっと。てめぇは腕力しかねーってことはなあ」
知ったかぶりか。
「面倒くさい。もう終わらせるぞ」
俺は黒い炎、通称『ダークバーニング』をそのチンピラに向けて放射したすると、見事に命中した。やつの全身に黒い炎が燃え上がる。
さあ、ダークバーニングを受けた感想は?
「ぎゃあー」
そのチンピラは急に叫びだした。
「どうしたんですか。兄貴」
いいぞ。もっと苦しめ。苦しむんだ。
そうとも、ダークバーニングは精神を燃やし尽くす炎。通常の炎が物を焼くなら俺の炎は心を焼く。それは絶望を果てしなく体験できる究極の力。
やつが苦しめば苦しむほど俺の力はさらに強大とかし、ダークバーニングも無限に放射することができる。
「やつは今、新世界にいるんだよ」
俺はこのチンピラの仲間に言った。
「何・・言ってんだよ?」
昨日の不良たちは恐れている。俺とこのチンピラの姿を目の当たりにして。
「もういいか」
俺はダークバーニングの放射を止めた。すると、そのチンピラはそのまま気絶した。
「じゃあ、今度はお前たちかな?どうする小市民たち」
俺は右手を残りの三人に向けた。
「や・・・やめろ」
「分かったよ」
俺は右腕を下げた。すると、三人は腰を抜かし、落ち着いたようだ。
「なんちゃって」
「え?」
俺は左手を彼らにむけて思いっきりダークバーニングを放射した。
「やめろぉ」
彼ら三人は黒き炎を全身に浴び、あれ同様新世界へと足を踏み込んだ。
感じるぞ。彼らの絶望を。生きる希望が絶望へと変わっていくそのすばらしき感情。精神病院で感じた絶望以上の絶望。自分はどうして生きているんだろうと疑問を抱かせる感情。これがうつ病患者の感情か。
俺の放つダークバーニングは怒りや憎しみは増幅させない。絶望を増幅させる。絶望や悲しみ。まさに新世界。今までの感情を一瞬で変えてしまう究極の力。いや、究極を超越する力か。
俺は右手も使い、ダークバーニングを放ち続けた。両手から放たれる黒い炎は火炎放射機以上の威力を放っている。
いい実験ができた。こんな生きていても生もない愚民はこんなことぐらいしか利用価値が無い。哀れだがこれが現実だ。
実験用モルモットの諸君たち。俺の力の犠牲になってくれ。さあ、もっと苦しむんだ。精神崩壊したって構わない。
「もう止めて」
中二病同好会の女子生徒が俺に向かって叫んだ。
「なぜだ。こんな愚民いなくなればいいじゃないか。ま、この力に殺傷能力はないけどね」
俺はニヤニヤしながら答えた。
「もう彼らに抵抗する力はないわ。もう終わったのよ。これじゃあ、あなたも彼らと同じになってしまう」
何?この俺が小市民と同等と言うのか。そんな馬鹿な。ありえない。
俺はダークバーニングを止めた。すると、彼らはばたっと地面に倒れて気絶した。
「おい、女。俺がこいつらと同じだと言うのか?」
俺は冷たく聞いた。
「そうよ。あなたは悪人よ」
「・・・・・ふふふふふ」
俺は下を向きながら笑った。
「何がおかしいのよ」
「じゃあ、正義とは何だ?」
「それは・・・・人として正しい行いのことよ」
確かに。それは間違っていない。
「そうだな。正義とはそういうものだ。だから、駄目なんだよ」
「何がよ」
「正義という概念を超越できないお前たちはこの悪党というべき存在に屈服されつつあった。それはお前たちに力がないからじゃない。正義という言葉に縛られすぎた結果だ」
我ながらすばらしいことを言った。さすがこの俺である。
「それでも私は正義を信じる」
彼女は負けていない。
「そうかい。ま、いいけど。とりあえず、この革新学校の馬鹿生徒たちを追い払うかな」
「何するつもりなの?」
倉田が暗い声で聞いてきた。
「この四人を学校においてくるよ。そして、見せ付けるんだ。共学の学校には人類を超越した能力者が存在するとな」
すると、四人は無言のまま何も言わなかった。
当然だ。人類を超越したこの俺を理解できるはずもない。
「じゃ、そういうことで」
俺は気絶して何もできないでいる四人の足を両脇に抱えて、引きずるように歩き出した。
「そんなことしたら、私たちの学校と彼らの学校が対立して争いが起こるかもしれない。
学校戦争か・・・・実にすばらしい。
「そうかもしれないな。でもな、超能力学校生徒たちの悪行はホームレス狩りだけじゃないことはお前たちも知ってるだろう。こいつらだけじゃないんだよ。仮に俺が間違っていたとしてもそれは他人の価値観。俺には関係ない。超能力者たちの大半は必ず力を悪用する。それはお前たちが一番良く知ってることだろ。だから、お前たちはここにいる。だからこそ、示してやるんだ。自分たちの愚かさをな。
「あなたは正義の味方なの?」
中二病女子生徒が聞いてきた。
「言ったろ。俺は善悪を超越した存在だ。俺を理解できる人間は世界でこの俺だけだ」
その後、俺はゆっくりと四人を引きずりながら超能力学校へと進んでいた。彼らは気絶していたが、今でも絶望と戦っていることが分かる。だから、四人もの男たちを疲労することなく引きずっていられるのだが。実に結構なことだ。
それから数十分後、超能力専門の革新高等学校の校門近くまで来ることができた。すると、その学校は俺たちが通う学校や反能力者学校とは比べ物にならないくらいの大きさで、大学に近い建造物であった。しかも、学校全体がバリアーのようなものに包まれている。ホームレス狩りの生徒以上に強力そうなバリアーが張ってあった。
超能力者を扱う学校だからそれなりの警備体制であっても当たり前か。
その他にも、正門前には警備員が立っている。
きっと、何らかの能力を持っているに違いない。
俺はそう思い、この四人をどう始末するかを再び考えなければならなくなってしまった。
面倒くせーな。このまま置いていくか。
俺は学校近くにある一軒家の塀の前に彼らを投げ捨て、その場を去った。
罪悪感?・・・・・そんなものはない。こんな小市民がどうなろうと知ったこっちゃない。
次の日、学校中はホームレス狩り生徒たちが何者かに倒されたという噂で持ちきりであった。ま、いつものことだけれど
まさか、この偉大な俺がその犯人だとは誰も思わないだろうが。この優越感。実にすばらしい。まさに最高とはこのことだ。
しかし、そんなことはどうでもいい。昨日の帰りに俺は思ってしまったのだ。もっともっと力がほしいと。
確かにダークバーニングを習得することができた。しかし、もっと進化できるはずだ。俺は進化を望んできる。絶対的進化。絶対的存在。自分を象徴する絶対的力を。
俺が今考えなければ成らないのは負の感情を吸収しなければ力を発揮できないことだ。この力の欠点があるとするならば、周りにだれもいなければ力が発動できないただの旧人類同然ということだろう。俺の負の感情では能力の開花は可能でも力に変換できないこともそうだ。ならば、負の感情の吸収範囲を広げるしかない。しかし、どうすればいいのか。ダークバーニングの時は社会に対する不満を憎しみに変え、コントロールすることができたがそれが限界でもあった。
超能力学校生徒たちを敵に回してしまった今だからこそもっと、負の感情の吸収範囲を広げなければならない。
世界は悪意に満ちているのだから。それを生かさないわけにはいかない。俺はダークサイドの帝王であり、それすらも超越できる存在なのだから。
しかし、能力自体は進化し続けていることは分かる。
このクラスの生徒一人ひとりの感情がはっきりと分かる。もちろん負の感情だけではあるが、誰の感情か区別できるまでにはなっている。
さすがはこの俺である。
そろそろ退屈な勉強のお時間が始まろうとしていた。
一時間目は数学の時間であり、影村にシャープペンシルを刺された哀れな先生が担当である。もちろん、影村たちうるさいメンバーも全員出席している。
ドアが開き、先生が入ってくると、影村たちが性懲りも泣く紙飛行機を投げつけた。もちろん、影村がある程度念力で操作をしていることは分かっていた。
何も変わらない。これが小市民。これが学校の生徒たち。こんなやつらに生きている価値はあるのだろうか?
