桃園の誓いは、突然のプロポーズ!?
ときは後漢末期。
天下は乱れ、政治は腐敗し、「黄巾族」と呼ばれる怪しい黄色いバンダナを巻いた集団が街で暴れ回る、まさに世紀末な時代。
そんな乱世の片隅、幽州の片田舎に、一人の少女(?)がいた。
「うぅ……今日もむしろが売れない……。このままじゃ今晩の肉まんが買えないよぅ……」
彼女の名は、劉備、字は玄徳。
耳たぶが異常に大きく、手を伸ばすと膝まで届くという、どこかマスコット的な愛嬌を持つ17歳。一応、昔の偉い皇帝の血を引いているらしいが、現在は完全に落ちぶれて「むしろ(藁のマット)」や「草鞋」を編んで売る、極貧生活を送っていた。
劉備の特技は、「美味しそうにご飯を食べること」と、「困ったらすぐ泣くこと」。
要するに、天性の「放っておけない系・天然ドジっ娘」である。
その日も、街の掲示板に貼られた「義勇兵募集!(=一緒に戦ってくれるイケメン・美女求む)」の張り紙の前で、劉備は大きなため息をついていた。
「はぁ……。私みたいに力のない女の子じゃ、世の中を平和にするなんて無理なのかなぁ……」
ポロポロと大きな涙をこぼす劉備。
だが、彼女はまだ気づいていなかった。その「涙」が、この国の最強生物たちの運命を狂わせる、最強の兵器だということに。
「おい、そこの小娘。何をシクシク泣いている」
背後から降ってきたのは、地響きのような地声。
振り返ると、そこにいたのは身長190センチ、蛇のように鋭い矛を背負った、圧倒的ワイルド系の虎娘(?)だった。
「ひゃうっ!? 蛇、蛇矛!?」
「あたしは張飛、字は益徳! 街の肉屋だ! 飯をマズそうに食う奴と、シケた面してる奴が大嫌いでな! お前、何で泣いてるんだ?」
張飛はドスの効いた声で凄むが、劉備のうるうるした瞳と目が合った瞬間、ピクリと動きを止めた。
(な、なんだこの生き物……。ちんちくりんのくせに、なんか……めちゃくちゃ守ってやりたくなる顔してやがる……!)
「あ、あのね……世の中が大変なのに、私、むしろを編むことしかできなくて、悔しくて……」
「くっ……! お前、そんな健気な理由で……! よし分かった、あたしが肉を奢ってやる! ついてきな!」
「わあ、お肉! ありがとうございます!」
秒で満面の笑みになる劉備。その破壊力抜群の笑顔に、張飛の心臓はドクンと跳ね上がった。
二人が居酒屋へ行き、劉備が口いっぱいに肉を頬張っていると(張飛はその姿を「美味そうに食うなぁ…」とニヤニヤ見ていた)、店の入り口の引戸がガラガラと開いた。
その瞬間、居酒屋の空気が凍りついた。
入ってきたのは、身長2メートル超、見事な黒髪のロングヘアをなびかせ、緑のチャイナドレス(戦闘服)をまとった、圧倒的クール系美女。
「店主、冷や酒をくれ。これから義勇兵に志願しに行く」
彼女の名は関羽、字は雲長。
手には、およそ人間が振り回せるサイズではない巨大な大鉈『青龍偃月刀』を携えている。その凛とした佇まいと、冷徹な美貌に店中が息を呑む。
しかし、関羽の視線が、口の周りをタレだらけにして肉にかぶりつく劉備に留まった。
「……ん?」
関羽の美しい切れ味が鋭い目が、丸くなる。
(……何だ、あの愛らしい生物は。雛鳥か? いや、人間……? 守らねば。今すぐ抱きしめて、あのタレを拭ってやらねばならない気がする……!)
関羽は無言で劉備のテーブルに歩み寄り、ドンッ!と青龍偃月刀を床に突きたてた。
「ひえっ!?」怯える劉備。
「おい、お前! あたしの劉備(仮)を脅かすんじゃねえ!」立ち上がる張飛。
だが、関羽は張飛を無視し、懐から白いハンカチを取り出すと、そっと劉備の頬を拭った。
「……汚れているぞ。よく噛んで食べなさい」
「あ……ありがとう、お姉さん。お名前は……?」
上目遣いで尋ねる劉備に、関羽の胸が高鳴る。
「関羽、字は雲長だ。……もし良ければ、私のこれからの人生、お前にすべて捧げても良いのだが」
「ちょっと待てコラァアア! 出会って3秒でプロポーズしてんじゃねえよ緑髪!!」
張飛が激怒し、居酒屋は大混乱。しかし、劉備が「ふたりとも、喧嘩はめっ、ですよ?」と涙目で仲裁すると、二人の最強武将は「うっ……」と同時に胸を押さえて黙り込んでしまった。
その日の夕暮れ。
張飛の家の裏手にある、満開の桃の園。
ピンク色の花びらが舞い散る中、劉備、関羽、張飛の三人は、なぜかお酒の入った杯を手に並んでいた。
「いいか、ふたりとも。あたしたちは生まれた日は違えど、死ぬ時は一緒だ!」
張飛が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「異議なし。劉備、お前を傷つける者は、この関雲長が世界の果てまで追い詰めて細切れにしよう」
関羽が冷酷な笑み(ただし目はハート)で告げる。
「え、ええっと……ふたりとも、これからよろしくね!」
劉備が嬉しそうに微笑む。
こうして、のちに歴史を大きく揺るがすこと neighborhood になる最強の絆、『桃園の誓い』が結ばれた。
劉備にとっては「頼れるお友達ができた!」という純粋な気持ちだったが、関羽と張飛にとっては「実質的な婚約(重婚)」の儀式であった。
「(絶対に、あたしの嫁にする……!)」
「(絶対に、私の正妻にしてみせる……!)」
バチバチと火花を散らす関羽と張飛。そんな二人のお腹に「えへへ、お腹いっぱい!」と抱きつく無自覚天然タラシの劉備。
乱世を揺るがす超弩級のラブコメディが、今、幕を開けたのである――。
ご想像にお任せします。




