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《完結》推しの悪役聖女(魔力マルサ)に転生したので、ゲーム知識で破滅フラグをへし折ります  作者: ひより那
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第13話 悪役聖女と王宮の呼び出し

 アンスバッハ公爵邸での静養生活は、驚くほど穏やかだった。

 三日間の昏睡から目覚めた後も、私は「万全を期すため」というクロードの強い勧め(という名の強制)により、しばらく彼の屋敷に滞在することになったのだ。


 毎日運ばれてくる、三ツ星レストランのフルコースもかくやという豪華な食事。ふかふかのベッド。美しい庭園。そして、私を「リディア様」と崇め、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる使用人たち。


(これが……貴族のニート生活……最高か……?)


 前世の、栄養ドリンクを友にデスクに齧り付いていた日々が、遠い昔のことのように思える。


 すっかり元気になったエリーゼは毎日私の部屋へ遊びに来てくれるし、ライナーに至っては、なぜか彼も毎日律儀に見舞いと称して顔を出す。そのたびにクロードと「リディア様のお側にいるのは私だ」「いや俺だ」と、子供のような言い争いを繰り広げるのが、最近の日常だった。


 このまま、破滅フラグも、悪役聖女の宿命も忘れ、穏やかな日々が続けばいい。そんな淡い期待を抱き始めた矢先のことだった。

 その日、アンスバッハ邸に、王家の紋章を掲げた使者の馬車が到着した。

 私に手渡されたのは、一通の羊皮紙。国王陛下の署名と、王家の印璽(いんじ)が押された、正式な召喚状だった。


「……やはり、来ましたか」


 召喚の理由は、「卒業記念夜会における一件についての事情聴取」。見過ごされるはずがなかったのだ。王子と聖女の、公の場での対立。うやむやにしたまま終われる問題ではない。舞台が、夜会から王宮の謁見の間へ移った。それだけのことだ。


「リディア様、ご心配には及びません。私も同行いたします」

「そうだ、聖女様。俺たちを、あんたの剣だと言ったはずだ」


 私の背後で、クロードとライナーが色めき立つ。その忠誠心は頼もしい。頼もしいが、正直に言って、彼らがいると話がややこしくなる未来しか見えない。


(お願いだから、火に油を注ぐのだけはやめて……!)


 そんな私の心の叫びも虚しく、数日後、私は王宮へと向かうことになった。




 荘厳な謁見の間に通されると、玉座には、この国の頂点に立つ国王陛下が座っていた。年の頃は五十代だろうか。厳しいながらも、理知的な光を宿した瞳をしている。

 そして、その玉座の脇に、アルフォンス王太子と、純白のドレスをまとったヒロインの姿があった。

 王太子は、私を一瞥すると、ふんと鼻を鳴らす。その瞳には、勝利を確信したような、傲慢な光が浮かんでいた。


 静寂の中、国王の重い声が響く。


「リディア・フォン・クレスメント。先の夜会での一件、まこと遺憾に思う。まずは、アルフォンスの言い分から聞こう」

「はっ」


 王太子は、待ってましたとばかりに一歩前へ出た。


「父上。私はただ、この国の秩序を守ろうとしたまで。聖女リディアは、その権力を笠に着て、何の罪もなき貴族たちを冷酷に断罪しようといたしました。聖女にあるまじき、非道な行いです。私は、それを止めようとしたに過ぎません」


 彼の主張は、夜会の時と何一つ変わっていなかった。


「……リディア。そなたの言い分は」


 国王の視線が、私へと向けられる。静かに息を吸い、顔を上げた。


「陛下。わたくしは、法に定められた聖女の職務を遂行したに過ぎません。魔力違反の『疑い』がある方々へ『調査』の通告をしたまでです。それを、アルフォンス殿下は事実確認もなさらず、公の場で一方的に『断罪』と決めつけ、わたくしの名誉を傷つけました」


 私の冷静な反論に、王太子が「詭弁を!」と声を荒らげる。二人の主張が、真っ向から対立する。その様子を、国王は静かに見つめていた。やがて、彼は口を開いた。


「……では、証人にも話を聞こう。入れ」


 国王の言葉と共に、謁見の間の重い扉が開かれる。


 アルフォンス王太子が、勝ち誇ったように口元を歪めた。彼が証人として呼んだのは、言うまでもなく、クロードとライナーだ。リディアに「断罪」されかけた被害者として、自分に有利な証言をすると信じて疑っていないのだろう。


 入室してきたクロードとライナーは、まっすぐに玉座へ……とは向かわなかった。

 二人は、私の前に進み出ると、まるで私を守る盾となるかのように、その場にすっくと立ったのだ。


 王太子の顔から、笑みが消える。


 クロードが、国王に向かって深々と頭を下げた。


「陛下。恐れながら、申し上げます。リディア聖女様の行動は、決して非道なものではございません。むしろ、それは、我らアンスバッハ家を、絶望の淵から救うためのものでございました」

「なっ……!?」


 王太子が絶句する。それに構わず、隣のライナーも続いた。


「そうだ! 聖女様は、俺の、そして俺の領地の民にとっての、大恩人だ!」


 予想だにしなかった、二人の「裏切り」。王太子の顔が、勝利の確信から、驚愕、そして怒りへと変わっていく。隣に立つヒロインの、完璧な微笑みも、わずかに、しかし確かに、こわばっていた。


 国王の鋭い視線が、クロードとライナー、そして私に注がれる。


「……どういう、ことだ? 詳しく、申してみよ」


 謁見の間の空気が、再び張り詰めた。物語は、私の知らない、全く新しい局面へと突入しようとしていた。


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