表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クビになった派遣の床に落ちたのは、国家を私物化できる13のマスターライセンスでした  作者: Eternity Beat


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/38

第16話:コンマ1ミリ秒のアジャスト(576時間の新世界)

境港の国際旅客ターミナル「境夢みなとターミナル」。潮風が吹き抜けるコンクリートの床を踏み締めながら、俺は網膜のインデックスを限界速度で回していた。先代AIの罠の全貌が、ようやく見えてきた。これまでの崩壊劇。アーカイブ情報やまとまった脳内データを一括で世界にマウントした瞬間、システムはそれを『検知』し、即座に修正パッチを割り込ませて世界線ごと都合よく上書き改変してしまう。「脳内メモリのアーカイブは最小限の断片に留める。システムの検知プロセスが回る前に、コンマ1ミリ秒の神速アジャストで先手を打つしかねえ」電子的足跡が残る北方権力体の新型電子渡航認証(E-クラス・マスター)の申請をあえて破棄し、手動による北方権力体一般査証の特急取得へと切り替えたのは、先代AIの演算予測を内部からバグらせるためのカウンター実験だった。同時に、旧世代の上司から奪い取った仮想通貨ICカードの多重偽装トランザクションを最終フェーズへ移行させる。スポット市場で売却したUSドルを国際的なマルチカレンシー送金口座へ流し込み、中間海域の中立セクター(東海ノード)を経由した多重資産コンバートタッチ決済網を確保。さらに北方権力体国内の決済封鎖を突破するため、オンラインで『現地の電子決済サービス』のKYCを強制通過させ、バーチャル『Patriot (パトリオット)』へ暗号資産(USTD)をルーブル(RUB)としてチャージする。現地極東の不凍港セクターで受け取る物理カード(デビットカード)の手配も完了し、手元には関税申告不要の上限枠である一万ドル相当のキャッシュをスーツケースの底へマウントした。準備はすべて、コンマ1ミリ秒の隙間に叩き込んだ。その時、歩実のスマホが小さく震え、画面に一通のメールが着信した。一般査証を特急申請していた旅行会社からの、査証発給に関する最終確定通知。『漣 怜 様:査証発給に向けての最終確認です。【行程】境港 ➔ 中立セクター(東海ノード) ➔ 不凍港セクター港 ➔ 不凍港セクター内にある外資系の最高級宿泊ホテル(1泊/ダブルベッド)➔ 不凍港セクター空港 ➔ ヤクート・コア空港 ➔ ヤクート・コア内の政府系極東ホテル宿泊ダブルベッド ➔ 第3国へ。1:ホテルは全て窓が南側の部屋を希望。2:「ダブル査証(2回入国)」を申請。3:送迎車は鉄の血統を受け継ぐ黒塗りの高級セダンを希望。

※注意:一般査証は境港出港から北方権力体出国までの24日間です。

漣 怜 ➔ РЕЙ САЗАНАМИ(Мужчина)

穂波 歩実 ➔ АЮМИ ХОНАМИ(Женщина)

よい旅を。』キリル文字で冷酷に綴られた、二人の名前。それを見つめる歩実の肩が、微かに震えていた。日本という檻を捨て、かつて鉄のカーテンと呼ばれた未知の領域へ本当に足を踏み入れるのだという現実が、その文字から溢れ出していた。「……怜くん、私の名前が、北方権力体語で……」俺は歩実の細い肩を引き寄せ、その震えを押し潰すように真っ直ぐに告げた。「大丈夫だ。これで間違いない。だからもう、何も心配するな」歩実はハッと息を呑み、それから俺の胸に顔を埋めるようにして、強く、深く頷いた。怯えは一瞬で消え去り、天才ヒロインとしての絶対的な瞳が戻る。「――コンプリート。怜くん、データの構築はすべて終わったよ。あとは、送信ボタンを押すだけ」「送信ボタンを押して!」トン、と歩実の指先がスマホの画面をタップ。刹那、世界を縛っていたカウントダウンタイマーに猛烈な電子ノイズが走る。先代AIの修正パッチがこちらを認識するより早く、コンマ1ミリ秒の間隙を突き抜けた確定パケットが、世界の因果律を内側から爆破した。俺のPC画面の端で、破滅へと誘っていたあの[192:00:00]という数字が狂ったように反転していく。そして、冷徹で強固な二四日間のタイマーが、そこに上書きされた。[576:00:00]「書き換わった……!」汽笛の音が、夕暮れの境港に響き渡る。日本の歪んだ「クビ」と「派遣」の泥をすすってきた旧世代のサピエンス、これが世界への最初の宣戦布告だ。鉄のカーテンの向こう側、マイナス四〇度の凍てつく新世界へ向けた、五七六時間のタイムレースが今、始まった。(第17話・総集編へ続く)

[最高設計者グランド・アーキテクトより世界線アナウンス]本データ(物語)の絶対座標は、すでに旧世界のグローバル・クローラー網(全方位の広域インフラ網)によって完全にロックオン(捕捉)されている。観測者は、旧世紀の検索アーカイブに本作の『識別コード(タイトル名)』をデプロイしてみるがいい。トップレイヤーに君臨する本作品の存在確率を、その目ですべて証明できるはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