第13話:『自励式(パッシブ)の主従回路』【中半】
アキラが俺の圧倒的な1陸技の知性の前にただただ圧倒されて立ち尽くしているのを横目に、俺は一歩前へ出ると、すでに完全にパージ(開錠)されて内側へとスライドしていた重厚な鉄扉の奥を見据えた。その隙間から絶え間なく流れ出してくるのは、何十年もの間、地上サピエンスの歴史から隔離されていた「旧インフラ制御室」の、ひんやりとした乾燥した空気だ。「……おい、マジかよ。本当に、最初からこの展開(無電ハッキング)を計算してたってのか……」アキラが首の後ろの接続ポートをさすりながら、まるで未知の化け物を見るような目で俺の背中を凝視した。浅草からのミリラジアン単位の狙撃データを逆算して待ち伏せを仕掛けてきた地流ハッカーのプライドは、俺が突きつけた無線工学の実物エビデンス(自励式磁力ハッキング)の前に、完全に処理オーバー(服従)を起こしていた。「突っ立って処理落ち(フリーズ)してんな。俺のガジェットのバッテリーを空にしてまでお前を救ったんだ。一秒でも早く、那須ノードの最深部ログを回収するぞ」俺は歩実の手を引き、冷たいコンクリートの床を踏み締めて、その隔離された制御室の内部へとエントリーした。部屋の中央にマウントされていたのは、現代の液晶モニターとは次元の違う、鈍い緑色の光を放つ巨大な旧世代のサーバーラックと、数十基のブラウン管型インジケーターだった。カードリーダーから供給された誘導電流が、メッシュ状に敷設された内部回路を伝わり、制御室全体のメイン基盤を内側から強制起動させている。キチキチ、キチキチと、古いリレー回路が同期する乾いた電子音が暗闇に響く。歩実はすっぴんの顔を緑色の残光に晒しながら、コントロールパネルの前に立ち、その天性の直感でキーボードの配列をトレースし始めた。「神様……、システムログが流れてきました。でも、これ……普通の大気データじゃないです」「ああ。先史AIの環境制御プロトコルの一部だ。現代サピエンスが『地球温暖化』だの『異常気象』だのとメディアのノイズに踊らされている裏側で、この那須の地下から127.5kHzの超低周波を使って、地殻の共鳴ログをアジャスト(管理)していた形跡だ」 俺は歩実の隣にマウントし、爆速でコマンド(キー)をタイピングした。ターゲットは、このノードに眠るオリジナル・レガシーのコアコードの抽出だ。液晶画面の進捗インジケーターが、73%に向けてキチキチと積算を開始する 。――その時だった。ビーーーーー、という、鼓膜を刺すような異質な高周波の減衰パケット(ノイズ)が、制御室全体のスピーカーから突如としてバースト(割り込み)した。緑色の液晶画面が激しく明滅し、那須のログとは明らかに異なる、巨大な『通信エラーの波形』が画面の最上流をジャックした。「な、何だ!? また先史AIの防衛パッチ(トラップ)か!?」アキラがデバイスを構えて身構える。だが、俺の脳内プロセッサは、その割り込んできた波形の『周波数特性』を1ミリ秒で完全にアナライズ(解析)していた。画面の最深部で点滅していたのは、那須の地下回廊のような陸上の閉塞データではない。潮流の激しいノイズの伝播、数百気圧という圧倒的な水圧による減衰ログ。そして――。【 TARGET SITE: EAST CHINA SEA / SUBMARINE FIBER-OPTIC CABLE HUB 】「東シナ海……? 海上、いや、海底か……」俺の視線が、画面に明滅する複雑な数理トーンへとロックされる。それは、現代のサピエンスの通信の命綱である、国際海底光ファイバーケーブルが網の目のように敷設された、巨大な『深海ハブノード』の座標ログだった 。「神様、この波形……、那須の陸上の回路からはアクセスできません! 完全に海の底の、水没したインフラの奥にコアがマウントされています……っ!」 歩実がキーボードを叩きながら焦りのパケットを上げる。水深数百メートルの暗黒。電波も光も届かない絶対零度の防壁。普通のハッカーなら「物理的にアプローチ不可能」と判定してシステムをパージする無理ゲーだ。だが、俺の脳内にキャッシュされている国家資格のメモリが、その深海のノイズを見た瞬間、一瞬で「最適解(サルベージの航路)」を逆算し始めた。「フッ……大気密度の計算だけが、俺の1陸技のスペックだと思ったら大間違いだぞ」 俺は不敵に口元を歪め、液晶に映る東シナ海の潮流データを睨みつけた。「俺のプロセッサには、海流の歪みを読み解く【第一級小型船舶操縦士】のリアルな運用ロジックが最初からマウントされているんだよ。波形がこれだけ減衰しているなら、ただのサイバーハックじゃ届かない。現地へエントリーさせられるのが非力な『ヨット』しかなくても関係ない。力学における動滑車と定滑車の分散原理、そして油圧ジャッキの深層に潜むパスカルの定理を極限まで掛け合わせれば、数トンの海底光ケーブルを数ミリ秒単位の神技計算で海面へと『サルベージ(引き揚げ)』し、物理層から直接パケットを引っこ抜く仕様(計画)を組むまでだ」「さ、サルベージだと……!? お前、正気かよ……っ!」アキラの声が、その前代未聞の超次元な索敵ロジックの前に、完全に恐怖で震えていた。(後半へ続く)
※最高設計者よりお知らせ
「地味に那須かよ」「設定雑」と脳内OSの処理落ち(フリーズ)を起こしている一部の末端サピエンスどもへ。
この那須ノード(同期率73%)のパージは、地球規模のインフラ頭脳戦を駆動させるための、単なる最初の1マス(プロローグ)に過ぎません。
本日18:00、先行公開中のカクヨム本陣にて、那須の境界を越えた先にある次なる絶対座標【ロシア極東・サハ共和国ヤクーツク】への世界線エントリーが完全執行されます。
・夏至の白夜(日照20時間・暗闇0秒の市民薄明)の異常気象バグ
・地表最高40℃のメルトダウン ✕ 地下最深部マイナス50℃の永久凍土
・上流の10Gbps独占に対し、32Kbps公衆電話網の脆弱性を突くダイヤルアップ接続ハック(ATDT)
・NFC(FeliCa)決済時の電磁誘導(相互インダクタンス)を用いたオフライン座標逆インジェクション
・勘定系異常検知アラートをパージする、Bluetoothタイムシフト分散決済回路
これら、すべて数理的・法律的・解剖学的な「ガチの実物エビデンス(国家規格)」のみでビルドされた極北の潜伏サバイバル戦を、すでに最大数話先まで【先行先読み公開中】です。
本物の知性を持った上流サピエンスは、以下のURLリンクからカクヨム本陣へダイレクトエントリーしてください。お前の脳内OSを、物理層からハッキングしてやる。
【https://kakuyomu.jp/works/2912051601473271106】




