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ザ・チューニーズ   作者: 野川太郎
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第五章

そして、有名なホームレスのたまり場である『沼一公園』にやってきた。腕時計を見ると七時五十五分。五分前行動ってやつだ。

 そこにはブルーシートやダンボールなどをテント代わりにしているホームレスたちがいたるところに存在した。おかげで彼らからは十分な負の感情である『絶望』を吸収しているため、全身に力がみなぎっている。

 この俺は近くにいるであろう倉田を探し始めた。

 感じる。倉田独特の負の感情。死のにおいがする。そうか、こっちだな。

 俺がその方向に近づいていくと再び体から黒い煙が発生してきた。しかし、夜なのでほとんど目立たないので問題はない・・・・と思っていたが、白い光を放ち、逆に目立ってしまっている。きっと、夜になると、光り方が違って見えるのだろう。まあ、結構なことだ。

 それでも、夜なので暗くてよく見えないがたぶん水色をしたブランコの方にこの俺は向かっていった。すると、ブランコの椅子に倉田が一人座っているのを発見することができた。

「この俺がじきじきにやってきたぜ」

 俺は究極に威張りくさった言い方で言った。

「やっぱりきたんだ。暇そうだもんね」

 暇ですが何か?

「余計なお世話だ。で、なぜ、この俺をこんな所に呼んだんだ?」

「人助けだよ」

 暗い声で言った。

「まさか、ここら一面に住んでいるホームレスという名の小市民たちを、この俺が助ける?誰からだ?」

「超能力者たちから」

 倉田の悲しみが増していく。そして、それが俺の力となる。すばらしいエネルギー機関だ。この女は。ま、俺の力を維持するだけの存在ってことだ。

「最近急増してるっていうホームレス狩りのことか?しかも超能力者が絡んでるから警察も対処しきれないって話だよな」

「私が警察に駆け寄ったんだけど、超能力者による犯罪が多すぎて後回しにされたの」

 これが新世界の現状だ。

「で、この俺がホームレス狩りをしている小市民を粛清すればいいんだな」

「そういうこと」

 俺はホームレスの館をあちこちと確認した。数十人くらいはいるのだろう。彼らに共通していることは一つ。誰も能力を持っているやつがいないということだ。この新世界は超能力があるなしで就職に大きく影響する。超能力主義に染まっているこの新世界にとって能力をもたない人間はいらないといっているのと同じなのだ。

 ま、どうだっていいけど。誰が生きようが死のうがこの俺にはまったく関係ない。

「もう来たようだな」

 『悪意』が近寄ってくる。

「え、分かるの?」

 倉田は困惑している。

 俺には感じる。この悪意に満ちた感情たちがこの腐った公園に向かってきていることに。俺はこの上ない喜びに満ちていた。力がどんどん増してくる。さあ、来い。小市民共。この偉大を超越した俺が相手になってやる。いい暇つぶしができる。

 すると、公園の入り口から三人の人影が現れた。

 三人とも身長は百七十センチくらいでたぶん男たちである。すると、その中の一人が言った。

「おい、フィールドを展開して誰もにがさねーよーにしろ」

「ああ、まかせとけ」

 何だ?フィールドって?

 すると、公園が何かの光に包まれていき、公園全体が明るくなっていった。そして、光はドーム状になっていった。

「もうここから出られない」

 倉田が残念そうに言った。

「どういうことだ?」

「あの光はバリアーみたいな物なのよ。だから、誰もここから抜けることができないの」

 なるほど、そうやって弱者たちをいじめるってわけか。結構なことだねぇ。あーあ、えげつない、えげつない。

 その三人は散らばり、テントの中からホームレスたちを引きずり出しては殴る蹴るを繰り返していた。すると、隣にいた倉田が止めに入ろうと、三人の内の一人に飛び掛ったが軽く吹き飛ばされてしまった。

 そうか、あの男は怪力能力か。俺とどっちが強いかな。

 俺は彼らの一部始終を淡々と見ていた。人がどうなろうとこの俺には関係ないからだ。ホームレスが死のうとどうなろうと社会に何の変化も無い。これが今の新世界。能力があってこその世界なのだから。

 もう一人は分身能力で十人くらいの自分自身を出して、ホームレスたちに襲い掛かっている。

「この人たちを助けてあげてよ」

 倉田が大声で俺に向かって叫んだ。

「だって、この光景おもしろいんだよ」

 倉田は能力者たちを必死で抑えようとしているが所詮女の子である。吹き飛ばされ、分身能力者の分身たちに取り押さえられた。

「私はいいから他の人たちを助けて」

 倉田が必死で叫んでいる。

「面倒くせぇ。もう少しこの光景が見たいんだよな」

 人間の悪意、苦しみ、憎しみ、悲しみ。俺は非常に喜びを感じている。ああ、俺は何て幸せ者なんだ。

「おい、あいつ握間じゃねーか?」

 怪力男がこの俺の存在に気がついたようだ。

 超通信で情報が流れているからしょうがないか。これがいわゆる人気者の宿命というやつだ。

「気がつくのが遅いんじゃないのか小市民」

 俺は偉そうに言った。

「てめぇか。中二病の能力者ってのは」

「まったく。これだから小市民は。すぐ話を鵜呑みにする。哀れだ。実に哀れだ」

 俺は彼らを鼻で笑ってやった。

「調子に乗れるのもここまでだぜ。何せ俺たちは革新学校生なんだからな」

 な、何だって。あの特殊能力を育成できるあの高校の生徒だというのかぁ!

