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裁きを受ける


 当日の朝、学園中の幹部が集まる。まだ療養中のロナルドとホア爺もまた、ハッベルトとミオラの付添い介助のもと王のお出迎えに参加する。一般の学生は寮に待機となる為、その監視も兼ね管理人は参加を免除されているようだった。



 エドルドは、正装を着て王を出迎える。アリシアも、本来であれば隣にいて欲しかったが、学園からの指示で塔に待機となっている。今回の被害者にも関わらずだ。まずは上級貴族のみで審議を問う、それがこの国のやり方なのだ。



「まもなく、国王陛下ならびに奥方殿たちが来られます」


 手紙より書かれていた訪問の時間、王は、エドルドの母による移動魔法で現れた。だが、すぐにディフェンサ妃は離れた席に控え、第一妃が王の隣に腰かける。最有力王位継承者の母であり、実の息子に関わる件だとしても、彼女はまだこの程度の扱いをされるのだ。


「陛下、セントミア学園を代表しまして、今回の騒動、大変申し訳な……」


「堅苦しい挨拶は良い、おおかたの報告は受けている。今回はその真偽を直接確かめに来たのだ」


 そう言って、視線の先にはバージニア家の当主であり、カレンの父が立っている。ロナルドによる事情聴取のあと、学園より報告を受け何日もかけ馬車で慌てて駆けつけてきたのだ。王が召集の日を今日にしたのは、おそらくバージニア家の到着日を考慮してのことだろう。



「今回の……件は、娘の……いえ、バージニア家の全責任でございます。全ての裁きを受け入れます」


 深く頭を下げ、一切の主張を辞退する。だが、ここは裁きの場であり、娘のカレンの言い分を聞かないわけにはいかない。父がそう言ったところで、カレンがこの場に出ないわけにはいかないのだ。



「離してくださいませっ!! っ!? お父様、カレンは悪くありませんのっ……先に……エドルド様が不義を働いたのですっ!! それも、底辺貴族の魔女に惑わされて!! 侮辱罪で裁かれるのはあの娘の方ですのよっ」



 両腕をつかまれ、無理やり連れてこられたカレンは、父を見つけるなり、泣きつくように懇願する。


「だから……落ち込んだ私の為にと、家臣たちが勝手に動いたのです。私は被害者なのですわ!!」



「…………そうだな……お前だけを責められないな……」


 父の言葉に、カレンはようやく興奮がおさまる。やはり自分は悪くないのだと、勝利を確信する。


「聞いてまして? 早くこの無礼を謝りなさいっ」


 勝ち誇ったように、学園側に対して謝罪を要求する。


「陛下……娘の可愛さのあまり、人としての教えを怠ってしまったようです。娘の言うように……我が娘は……被害者です。親として、彼女の教育を間違えました……もちろん、娘にも償わせます……だがその責任は親の私たちにございます」


「お父様っ!! 私はなにもっ……」



 王が発言を制止する。左手を上げ、そのままこめかみをつかむ。バージニア家の令嬢がここまで歪んでしまっていたとは……大臣たちの言われるままに、エドルドの最有力婚約者候補にしてしまったことを密かに嘆く。その父の働きは誠実だっただけに、なぜこのような成長をしたのかと目を疑う。




「いや、人のことは言えぬな……」


 小さな独り言をもらす。王位継承争いで、妃含め実の子どもたちが水面下でどのような策略を企てているか……ため息がでる。



「カクシマディア家の事情聴取で全て明らかになっている……私がこの場で見たかったことは、その者の器だ。既に多くの罪名が下りそうだが……バージニア家は本日より、家名を剥奪。全ての領地、財産を没収するものとする」



「なっ……んですっ……て……」


 状況が飲み込めないカレンに対し、父であるバージニア家当主は頭を下げる。娘の罪を考えれば、多くの民が犠牲になるかもしれないきっかけを作り、王位継承権のあるエドルドまで巻き込んだ。それだけで既に一族全員死刑になってもおかしくないのだ。人様のご令嬢の命まで狙うようなことを企てたとなれば、社会的にもうバージニア家は死んだも同然だ。長年のバージニア家の功績が首の皮一枚つなげてくれたのだが、カレンにはその理解すら出来そうもない。



「バージニア家はすぐにこの国を去るものとする」


 王の言葉を聞き、判事が判決を下す。物的証拠でたるいくつもの香の回収、カクシマディア家によるカレンの真偽の鑑定結果、家臣たちによる告発、そしてカレンの態度……全てが有罪を示していた。





「エドルド……左腕を見せなさい」


 王の1番の目的はこの為だったといえる。バージニア家の件を片付け、すぐに本題へと触れる。エドルドは、黙って左腕を見えるように袖をめくり、包帯を外した。



「…………やはりそうなのだな」


 傷のついた印を持つ者は例外なく王位継承権を失う。その腕はまだ生々しい傷跡を残している。


 隣に座る第一王妃がひっそりとほくそ笑む。移動魔法により急に奪われた愛息子の王位継承の優先順位、それが戻ってきたのだ。




「……ホアストンの制止を振り切り、闇化属性と闘うことを選びました」


 このままでは、厳重に罰せられるのはホアストンになる。彼が渡した剣を使い、彼と一緒にいる時に起こった出来事だ。


「恐れながら……僕は王ではありません。その身を優先させるほどの立場ではない。あの時、バージニア家による攻撃で、塔より避難するしかない状況でした。その為、禁忌魔法をおかしてまで魔力を分け、瀕死の状態の女性が同行しておりました。彼女を置いて逃げるくらいなら、その場で共に最期までいることを選択した次第です」



 黙る王に代わり、判事が確認する。


「では、王位継承権を放棄する可能性があると分かってその女性を同行させたと?」




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