予定外のサプライズ
「一旦私めは学園に戻ります」
っ!?
朝食の後、ホア爺は突然予定になかった発言をする。
「…………」
「どうしてですか?」
アリシアは当然、戸惑う。
やはり、こちら(塔)の生活に不満が!? もちろん、あの寮に比べれば……そもそも比較にすらならないかもしれませんが……
「そろそろ作り溜めしていた料理のストックが少なくなってきておりまして。こちらでも調理は可能ですが、やはり何かと制限もございますので……特にアリシアお嬢様の栄養は十分に摂らせると、ミオラ殿とお約束しておりますので」
「そうですか……そうですよね……」
何かと制限が、にやっぱりと少し落ち込んでしまう。
「申し訳ございません……それに、一度アリシアお嬢様の足も診てもらった方が宜しいかと。作り置きして頂いた薬も残りわずかですし。私めと交代でミオラ殿に来ていただいた方が良いかと」
「…………」
「あっ、いえ。ホア爺様が謝ることではありませんわ」
確かに、さすがと言うべきか、ミオラの薬の効き目は予想よりも早い回復をもたらしている。痛みがむず痒いような感覚に変化し、正直、掻きむしりたい衝動を我慢しているのだ。
それに……
やはり自分で届く範囲の身体をぬれタオルで拭いているだけということもあり、ミオラが来てくれるのは素直に助かる。
「分かった……」
長い沈黙を破り、エドルドが返事をする。
「エドルド様、ミオラ殿が来るまでの間、2人きりになれるとはいえ、暴走しないよう……」
「分かっている!!」
「では、行って参ります。後ほど、ミオラ殿が来ます故、湯の用意もしてありますので」
「ホア爺様!!!!」
やはり、ミオラに来てもらうという提案はホア爺なりに、男手ばかりの生活でアリシアが不便を感じていることを考慮してのことだったのだろう。
私が気にしていること、気づいてくださっていたんですね……
ホア爺は塔の1番高い部屋の窓から外へ飛び出る。木々に飛び移るように学園の方へと発った。
ホア爺の匂いであれば、グレスビーが反応する可能性も少ない。エドルドが移動魔法をかけるかと提案した際、ホア爺はいつ起こるか分からない不測の事態に備え、魔力の無駄な消費はしないよう小言で返してきた。
「では……部屋に戻るか?」
ホア爺を2人で見送ったあとエドルドが尋ねてきた。
そうでしたっ。ミオラちゃんが来るまでの束の間とはいえ、今は2人きり。
2人きりということはっ、ここ最近ホア爺様にお願いしていた移動も、エドルド様に頼まなければといけないってことですわね!?
「…………」
大人しくアリシアの返事を待っている。
あの夜の一件があって依頼、エドルドに抱えてもらうのは初めてだ。
「ミオラちゃんが来るまで、ここで待って……」
「ここは、極寒だぞ?」
塔の1番上の部屋は風通しが無駄に良く、普段は使っていないかった為、ほとんど手付かずの部屋だ。当然、暖保持の魔法もしていない。
「今からでも暖魔法を調整すれば……」
「今使っている部屋も時間がかかって出来た超大作だと言っていたはずだが?」
「すぐ来ると思いますので……」
なんとなく、気まずくて頼まない。頑なに動こうとしないアリシアに、少し頭をかき、着ていた上着をアリシアにかける。
「っ!?」
「なら、僕もここで待つ。君の護衛の為に来たんだ」
「あっ……ありがとうございます。でも、上着はお返し……」
「すぐに来るんだろう?問題ない」
「…………はい」
待っている間、何度か暖かくならないかと試してみたが、身体のむず痒さで集中が出来ないでいた。
「…………」
「…………」
「……ズズッ」
鼻をすすり、待っていると
「知らせが来たな」
窓の扉を開け、エドルドが腕を出し使い魔である鳥を止まらせる。
「あっ、この鳥は……」
以前寮の部屋にパンを届けに来た使い魔だった。
「あぁ、僕の使い魔だ。ホア爺の言うことも聞くように言ってあるから、おそらく召喚され手紙を運んできたんだろう。」
そう言って手紙を受け取り、優しく撫でる。鳥は満足そうに喉を鳴らし、しばらく堪能した後消えた。
やっぱり、あの時の差し入れはエドルド様でしたのね。
「…………アリシア嬢、しばらくは2人きりになりそうだ」
「?」
手紙を受け取る。
そこには、グレスビーの討伐作戦開始により、今後学園からの行き来を一切禁ずるとかかれた、学園からの通達が書かれていた。