 ・・・・なーんてな。そんな風に思う俺ではない。もう、どうだっていいのさ。今のこの俺には。

「だからどうした?訓練してもらわないとどうしようもない哀れな小市民どもが」

「そこまで言うってことはそれなりの覚悟があるってことだ」

 怪力少年がどんどん近づいてくる。

「なぜ、この偉大なる俺が覚悟しなければならない?俺は世界を超越した存在だ。覚悟という言葉を使う時点でお前は負けている」

 俺はそのまま突っ立っていた。

 力がどんどんみなぎってくる。これが俺の能力。暗黒の力だ。

 公園全体が光のバリアーで包まれているために互いの顔がはっきりと見える。その怪力少年は金髪のオールバックの髪型であった。

 すると、その金髪がパンチを繰り出してきたので俺は右手でやつのこぶしをつかんだ。

 確かにパワーはある。俺の学校にいる能力者よりははるかに強いだろう。強化されていることも分かる。

「俺のストレートを抑えただと?」

 金髪がうろたえている。おそらく、今まで『力』で負けたことがなかったのだろう。

 かわいそうに。相手が悪いとはまさにこのことだ。自分がいやになる。自分の強すぎる力に。ああ、なんて俺はこんなにも強いのだろうか。

「このやろう」

 今度は左ストレートが俺の顔面に向かって飛んできたので俺はあえて避けずに攻撃を受けた。

確かにそれなりの力はあるがこの程度か。

 まったく痛みを感じなかった。若干の衝撃はあったが何のことはない。ま、影村が飛ばしたシャーペンよりはダメージを受けた・・・かもしれないが。これがこの俺の絶対防御能力。この俺の身体強化はめまぐるしい

「これが超能力学校生の力か。残念だな」

 俺は右腕で金髪の腹を半分の力で殴ると、金髪の腹部に命中し、一メートルくらい吹き飛ばした。金髪はものすごく痛がっている。苦しんでいる。

 やつの苦しみを全身に感じる。この上ない幸福感。今の俺は充実感以上のものを感じる。人の不幸はやはり幸せだ。俺の人生を豊かにしてくれる。

「お勉強が足りなかったようだね。やっぱり小市民か」

 俺の言ったことに腹を立てたのか金髪は再び立ち上がり、俺に向かってきた。俺はやつの右腕をつかみ、一本背負いのように地面にたたきつけた。

「早くママの所に帰れ小市民。ホームレス狩りなんて腑抜けたことしてないでさ」

「黙れぇ」

 痛みを堪えながら金髪は立ち上がった。

「小市民にしてはやるじゃないか。でも、もう家に帰る時間だ。坊や」

 俺は金髪の体を持ち上げ、投球ホームでバリアーを張った男に向かって金髪を投げた。金髪は空を飛んでいるかのように宙を舞い、見事に少年二人は激突した。

「ナイスピッチング。この俺」

 自画自賛という言葉は俺のためにあるようなものだ。

「おい、握間。この女やホームレスたちがどうなってもいいのか?」

 分身少年が何十人にもなって倉田やホームレスたちの爺婆たちを取り押さえている。

「私はどうなってもいいからあの人たちを助けてあげて」

 倉田はホームレスたちを助けたがっている。

「さあ、どうする?握間」

「・・・・・ふふふ」

 俺は下を向きながら不気味に笑い出した。

「何がおかしいんだよ」

 分身たちが一同に言った。

「この偉大なる俺に人質など通用すると思っているのか?」

「何だと?」

「じゃあ、はっきり言ってやる。俺はこんな小市民たちの命なんてどうでもいいと思っている。生きようが死のうが後遺症になろうが人格が破綻しようがどうだっていい。俺にとって俺こそ真実、俺こそすべて、俺こそ絶対。他人がどうなろうと知ったこっちゃない」

