思いがけないプレゼント
ロナルドがミオラに連れ去られるように退室したあと
「……ちゃん付け?」
エドルドの一言に内心動揺する。
「ロ……ロナルド様は学園の生徒ではない私のことにも気にかけて下さっているんです。い……一応、塔も大きな意味では学園管轄圏ですのでっ」
嘘はついていない。目を泳がせるアリシアだが、エドルドも顎に手をかけ少し考え納得してくれたようだった。
「なるほど?」
ふぅ……父よりもロナルド様の方が今にも飛びかかってきそうな雰囲気で、緊張しましたわ……でも、普通の父親であればやはりあれくらい大反対するものなのでしょうね。
アリシアの知る父にしては、予想外の反応をしていたが、やはりロナルドとのリアクションの差に少し寂しさを覚える。
「よしっ、とりあえず報告は終わった。一旦準備に戻るぞ」
「わっ!! エドルド様。お部屋に戻るだけなら抱えなくても宜しいのでは?」
勢いよく抱えるエドルドに、小さく抗議してみる。
「……? 何か不都合が?」
「いえ……ございません」
心臓がもたない、とは言えない。自分だけが毎度意識しているようで悔しい気もするが、余計な感情を持ってはいけないと冷静に振る舞う。
「……身に余る光栄ですわ」
短い時間で何度も、それもアリシアまで連れて高度な移動魔法を使うエドルドの魔力消費が気になるところだが、涼しい顔で抱える彼に大丈夫ですかと聞けるわけもなく、大人しく従うことにした。
「坊ちゃ……いえお2人とも、おかえりなさいませ」
部屋に戻ると、ホア爺はどうやら食事を持ち運べるよういくつか箱に詰めているようだった。
ホア爺には、アリシアも料理の腕を何度もふるってもらっていたが、以前は急だったこともあり自前のエプロンを持ってこなかったと言っていた。お昼の時も既に調理は終わっていた為、彼がエプロンをつけ料理する姿を初めて見たわけなのだが……
意外にもフリフリの花柄のエプロンを愛用しているらしいことが分かった。普段は高級そうなスーツを着ていることもあり、その姿へのギャップがすごい。
「ゴホンッ、助かった。それで、頼んでいた他の準備も出来ているか?」
アリシアの視線に気づいたのか、エドルドは話をすぐに切り替える。
「もちろんですとも。少しは老いた身体を労って欲しいものですぞ。フフフ……もうすでに出発の準備は出来ております。」
そこにはエドルドやホア爺の荷物だろう箱や鞄がいくつも積み上げられている。
「これほどの量をお一人で?」
……王家に仕える方は皆んなこんなにすごい方ばかりなのかしら。
普段から家事や雑用をしているアリシアだからこそ分かる。挨拶と報告をしに行った限られた時間でこれだけのことをやってのけるのは並大抵の腕前では不可能だ。
アリシアの感心した視線に気づいたホア爺は嬉しそうだ。
「ふふふ。そこを感心してくださるご令嬢はアリシアお嬢様だけです」
それは令嬢として喜んでいいものか一瞬迷ったが、ホア爺が嬉しそうなので良しとする。
「もちろん、エドルド様より頼まれていたアリシアお嬢様のお荷物もご用意しております」
「私のものも……ですか?」
ほとんど身一つで学園に住まうこととなった時、ミオラがアリシア様へのお小遣いを預かっていますので、と日用品や着るものを急いで用意してくれていた。
衣類を数着、既製品で申し訳ないと言われたが、普段から母の古着をリメイクしたり、既製品を手直しして着ていた為、むしろ新品の服は贅沢品の方だった。もちろん、闇化したグレスビーのいる森を業者が来るはずもなく、物と硬貨の等価交換によって物物交換が出来る移動魔法の簡易版で調達したようだった。物の移動は魔力消費が少ないが、それでも、高度な魔法に変わりはない……
1日に何度もアリシアごと移動魔法を連発するエドルドが異常なだけで、本来等価交換の移動魔法ですらお目にかかることは稀なのだ。
お小遣いまでくれるとは……慌ただしい中でろくにお礼を言えていなかいが、ロナルド様には感謝している。手入れは毎日行い、大事に使っていた。だが、あの爆破騒ぎでその衣類もダメになってしまった。
塔に戻ればアリシアの荷物はつつましくも一通り揃っている。それはあそこで生活していたのだからエドルドも当然知っているはずなのに? そう思いながらも、トランクの中をそっと開けてみる。
オレンジを基調としながら、ピンクの刺繍が控えめに施されたあたたかそうな可愛らしいマント、お揃いのデザインで統一された帽子、手袋が入っていた。
「これは……」
「服は……サイズがあるだろう。防寒と防汚魔法の最低限しか付与されてないが、時間が足りなくてな。とりあえず急いで依頼したんだがっ……!?」
急に固まるエドルドを見て、アリシアは自分が泣いていることに初めて気がついた。