「やめなさい」
先生はひ弱な声で注意するが、誰も言うことを聞かない。
未だに発火能力者が分からないまま日常を過ごしてしまっているが、もうこのクラスの誰もそんなことは気にしていないようだった。
授業は始まったが、聞いているものなどほとんどいなかった。影村をはじめとするクラスの中心人物たちがしゃべりまくり、それが周囲に連鎖してしゃべり始める。まるでウイルスのように感染者が広がっていくようだった。
俺はとにかくうるさいのは嫌いだったので次第に怒りを覚え始めていた。それは俺だけではなく、負の感情の塊でもある倉田も同じであった。すると、倉田と目が合ってしまった。倉田の目は周りの生徒に対する憎しみや怒りでいっぱいであった。
しょうがない。この俺がはっきりと言ってやるかな。人類を超越した俺にはそれなりの責任があるだろうし・・・・・責任はないか(笑)
「おい、お前ら。いいかげん黙れ。くそうるせーんだよ。小市民のくせして。この偉大なる俺が勉強してんだ。しゃべりたいなら学校から出て行け」
俺は大きな声でかつ悪意に満ちた言い方で言った。
すると、誰もが一瞬でしゃべるのを止めてしまった。
当然である。影村を倒した俺に対抗できる能力者はこのクラスいやこの学校には存在しないのだから。この偉大なる俺に反抗すればどうなるか小市民でも知的障害者でも分かることだろう。
「それでいいんだよ。さあ、先生授業を続けてください」
決して先生が好きなわけじゃない。学校は嫌いだし大人だって嫌いだ。しかし、俺にとって一番の敵はこいつら学校の生徒たちだ。生徒こそ真の敵であり、俺にとっての悪である。
その後も、授業は平穏に続いていった。俺も適当に授業を受けている。もちろん、ノートなど取らない。教科書に書いてあるものを書き写すことに意味を感じないからだ。
このクラスに平和を感じる。いや、それは嘘か。俺に対する恐怖と憎しみを感じる。いたる生徒たちから。ま、結構なことだ。俺の力が増すだけのこと。所詮小市民。勝手にイラついていればいいさ。
すると、何人かの悪意が俺にではなく、倉田に向かっていることに気がついた。
このクラスの女子リーダーである桜井瞳らの集団が何かをたくらんでいる。何を考えているかは俺の能力では分からないがとてつもない悪意を感じる。
察しはつく気がした。きっと、クラスに溶け込んでいない倉田をいじめようとでもしているのであろう。なんて分かりやすいやつらなのだ。ま、倉田がいじめの対象になれば負の感情のエネルギー供給問題の心配はなくなる。実にすばらしい。
授業が終わり、先生が教室を去った瞬間、桜井ら数名の女子生徒たちが倉田を取り囲んだ。
お、いよいよ始まるということが。結構なことだな。小市民は小市民と対立し、小市民同士でつぶしあう。哀れな劣等種族だな。
「倉田さん。あなた、ホームレス公園に住んでるんですってね」
桜井はクラス全員に聞こえるように大きな声で言った。
すると、クラス中がざわめきだした。
そんなことで驚くなんてやはり小市民。人類を超えている俺はそんなことくらいで驚くものか。
「マジかよ。倉田。ホームレスだったのかよ」
どこかの男子生徒たちが大声で言った。
「きもちわりぃ」
「ホームレス高校生」
「汚らわしい」
各方面からの倉田に対する悪意が飛び交っている。人の悪意はなんてこう愚かで気持ちがいいものなのだろうか。俺の力がみなぎっていく。
だから、俺は倉田を助けない。今の俺なら倉田を助けることは実に簡単だ。一+一の計算よりも簡単なことだ。けれど、助けない。倉田の負の感情は特別だ。『死』を感じさせるくらいの感情。これはまさしく自殺への兆候。まさに最高を超越したエネルギー養分だ。これだよ倉田。今、お前の中にあるのは絶望を通り越した死への予告。俺の体に快感のようなものが流れる。ああ、なんて幸せなんだ俺は。人の不幸を幸せと感じる俺はまさに人類を超越した存在。新人類とも言うべき存在だ。
「どうなのよ。倉田さん。何か言いなさい」
桜井は椅子に座って下を向いたまま何も言わない倉田を見下すように見ていた。
「・・・・・」
倉田は何も言わない。
しかし、俺には分かる。倉田の死の感情が増大していくことを。今にも死にたがっていることを。さあ、もっと死の感情を。死へと近づくんだ
・・・・・待てよ。もし、倉田が自殺でもしたら負の感情供給問題が発生してしまう。
あ・・・それはそれでまずいな。どうすっかな。人が苦しんでいる所は見ものなのにな。くそ、この俺を苦悩させるとは。やるな倉田。
「もしかして、あなたホームレス?」
桜井の友達の女子生徒が言った。
「嘘、じゃあ、本当にホームレス高校生?」
「ホームレス、ホームレス、ホームレス」
クラス全体がホームレス合唱を始めた。
まさか、このクラスがここまで腐っているとは。うーん、実にすばらしいことだ。クラスの悪意が充満している。俺の力はどんどん増大していく。
「ちょっと、あななたち何やってんのよ?」
別クラスのあの中二病三人組がやってきたのだ。
ち、こんな時に邪魔しやがって。負の感情を堪能できないじゃないか。偽善者集団が。
「あら、正義の味方の斉藤岬じゃない」
あいつ、斉藤っていうのか。ま、どうでもいいがな。
「倉田さんをいじめるのはやめなさい」
斉藤は眼鏡の位置を直しながら言った。
「中二病のあなたに言われたくないわね」
背の高い桜井は眼鏡ブスの斉藤を見下しように言った。
「私は何をいわれてもいいけど倉田さんをいじめるのは止めなさい」
いいことを言うねぇ。さすがは正義の味方だ。そして、俺は正義を超越した存在。
「そうだ。いじめは良くないよ」
中二病同好会の大柄の足り無そうな男子生徒が低い声だけど信念に満ちた言い方で言った。
「そんなことして、お前ら馬鹿じゃないの?」
小生意気な小柄の少年も負けてはいない。
正義の味方三人組。それとも『正義』という言葉にとらわれた単なる中二病か?ま、どちらにしても彼らは間違っていない。けれど、俺にとっては邪魔以外の何物でもない。
さーて、俺はどっちの味方をしようかな?
・・・・・二択問題が出された場合、人類を超越した俺は勝手に第三の答えを言う。
どっちの味方をしない。ただの傍観者。真の意味で頂点に立つこの俺は彼らを見下しながら傍観するだけ。最高だな俺。まさに上から目線。人類を超越したものの特権。さあ、この続編でも見ようではないか。下々の者たちよ。続けたまえ。
「よ、誰かと思えば盗撮趣味のデブチン川島裕也じゃねーか。で、そっちのちびは何の能力も無いくそ生意気な虚弱やろうの鹿沼義男じゃねーかよ」
へぇ、そういう名前か。しかも、あの足り無そうなデブは川島で覗き好きか。でも、能力があるかないかどうか分からないな。あっちの小生意気な鹿沼は何も無いらしいけどな。
「うるさい」
小柄の鹿沼はカチンと来たらしい。
「まあ、いいわ斉藤さん。だったら止めてみなさい。私たちを。あなたの『特殊能力』でね・・・・・あ、無理だったわね。交通事故で能力失ったんですもんね、あなた」
何?斉藤は元能力者。そういえば、何らかの原因で能力を失ったって言う人がいるとテレビで聞いたことがある。斉藤がそうなのか?
すると、斉藤の瞳が妙にきらきらし始めた。今にも泣きそうな顔をしている。よっぽどショックだったのだろう。自分がもっとも言われたくないことを言われたのだから。
「どうしたの斉藤さん。何とか言ってみたらどうなの?」
腕を組みながら桜井たちがあざ笑っていた。
このクラスは負の感情でいっぱいだ。小市民同士の醜い争いだ。小市民は所詮小市民。哀れな劣等種族。だからこそ、この俺を楽しませてくれる。
「元能力者が泣くぞ」
影村が大声で言った。
「泣け泣け泣け」
ホームレスから泣けと合唱が変わった。
これがこのクラスの悪意か。愚民のやりそうなことだ。しかし、見ているこっちは楽しい。いじめはきっと俺のような人類を超えた存在のために用意された本能なのかもしれない。この上位種であるこの俺のために。
「お前たちうっせーよ。黙れ」
小柄の鹿沼が叫んだ。すると、影村が念力を使って鹿沼を吹き飛ばし、机に体をぶつけた。
「お前らみたいな正義を気取るだけの何もできないやつに言われる筋合いはねーよ。雑魚が」
影村が雑魚発言か。その台詞は俺のためにある言葉なんだけどな。やはり、調子に乗るか? 影村。ちょっと、粛清が必要かな?
