意識してしまったらダメだ
「つ……疲れた…………」
ホア爺の作り置きしてくれた夕食をしっかり頂いた後、ベッドでようやくひと休みとなる。
アリシアの寝室は使えなくなってしまった為、誰がどの部屋を使うか、一悶着あった。
「私めの部屋をお使いくださいませ。一晩中立っておくことなど、造作もございません」
「いやっ、僕の責任だ。アリシア嬢が良ければ……使って欲しい」
2人からの熱い提案は丁重に断り、結局、2人は予定通りの部屋を使ってもらい、アリシアは父の寝室で休むことにした。
「……何かあれば、必ず鏡で呼びかけることをお忘れなく」
父の部屋は塔でも下の階にあり、何かあっても駆けつけるまでに距離がある。
絶対に、と何度も念押しされようやく納得してもらえた。
塔とはいえ、父の部屋に入るのはいつぶりだろうか。生存確認で声をかけにくることはあっても、中まで入ることはない。
普通は書斎と寝室は分けるものだろうが、気絶……寝落ちする寸前まで本を読みたい父は寝室も書斎化している。さすがに、ベッドの上は何も置かれてなくて安心した。
一見、乱雑に置かれていても、父にとっては意味のある順番だったりする。
もしこの部屋で先ほどの巨大ゴーレムのようなことが起これば……いくつかの研究は闇に葬られるだろう。それくらい、父の研究には価値がある。
布団からは、父の香りがする。少しだけ懐かしい気持ちのまま眠りについた。
「……終わった……」
夕食のあと、アリシア嬢を寝室に運ぶ役目を大人しくホア爺に譲った後、長い説教が始まった。
ホア爺は、元は王室から正式に任命された教育係だ。急に変わる環境の中、唯一、媚をうるような態度をしない大人でもあった。護衛も兼ねたホア爺からは、魔法の使い方から闘い方を叩き込まれた。
「いいですか、坊ちゃん。貴方様は魔力が桁外れに多い。ですが、大切に使わなければいつか倒れます。その時、貴方様より強い方がいなければ、皆が共倒れしてしまうのです……でも忘れずに、貴方様が王位継承者で、このわたくしめがいる間は必ずお守り致しましょう」
そう言って、本当に何度も何度も力になってくれた。王位継承権の順位が急に上がったことで、その分危険なことにさらされる機会も増えたが、自分の身を守れるようにと厳しい訓練をしてきた。
…………魔力の補給ドリンクを飲めば、気絶してもある程度はすぐに最低限動ける程度に回復する計算だと伝えていた。
だから、ゴーレムの闘いで魔力がまだ使い物にならない状態だとばれただけではなく、アリシア嬢の私物を触ってしまったことから長時間しぼられてしまった。事前にドリンクを飲んでなければ、まだ目覚めてない状況だっただろう。
元々、ぎりぎりの計画だったこともあり、移動魔法は魔力消費を抑えるため、魔法陣を使う予定だった。
だが……無理だ。
アリシア嬢を抱えた時からずっといい匂いがしていた。平静を装っていたが、つい降ろしたくなくて……魔法陣を書く手間を省いてしまっていたのだ。
「…………」
塔で目を覚ました時も、やはり魔力量は回復乏しかった。ベッドから起き上がろうとして、シーツにほのかに残る香りで、アリシア嬢の寝室だと気づいた。
「〜〜〜〜っ!? まさか……ここはアリシア嬢のっ!?」
慌てて飛び起きた時、飾ってあった人形の椅子を倒してしまい……事態は起きてしまったのだ。
「ダメだ……眠れないな」
アリシア嬢が離れてるとはいえ同じ建物にいることに意識せずにはいられなかった。




