2人の世界
「あっ……やはりこのようなものでは気に入らなかったか? 何度も言うが、時間が限られて……」
アリシアの涙を見て、気に入ってもらえなかったのかと慌てるエドルドだが、実際は真反対の理由だ。
「いいえ……私も驚いてるんです……私、こんなに嬉しいことばかり……」
「アリシア嬢……」
「へへっ、私なんだか泣いてばかりですね」
思わず素の話し方で話す彼女に胸がギュンとなる。トランクを開けるため、一度ソファに座らせた彼女の手を思わず握りしめる。
「〜〜っ!?」
「アリシア嬢、もう一つあるんだ」
そう言って、ポケットから小さな箱を取り出す。
ホア爺が彼女に、家系魔法のガラス細工のアクセサリーを渡したと聞いた日、なぜか自分も何か渡したいと、密かに注文していたものだ。特注品で、出来上がるのに時間がかかり、ちょうど先日届いたところだった。
いざ渡そうにも、本名を名乗っていない偽りの関係で渡すことに躊躇していた。まずはちゃんと説明しなければならない。
「エドルド・ログ・ディフェンサは、母方の姓だ。」
「…………」
「母は……後ろ盾もないような力の弱い家の出だ。だが、得意とする術の一つに……移動魔法があったんだ。特に家系魔法でもないが、扱える者は限られている。……それが大きな決め手となって、7番目の妃として選ばれたんだ。僕が言うのもなんだが、父自身は最終的に人としての力量で選ぶ……まぁ、第1妃となると相応の身分をと周りがうるさいがな」
少し笑いながら、淡々と話す。
「本来、母自身の能力が欲しくて結ばれて縁だ。僕自身は大した継承権もなく、母の希望もあり、母方の実家でと自由に育った……おそらく、王位継承争いに巻き込みまくなかったのだろう」
アリシアは黙って話を聞く。
「だが、僕にも移動魔法の才があった……しかも、それ以外の魔法においても天才ときたもんだ」
「…………」
「母が僕を実家に置いていたのも分かる……今まで使者が定期的に様子を見に来るだけだったのに、ある日突然、有力王位継承者だ……毎回のように開かれる社交場に嫌気がさして、まぁ、父には箔をつけるためという言い分でこの学園に入学したんだ」
「……僕が付き人を減らして、名前を母方にしたところで、社交場で交流したことのある生徒もいたから、結局ばれてはいるんだけどね」
「……それでも、ぼくは久しぶりにディフェンサとして過ごしたかったんだ」
「…………」
「アリシア・フロン・ハッベルト嬢、君に偽りの自己紹介をした無礼を許して欲しい……ちゃんと伝えてから、これを君に渡したかった」
中を開けると、花や蝶を金細工で細く繋ぎ合わせその上下には鋭利なデザイン部分が腕にささらないよう、輪がついているブレスレットが入っていた。
「魔獣より気づかれにくい隠れ属性を出す魔法が付与されている……身につけてくれるか?」
「ありがとうございます……大切に、必ず大切にします」
エドルドは、また胸がぎゅんとなるのを感じる。
思わず再び手を握りしめ、顔を近づける。
「オホンっ……そろそろよろしいですかな?」
ホア爺の咳払いでその存在に気づく。
「…………そうだな」
「…………お願いします」