しかし、状況がごちゃごちゃしてしまってよく分からなくなってしまった。
ま、傍観者かつ上位者である俺にはいい見世物であるが。
俺は腕を組みながら、上から目線で今の状況を楽しんでいた。
これが人類を超越したこの俺の特権。この俺だけに許された特権である。ああ、なんてすばらしいんだ。この俺は。
「能力がなくたって正しいことはできるわ」
泣きそうな顔をしながら斉藤が言った。
「そうかしら。この日本では超能力を持つ持たないで人間の価値が決まるのよ。正しいことがしたければ力がなくちゃね」
桜井たちが斉藤をあざ笑っている。
確かに。桜井も良いことを言う。所詮力がなければ正義を実行することはできないか。この世界を救う三人組にはそれはない。信念だけは認めるがそれだけだ。ましてや、元の力者に盗撮魔、そして小生意気な少年。この三人では正義は実行できるはずがない。非常に残念だ。・・・・・ごめん、残念という言葉は本心じゃないけれど。
「斉藤さん。私にはその力はあるのよ。見せてあげるわ」
何、やつも能力者だというのか?見せてもらおうじゃないか。あの威張り腐った桜井の能力とやらを。
俺は机に脚をかけ、ふんずりがえりながらその能力を見物した。
桜井は両手を近づけ、何か丸いものが現れた。
あれは・・・・・・ただの水じゃねーか。
桜井の能力は空気中で水玉を作ることができる能力。
弱い。非常に弱い。この俺を期待させといてそれはないぜ。桜井。
桜井は宙に浮かせている水玉をバレーボールのトスのように飛ばし、斉藤の顔に命中させた。斉藤はもろに水をかぶり、目をこすっている。
「あーあ、床がびしょびしょだわ。あなたのせいよ」
お前のせいだろ。こんなつまらん能力のために床をぬらしやがって。俺は今日ここの掃除当番だぞ。
「もっと濡らしてあげるわ」
桜井は再び直径十五センチくらいの水玉を作りだし、水玉を投げると斉藤の前に盗撮好きの太った川島が盾になり命中した。
「川島君」
「桜井さんをいじめるなら僕をいじめろ」
おう、ずいぶんかっこいいこと言うじゃん。川島。盗撮やろうが言う台詞じゃないけどな。ま、もうちょっとこの茶番を見物するかな。
「自分をいじめろって。お前Мかよ。やっぱ変態だ」
影村が念力で鹿沼を押さえながら言った。
「正義の変態。なんちゃってな」
男子生徒の誰かが大声を上げた。すると、クラス中が大爆笑の渦と化した。
その後も、桜井は水玉を川島に投げ続けた。しかも、顔に投げつけられているので次第に呼吸が苦しくなっていくのが分かる。
しかし、川島からはあまり負の感情を感じない。かなり鈍感なのかな?悲しみに満ちている元能力者の斉藤からは悲しみ、小柄の鹿沼からは憎しみ、倉田からは死と罪悪感。そして、クラス中からは悪意に満ちた感情があふれている。
実にすばらしい。人類を超越して良かった。こんなに幸せなことはない。このクラスは皆腐っている。だからこそ、俺は進化を果たし、幸福を得られる。これがこの俺の特権。俺こそ世界で一番幸せな存在。世界に選ばれた男の力。
すっかり、びしょぬれになった川島は影村の友人たちに取り押さえられ、身動きが取られなくなった。
「これが正義の味方ですか?」
桜井が調子に乗っている。
「もう皆止めて」
見かねた倉田が暗く低い声で言った。
「え、聞こえないんですけど?」
桜井は意地悪く聞いている。聞こえていないはずがない。やつからすさまじい悪意が感じられる。結構結構。
「皆止めて」
倉田が高い声で叫んだ。
「ホームレスが叫んでる。笑える」
笑えるのか? 小市民の考えはやはり理解できないな。
「倉田さんを助けてあげて握間君」
そうそう、俺が助けてやらねーと・・・・ってこの俺かよ?
クラスの視線がすべてこの俺に集中した。
ふ、人類を超越した存在は辛いぜ。
「俺が・・・・助ける?」
なぜ、俺がお前らごとき小市民を助けなければならない。今、この俺は君たちの小劇場を見物して暇をつぶしているというのに。
「昨日は助けてくれたじゃない。ホームレス狩りから」
斉藤が大きな声で言ってしまった。
「おい、昨日の革新学校の生徒をやっちまったのは握間か?」
影村が驚きながら聞いた。
「・・・・・・あ、そうだよ」
俺は机に右ひじを置き、頭を支え、足を組みながら小市民たちを見下していた。
「マジかよ」
クラスの皆が後ずさりした。異常なほどの恐怖心を抱いている。これは俺に対する恐怖というより何か別のものに対する恐怖だ。
「どうした、何を恐れている?」
俺はかなり偉そうにクラスメイトたちに聞いてみた。
「・・・・・」
誰も答えない。
「ま、いいや。いじめを続けたら桜井。俺は何もしねーし、ただ傍観しているだけだから。邪魔はしないよ」
「握間君。私たちを助けてくれないの?」
桜井が涙を流しながら訴えている。
いいね。悲しみがびんびん伝わってくる。まさに快感だよ。
「お前たちを助けたんじゃない。実験したかっただけだよ。その超能力専門の革新学校生徒を利用して」
「実験?」
「そう。これのね」
俺は左手を上げ、クラス皆にダークバーニングを見せ付けた。黒き炎が天井に向かって舞い上がっていく。
「あいつらは所詮、実験モルモット。もちろん、実験は大成功。もう彼らに用はないよ。どうだっていい。生きてようが死んでいようが気が狂っていようが」
これがこの俺の本性だ。誰もこの俺の境地に達することはできない。
「やべーよ。こんなことしてる場合じゃねー」
影村が震えだした。
「お前、誰をやっちまったか分かってねーだろ」
「あ、ぜんぜん分かってないけど、何か?」
俺はいたって余裕だ。
「嘘でしょ。あなた。本当なの?」
桜井も恐怖している。一体何に恐怖してるんだ。
「そんなことはどうだっていい。早くいじめの続きをしろ。小劇場を俺に見せてくれ」
しかし、クラスの皆は恐怖心にのみかられてしまい、何も言わない。
小市民の考えることは理解できないな。
「あーあ、退屈だな。せっかくおもしろかったのに」
「おもしろかった?」
斉藤が怒りを抑えながら言っているのが分かる。
「おもしろいじゃん。いじめって。小市民の醜い争い」
俺にとってお前たちは小市民に過ぎないのだ。
「握間、なんてことしてくれたんだよ」
影村が震えながら言った。
「何がだよ?」
「革新学校の生徒たちの報復が来るぞ」
「あ、なんだそんなことか」
ふ、どうでもいいさ。俺を倒せる能力者などありはしないのだから。
「やべーよ」
こいつら何怖がってんだ。仮に報復されるとしても、それは俺か中二病同好会の三人くらいだろうが。
「条約が破られた」
影村の友人の一人が言った。
「馬鹿、それを言うんじゃねー」
何だ?条約って。
「おい、何の話をしているんだ。影村」
周りの人間も何の話をしているのか理解できないようだった。
俺は影村に近づき、再び問い詰めた。
「条約って何だ。答えろ」
しかし、影村は恐怖に満ち溢れている。
「もう、俺たちはおしまいだ。長年続いていた密約が破られた。全部お前のせいだからな」
影村がこの俺に指を刺しながら言った。
長年続いていた密約。この学校には何か裏がありそうだな。
「そんなこと知るか。この俺の知ったこっちゃない」
「お前だけの問題じゃない。この学校の生徒の命に関わる問題だ」
何だって。俺はなんて愚かなことをしてしまったんだ・・・・・なーんてね。そんなこと思うわけねーだろーがー。むしろ楽しい。最高じゃないか。すばらしい急展開だ。
「でもさ、影村。それって単なる噂だろ。一体誰がそんな条約を決めるやつがいたっていうんだよ」
影村の友人たちが疑問視している。当然だろうな。何が条約だ。くだらない。
「学校の影の支配者、そいつを見つければ分かるかもしれない」
影村のたわごとは続いている。
「学校を裏で操る存在。影の支配者。そいつがかつて、革新学校と密約したと聞いている。そして、影の支配者は年々継承されていくと聞いたことがある」
一体どこのドラマの話だよ。あいつは正気か。いや、小市民に正気なやつなどいないか。くだらない。実にくだらない。影の支配者。密約。この人類を超えている俺はそんなものに縛られるものか。
下等生物はすぐ噂を信じたがる。なぜだ。この新時代においてそんな迷信めいたことを本気で信じるなんて。
「くだらないな。影村。そんな密約などこの俺が信じると思っているのか?影の支配者。愚かを超えて気でも狂ったか。たかだか小市民を四人倒したくらいで何をごちゃごちゃと。さあ、もう時間だ。お勉強タイムだぜ」
今、このクラスで一番冷静だとしたら間違いなくこの俺であろう。能力を使う必要などないが、誰もが異常なほどの恐怖を抱いている。倉田や斉藤たちもだ。この俺だけが恐れを抱いていない。このすばらしき優越感。この感情は人類をはるかに凌ぐ俺以外は誰も理解はできまい。哀れな小動物たちだ、まったく。