 俺は公園にいるすべての小市民に聞こえるように言った。

「そんなぁ」

 倉田がため息をついた。

「そんな強がり俺に通用するもんかよ」

 分身能力。確かにすごい。どれくらい分身を増やせるのかみたいな。挑発でもしてみるかな。

「十数体くらいでこの俺を止められると思ったら大勘違いだ。ま、馬鹿は死んでも治らないって言うしな。実に哀れだ。小市民は」

「だったら見せてやるよ。俺の力をな」

 分身たちが次々と増殖していった。二十人三十人と数を増やしていく。

「これが俺たち超能力学校生の力だ」

「ふ、小市民が」

 俺には分かっていた。分身は実態こそあるが感情がない。感情があるのは倉田を人質に取っているやつだ。こいつを倒してしまえば分身たちも消えるだろう。しかし、そんなことをしてもおもしろくないので、この俺はあえて分身たちと戦うことにする。

「さあ、かかって来い。塵は積もっても所詮塵だ」

 すると、何十対もの分身たちが一斉に襲い掛かってきた。彼らに感情がないので俺の力は強化されないが周りのホームレスや能力者たちの負の感情があれば十分であった。

 数十対の分身たちは俺を取り囲み、一斉に襲い掛かってきた。

 殴る蹴るが他方向から連続で飛んでくる。しかし、まったく痛みを感じない。今の俺の防御力に勝る攻撃はこの分身たちには無理だということだ。

 すると、後ろから俺の首を絞め、両足両腕を押さえつけ、身動きを取れないようにしてきた。

 やばい、苦しい。動けない・・・・・なーんてね。

 俺は首を絞めている分身に思いっきり肘撃ちをした。すると、その分身はかなり苦しんでいる。その後もまとわり付く分身たちを力でねじ伏せること三分。一人を除いた分身たちはすべて倒れている。

「一定以上のダメージを受けた分身は消えると思っていたのにな」

「そんな・・・馬鹿な」

 倉田を捕まえていた一人が急に力を失ったみたいに倒れこみ戦意喪失した。すると、分身たちが一斉にそいつの体に吸収され、分身たちは消えていった。そして、本体の少年が急に苦しみだしたのだ。

「全身が・・・・痛い」

 なるほど。分身が受けたダメージを今自分が受けているわけか。不便な能力だな。

「おい、お前たち何やってんだよ」

 公園にバリアーを張っている最後の一人がうろたえている。

「あと一人か。味気ないな」

 この俺はバリアーを張っている同い年くらいの男に近づいていった。

「く、来るんじゃない」

 その少年は板状の光を俺の周りに放ち、俺をバリアー内に閉じ込めた。

「こ、これなら動けない」

「ここから出してくれ・・・・・・なんてな」

 俺はバリアーに向かって右ストレートのパンチを繰り出した。すると、バリアーにひびが入り、ガラスのように砕け散った。

「そ、そんな。俺のバリアーを破ったやつは今までいないはずだ」

「ここにいるじゃないか。哀れなる小市民よ」

 こいつの恐怖が最高潮に達しているのを感じる。実にすばらしいことだ。

「二人をつれてとっとと帰れ。お前を粛清したって何の意味も無い」

 三人は身体的肉体的に弱りながらもここから去っていった。もちろん、公園に張り巡らされていたバリアーは消えていた。

「じゃあな。小市民たち」

 俺は笑顔で彼らに手を振った。

 その後、俺は倉田やホームレスたちの方に体を傾けた。

 すると、倉田は怪我をしたホームレスたちに近づいて介抱している。

「じゃあ、俺は帰るぞ。やることはやったしな」

 俺が背を向けようとした瞬間、黄金の光が辺りを満たした。倉田が怪我をしたホームレスの小汚いじじいの右腕に光を放っていたのである。

「お前、特殊能力者か?」

「そうだけど」

 倉田はそっけなく言った。

 すると、老人の腫れていた腕が元の肌色に戻っていった。

「ありがと、真美ちゃん」

「いいんですよ。いつものことですから」

 初めて倉田の笑顔を見た気がする。学校では暗い陰湿な女で通っていたがそんな一面があるのか・・・・実にどうでもいいことだ。

「ヒーリング能力か。なるほどね」

「でも、怪我しか治せないから。ガンとか腫瘍とかウイルス系には効果が無いの」

 そんなこと聞いてねーし。

「後、このこと誰にも言わないで」

「別にかまわないよ。どうせ、友達いねーし俺」

 そうだった。この俺には友達いなかったなそういえば。ま、たいしたことではないか。しかし、約束は破りたい主義だからな。

そういえば、クラスの能力者リストで倉田は未能力者ってことになってたっけ。なぜ、能力を隠す理由があるのか俺には分からなかった。ま、いいや。

「俺、帰るからな」

「じゃあ、あしたも来てね」

「・・・・・何?」

「きっと、今日の報復が待ってると思うから」

 倉田は軽く言った。

「面倒くせぇ」

「じゃあね」

 倉田はまるで俺の話を聞いてないようだった。

 なんてマイペースな女なんだ。この俺に匹敵するな。

 俺は星を眺めながら公園を後にした。


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