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クビになった派遣の床に落ちたのは、国家を私物化できる13のマスターライセンスでした  作者: Eternity Beat


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第31話:夜食と煽りのナイト・ディプロマシー

極地に位置する『プトラ・セクター』近郊――白夜の陽光がどこまでも白く広がる飛行場。


対温暖化インフラが吐き出す膨大な排熱と、ドーム内の気候制御システムがもたらす極暑の熱風が混ざり合い、かげろうとなって歪むランウェイの上で、圧倒的な緊迫感が渦巻いていた。


民族衣装『ウフィアハ』の優雅な裾を極地の風になびかせ、七瀬由奈が言い放った宣戦布告。周囲を取り囲むVALKANORの自動裁断ロボット群のレーザーが不気味に明滅し、一触即発の火花が散る。


だが、プライドを打ち砕かれ激怒に震えていたはずのヘレナは、ふっと不敵な笑みを口元に浮かべた。手元の端末を乱暴に操作し、ロボット群の稼働を一時停止させる。


「……ふん。こんな極地のランウェイで無粋な武力衝突も野暮でしょ? 長旅の疲れと、病み上がりのお友達のケアも兼ねて――私たちの『迎賓館』で最高級のジパング風夜食をご馳走してあげるわ。来なさい」


ヘレナが優雅に翻した背中を、俺と歩実、そして由奈の三人は静かに見つめた。


「……怜くん、どうする?」


「敵のホームに乗り込むのは危険だが、監視網の配置と敵の真意を探る絶好の機会だ。何より、歩実の体調を最優先に考えりゃ、相手の用意した茶に乗る価値はある」


「了解よ。医療データのバックドアはすでに私が塞いであるわ。行きましょう」



案内されたのは、ヤクート巨大コンツェルン『YARENDEZ』の圧倒的な財力によって建造された、洗練と堅牢が同居する迎賓施設だった。


重厚なセキュリティドアを抜けた先の和室風の大広間には、驚くほど完璧に再現された「ジパング風の最高級夜食(懐石)」が整然と並べられている。


静けさの中、向かい合って着席した俺たちに対し、ヘレナは優雅に箸を伸ばしながら、どこか探るような視線を歩実へと向けた。


「それで……歩実さん、体調はいかが? 当セクターの集中医療ポッドとナノドックは役に立ったかしら?」


突然振られた話題に、歩実は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに真っ直ぐな瞳で頭を下げた。


「はい……! 正直、あんなにすぐ体が軽くなるなんて思ってなくて。ヘレナさんたちが施設を無償で貸してくれなかったら、私、まだ倒れていたかもしれません。そこは本当に、ありがとうございました……!」


あまりに素直で無防備な感謝に、ヘレナは拍子抜けしたように眉をひそめる。だがすぐに、意地悪い笑みをその口元に復活させた。


「ふん、当然の嗜みよ。……それにしても、てっきり73Kの七瀬由奈がこの物語のヒロインだと思っていましたわ。ですが、ヤクート監視システムの最新数値を見る限り――穂波歩実さん、あなたこそが『メインヒロイン』だったのね。私の認識違い……ヤクート上流サピエンスとしては恥ですが」


露骨なヒロイン数値によるマウント。由奈の美しい眉がピクッと跳ね上がる。


だが、歩実もただ黙って言われっぱなしのサピエンスではなかった。お茶を一口すむと、ふわりと可愛らしい笑みを浮かべ、強烈なカウンターを打ち返す。


「ふふっ、ヘレナさんこそ……私たちが準備を整える間、Web小説で時間を稼いでくれてありがとうございました。……まあ、作品の内容はなんか無駄にムカつきましたけど!」


「な……ッ!? あなた、あの作品の芸術性を冒涜する気!?」


一瞬で和やかな(ふりをしていた)空気が吹き飛び、激しい火花がバチバチと双方の間に散り直す。


「医療データのバックドアチェックは完了しているわ。数値でしか人を測れないヤクートのシステムなんて、いつでも上書きしてあげる」


由奈が冷徹な声で追い打ちをかけ、ヘレナは悔しそうに歯噛みした。感謝は感謝、だが俺たちとヤクートは相容れない敵同士――その事実が強烈に再確認された瞬間だった。


「……ふん! 病み上がりのメインヒロインさんも元気が戻ったようですし、今夜の腹の探り合いはここまでね。本格的な議論は明日にしましょう。あなたたちには特製の『別室』を用意してあるわ」


不機嫌そうに立ち上がったヘレナの合図で、厳重なセキュリティを誇る警備兵たちが俺たちを取り囲む。


「こちらへどうぞ、ジパングのゲストの皆様」


迎賓館のさらに奥深く、地下へと続く重厚な通路へと誘導される三人。


俺は移動しながらも、周囲の壁に埋め込まれた監視カメラ、感圧センサー、配線構造を視線だけで冷たく網羅していく。


「……怜くん」


「ああ。敵の掌の上で踊る気はない」


案内された離れの重厚な扉が開き、俺たちが足を踏み入れた瞬間、背後でガシャンと重いロック音が響き渡った。


閉じられた密室の中で、体調を完璧に取り戻した歩実、ウフィアハの権限を完全同期させた由奈、そして泥臭い現場指揮を執る俺――三人の視線が静かに交錯する。


「さあ……反撃の第二幕と行きましょうか」


プトラ・セクターの深部、『神殿』の暗雲へと続く夜が、静かに更けていく。


(第32話へ続く)

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