チャイムが鳴ると、皆我に帰ったかのように席に着き、次の授業に入った。授業中、誰も私語はしなかった。恐怖に満ち溢れているこの状況で誰も話さない。というか誰も授業を聴いてはいなかった。
小市民たちはすぐ恐怖に負ける。自分自身に負ける。哀れとしか言いようがない。これが人類の進化だとでもいうのか。
授業が終わり、俺はすぐに屋上に向かい、一人の時間を楽しもうとしたがそれは不可能で去った。
中二病同好会の三人がやってきたのだ。
「私たちのせいで学校をパニックに陥れてしまったわ」
斉藤がかなり落ち込んでいる。
「斉藤さんのせいじゃないよ」
太った川島が低い声で言った。
「そうだよ。全部あいつのせいだ」
小柄の鹿沼がこの偉大なる俺に向かって指を刺していた。
「この俺が学校をパニックに陥れたって言うのか」
「そうだ。噂はすぐに学校中に広まってしまってパニックさ。全部お前のせいだ」
この小市民が。これがこいつの正義か。笑わせるぜ。小市民。
「人類とはくだらない生き物だな」
俺は屋上に大の字に寝ながら言った。
「なぜだ。こんなくだらないことでいちいち恐れている。しかも、正義の味方であるお前たちまでもが。哀れだな。正義という言葉が泣いてるぜ」
「なんだと!」
鹿沼が怒っている。いい感情だ。力が増すぜ。
すると、屋上にもう一人負の感情を宿した人間がやってこようとしていた。誰の感情かはすぐに分かる。倉田だ。
ドアが開くといつも以上に暗い倉田は体育すわりで日陰に腰掛けた。
「倉田さん」
「私が全部いけないのよ」
倉田は暗い声でそういった。泣きそうな顔はしていない。ただ、死のにおいが増していることが分かる。
「倉田さんが悪くない。あなたは弱者を守ろうとしただけ、そうでしょ」
斉藤が慰めている。
泣かせるねー・・・・泣かないけど。
「お前が反省することはないだろう。だって、俺たち何にも悪いことしてないんだしさ。第一何だよ条約って。そんなこと知るかってんだ」
これが俺の本音である。
「でも、私も噂だけど聞いたことがある。五年前に超能力学校と私たちの学校がすごく仲が悪くて、生徒同士の争いがあったんだって。でも、ある日を境にぴたっと止んだんだって。それが条約を結んだからっていう噂。でも、誰が条約を決めたのか。条約の内容とかはぜんぜん知らないんだけどね」
斉藤が淡々としゃべる。
なるほど、超能力者たちが俺たちのような人間と能力者たちの混ざった雑種高校をいじめていたのか。それを止めるために密約を結んだ。でも、それをこの偉大なる俺が破ったわけか。実にすばらしいな。最近はすばらしいことばかりだ。ま、その条約ってのが本当かは知らないが、確かにここ数年は、革新学校生徒とこの雑種高校との間でけんかが起こったって話はほとんど聞いたことはないしな。不自然といえば不自然だ。
「ま、仮にだ。そのくそくだらない条約があったとしよう。でも、それを管理しているやつがこの高校にいるってことだよな。それに超能力学校の方がいろんな意味で有利だったはずだ。こっちに不利な条約を結んだに決まっている。ま、密約が本当かどうかは知らないけど」
俺はもっともらしいことを言った。さすがは俺である。
「ま、どうでもいいけどね」
やっぱりこの俺はこうでなくては。
「どうでもいいことないでしょ」
眼鏡の斉藤が怒っている。結構結構。
「どうでもいいさ。仮に能力者たちがこの高校の生徒たちを襲ったとしても俺には何の問題はない。俺には力があるからな。後のことは知らん」
これが本音を超越した本音である。
「あなたはそれでいいかもしれないけど。私たちや能力を持たない弱い人たちはどうしたらいいのよ。彼ら能力者に抵抗できないわ」
「ほう、これが正義の味方の言う台詞か。正義が泣いてるぜ、まったく」
正義を振りかざしておきながら敵に恐怖している。恐怖していることは大変結構なことだが所詮小市民。いざとなった時、何もできない。口だけの存在か。哀れな。非常に哀れだ。
「・・・・・・」
斉藤は何も言わない。自分の愚かさを痛感したのだと俺の能力がはっきりと理解している。大変結構だ。
「様子を見るしかないんじゃないかな」
盗撮少年川島が低い声で言った。
「そうだそうだ」
俺が調子に乗って言う。
「お前は調子に乗りすぎなんだよ」
影村に痛めつけられた鹿沼が俺に対する憎しみを抱いていった。
「調子に乗ってこその人生だ。貴様ごとき小市民に言われる筋合いはない」
「何だと」
鹿沼は切れる瞬間であった。
さあ、もっと怒れ。俺に対する憎悪を増せ。それが俺の進化につながるのだから
「まあまあ」
川島が仲裁に入った。
川島という男。この中で一番負の感情が少ない。メンタリティが強いのか単純に鈍感なのか。俺のエネルギー源としては役に立たないな。だったら鹿沼の方がまだ使える。
「ま、実際に存在するかどうか怪しいものを考えるより他のことをしたらどうだい。中二、いや平和同好会のメンバーさんたちよ」
俺は完全に話を摩り替えた。
「そうね。あるかどうか定かじゃないことを考えてもしかたないしね。じゃ、本来の仕事に戻りましょう。メンバーも5人になったことだし」
そうそう、メンバーも増えたわけだし・・・・って誰のこと言ってんだよ。
「新メンバーでも入ったのかよ?」
「倉田さんとあなたのことよ」
「この俺がいつ入部したって言うんだよ」
「今日はこれを持ってきたの」
斉藤は完全にこの偉大なる俺を無視している。なんて女だ。元能力者の分際で。
斉藤は地元の新聞の一面を皆に見せた。
『連続強姦事件、未だ犯人不明、能力者の可能性あり』
「うわ、最悪の事件だな」
鹿沼が言った。
「私たち五人でこの犯人を捕まえようと思うんだけど、どう思う」
「俺はやんねーぞ」
俺がすぐに言った。
「あなたはもう私たちのメンバーよ。それに犯人がもし能力者だった場合、対抗手段があなたしかいないのよ」
そんなこと言われても困るな。それに下ネタは嫌いだ。気色悪くて吐き気がする。この犯人がどうして見ず知らずの女を襲いたがるのか人類を超越した俺には理解できない。人間とは下品な生き物だな。
「女としてこの犯人、絶対許さないわ。私たちの手で捕まえてみせる」
「警察に任せろよ、そんなの」
俺はまったくやる気がない。この俺にとって、世界平和より自分の方が大切だからだ。
「能力者犯罪が多すぎて警察が機能してないから、私たち同好会がやるのよ。それに握間って暇でしょ」
確かに。暇こそ人生、暇こそすべて、暇こそ幸せ。これが俺のモットーだ。
「この事件の資料は部室にあるから放課後、そこに集合ね」
「・・・・・・うん」
倉田は暗い顔をしながらうなずいている。
倉田からまったくやる気を感じない。嫌がっている。
「嫌だといったら」
この俺が言う。
「力を使いたがっているあなたなら、きっと来るでしょ」
まさか、この俺の行動が読まれている。こんな小市民ごときに。
「どうだか?」
俺はとぼけた。
昼食時間が終わり、午後の授業が始まった。この学校は予習などしなくても偏差値の低い高校なので気楽に授業を受けた。しかし、クラス全体は沈んでおり、皆恐怖に満ちていた。
俺は授業中黒板を見るばかりで何もしなかった。すると、少し離れた場所に座っている倉田と目が合った。すると、倉田がにっこりと笑ったのである。
倉田の笑った所など見たことがなかったので俺は驚いてしまい、目をそらしてしまった。
今の倉田からはあまり負の感情を感じない。強姦やろうと対峙しなければならないかもしれないというのにあの機嫌の良さ。よく分からないな。小市民とは。
退屈な授業が終わり、俺は帰る準備をしていた。平和同好会に参加するつもりは正直なかったが、強姦魔の負の感情には興味がある。誰が襲われようがこの俺の知ったこっちゃない。他人より自分が大切。俺はヒーローではないのだから。
しかし、念力と聞くと影村を思い出すが。あいつが犯人だったらおもしろいのにな。ま、女の敵になることは間違いないが。
すると、桜井や影村が倉田の所に集まってきた。密約を破った俺の所には来ない。当然か。俺の異常なまでの強さに誰もが恐怖しているのだから。その恐怖に打ち勝つだけの力を持った生徒はこのクラスにはいないということだ。
小市民はすぐ自分より弱い小市民をいじめたがる。進化できない哀れな劣等種族たちが。
「倉田さん、ちょっと来てくれるかしら」
桜井たちからとてつもない憎悪を感じる。朝と同じくらいの悪意を。人の不幸を喜ぶ俺にとっては最高の瞬間だ。
「用事があるから」
倉田は下を向きながら暗い声で言った。
「あなたの用事なんてどうでもいいの。体育館裏に来てくれるかしら」
すると、影村が念動力で倉田の身体の自由を奪った。
「影村君。そのまま彼女を念力で引っ張っていける」
「それはちょっときついな。動きを抑えるだけで精一杯だ」
当然だろう。所詮は影村だ。こんなやつが強姦魔なはずがないか。
体が硬直している倉田は何人かに持ち上げられ、連れ去られていく。すると、一瞬だけ倉田の目が俺に助けを求めていた。
悲しみの感情。すばらしいな。俺をより幸せにする。そのまま放置していても良いが、追いかけて倉田がどうなるか、見ものだな。
幸せを感じている俺は彼らいじめっ子という小市民たちの後をつけた。
多少の距離はあっても彼らの悪意に満ちた感情は感じる。この能力に感謝しなくてはな。世界に選ばれし男。暗黒の力を持ち、史上最強の能力者。この握間太郎が今、幸せを求めに彼らの悪意をたどって進んでいく。
彼らが向かった先は俺の能力が覚醒した場所である体育館裏であった。
性懲りもなくいじめをするとは、彼らも進歩がないな。
俺は壁の角に隠れて様子をうかがった。
「あなたのせいで条約が破られた。分かってるわよね」
桜井が腕を組みながらいつもの上から目線である。
「私、そんなの知らない」
倉田は下を向きながら低い声で言った。
「あなたの意見なんて聞いてないの。責任とってほしいわけ」
あの女、トチ狂ってるな。結構なことだ。
「やっぱり、お金よね。あ、でも無理ね。あたなじゃ。だってあなたはホームレス高校生なんですもの」
すると、周りの皆があざ笑っている。
周囲は悪意に満ちている。大変結構なことだ。
「お金ならあるよ。いっぱい」
・・・・・・うそぉ
この俺を驚かすとはやるなあの女。
「嘘は止めなさいよ。ホームレスのあなたが持ってるお金って、たかがしれてるじゃない」
「本当だよ。でも、君たちには上げない」
倉田が急に強気になった。
おう、これは見ものだな。
俺は隠れたまま優越感に浸り、状況を見物し続ける。上位種の特権ってやつだ。
「あるなら渡しなさい」
桜井が引き下がるわけはない。
「いやよ。君たちに上げるくらいなら、どぶに捨てたほうがマシ」
おう、今日の倉田は強いな。この後の展開が気になるじゃないか。
「私は稼いだお金でホームレスの人たちを助けたいの。そんな訳の分からない条約なんかのためにお金を無駄にしたくない」
普段強い倉田の声が高音になった。
倉田から、絶望の感情が消えていく。
駄目だよ倉田。お前は負の感情の塊だから価値があったのにそれでは何の役にも立たない。倉田をあそこまで掻き立てるものはなんだ。なぜ、急にあんな態度を取るような女になった。
「影村君。倉田さんをこのまま念力で押さえつけておいて」
「ああ」
影村はうれしそうに言った。
「ホームレスの人を助ける。何言ってんのあなた?意味分かんない」
桜井が笑いながら言った。
俺も同感だ。倉田の思考が理解できない。あんな生きていたってしょうがないホームレスたちを助けることに一体何の意味があるんだ。小市民の考えることは理解できないな。ま、人類を超えている俺が下等生物である人類を理解できるわけがないか。そうだそうだ。
「粛清が必要ね。皆もそう思うでしょ」
「そうだそうだ」
周りから歓声が上がった。
こいつら、終わっているな。人間として。人間未満の劣等を超えた劣等種族だな。
俺はだんだんこの状況に退屈してきた。全身に悪意を感じるのは大変結構なのだが、どうも飽きてきたな。このシチュエーションに。
「もういいだろう」
俺は彼らの前に威風堂々と姿を現した。
「おい、小市民たち。この俺は倉田に用があるんだ。そいつを放してくれないかな?」
「握間・・・」
皆、俺の姿を見た瞬間に悪魔でも現れたかのような驚きと恐怖を見せた。
すると、影村が激しい憎悪と恐怖にかられていることに気がついたが、そんなことはどうでもいい。影村は恐怖に負けた憎悪を抱きながら倉田を念動力から解放した。
「倉田、平和同好会に行くぞ。暇だからな」
「・・・うん」
倉田がこの俺に向かって走ってきた。
「じゃあ、小市民たち。そういうことで」
この俺は手を振ってその場を去ろうとした。
「このままじゃ、お前は終わりだからな」
影村が負け惜しみのようなことを言っている。
「何が終わりなんだい。影村君」
俺は影村を馬鹿にしながら言った。
「条約を破ったことの恐ろしさをお前はわかってねーんだ」
「分かるわけがないじゃないか。残念だけど俺は条約なんてものは信じてないし、興味もない。仮にこの学校の生徒たちが被害にあったとしても俺には関係ないし、どうでもいい。俺は人類を超越した存在だ。下等人類の条約ごときがこの俺を縛れるものか。覚えておくんだな。影村と残りの小市民たち。俺は死なない。俺は最強。俺はこの学校いや超能力を強化されている革新学校の生徒ですらこの俺に勝てる能力者などありはしない。じゃ、そういうことで」
俺は笑顔で倉田といっしょにその場を去った。
平和同好会の部室までの間に倉田がいろいろ聞いてきた。
「もっと、早く私を助けても良かったんじゃない」
倉田が少しだけ高い声で聞いてきた。
「あの状況を見てるのが、楽しくて楽しくて」
俺は笑顔で答えた。
「そう、君ってそういう人だもんね」
「よく分かってらっしゃる」
逆に、俺も気になっていることを質問した。
「お前、本当に金あんの?」
「本当だけど」
倉田ははっきり答えた。
「そうか、そのヒーリング能力で稼いでいるんか。その能力は金になるもんな」
すると、倉田は急に暗い顔に戻った。
倉田の内面から負の感情が渦巻いている。そうだ。倉田はそうでなければ。
「君は自分の能力を恨んだことある?」
倉田が下を向きながら聞いてきたので、この俺ははっきり言った。
「無い」
「そう、いいね。君は」
倉田の内面はますますダークサイドに犯されていく。そうだ。これこそ倉田の存在意義。俺にとってのエネルギー要員。それだけの存在だ。
「こんな能力無ければいいのに」
急に倉田が言い出した。
「なぜ、そう思う」
この偉大なる俺には小市民の倉田の思考が理解できなかった。
能力を持っているという人類最大特権を否定する。なんて女だ。下等生物になりたいとでもいうのか。
「両親に捨てられたから」
なんだ・・・・そんなことか。
小市民は両親に捨てられることを引きずるようだが俺には通用しない。たかだか両親ごときに捨てられたくらいで何を言っているんだ。
「両親が反能力主義者だったから私、捨てられたの」
なるほどね。あの旧人類たちか。今だにそういう古き考えに縛られた哀れな旧人類がいるってことか。ま、能力者を一切受け入れない反能力者学校がいい例といえばそうなるか。
超能力を恐怖するだけではなく、悪魔の力だとか異星人だとかいうやつが今でも存在する。テレビでそういうことを言っている旧人類を今まで何人も見てきた。
新時代に取り残された哀れな小動物だな。実に終わっている。古き価値観に縛られた連中は性質が悪い。そういうやつこそ、死ねばいいのに。
「じゃ、アパートかで一人暮らしか。さすがにホームレスじゃなかろう」
俺は若干笑みを浮かべながら言った。
「そうよ。身体障害者の人たちを治して生活してるの。事故で足を失った人とか失明した人とか」
そりゃ、金になるな。
「まあ、病気の人とか先天的な病気は治せないけど」
「なら、なぜ隠す必要がある?それに、その能力なら害はないし、いくら能力者嫌いの人間でも受け入れると思うけどな」
そう簡単じゃないことくらいこの俺には分かっているが、あえて小市民的な質問をした。
さあ、どう答えるかな倉田。
「能力が強すぎたから私」
かすれるような声で倉田は答えた。
能力が強すぎた?どういうことだ。予想外な解答だ。
強い?何だ強いって。強い=俺、とばかり思っていたからぜんぜん意味が分からない。
「意味が分からん」
「・・・・・・」
それ以上、倉田は何も語らなかった。
ま、別にいいか。
小さな部室に入ると、中二病の三人組がパイプ椅子に座っていた。
「遅かったじゃない」
「時間を破るのが好きなもんでね」
「あなたには聞いてないわ。倉田さんによ」
「あ、そう」
元新人類が調子に乗りやがって。
「じゃ、全員そろったことだし、はじめましょうか」
「おい、俺の椅子が無いぞ」
このホコリくさい部屋にパイプ椅子は四つしかなく、俺以外の全員が座っていた。
「あなたは立ってればいいでしょ」
「このメス豚」
「じゃあ、始めます」
この・・この俺が完全に無視された。人類を超越した俺がこんな劣等種族たちに・・・
「じゃあ、話すぜ」
鹿沼が用意してある紙を読みながら説明し始めた。
「連続強姦事件情報を調べた結果、犯人は強力な念力使いで身動きを封じてから女子中高生ばかりを襲うらしいぜ」
ふ、どうでもいいぜ。
「じゃあ、能力者に対抗するには能力者ってことか」
寝ぼけた顔で川島が言った。
こいつはやる気があるのか無いのか分からん。
「だから、あの人類を超越した人にがんばってもらうの」
眼鏡の斉藤が俺に向かっていった。
「それは構わないが、どこに現れるとかそういう情報はどうなってんだ?それに犯人のめぼしはついているのか?」
「それがさ、情報によると覆面をかぶってたらしくて分からなかったらしい。それに念動力者はこの町に数多くいるから誰が犯人か予想ができないんだ」
「影村が犯人って可能性はないのか?あいつなら人を押さえつけるくらいのことは可能だぜ」
「それは聞いてない」
「聞いてない?」
俺は少し驚いてしまった。この学校で念力と言えば影村くらいのものだからである。
「朝のことがあったから聞きにくかったのよ」
なるほど、気まずいか。
「じゃあ、今この俺が聞いてこようか?」
「え、本当?」
影村が犯人でないことは分かっている。あいつにそんな度胸はないし、負の感情を見てもそんな隠し事をしているようには見えない。しかし、ここにずっと立って、くだらない話をしても暇でしょうがない。正直、犯人が捕まろうが無かろうが俺には関係ないのだから。今、俺がやっていることは正義の味方ごっこにすぎない。ま、暇つぶしってやつだ。
「まだ、学校にいるだろうから聞いてくるぜ」
俺はそう言ってホコリくさい部室を後にした。
さてと、とりあえず教室にでも行ってみるか。もう体育館裏にはいないだろうし。
俺は廊下をゆっくり歩きながら教室に向かうと、影村が友人たちとしゃべっていた。
「影村、話があるんだけど」
俺は笑顔で影村に呼びかけると、影村は顔を引きつり、恐怖していた。
そうとう、この俺が怖いらいしい。結構なことだ。さあ、もっと恐怖するがいいさ。
「何だよ」
「単刀直入に聞く。お前は最近流行りの連続強姦魔か?」
すると、教室に残っていた生徒たちが一斉にこちらに視線を向けた。
「てめぇ、何言ってんだよ。馬鹿じゃねーのか」
「連続強姦魔は念力使いらしけどな。だから、直接お前に聞いた。どうだ、正当な理由だろう」
俺は神経を集中させ、影村の負の感情の変化を見定めようとした。すると、明らかに恐怖が増していることに気がついた。図星から来た感情なのか、はたまた強姦魔と疑われたあせりなだけなのか?正直よく分からなかった。しかし、いい感情を吸収できている。俺にとって強姦魔を捕まえて町を平和にすることに意味を感じてはいない。強姦魔の負の感情が知りたいだけなのだ。それが影村であろうと誰であろうと関係ない。小市民の醜い犯罪など知ったこっちゃない。
「そんなことするわけねーだろーが。ほっとけよ」
「じゃあ、強姦事件があった日、どこで何をしてた。確か昨日の夜十時くらいだったっけな。お前が十時前に睡眠するような人間なわけがないからな」
「ずっと家にいたぜ」
「そうか」
影村の恐怖心が増していく。こいつ、怪しいな。
しかしだ。こんな小市民相手になぜ嘘発見器みたいなことをこの俺はしているんだ。
「じゃあ、アリバイはないのか?」
俺が名探偵みたいなくさい言い方で言った。
「両親がいたぜ」
「家族の証言など当てにはならん。それに、部屋から抜け出す手だっていくらでもある。って言っても証拠もないしな。ま、いいや。とりあえず、今日はもう用ないからとっとと帰れよ」
かなり、身勝手で偉そうなことを言っていることは分かっている。しかし、人類を超越した俺の特権であり、影村は小市民の中でもかなり嫌いな人間なのでどうだっていいのだ。生きてようが死んでようが犯罪者であろうが気が狂っていようが。
影村は俺に対する憎悪を抱きながら友人たちと教室を後にした。
能力者は部活に入ることができても、公式試合に出ることはできない。
例えば、高速移動能力を持つ陸上部部長がいたとする。そしたら、一瞬で試合が終わってしまう。過去に能力者が認知されていなかった頃はそれが健著だったらしく、試合にならない事例が多発したそうだ。そのため、どんな能力者であっても、オリンピックやプロ野球、サッカーなどなどの公式試合に出ることは許されていない。反則試合となってしまう。ま、部活に入って活動するだけなら問題はないが、公式試合の出場はゲームとは関係ない能力であっても能力者という一方的な理由だけで出場できない。
部活に入っていない究極の一匹狼であるこの俺には関係ないことであるが。
何せ、団体行動が嫌いで嫌いでしょうがない、この俺にとって部活に一体何の意味があるのか理解できない。よく、青春を謳歌するという言葉を言う小市民たちがいるが、青春とは何なのだろうと考えることがある。部活に入ることがそんなに大事なのか?この年で恋愛を経験しなければならないことなのか?人類を超えた俺にはまったく理解できないことだ。
・・・・・・・ま、そんなことはどうでもいいか。
俺は中二病同好会に戻り、影村のアリバイの話をした。
「怪しいわね」
斉藤がありきたりなことを言った。
「所でさ、聞きたいことがあるんだけど」
俺は斉藤と倉田に向かって聞いた。
「何よ」
「強姦魔をどうやって見つけるかってことと、そんな変態を怖いと思わないのか。最悪、お前たち二人は襲われる可能性だってあるんだぜ」
もちろん、こいつらの心配など微塵もしていない。襲われるなら襲われるでぜんぜん構わないが、彼らの強姦魔に対する恐怖心を知りたかっただけなのだ。
「心配してくれるんだ?」
皮肉がこもった斉藤の言葉であった。
「そりゃ怖いわよ。でも、誰かが止めなきゃいけない。犯罪が多すぎて人員不足の警察の人たちに代わってね」
自衛団ってやつだな。正義のヒーロー集団か俺たちは。俺は嫌だ。そんな安っぽい集団の仲間入りは。
「でも、私たちには人類を超越したあなたがいるでしょ」
やべー、すっかり仲間にされている。なんということだ。俺はこんな中二病たちとは違う。こんな小市民たちとは絶対に違う。
「強姦魔がどこに現れるかってことだけど、分かってるのは夜の十時以降に現れることと覆面をつけてるってことだけ。後はこの町にいる念力使いの後をつけるしかないわ」
・・・・・面倒くせー
「後、ビッグニュースが一つ。あの謎に包まれた超通信者とのコンタクトができるようになったの」
あ、あの超通信をやってる能力者か。すっかり忘れていたぜ。存在自体を。
「それ、本当?」
鹿沼が驚いている。きっと、超通信のファンなのであろう。
俺は嫌いだけどな。
「いつも、一方的にテレパシー放送をしている人が何で?」
倉田が不信がっている。
当然の反応だな。
「それは私も分からないけど、きっと私たちの行動を評価したのよ」
人類の進化を放棄したホームレスたちを助けただけでか。しかも、ホームレス狩りを倒したのは進化の象徴であるこの俺だけだけどな。
「どうやって、あの人と連絡取るの?」
川島が興奮気味に聞いている。
「昨日、私の頭の中にテレパシーがきてね。それによると、強姦魔の情報が入ったら真っ先に知らせるって頭の中で言ってきたのよ」
超通信者。何者なのだ。この偉大なるこの俺を愚弄した存在。強姦魔などどうだっていい。そいつの正体を知りたい。知って正体を小市民たちにばらして居場所を奪ってやりたい。ま、そいつに居場所があればの話だが。
「なぜ、お前なんかに超通信してきたんだ」
俺は率直な感想を斉藤に聞いた。
「お前なんかって何よ。あ、そうか。あなたは超通信聞けないんだって。そうだったわ」
この偉大な俺を馬鹿にした顔でほざいている。
この新人類から退化した女が。
「頭の中で会話したんだけど、人類の平和を願う同好会がすばらしいって言ってたわ。だからじゃないかしら。後、アドレスなん・・・ううん。何でもない」
「何だ。アドレスって?」
この俺が聞いた。
「超通信者の話だと、普段は人の深層心理を読めるからそれを遮断してるんだって。でも、あるアドレスを言うと、それを言った人物とだけ超通信できるんだって」
なるほどね。アドレスを知っているごく一部の人間とだけ頭の中で会話ができる。ずいぶん器用な能力者だな。
「で、どんなアドレスなんだ?」
「それは誰にも教えない約束なの。あなたたちでも駄目だって。特に握間には」
この偉大なる俺を嫌うか。そうか、人類を超越した俺に嫉妬しているんだなきっと。ふ、所詮超通信者も小市民か。哀れなことだ。俺にだけ通信できない理由を知る気もうせたぜ。
「って、ことは俺たちのことを知っている人物か。その超通信者ってやつは?」
この俺はふと浮かんだ疑問を小市民たちにぶつけてきた。
「・・・・あ、そういえばそうね。でも、テレパシー能力を持った人間だから分かるんでしょ」
そういえばそうか。テレパシー能力。ってことはこの俺の個人情報が筒抜けなのか。
・・・・いや、そんなことはない。能力者をも超越しているこのがテレパシー能力ごときが干渉できるものか。
でも、そう考えると、俺もある意味でテレパシー能力者かもしれないな。人の『不』の感情だけは読み取れるわけだしな。
少しだけ、テレパシー能力に興味がわいてきたな。書店で立ち読みでもしてくるか?
「話は戻るけど、強姦魔の情報が不足してるからとりあえず町の念動力使いの人たちをピックアップしてそれからどうするか考えましょう。超通信者からの情報も知りたいし」
「じゃあ、念力使いは俺が調べとくよ」
自信に満ちた声で小柄の鹿沼が言った。
「じゃあ、よろしくね。それと、ホームレス狩りのことだけど」
すると、小市民たちが一同に倉田の方を向いた。
「鹿沼君は念力使いを調べるからしょうがないとして、残りのメンバーは今日も公園に集合ね」
「断る」
俺がはっきりと言った。
「何でそうひねくれるかな。握間君は」
斉藤に見透かされているような目で言われた。
もちろん、見透かされてはいない。これが俺の本心なのだから。旧人類のくせにこの俺を知ったかぶりやがって。
「皆に迷惑がかかるんじゃないかな?」
すると、さっきまでろくに口をきかなかった倉田が声を出した。
「もしかして、条約のこと?」
「・・・う、うん」
「私たちはそんなこと気にしてないわよ。そうでしょ川島君、鹿沼君」
「そうだよ」
「あ、もちろん」
二人が同時に言った。
「それに握間君も」
「あんな条約に価値など微塵も感じない」
威風堂々とこの俺は言い放った。
「気にしちゃ駄目よ。倉田さん」
「でも、もし、条約が本当だったら・・・」
「倉田さんが気にすることは無いわよ。だって、条約を破ったのはあなたじゃなくて、『あれ』だもの」
と斉藤はこの究極の存在である俺を指差した。
「この俺をあれ呼ばわりだと」
「そうよ、あなたが諸悪の根源のくせに」
諸悪の根源・・・うーん、いい響きだ。
やはり、物語の中心はこの俺というわけか。世界の中心でいるのも楽じゃないな。
「じゃあ、斉藤は密約を調べる気は無いんだな」
「そ、それは・・・・」
何も答えない。やはり、心のどこかで噂を信じている証拠だ。これだから小市民は。
「密約なんて本当かどうか分からんことを気にしてたってしょうがないよ。とりあえず、鹿沼は念力使いをリストアップして、残りの四人で今日もホームレス狩りを食い止めよう」
足り無そうな川島がいい感じにまとめた。・・てやっぱり俺は入っているのか四人に。
「そうね。じゃあ、今日はこれで解散。鹿沼君がんばってね」
「ああ、まかしとけ」
そして、今日の中二病会議は終了した。俺と倉田は先に部室を後にし、荷物をとりに同じ方向に足を運んでいった。
「今日は来るの?」
不意に倉田が今にも消えそうな声で聞いてきた。
「さあ、気が向いたら」
気が向くことは基本ない。今俺が気になっていることは超通信者の正体と俺の更なる能力向上だけである。強姦魔やホームレス狩りなど二の次なのだ。
「しかし、ホームレスを助けるなんて俺には理解できないな」
「そうね。そうかもしれないね」
倉田の負の感情が高まっていく。そうだ。そのままダークサイドに落ちてくれ。
「ま、お前の勝手だし、別に構わないけどさ」
それからは一言もしゃべらず教室に入った。少数の生徒がいるだけで教室は静かであった。
「じゃあ、私急いで帰るから」
倉田は何かに怯えるようにして走り去ってしまった。
当然か。さっきのようなことがまた起こったらたまらんからな。あいつの能力はどう見たって戦闘用じゃないからな。
俺はあわてる必要がまったくなかったので、ゆっくりと荷物をまとめた。そして、何も言わずに教室を後にした。
荷物を持ちながら、書店へと向かった俺はある感情を感じた。殺意に満ちた感情である。
誰かがこの俺の後をつけている。しかも、殺そうとしているな。
ま、いいか。俺を超える能力者など存在しないのだから。
恐怖心ゼロの俺はあえて歩きながらゆっくりと書店へと向かった。
それから数十分後、書店の自動ドアに入った俺はいつものように超能力コーナーに足を運んだ。
すると、『テレパシーのすべて』と書かれた本を見つけたこの俺は後をつけて見張っているやつを完全に無視してその本に手をつけた。
ページをめくると、各項目が書かれている。
【テレパシー能力の謎】【覚醒時期はいつごろ?】【テレパシーの苦悩】などなど書かれてある中、俺はこの項目のページをめくった。
【テレパシー能力の種類】
そのページにはこう書かれていた。
テレパシー能力には数多くの種類がある。心を読むことが一般的ではあるが他人が心の中で思ったことを言語で理解するもしくは言葉とは違う直感的なもので理解するパターンある。前者を読心術、後者を感心術と定義する。例えば、日本語しか知らないテレパシー少年がいるとする。ある日、英語しかできない外国人の心の中を読もうとするが、聞こえてくるのが英語ばかりで理解できない場合、これは読心術と言える。もし、言葉とは違う何かで心が理解できるとすればこれは感心術と言えるであろう。また、自分が考えていることを相手の頭の中に話かける者もいれば、できない者もいる。また、相手の頭の中を支配し、思考を操る能力者もいる。
もしかしたら、この俺はその感心術的な能力なのかもしれないな。
俺はページをめくりまくり、ある項目を見つけた。
【テレパシー能力を遮断する方法】
テレパシー能力を遮断する方法は現在見つかっていない。ただし、テレパシー能力に対抗できるのは同じテレパシー能力をもった能力者かテレパシーを遮断する能力を持った者に限定できる。
そんなもんか。では、この俺に超通信されないのはテレパシーに似た能力を持っているからか。それとも、テレパシーを遮断するようなまったく違った能力を持っているからか
・・・・そうか。俺は人類を超越した存在。人間を超えている。つまり、人間でない俺にはテレパシー能力は通じない。そうか。そういうことだったのか。なるほど、やはり俺は偉大なり。
すると、俺の後をつけている能力者の殺意が増していることに俺は気がついた。
いいぞ、もっとだ。もっと殺意を増せ。そうすればそれだけ俺の力も究極を超えていく。俺は恐れてなどいない。
しかし、そろそろうっとうしくなってきたな。対話でもしてみるか。
俺はテレパシーの本を置き、何事もないかのように外へと出た。俺を殺したがっているやつが書店の壁に隠れていることは殺意の感情から分かっていたので俺はものすごいスピードでそこまで走り、隠れているやつと対面した。
「この偉大なる俺に何の用だ?」
隠れていたやつはかなり驚いた様子であった。鹿沼より小柄で短髪の俺と年が変わらない少年であった。
「僕が後をつけていることを分かっていたの?」
どこか子供っぽい言い方であった。
「もちろん、俺は人類を超えているからな」
俺は笑みを浮かべながら言った。
「君は危険です。平和を乱す存在です。だから・・・排除します」
その少年の目は狂気じみている。それは、憎しみや怒りを通り越してどこかで喜んでいる感じだ。狂っている。この俺の能力がそう教えてくれる。結構なことだ。
すると、その少年は急にナイフを右手に持ち、俺に向けている。
「この偉大なる俺を殺そうというのか。小市民の分際で」
俺はやつに黒い炎を右手に発生させ、威嚇した。
「君を世界から排除すれば平和につながる」
「何?」
「排除します。この世界から」
すると、やつの全身から光が放ち、その場から姿を消した。それと同時に一瞬だけやつの感情も消えた。
瞬間移動か?
すると、後ろに負の感情を感じると、何かが俺の背中に指される感覚に襲われた。やつはナイフが俺の背中に刺されたが、服が破れるだけで体には傷一つつかない。
俺は後ろを振り向きながら、やつにパンチを食らわせようとしたが再び瞬間移動してかわされてしまった。
「超通信の情報は本当らしいな」
俺の背後五メートルくらいにそいつがいた。
「この僕のダガーナイフで殺せないとなると他の方法を見つけるしかないかな」
「小市民が!」
俺はやつめがけてダークバーニングを放ったが、瞬間移動されどこかに消えてしまった。
「逃げられた。この俺から・・・・」
やつの瞬間移動に勝てなかった。この俺が・・・負けてはいないが勝ってもいない。人類を超越したはずのこの俺が勝てなかった。
俺はその場に立ちつくしたまま数分が経ってしまった。
もっと力がほしい。俺の力はこの程度ではないはずだ。俺はもっと進化できるはずだ。しかし、あの瞬間移動は面倒だ。俺は身体能力が向上しているのですばやく動くことは可能だが瞬間移動、テレポーテーション相手ではどうしようもない。
・・・どうしようもないだと。この俺が弱音を吐くなど。俺は・・・究極のはずだ。
やつの瞬間移動ではダークバーニングは遅すぎる。しかし、離れた相手には接近するより、射撃的な攻撃の方が有効だ。いや、やはりこの自身のスピードを上げるか?
この俺を悩ませるとは、やるな。あの能力者。
いつまでもこんな書店にいてもしょうがなかったので俺はその場を後にし、より自分を超越するために再びあの精神病院へと足を運んでいった。
数分してたどり着いた俺は、前回と同様に精神病院の森に隠れて大量に湧き出ている負の感情を吸収していた。
俺はためしに大木に向けてダークバーニングを放った。黒き火炎は木に命中したが何のことはない。精神を焼き尽くす炎であるため、火事を起こす心配はない。この攻撃が有効なのはおそらく人間だけであろう。
その後も、両手を使ってダークバーニングを放ち続けた。精神病院患者の負の感情が無限に出ているために疲れる心配がない。出せるだけ出し続け、何がやつを倒せるヒントをつかもうとした。
しかし、放ち続けたダークバーニングを俺は途中でやめてしまった。
どうしたらいいんだ。この俺を悩ませるとは自分自身を超越することは難しい。
相手はテレポーター。いたるところに瞬間移動。相手の思考を呼んでどこに現れるかを読むのもいい。しかし、そんな回りくどい方法を取りたくはないし、俺はあくまで負の感情を感じ取り、吸収する存在。圧倒的な力でやつを倒したい。
・・・・・・・そうか。その手があったか。やはり、俺は偉大な存在だ。
俺は辺りが暗くなるまでずっと、精神病院で特訓をしていた。
平和同好会のホームレス親衛隊としての仕事を思い出した俺は新しい能力が未完成のまま、公園に向かうことにした。
また特訓するしかない。何が何でも身に着けてやる。俺にはそれができるのだから。俺は世界に選ばれし存在。地球の代表といえる男なのだから。
破れた制服を一切気にしないまま、俺は公園にたどり着いた。
すると、いつもどおりのダンボールやブルーシートだらけの何ら変わらない光景であった。
「やっときた」
斉藤がいつもの眼鏡顔で言った。
「暇だから来てやった」
斉藤は俺を馬鹿にするかのような顔で俺を見た。
この、小市民の分際で。
「あれ、鹿沼以外のほかのやつらは?」
倉田と川島が来ていなかったのだ。
「倉田さんならホームレスのおばあさんといっしょにしゃべってるわよ」
斉藤が指差す方向に倉田がいた。
馬鹿な。倉田の負の感情に気がつかなかった。負の感情が小さいか俺が特訓で疲労したかのどちらかであろう。
「川島君は星空を見に行った」
「へぇ・・・・何?」
この偉大なる俺がこんな愚民たちをしょうがなく守ってやっているというのに星を見に言ったっていうのか。なんというやつだ。
「川島君の能力っていいな」
何!やつも能力者だとでもいうのか?
「あのでかいのってどんな能力を持ってるんだ?」
「彼は視力を自在にコントロールできるのよ。望遠鏡のように星を見たり、顕微鏡のように小さなウイルスだって見えるって言ってた。
視力操作能力・・・・・たいしたことは無いな
「だから、周りから盗撮魔って呼ばれてんのか?」
「そうなのよ。彼の能力なら覗きは簡単だから。それを知った馬鹿な男子たちが勝手に覗きをしているっていう噂を広めたのよ。そして、気がついたら覗きから盗撮魔になってさらに噂は広まるしね」
「なるほど」
小市民の悪意は尋常じゃない。実にすばらしいことだ。
「だからって、星を見に行かせたのかよ」
「いいじゃない。彼の能力は戦闘向きじゃないし、ここじゃ外灯があってよく見えないんだって。望遠鏡を使わなくても星が見えるなんて素敵じゃない」
本当に世界を救いたいのかこいつらは。
「結局、この俺頼みってわけか」
「そういうことよ」
「分かったよ。しかし、いつまでここにいるかな?」
「そうね」
俺は腰を下ろし、右手であごを支えた。
「今日はホームレス狩りの連中来ると思うか?」
俺が斉藤に聞いてみた。
「分からないわね」
「もしかしたら、夜中ずっとこうして待っているのやだぜ、この俺は」
「世界の平和のためよ」
世界平和、そんなこと可能なのかね。もし、それが可能なら俺の能力の存在意義はなくなるな。それは非常に困る。そうだぜ。このまま平和になっちまったら俺はただの旧人類と同じだぜ。
しかし、今日は天気がいい。外灯があっても星が見える。天気のいい夜もなかなかのものだ。
「でも、不思議ね。あなたって」
「何でだよ?」
「普通、能力って一つだけだけど、あなたの場合は身体能力が強くなるのとあの黒い炎と二つあるんですもの」
当然だ。普通の能力者といっしょにしてもらっては困る。
「ま、そういう星の元に生まれたからだよ。世界に選ばれし男は辛いさ」
全然辛くはないが。
「あ、そう」
斉藤は呆れたような態度をとった。
これだから小市民は。人類を超越した存在の価値を理解できない哀れな劣等種族が。
「ところでさ。お前って昔どんな能力持ってたわけ?」
今の俺にとって斉藤という女に価値があるとすれば『元』持っていた能力だけだ。それ以外に何の興味も無い。
「話したくない」
斉藤は俺の顔を見ずに言った。
斉藤の内面から負の感情が湧き出ている。いいぞ。もっとだ。もっともっと。
「ふーん、ま、いいけどね。それで人が救えるなら」
「何が言いたいわけ?」
斉藤がこの俺の発言にカチンときたらしい。結構なことだ。
「能力がないのによく世界を平和にするって考えられたな。今の時代。能力があって当たり前。能力者を抑えるには能力者の力をぶつけるしかない。しかし、お前たちは戦闘向きではない。まして、能力の無いお前が」
「それ以上言ったら本気で怒るわよ」
いいぞいいぞ。憎しみに満ちた感情は俺の喜びだ。さあ、もっと怒れ。俺の進化に貢献しろ。それくらいしか役に立たないのだから。
「ま、いいさ。どうせ今日は誰も来ないから」
俺は両手を頭の後頭部に合わせ、公園の入り口に向かった。
「帰るの?」
「ああ、今日はさすがに来ないだろう」
「どうして分かるのよ」
周囲に悪意に満ちた感情をまったく感じないからだ。
「人類を超越しているからだ」
「この俺は帰るぜ」
この俺は調子に乗って何メートルも高くジャンプし、公園の外に出た。
さて、条約が本当か確かめなきゃな。明日、学校に行けば何かあるに違いない。いや、何かあってほしい。不幸は更なる不幸を生み、その連鎖は続く。そして、俺に無限の力を与えてくれる。これが俺の望み。それは皆の不幸。不幸は俺の幸福。いつか、あの平和同好会のやつらも不幸のどん底に落としてみてもいいかもしれない。
それにはあのテレポーターを倒し、さらなる進化が必要だ。
今、俺に必要なのは『絶望』だと思っていた。絶望こそ人類の弱点であり、不幸そのものであるのだから。しかし、今俺に必要な感情は『絶望』ではなく、人間の『悪意』なのかもしれない。俺がそもそも完全な覚醒を果たしたとき、影村たち小市民の『悪意』があった。悪意の塊。それを探す必要がある。




